経理の仕事や会計の勉強をしていて必ず出てくる用語の一つが「前受金」です。
今回は、前受金の基本的な考え方や仕訳方法を事例を交えつつ、混同しやすい勘定科目(前受収益、仮受金、預り金等)との違いについてもわかりやすく解説していきます。
このページの目次
まず最初に、「前受金」とは何かについて見ていきましょう。
商品やサービスを提供する前に、顧客から売上代金の一部または全額を先に受け取った場合に使う勘定科目
言葉だけだとイメージしづらいですが、予約販売のように商品代金の一部を予め受け取り、その後商品を提供するケースや、大規模なプロジェクトでサービス完了まで期間を要するために、売上代金の一部を先に受領するケースが実務上もよくある例となります。
前受金の仕訳例は後ほど紹介していきますが、ここでは前受金を理解することを目的に2つの特徴をあげたいと思います。
前受金の特徴をしっかりと抑えておくことで、この後出てくる混同しやすい勘定科目との違いもよく理解出来るようになります。
1つ目の特徴は、売上に関連している科目という点です。
これは、「顧客から売上代金の一部または全額を受領」という定義からもイメージしやすいかと思います。「売上に関連」しているので、「損益との関連性がある」と表現することも出来ますね。
2つ目の特徴は、負債に分類される科目という点です。
こちらは「なんで負債なの?」と疑問に思われるかもしれませんが、定義の「商品やサービスを提供する前」という部分と関連しています。
噛み砕いて表現すると、お客さんが注文した商品やサービスを提供する前にお金をもらっている以上、将来に渡って相応の役割を果たす義務を負っているということです。
「負債=義務」のことなので、そう考えれば負債に分類される理由もわかるかと思います。
以上の特徴を踏まえた上で、「前受金」の仕訳方法を確認してみましょう。
1つ目の例は、運営しているECサイトで顧客から商品の注文を受け、その際に売上代金の一部を前受金として受領するケースを想定してみます。
ちなみに、前受金は「前金」「手付金」「内金」など様々な表現がされることがあります。
まず、売上代金の10%を受け取った4月の仕訳は以下のようになります。
受け取った金額分を「前受金」として負債勘定で処理する点がポイントです。
続いて、顧客が注文した商品の発送及び顧客側の確認が完了した5月の仕訳は以下のようになります。
代金の残額と先ほどの前受金の合計を売上として処理する点がポイントです。
企業が顧客に対して商品を引き渡した時点(企業としてすべき責任を果たした時点)で「売上」を計上する点もあわせて押さえておいてください。
2つ目の例は、大規模なプロジェクトを受注し、その際に売上代金の一部を前受金として受領するケースを想定してみます。
まず、契約代金の20%を受け取った7月の仕訳は以下のようになります。
先ほど同様、受け取った金額分を「前受金」として負債勘定で処理する点がポイントです。
続いて、プロジェクトが完了して契約内容をすべて提供し終えた9月の仕訳は以下のようになります。
契約金額を売上として処理する点がポイントですが、先ほどとは異なり「売掛金」が発生している点に注意です。
先ほどは「売上」から「前受金」を差し引いた全額が「現金預金」として振り込まれていましたが、今回は50%が現金預金として振り込まれ、残り50%が掛けとなっているためです。
発生した売掛金を回収した12月の仕訳は以下のようになります。
ここでは、単純に売掛金の回収に関する仕訳をするだけですね。
以上のように、商品の引き渡しやサービスの提供前に、顧客から売上代金の一部(または全部)を受領した際には、まず「前受金」として処理し、その後役割を果たした段階で売上として認識する点をしっかりと押さえておいてください。
ここからは、「前受金」と混同しやすい勘定科目との見分け方について紹介していき、その後「勘定科目との違い」を仕訳例交えて解説していきたいと思います。
1つ目のポイントは、その勘定科目が「資産科目」か「負債科目」かという視点です。
資産科目は「権利」、負債科目は「義務」と読み替えてもいいと思います。
仕訳時に対象科目が「借方」として処理され、貸借対照表において「資産」として計上されるのか、「貸方」として処理され、貸借対照表において「負債」として計上されるかを意識することが大切です。
2つ目のポイントは、その勘定科目が将来的に「損益」と関連するかという視点です。
「前受金」であれば、商品やサービスを提供した後に「売上」として振り替えられたので、「損益」と関連していると言えますね。
以上の2つの視点を持っておくと、この後出てくる混同しやすい勘定科目との違いが理解しやすくなります。
2つの見分け方「資産か負債か」「損益との関連性はあるか」を軸としたマトリックス図を用いて、全体的な違いを視覚的にイメージ出来るようにしていきます。
