自社の従業員を適切に評価するため、人事考課のコメントは非常に重要です。
また、アピールできる自己評価を書けるかどうかによって自分の処遇も変わるので、上手な表現で書きたいものです。
しかし、「人事考課の書き方がわからない」「何も思い浮かばないので例文が知りたい」と頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、人事考課コメントで盛り込むべきポイントや注意点をわかりやすく解説します。
また、上司・部下本人それぞれの立場で使える例文を8つの職種別に紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
そもそも人事考課は、何のために行われるのでしょうか。3つの主な目的を紹介します。
人事考課の役割や目的を知れば、コメントの書き方のヒントになるでしょう。
人事考課の結果は、従業員の給与や待遇を決める根拠となります。
近年では「勤続年数」ではなく「成果主義」に基づいて評価をする企業が主流となってきました。
そのため、個人的な好みや業務の違いによる不公平がないよう、客観性のある評価が求められ、一定の評価基準や根拠となるコメントを書いた人事考課が重視されるようになりました。
人事考課で明確な評価基準を提示することで、従業員は「この会社では何が求められているのか」「どんな行動が望ましいのか」を理解するようになります。
企業の理想的なあり方や方向性も共有しやすくなり、トップから一般社員まで、同じ目的意識を持って働けるようになります。
曖昧な目標や指標では、「何をすればよいか分からずにやる気が出ない」という人も多いでしょう。
人事考課で具体性のある指標を提示すれば、ゴールも見えやすいので、モチベーションが途切れにくくなります。
また、人事考課の結果が実際に賃金や待遇に反映されれば、「頑張れば評価される」と期待でき、それが更なるモチベーションのアップにも繋がります。
人事考課は、原則どの企業においても、主に「成果評価」「能力評価」「情意評価」の3つの要素から成り立っています。
一見難しく感じますが、それぞれが何を指すかがわかれば、コメントも書きやすくなります。
ここでは、3つの要素を分解してわかりやすくご紹介します。
成果評価とは、あらかじめ決めた目標に対してどのくらい結果が出たかを評価するものです。
目標として定めるものや評価方法には、次のようなものがあります。
全て達成率として数字で表せるので、コメントも数字を基準にして、具体的に記してください。
あくまでも「結果」についての評価なので、途中のプロセスは考慮しませんが、過程や内部・外部要因などの分析もコメントに書き加えることで論拠の補強をすることもできます。
能力評価は、与えられた仕事に対し「どの程度能力を発揮できたか」を見るものです。
主に以下のような能力に対して評価を行います。
具体的な数字が見えにくい項目ですが、点数を付けるなどして公平性・客観性を保ちましょう。
能力評価は、不平や不満が出やすいため、どのような基準で評価するかについてあらかじめ定めておくことが望ましいです。
情意評価は、勤務態度や意欲、仕事に取り組む姿勢を評価するものです。
主に以下のような点について評価を行います。
こちらも数値化するのは難しく、短期間では正確な判断ができませんし、論拠となるコメントも書けません。
そのため、評価者自ら従業員と積極的にコミュニケーションを取り、普段から従業員の様子をよく見ておく必要があります。
人事考課でコメントを書く際、評価する側はどのようなポイントに気をつけるべきなのでしょうか。
書き方一つで、モチベーションアップにも、不信感や不満にも繋がるため、十分な注意が必要です。
より良いコメントを書くためのポイント・注意点について紹介します。
評価される側に有益なコメントを記すためには、具体性が必須です。
特に、高く評価している点、改善が必要と思われる点は、数字や実例など挙げて記述しましょう。
「全体的に素晴らしかった」「もう少し進歩が欲しい」など抽象的な表現は、社員に不満を残します。
また、評価コメントを記す際は、次につながる提案が含まれているのがベターです。
社員から説明を求められたときも、根拠を示して説明できるようにしておきましょう。
人事考課において、「褒めるだけ」「改善を求めるだけ」のコメントは適切ではありません。
