「定年後に再雇用される人」を指すことが多い「嘱託社員」。
本文では、
①嘱託社員とは?(その雇用形態、給与、待遇から契約社員・正社員との違いまで)
②労働者・経営者双方からの嘱託社員の「メリット・注意点」
③「実際の職場内でのイメージ・とるべき対応」
を紹介しています。
このページの目次
「嘱託」とは「頼んで任せること」、また「その頼まれた人」という意味です。
そこから、一般的には「その人の持っているスキルや経験、知識を見込んで、特定の仕事を任せること」をいい、また任された社員のことを「嘱託社員」といいます。
嘱託社員とは、一般的には期間を設けて雇用される、有期雇用契約の一種です。
正社員とも違うので、非正規雇用労働者の一種でもあります。
ここが重要なポイントですが、嘱託社員は、法律上の明確な定義・規定がありませんので、実際には企業と嘱託社員本人との、個々の契約内容によることがほとんどです。
まずは「嘱託社員に明確な定義はない」ということを、しっかりと押さえましょう。
嘱託社員は大きく分けると、以下の2つのケースに集約されることが多いようです。
①定年後再雇用される時に嘱託社員となるケース
②医師や弁護士など、特別な資格や専門知識を必要とする業務で嘱託社員となるケース
ただ、②の場合、嘱託社員の一種とはなっていますが、この場合「請負契約」となることがほとんどです。
請負契約の場合、契約した企業と本人の間に指揮命令関係はありませんので、このケースでいう医師や弁護士は労働者ではありません。したがって、労働基準法の保護の対象から外れます。
ですので「嘱託社員」と一般的にいう場合は①の「定年後に再雇用される人」を指すことが多いでしょう。
繰り返しますが、嘱託社員は「定年後再雇用される人」を指すことが一般的です。
したがって、現在は本人が希望した場合、企業には65歳までの雇用義務があります(高年齢者雇用安定法による)ので、例えば定年年齢が60歳の会社だと、本人が希望した場合、少なくとも65歳までは継続雇用しなくてはなりません。
この少なくとも5年間を嘱託社員として雇うという企業が多いと思います。そのため、無期限の雇用ではなく、有期限の雇用契約を結ぶことが多いのです。
また、本人の体調や様々な事情にも対応しやすいように、1年ごとの有期契約とし、必要に応じて更新する形式を取ることが多いようです。
通常、正社員は「無期」の雇用契約なので、それに対して、嘱託社員は「有期の非正規雇用」となるのです。
嘱託社員が有期雇用契約となると、平成25年4月から導入されている「無期転換ルール」との兼ね合いはどうなるのか気になるかと思います。
おさらいしますと、
「無期転換ルール」とは、同一の使用者との有期労働契約が通算して「5年」を超えて繰り返し更新された場合に、労働者からの申し込みにより無期労働契約に転換する。
というものです。
実はこの制度には特例(例外)があって、①高度専門職と②継続雇用の高齢者に対しては、しかるべき措置や条件に適用した場合、例外として無期転換しないというものがあります。
事前に企業が計画届を都道府県労働局長に届け出し、認定を受ける必要がありますが、認定を受けている場合、定年後引き続き雇用される高齢者(本文でいう「嘱託社員」)は無期転換ルールからは外れます。
余談ですが、この特例が「定年後引き続いて」雇用される高齢者に限定されているという点には注意が必要です。
定年前には別の会社に勤めていた方を、定年年齢を超えた後に、新しく雇用する場合には、たとえ高齢者であっても理論上、無期転換ルールが当てはまります。
高齢者を新規採用する場合は、嘱託社員とは違うということを理解しておいた方がよいでしょう。
冒頭でも述べましたが、嘱託社員は、法律上の明確な定義・規定がありませんので、そのお給料・待遇についてもこれといった決まりはありません。
大前提として、「企業と嘱託社員本人との、個々の契約内容による」といえるでしょう。
各種社会保険(労災・雇用・健康・介護・厚生年金)は各適用条件を満たす場合は、それぞれ加入しなくてはいけません。
他の労働者と同様、本人や企業の任意ではありませんので、注意が必要です。
有給休暇についても、他の労働者と同様、法律の規定の通り適用されます。
付与される日数については、厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法39条」をご参照ください。
退職金についても決まりはありません。
企業ごとで自由に取り決める部分ですので、嘱託社員に支給しても、支給しなくても特に問題はないです。
