「絶対評価と相対評価、どちらを選ぶべき?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
しかし、絶対評価と相対評価のどちらかが優れているということはありません。
この記事では、絶対評価と相対評価の違いをわかりやすく比較し、それぞれのメリットやデメリットについて考察します。
絶対評価と相対評価への理解を深めて、自社に適した評価方法をうまく使い分けましょう。
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このページの目次
絶対評価とは、個人のレベルを目標に対する達成度で決める評価方法で、ほかの人の存在は評価にまったく関係ありません。
目標を達成すれば評価が高くなり、達成できないと評価は低くなります。
運転免許の試験や検定試験は絶対評価のわかりやすい例といえるでしょう。
絶対評価は、企業での目標管理制度(MBO:Management by Objectives)において広く活用されています。
絶対評価を導入する際には次のように使用します。
評価 | 目標達成率 |
Aランク | 100%〜 |
Bランク | 80%〜100% |
Cランク | 〜80% |
Dランク | 〜60% |
絶対評価では、ほかの人の評価を気にすることなく目標に集中できるので、モチベーションアップが期待できます。
また、自ずと「目標を達成するにはどうすべきか」を考え業務に取り組むため、従業員の成長につながることもあります。
しかし、絶対評価では、個人の目標設定が正しくできているかを判断したり、評価後のフィードバックも欠かせないため、評価担当者の負担は大きくなります。
評価担当者の負担を考慮したい場合は、人事評価システムの活用の検討もおすすめです。
相対評価とは、個人のレベルをほかの人と比較する方法です。
相対評価では、あらかじめ決まっている枠に当てはめるので、個人的には良い結果でも低い評価になることがあります。
たとえば、「上位〇人までが予選通過」というスポーツの選考を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
企業で相対評価を用いるとバランスのいい評価分布になるため、人件費を予算内にコントロールできます。
相対評価の例は以下の通りです。
評価 | 割当人数(従業員70人の場合) |
Aランク | 10人 |
Bランク | 15人 |
Cランク | 20人 |
Dランク | 25人 |
組織内の比較によって評価される相対評価では、自分よりも優秀でない社員が昇格するといった事態は起こりにくくなります。
しかし、相対評価では、努力して成果を上げたすべての従業員にAランクの評価をつけるわけにはいかないため、個人の取り組みや成長を評価できる絶対評価を取り入れる企業も増えてきています。
絶対評価は、目標の達成度によって評価されます。一方で相対評価は、他者との比較によって順位付け、あるいは優劣がつけられるため、目標の達成度は絶対評価ほど重視されません。
評価方法 | |
絶対評価 | 目標の達成度に一定の指標を設定して評価する |
相対評価 | 他者との比較によって順位付けで評価する |
絶対評価と相対評価、どちらが人事評価に向いているのかは、簡単には言い切れません。
というのも、部門によっては数値で成績を判定することができないからです。たとえば、営業担当者と事務担当者では、成果の見え方が違います。
営業担当者の場合は、売上などのように数値という目に見える指標がありますが、事務担当者の場合は直接的に売上に貢献するわけではないため、基準となる数値が見いだせません。
しかし、近年では、人事評価においては絶対評価が重視されつつあります。その大きな理由は、評価における透明性が絶対評価のほうが高いからです。
相対評価は他者との比較によって判定されると述べましたが、見方によっては評価者の一存で評価が揺らぐ可能性を秘めています。
そのため、従業員によっては頑張っているのに評価されていないのではないかといった猜疑心を生むことにも繋がりかねません。
評価者である上司への不信感は、働くモチベーションにも大きく影響を与えるため、離職者を増やす一因にもなりかえないのです。
労働人口が減少しつつある今、離職率を下げたい企業にとって、人事評価の在り方は離職の抑止にも繋がる重要な課題でしょう。
従来、相対評価が受け入れられてきたのは、人材も豊富で、年功序列や終身雇用という仕組みがあったからです。