コメントを記す際は、評価された側が自分のこととして真摯に受け止め、意欲が湧いてくるようにする必要があります。
書き方としては、
マイナス評価について書く
↓
プラス評価で補う
という流れが望ましいでしょう。
この順番を逆にすると、マイナスコメントで終わってしまい、指摘された悪い点ばかりが強烈に残って、モチベーションが低下する恐れもあります。
まずは欠点から指摘し、その後、「しかし○○は大変よかった」などとプラス評価で締めくくるのがベターです。
たとえ人事考課の結果が芳しくなかったとしても、社員の気持ちを害するような書き方は避けるべきです。
「社員のモチベーションを上げる」という目的が損なわれますし、社員との信頼関係も崩れます。
コメントを記入するときは、次の点に留意してください。
・社員の人格を否定するような言葉は使わない
・他の社員と比較しない
社員に問題行動が見られるとしても、個人の人格を否定したり傷つけたりする評価は不要です。
また、同じ部署に優秀な社員などがいた場合でも、他の社員を引き合いにだすのも不適切です。
人事考課では、評価される側の社員も自己評価を記入せねばなりません。
どのようなコメントを記載するかで評価者に与える印象も違ってきますから、ポイントを押さえて記入することが大切です。
人事考課で自己評価コメントを書く際、注意したいポイントを紹介します。
自己評価コメントは、簡潔かつ数値など使って具体的に書くのが望ましいとされます。
要点を得ないコメントをつらつらと書いても、言いたいことは伝わりません。
あまりにも冗長な文章が続けば、「物事を簡潔にまとめる能力が無い」と思われてしまうこともあるでしょう。
売上が上がったことをアピールしたいなら、「前年度比○○%」具体的な数値を入れたり、「△△したことが、業績アップに結びついた」など実例を出すと、伝わりやすいコメントとなります。
「~できなかった」「~しすぎた」などで終わる自己評価コメントは、ネガティブな印象です。
評価者としては「だからどうしたいのか」という気持ちが湧き上がってくるでしょう。
自己評価でマイナスな事項を記述する際は、「○○したい」「△△するつもりだ」と前向きな意見で締めるのがおすすめです。
例えば営業目標を達成できなかった人は、「来期は目標達成のため□□を徹底するつもりだ」「××しないように気をつけたい」など、改善点を挙げておきましょう。
ポジティブな表現を心がけることで、相手への心証は大きく変わってきます。
人事考課のコメントは、職種によって書くべき内容やポイントが異なります。
職種別の具体的なコメント例文を、上司が記載する場合、自分で自己評価を書く場合の両パターンで見ていきましょう。
営業・販売職は、成果や結果を数値化できるため、評価は比較的書きやすいと言われます。
しかし、それだけではなく、その数字に至ったプロセスや姿勢なども記載することで論拠が強くなり、総合的な評価を書くことができます。
営業・販売成績や達成率に加え、以下のような点も追記するとよいでしょう。
売上目標の達成率115%は、非常に素晴らしい結果である。期中に100%達成が見えた後も、さらに成約本数が伸びるようチームでリーダーシップを取ったことも評価に値する。しかし一方で、解約率の数字が8%悪化しているので、新規件数だけでなく、次期は既存顧客のケアにも注力した営業活動を行うことを期待したい。
今年度は、売上目標○○円に対し、実績は△△円、達成率は120%であった。営業チーム内での声かけ、週次ミーティングでの進捗確認に加え、自ら日報でも協力して欲しい点や相談などを積極的に発信した結果といえる。また、顧客への説明資料のアップデートにも取り組んだことで、営業準備の効率化にも貢献した。来年度は売上単価のアップを目指し、新たな顧客獲得に励んでいきたい。
自己評価で成績や達成率を書く場合は、直属の上司だけでなく他の評価者が見てもわかりやすいよう、具体的な数字をしっかり書きましょう。
事務職は、ルーティン化した業務も多いため、数値での評価が難しいと思われがちです。
しかしながら、改善点の修正や業務の効率化は、それを定量的な評価として書くこともできます。
人事考課でのコメントは、以下の点に着目してみるとよいでしょう。