ただ、退職金制度のある会社は、通常は嘱託社員になる前に(定年時に)一度退職金の支払いがあると思われますので、その後で再度支給することは少ないように思われます。
嘱託社員にも、他の非正規労働者と同様、「同一労働同一賃金」の規定は当てはまります。正社員と比べて「不合理な労働条件」を定めることは禁止されています。
嘱託社員を含む、非正規労働者から労働条件の根拠の説明を求められたときに、企業はきちんと説明できるようにしておかなくてはなりませんので、合理的な労働条件を結ぶ必要があります。
詳細は下記の厚生労働省の「同一労働同一賃金」ガイドラインをご参照ください。
基本給・各種手当・賞与・福利厚生・教育訓練について、どうするべきかが載っています。
先ほど説明したとおり、嘱託社員は有期の雇用契約を結ぶことが多いです。
契約社員も有期の雇用契約を結んでいることが多いので、この点は全く同じです。
また、嘱託社員は「時短勤務」・「週5日未満勤務」や「給料が正社員と比べて低い」というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、実際のところは個々の仕事内容や責任の程度を踏まえた、個別の契約内容によります。
ですので、この点も契約社員と全く同じです。
したがって、嘱託社員と契約社員には際立った違いというものはありません。
嘱託社員という呼び名は契約社員の一部であり、便宜上、定年後再雇用した社員として分けるために、こう呼ばれているのだと考えられます。
あくまで、筆者の個人的な見解ですが、その方の事情や体力なども踏まえて、嘱託社員でも「フルタイム・週5日勤務」というのもありますし、「フルタイムの週4日勤務」、「午前中だけ・週6日勤務」という方もいらっしゃいます。
対して、契約社員と呼ばれる方は若い方が多い印象で、こちらは正社員と同様に「フルタイム・週5日勤務」という働き方が多いのかなという印象です。あくまで個人的な見解なので、1つの参考程度にとどめて頂ければ幸いです。
嘱託社員と契約社員の違いは、単なる呼び方の問題だと思われます。
先ほどまでにみてきたように、正社員は無期の雇用契約が多いですが、嘱託社員は有期の雇用契約がほとんどです。
この点が決定的な違いといえるでしょう。
また、嘱託社員は正社員の責任の程度と比べると、より軽くなっていることが多いように思われます。
例えば、急な残業の発生時に、嘱託社員は残業はなし、となっていたり、広く後進の育成を任されていたとしても、個別具体的な部下管理の業務からは外れていたり、といったことです。
ただし、ここでもあくまで実際のところは個々の仕事内容や責任の程度を踏まえた、個別の契約内容によります。
したがって嘱託社員といっても、無期か有期かの違いだけで、あとは正社員と全く同じだということもあり得るのです。
嘱託社員として働く上で、最大の労働者のメリットといえば、「その職場のことを十二分に熟知している」ということでしょう。
例え、長年同じ業務に就いて、十分業務上のスキルや経験があったとしても、会社や工場が変われば、マニュアルや勝手が違うということはよくあることです。
その点、やり方をよくわかっている職場なら、引き続き慣れ親しんだやり方で仕事ができます。
また、人間関係の問題も非常に大きいでしょう。
長年勤めていた会社なら、気心の知れた同僚や、かつての上司・部下の性格までよく知っているものです。
新たな職場環境へ行くと、また一から関係を構築しなければなりませんが、嘱託社員として勤めるなら、その点が不要です。
ここでのお話は、会社や他者からの評価もあっての話になるので、自分1人だけで何とかなるものではないのですが、例えば長年の勤務態度や功労、活躍等が認められて、業界団体や勤め先等から表彰を受ける場合などがこれに当てはまるでしょう。
また、筆者が出会った、ある素敵な嘱託社員の方で、こんな方がいらっしゃいました。
自らがこれまでに身につけた、(長年の経験や勘も含めた)スキルやノウハウを、自分の中だけに囲い込まずに、惜しみなく後輩に伝えていました。
他にもさりげなく職場内の「後方支援」を心掛けてみえたような印象でした。
お客様のため、会社のため、後輩のため、ひいては業界・社会のため、“三方よし”の精神を行動に移されているような方でした。
そのような思いやりのある、経験豊富な嘱託社員の存在は、職場内においても、他の同僚・部下にとっての「精神的な拠り所」になっているようでした。