ところが、現在それらは過去のものであり、働き方が見直され、個に対する意識の変化から、正当かつ、より信憑性のある評価を得たいという意識が従業員の中にあります。
これらの点から、相対評価よりも絶対評価を重視する傾向が企業の中に増えつつあり、そこにグローバル化が重なって、より絶対的な評価への信頼性が高まっているといえるのです。
ただし、絶対評価が自社にとって確実にメリットだけをもたらすとは限りません。
それは、すでに述べたように従業員の立場によっては、判断の難しい評価方法になるからです。
これらを踏まえたうえで、次項から絶対評価、相対評価それぞれにメリット・デメリットについて解説していきます。
絶対評価は透明性の高い評価方法ではありますが、一長あれば一短があります。本項では、絶対評価のメリットとデメリットについてご紹介していきます。
絶対評価の最大のメリットは、すでにお伝えしている通り、評価における透明性の高さです。このほかにも、絶対評価にはメリットがあります。
他者との比較によって評価が左右されないため、自身の頑張りによる評価結果として従業員が納得しやすいという点が挙げられます。
絶対評価では目標や、いま足りない部分といった課題が指標として見えやすいことから、評価のフィードバックは従業員が自身の成長を実感する機会にもなります。
また、頑張りを評価するという点で、従業員の仕事に対する意欲をくみ上げやすくなりますので、モチベーションの維持や向上にも役立ちます。
良いところばかりのように見える絶対評価ですが、一方で評価結果に偏りが出る危険性も孕んでいます。
従業員全員が目標をクリアした場合、全ての従業員が高評価になってしまいます。それでは、評価として機能しているとはいえません。
どんな方法を用いたとしても、評価は優劣をつけるための手段に他ならないからです。
評価を処遇に反映する場合でも、人件費における予算予測が立てにくくなります。
全ての従業員が高評価を得た場合、従業員は給与が増えて嬉しいかもしれませんが、会社としては人件費が膨らむ一因になるからです。
また、一人ひとりを評価者が評価していくことになるため、評価に割くリソースが増える要因になります。
チームリーダーのように少ない人数を管理・監督する立場であれば、さほど問題はないかもしれませんが、一部門に数十人といった部下を抱える部門長クラスになると、全員を評価するためのリソースを確保しなければなりません。それでは、業務に支障が出る可能性もあります。
このほか、絶対評価は被評価者となる従業員本人を観察して行われますが、被評価者と評価者の関係性によって評価が左右されるリスクもあります。
たとえば、勤務態度やコミュニケーションといった数値で計れないものは、評価者の思想や概念が基準になって判断されかねないからです。
言い換えれば、人事異動などで評価者が変わるたびに、同じ仕事内容で、働きぶりも変わらないにも関わらず、異なる評価を受ける可能性が従業員にはあるのです。
これでは、従業員にとって大変不利な評価方法となってしまいます。
絶対評価では評価しにくいものについては、どこを平均値ととするかは明文化するなどして共有することが肝要になります。
絶対評価の対極にある相対評価は、近年、デメリットの部分が強調されて避けられる傾向にあります。しかしながら、相対評価にもメリットはあります。
本項では、相対評価のメリットとデメリットについてご紹介しますので、自社で相対評価がマッチするのはどんなところかを想像しながら読み進めてください。
相対評価のメリットは、次の5つです。
従業員同士を比較して優劣をつけるため、数値で計れない業務も評価しやすくなります。また、評価者の思想や概念が基準にならないことや、景気などの外的環境による影響を受けにくい点もメリットとして挙げられます。
従業員自身も他の従業員と比較されるのを理解しているため、従業員同士の競争が活性化して、一人ひとりの従業員の能力向上にも繋がります。
個人単位で従業員を評価するのとは異なり、部門や職種、チームなどの集団の中で従業員を評価することから、絶対評価のように評価が高低どちらかに偏るのを防げます。
これらの結果、人件費の予算予測がつきやすく、給与の源資分配もしやすくなるという良い側面もあります。
相対評価は、個人を集団の枠の中で評価することから、評価に割くリソースも絶対評価ほど大きくはなりません。
相対評価のデメリットの最たるものは、なんといっても評価への不透明性です。言い換えるならば、合理性の欠いた評価になりやすいのです。
このほかにも、相対評価には、以下のようなデメリットがあります。