問題や課題が生じたときに自ら早急にミーティングを開くなど、積極的に対応できるのは素晴らしい。周囲への周知も早く、マネジメント能力の高さが見てとれる。ただし一方で、2年間担当している備品窓口チームでは今期発注ミスが2件発生した。ルーティン業務になっている所にも向上心を持って改善を図ってもらいたい。
前任から引き継いだ集計業務について、エクセルの関数をさらに加えることで作業のスピードアップに努めたことは評価したい。また、別のメンバーでも利用できるようにマニュアルも率先して準備してくれたため、チーム全体での対応力の底上げにも繋がった。
中途採用の受け入れ業務について、チェックシートを作成し作業効率の改善に努めた。結果として、今期から異動してきた新規メンバーでも1ヶ月後には1人で業務を担当できるようになり、書類の準備や提出漏れも前期は3件あったのに対し0件に減らすことができた。来期は新卒業務へも横展開し、総務・人事担当全体のスピードアップに貢献したい。
セキュリティ事故への注意喚起として、社内メールで具体的事例を月に一度配信した。結果、セキュリティ事故は前年の〇件より△件減少し、一定の効果が感じられた。来年度は勉強会を開くなどして、社員のセキュリティに関する意識を高めたい。
達成率の書き方が難しい場合は、前年との比較を述べ、どのような点が改善できたのかを記載するとよいでしょう。
企画職は、作成本数やプロジェクトの達成度などが数値で表せる場合はそれを書きましょう。
しかしながら、実際の現場では、評価時期に企画の遂行途中であったり、プロジェクトの中で個人が何をしたかが見えづらいなど、評価コメントに悩むことも多々あるようです。
個人の果たした役割や貢献できた点について、期中からメモするなどして、なるべく具体的に記載するようにしましょう。
〇〇プロジェクトにおいては、自ら担当した企画をリーダーとして牽引し、課題であった若年層の取り込み15%アップに貢献した点は評価に値する。また、対外的なプレゼンの場においても、取引先企業から高い評価を得ているため、今後もそのスキルを後輩などに伝達しチーム力の底上げに貢献することを期待したい。
メールがメインであった集客施策についてSNS企画を提案・開始し、新規登録者数の20%向上に貢献した。効果測定についても、既存のエクセルを一部自動化し、施策の効果を1営業日後にすぐ確認できる体制づくりに貢献した。ただし、現在着手中の〇〇プロジェクトについては、スケジュールが1週間ほど遅れているため、問題箇所を特定し早期の改善に努めたい。
技術職やエンジニアは、工数やコストの削減、システムの改善などの達成度を測って数値化できます。
また、企画や開発段階で社員が果たした具体的な成果があれば、そちらにも触れておきましょう。ポイントは以下のとおりです。
進捗工程の見直しによって15%ものコストダウンが実現できたことは、大きな成果といえる。ただし、工程管理の甘さが納期の遅れを招いたことは否めない。チーム内でよく話し合い、原因の特定と改善に努めてほしい。等級以上の技術力はあるため、皆を引っ張るリーダーとなることを期待する。
技術職でも、上位等級にある人は他部門や外部との接触や交渉が多くなります。対象社員によっては、コミュニケーション能力や交渉力についても評価が必要です。
需要が増加している〇〇の開発については、作業の分散化により工数の30%削減が可能となった。一方で中間テスト工程を追加したため、バグの発生率は20%減少した。後工程での手戻りがなくなり、スピードアップにもつながった。
どのくらい効率がアップしたか、管理体制がどうなったのかなどは、具体的な数値や例を出して説明します。
このほか、IT系の技術者なら、新しい技術やスキルの獲得についても述べておくと、よいアピールポイントとなるでしょう。
編集・デザイナーなどのクリエイティブ職は、その成果物が売上や顧客評価などに繋がっている場合は、それを数値で評価しましょう。
また、作業をより短く・効率的に行ったり、納期への対応力なども評価することができます。
さらに、個人作業も多い業種なので、周囲や他部署との協調性やチームへの改善提案なども評価に加えると良いでしょう。
公式HPリニューアルのデザインについては、先進的なデザインを取り込み、担当したページのPVの1.5倍増に貢献した点を高く評価したい。ただし、作業に集中するあまり、プロジェクトリーダーからの進捗確認への返答が遅れることがあり、チーム全体の作業効率に影響を及ぼしてしまった点については、今後改善を行ってほしい。