こうしたことは、本人の仕事に対する姿勢や考え方が非常に大きいことも否めませんが、定年後も嘱託社員として同じ会社に居るからこそ、経験できるということが必ずあると思います。それらは10年、20年、30年と続けて同じ会社に居るからこそ得られるものです。
そのことは、単なる仕事以上の、これまでの自身のキャリアや生き方を肯定することにも繋がり、深い自信や人生への満足感にも繋がるものです。
嘱託社員はこれまで長年会社に貢献してきた、一定以上の能力も経験もある人材です。
これまでの勤続期間で、会社側もその人となりや勤務態度、どの程度の能力を持っているのかも把握していて、本人も企業風土に慣れています。マッチングは既に十分できていると言えるでしょう。
したがって、一から新しく人を採用するのと比べて、リスクも採用・教育コストも格段に少なくて済みます。
「嘱託社員の雇用契約」の項目でも述べましたが、現在、高年齢者雇用安定法では、65歳未満の定年年齢を定めている会社は、以下のいずれかの措置を講じなくてはならないと定められています。
①当該定年の引き上げ
②継続雇用制度の導入
③当該定年の定めの廃止
この中で、嘱託社員の雇用は、②の継続雇用制度の1つにあたり、①と③と比較すると、ややリスクの少ない制度と言えるでしょう。
嘱託社員となる方は、定年前まで正社員として雇ってきた従業員である場合が多いかと思います。
なかなか正社員も含めた、従業員の給与や待遇を見直すということは、通常多大な労力がかかることなので、あまり頻繁には行われないと思います。何かきっかけがないと、なかなかそこまで手が回らない、手が付けられないという会社の方が多い印象です。
その「きっかけ」の1つが、従業員の定年後「再雇用する時」です。
再度、雇用契約を結ぶタイミングこそが、個別具体的な仕事内容と責任の程度を見直し、またそれに見合った、適正な労働条件を結ぶべきタイミングです。
また、本人も、もしかしたらこのタイミングでワークライフバランスを見直したり、体調を考慮して、少しスローダウンしたい等、長年抱えてきた思いがあるかもしれません。
その本人の思いともよく向き合い、擦り合わせをすべき時です。
嘱託社員は通常、有期の雇用契約を結びます。契約期間中の解雇はできないことになっていますが、契約更新の際には、「更新されない」「契約内容が改悪される」といった可能性もあります。
今までにみてきたように、本人が希望する場合、企業には65歳までの雇用義務がありますが、昨今の大規模な災害や世界規模の疫病などにより、いつ企業が倒産するかも分からない状況は今後もあり得るでしょう。
その際に、有期の雇用契約は真っ先に雇用の調整弁になりやすいという側面は拭えません。
嘱託社員も他の有期契約の労働者と同じく、契約期間中の解雇は原則できません。
会社の倒産など、「やむを得ない事由」があると認められない場合はできませんので、契約を結ぶ際には、他の労働者と同様に、慎重に対応するべきです。
また、もし期間満了で雇用契約を終了しようと企業側が考えていたとしても、本人は今後も雇用契約が更新されることを期待しているといったような「認識のずれ」もありがちです。
更新をしないことがあらかじめ決まっているような場合は、例えば1年以上前から、十分に余裕をもって本人に伝えておく等、相当の配慮が望ましいです。
長年の貢献ある嘱託社員の存在は、多くは企業にとって貴重で、頼りになる存在です。
その反面、人間関係が固定しやすかったり、かつてその社員が役職等に就いており、組織内に何らかの権力や支配力があったりする場合、少し問題になることもあります。
現在の役職者が嘱託社員の扱いに苦労したり、新しい組織体制を乱されるようなケースもあります。
企業が将来にわたって発展していくためには、適切な新陳代謝は必要です。
時には嘱託社員への厳しい指導が必要であったり、新たな役割や、やりがいを与えて、嘱託社員のモチベーションを下げないように試みたり、細やかな配慮が必要になります。
いかがでしたでしょうか。
嘱託社員に関する「一般的な意味合い」や「雇用契約の形態・待遇」や「実際の職場内でのイメージ」、「労働者・経営者双方からのメリットと注意点」等をそれぞれご理解頂けましたら幸いです。
ともあれ、大前提として「嘱託社員に明確な定義はない」「企業と嘱託社員本人との、個々の契約内容による」ものですので、1つのご参考程度にとどめて頂けたらと思います。
画像出典元:Pexels、Pixabay
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