集団内で個人を評価しますから、集団ごとに一定レベルの評価を下せます。しかし、複数の集団をまたいで見た場合、評価レベルにばらつきが発生しやすくなります。
たとえば、学生時代のクラス単位での成績を思い浮かべてみてください。クラス替え当初は、同レベルであったはずの集団が、1年が経つ頃には各クラスで平均点が異なるようになります。
相対評価では、これと同じ結果が生み出されるやすいということです。
また、学校のクラス単位で目標を設定していたかと思いますが、集団ごとの目標が異なると、達成度の比較検討が難しくなります。評価者がその集団にとって相対的な関係にない場合、比較できなくなるのです。
再び学校を例に出すと、各学年主任が受け持つ学年の成績を評価することはできても、他の学年を評価できない点に相当します。
会社に置き換えると、自身の管轄する部門やチームの評価はできても、管轄外の他集団の評価ができないということにもなるわけです。
複数の集団における評価を公平かつ適正に行うには、各評価者によるばらつきを抑えて標準偏差をなくすよう、評価指標を設けるなどして調整する必要があるのです。
そして、最も懸念したいのが従業員同士の関係悪化と、従業員のモチベーション低下の直接的要因になる点です。
何度も言いますが、相対評価は他者との優劣比較をする評価方法です。極端な例を挙げると、AさんとBさんを比較してAさんの優劣評価を決定づけます。
Aさん自身が誰と比較されているのかわからずとも、同じ集団の中で評価されていることは周知の事実です。
このことから考えると、Aさんが仮に低評価になった場合、自分以外に高評価を付けられた従業員がいることを暗に示していることになります。
反対にAさんが高評価を得た場合、他の従業員の中に低評価を付けられた人物がいるともいえます。
高い評価を得たい従業員にしてみれば、他の従業員の成績は大いに気になるところ。ましてや、それが処遇に反映されるものであればなおさらです。
これらのことを踏まえると、従業員にしてみれば、周りは全員ライバルといって差し支えないでしょう。
従業員同士で足の引っ張り合いが起こるようになれば、集団としての機能はおろか、会社という組織そのものの運営にも影響を及ぼすようになります。また、相対評価におけるデメリットの最後に挙げた「モチベーション低下」も起こりえます。
相対評価は、集団の中で比較評価されるのですから、他集団にいる同等レベルの従業員と評価や処遇に格差が生じるリスクも孕んでいるからです。
この評価方法では、従業員のパフォーマンスが芳しくなくても、評価の順位によっては高評価となる事態が起こる可能性があります。
それでは、頑張っているのに報われないということにもなりかねません。そのような状況では、従業員がモチベーションを下げてしまっても何ら不思議ではありません。
絶対評価だけに偏るのも良くありませんが、相対評価だけに依存しすぎるのも危険なのです。
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絶対評価と相対評価のそれぞれにメリット・デメリットがあり、優劣はありません。
いちばん重要なのは、どういった組織にしたいか考えたうえで自社に合った評価方法を使い分けることです。
ここでは、絶対評価と相対評価の運用ポイントを解説します。
絶対評価では、努力していても成果が出ない従業員にとっては厳しい評価基準となってしまいます。
そこで、以下の3つのポイントに気をつけてみましょう。
絶対評価の評価基準は、すべての評価対象者に適切かつ達成可能な目標値の必要があります。
そのため、従業員のスキルやポジションを無視した評価基準では、いくら努力しても目標を達成できません。
従業員一人ひとりを把握し、評価基準は客観的かつ明確に設定し、できるだけ数値化することが大切です。
KPIは業務の成果やパフォーマンスを測るための指標であり、目標達成の度合いを客観的に評価するのに役立ちます。
達成しやすい低い目標値では、高評価の従業員が増えてしまい、逆に高すぎる目標値では誰も達成できなくなり、評価として機能しなくなってしまいます。
従業員のKPIが明確かつ具体的に設定され、業務や役割に関連しているかを確認すれば、適切な評価が行えるでしょう。
KPIについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
絶対評価では、目標を達成したかどうかの結果のみが評価され、個人の努力や作業プロセスまでは評価されないため、従業員のモチベーションが下がってしまう恐れがあります。
しかし、通常であれば数値化できない作業を従業員の努力として適正に評価すれば、仕事へのモチベーションをアップできます。
PDCAについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
相対評価では、従業員から「成果を出しているのに、まわりと比較して順位をつけるのはおかしい」といった不満の声もあるでしょう。
そこで、以下の3つのポイントに気をつけてみましょう。
相対評価では、従業員同士の比較を公正に行うために、あらかじめ評価基準を設けましょう。
きちんとした基準があれば、従業員も評価されたときに納得しやすくなります。
従業員が正しく評価される環境で仕事ができていると感じられれば、従業員一人ひとりのモチベーションもアップし、エンゲージメントの向上にもつながります。
すべてを公開する必要はありませんが、社員が努力すべき課題や企業が求める基準などは社員にしっかりと周知するようにしましょう。
情報の非公開や不透明性があっては、従業員の組織に対する信頼を失いかねません。
また、きちんとした基準が公開されていれば、評価者の感情による不公平な評価を防ぐこともできます。
相対評価は、チームやグループでの評価が必要な場合、具体的な数値化が難しい場合などに適している評価方法です。
なので、KPIや数値を重要視するならば、具体的な数値目標を設定して達成の具合を判断する絶対評価の方がより適しているので、適切な評価方法を判断することが大切です。
人事評価の評価方法を採用する際、どちらかを選ぼうとしてしまいがちですが、これがいかに危険な考えであるかはメリット・デメリットからお分かりいただけたはずです。
公正かつ適正に評価できる仕組みづくりのために、どのような場合にどちらを採用するのがいいのかを考えましょう。
ここでは、前項を踏まえて、採用するときの参考パターンをご紹介しています。これから評価方法の採用を検討されている人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
人事評価を行う際、たいていの企業では、次の段階を踏んで最終評価を決定しているはずです。
1. 本人評価
2. 一次評価
3. 二次評価
4. 最終評価の決定
以上のように複数にわたって評価段階が設けられている場合では、どちらか一方だけを採用するよりも、段階別に振り分けて採用したほうが、最終的に標準偏差をなくしやすいといえます。
たとえば、一次評価で絶対評価を採用し、二次評価で相対評価を採用することによって、一次評価で偏った評価を二次評価で調整できるというのが、この仕組みのメリットです。
ここで間違ってはいけないのは、この仕組みの目的です。
二次評価で絶対評価の結果を下げることを目的にするのではなく、偏った評価の不均衡をなくし、適正かつ公平な評価をするために相対評価を利用するのがポイントです。
評価項目の中には、具体的な数値で表せられるものと、表せられないものがあります。たとえば、営業成績や目的の達成度といったものが前者。
反対に、仕事への取り組み方のように行動や個人が持つ能力などは数値化することが困難ですから、後者に当たります。
これらの数値化できるもの・数値化できないものを、人事評価では総合的に評価していかねばなりません。
このときに評価者によってばらつきが出やすい「数値化できないもの」は、公平に評価するためには他者との比較が適当です。
また、キャリアによって差が出やすいものについても、絶対評価よりも相対評価のほうが評価レベルを一定に保って公平に判断できるはずです。
最後に、管理職クラスの従業員と一般社員の従業員とでも、評価方法を分けてもいいでしょう。
管理職クラスの従業員には、その集団をまとめる役割があります。その集団の成果をどのように引き出すかは、管理職の手腕の見せ所でもあるわけです。
よって、管理職クラスの従業員を人事評価する際には、絶対評価を採用する。
一方で、集団の構成員である一般社員には、働きに応じた処遇を与えるために相対評価を採用するというやり方もあります。
この場合、一般社員の結果に着目するだけでなく、取り組みのプロセスや行動レベルにも目を向けることで標準偏差をなくしていけるはずです。
人事評価において、絶対評価と相対評価はどちらか一方が優れており、どちらかが劣っているという基準で採用すると、後々無用な問題を引き起こす可能性があります。
メリット・デメリットの項でもお伝えした通り、どちらにも一長一短がありますから、段階や対象によってどちらを採用するかを選ぶのが得策です。
画像出典元:Unsplash
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