新商品のキャラクターデザインにおいて、近年人気が出ているキャラクターの調査や分析を行い、それをベースに広範囲のユーザーに認知し好んでもらえるようなデザイン案を提案した。その結果、キャラクターグッズの売上20%増に貢献した。また、今期よりデザインチーム2つが合併したため、チーム間でのデザインルールの違いなどの差分をまとめて情報共有にも努めた。
保育士の仕事は数値で測りづらいため、具体的な仕事への取組みを評価することが大切です。
例えば、子供や保護者への対応力、保育環境の整備や工夫などの日々の行動から評価をしましょう。
さらに、学年やチームでの協力体制や、後輩への指導などでの貢献も評価に加えると良いでしょう。
後輩に「質問がないか、困ったことはないか」と自ら声をかける姿もよく見られ、職場の相談しやすい雰囲気づくりにも貢献している点を高く評価したい。ただし、今期行った音楽会の準備においては、衣装づくりに想定以上の時間がかかり園内の期日を2日超過してしまったため、期限が難しい場合は早めに上司に報告するよう改善を求めたい。
子供たちとの散歩については、道中に長めの道路工事が行われていたため、工事車両の行き来にも十分配慮し安全管理を行った。保護者からの相談への対応については、自身で判断しきれないことは一旦持ち帰りとして先輩、園長にその日のうちに相談し、適切な返答ができるように努めた。来期からは新入社員も入ってくるので、自分が先輩から学んだメモなどを共有し、伝えていきたい。
看護師の仕事も数値で測りづらいため、日々の取り組みが評価の基準となります。
正確で迅速なサポートや、患者さんやご家族への親身さ細やかさなどを評価するとよいでしょう。
さらに、保育士と同様、チームでの協力体制や、後輩への教育指導などでの貢献も評価に加えると良いでしょう。
退勤前に気づいた箇所を簡単に掃除するなど、院内の環境整備に常に目を配っている姿勢を高く評価したい。また、患者様の様子で気になる点があれば、医師に情報共有と相談を徹底しており、後輩にも同様の行動を行うようサポートしている点も、今後も継続してもらいたい。
患者様だけでなく、そのご家族にも優しい声がけができるように意識し、相談しやすい雰囲気づくりに努めている。また、朝礼の際に、在庫切れが近い物品について共有して物品切れを未然に防いだ。さらに今期は、看護知識のレベルアップができるよう院外での研修会にも2回参加した。来期も継続して参加していきたい。
介護職は、可視化できる業績や効果を測るのが難しい職種です。
被介護者やご家族への接し方、安全確保や、環境の整備に対する取り組みを評価することができます。
また、介護に関する知識の習得や技術の向上なども評価に加えると良いでしょう。
被介護者だけでなく、ご家族への接し方も柔らかい口調で優しく話すよう心掛けてる姿勢が見え、後輩の手本となっている。人事異動による人数減で期初は特に忙しさが増していたが、チーム内で声をかけあい、サポートしあえる箇所を相談するなど、業務の効率化や負担の軽減に努めていた点も高く評価したい。
利用者の行動特性にあわせ、危険な箇所では必ず手を持って介助することを徹底した。また、前期、施設の外に出てしまう利用者がいたため、施錠管理も徹底し、外部業者が退出する際の閉め忘れがないよう付き添って施錠するようにした。入浴介助については前期は先輩のサポートが必要であったが、今期は研修会にも参加し、自分と後輩の2名で対応ができるよう技術が向上した。
評価する側もされる側も頭を悩ませがちな、人事考課でのコメントについて解説しました。
一見難しく感じる作業ですが、ポイントを抑えて例文を参考にすれば、短時間でスムーズに書くことは可能であることがおわかりいただけたでしょうか。
人事考課が適切に行われれば、企業にとっては生産性の向上、社員にとっては賃金や待遇の改善などに繋がります。
企業全体にメリットをもたらす人事考課に、ぜひ積極的に取り組んでみてください。
なお、コメントの作成だけでなく、人事考課・人事評価全体のプロセスをさらに効率化したいという方には「人事評価システム」の活用もおすすめです。
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画像出典元:Unsplash、Pixabay
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