前受金と似ていて混同しやすい勘定科目としては、「前受収益」「前渡金(前払金)」「前払費用」「仮受金」「預り金」「仮払金」の6つを取り上げていきます。
名称だけだとイメージしづらいですが、見分け方の視点2つ「資産か負債か」「損益との関連性はあるか」を用いてプロットすると、以下のように分類することが出来ます。
詳細はこの後説明していきますが、今の時点では「名前は似ているけど資産と負債で分類出来るものがある」、「同じ負債科目でも、損益と関連しているものと関連していないものがある」などイメージを持ってもらえれば十分です。
ここからは、実際に前上金と混同しやすい科目を比較していきます。
まずは、一番違いがわかりにくい「前受金」と「前受収益」の違いです。
違いがわかりにくい理由は、両方とも「負債」で「損益との関連性がある」ためです。
先ほどのマトリックス図でいうと、ともに右上に分類されていることがわかるかと思います。
次に、両者の定義の違いを見てみると、以下のようになります。
違いを理解するためのポイントは、前受収益は「一定の契約に従い、継続して」という部分です。
前受収益を用いる場面は比較的少ないですが、「地代家賃」「賃借料」のように継続して役務提供をする場合に用いられる勘定科目となります。
「前受収益」の仕訳例を確認してイメージを膨らませてみましょう。
仕訳例からわかるように、継続的な取引に基づき収益を受け取り、適正な期間損益の計算をするために「経過勘定」として用いられる点が特徴となります。
続いて、「前受金」と「仮受金」の違いについて見ていきます。
先ほどのマトリックス図でいうと、前受金は「右上」のエリア、仮受金は「右下」のエリアとなります。
「仮」という言葉からもわかるように、仮受金は内容が不明の入金に対して使われる勘定科目である点が特徴です。
とりあえず内容が不明のため「仮受金」として処理しておき、その後決算時に内容を精査し、発覚した内容に応じて適切な処理をすることが一般的です。
なお、今回は便宜上、損益との関連性は「なし」として紹介していますが、取引内容によっては損益との関連性「あり」となる可能性もある点は知っておいてください。
「仮受金」の仕訳例は以下のようになります。
仕訳例からわかるように、一旦「仮受金」として処理しておき、その後適切な内容に修正していることがわかりますね。
企業としては、内容が不明な仮受金は極力発生しないように管理した方が良いと言えます。
続いて、「前受金」と「預り金」の違いについて見てきます。
先ほどのマトリックス図でいうと、前受金は「右上」のエリア、預り金は「右下」のエリアとなります。
以下が両者の違いとなりますが、預り金は給与支払い時に「額面」から差し引かれる「源泉分(所得税や住民税など)」として使われる点が特徴と言えます。
「預り金」の具体的な仕訳例は以下のようになります。
仕訳例からわかるように、給与支払い時に「預り金」として会社がお金を集めておき、その後管轄税務署などに税金を支払う流れが一般的となります。
最後に、「前受金」と「前渡金」の違いについて紹介します。
前渡金は前払金と言われることもありますが、前受金が「負債」であるのに対して、前渡金が「資産」である点が最も大きな違いとなります。
そして、両者ともに「損益との関連がある」点も特徴と言えます。
先ほどのマトリックス図でいうと、前受金は「右上」のエリア、前渡金は「左上」のエリアとなります。
「損益との関連性」について補足すると、前受金の場合は、将来「売上」に振り替えられる科目でしたが、前渡金の場合は将来「仕入」に振り替えられる勘定科目です。
これは見方を変えれば、前受金が商品・サービスを提供する側の会計処理であったのに対して、前渡金は商品・サービスを購入する側の会計処理とも言えます。
「前渡金」の仕訳例は以下のようになります。
仕訳例からわかるように、「前受金」の会計処理と表裏一体と言えますね。
以上が「前受金」と混同しやすい勘定科目の違いとなります。
ここで紹介した仕訳例のイメージを持ちながら、「資産か負債か」「損益との関連性はあるか」を考えておくと、違いがより鮮明にイメージ出来るようになるはずです。
いかがだったでしょうか?
今回は、「前受金」に関する基本的な説明と仕訳例、さらには混同しやすい勘定科目との比較について紹介してきました。
違いをしっかりと理解して、経理実務や会計資格の勉強に役立ててみてください。
画像出典元:Shutterstock
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TAK
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