賃金台帳は、会社の労務管理において欠かせない書類の1つであり、従業員を雇っている企業なら誰もが作成しなければならないもの。
労働基準法によって定められている帳簿であるため、事業所ごとに賃金台帳を作成することは義務付けられています。
ただ労務を担当されている方の中にも、賃金台帳の詳しい書き方や保存期間などについてよく分かっていない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は賃金台帳について書き方や保存期間、給与明細との違いについて詳しく解説します。
このページの目次
賃金台帳とは従業員の給与支払い状況を記した書類のことで、労働者の賃金額やその計算の基礎となる事項などを記した書類のことです。
労働基準法第108条において、賃金台帳は下記のように定義されています。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
企業単位ではなく、事業所ごとに賃金台帳を調製する必要があるため、同じ会社であっても異なる賃金台帳を作成・管理する必要があります。
労働基準法において、賃金台帳は労働者名簿、出勤簿と合わせて「法定三帳簿」に定められています。
労働者名簿 | 労働基準法第107条に定められており、労働者の氏名や採用した日などの労働者に関する情報を記載する。 |
出勤簿 | 労働基準法第108条に定められており、従業員の始業・終業時間や早出、残業などの労働時間に関する情報を記載する。 |
賃金台帳 | 労働基準法第108条に定められており、賃金計算の基礎となる事項および賃金の額を記載する。 |
法定三帳簿については、労働基準監督署や年金事務所などの調査や役所の監査で提出を求められることがあります。
もしこれらの法定三帳簿の作成・保管がされていない場合には、労働基準法によって30万円以下の罰金を求められることもあるため注意が必要です。
賃金台帳を作成する対象となるのは、事業所で働くすべての従業員です。
法定三帳簿の中でも、労働者名簿に関しては日雇い労働者の情報の記載は免除されることになりますが、賃金台帳は免除されません。
契約社員や派遣社員だけでなく、アルバイトやパート、日雇い労働者なども賃金台帳を作成する対象となるので注意しましょう。
また残業手当が支払われない会社の役員についても、賃金台帳の作成が必要です。
社会保険の加入対象者となっている以上は、会社の代表者あっても役員であっても賃金台帳を作成しなければなりません。
しかし労働基準法第41条に該当する「管理監督者」については例外です。
管理監督者とは労働基準法上では、会社の役員や代表者のように、労働時間の管理を受けておらず、賃金面での待遇が良いポジションについている人のこと。
第41条においても「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」と明記されており、時間外や休日労働時間数に関しては記載する必要はありません。
ただし、管理監督者であっても深夜業(22時〜翌5時)の割増賃金は支払う必要があり、年次支給も他の従業員と同様に与える権利があることを覚えておきましょう。
では実際に賃金台帳はどのように調製していけば良いのでしょうか。
賃金台帳は様式自体は定まっていませんが、具体的に記載しなければならない事項が決まっています。
ここでは賃金台帳の記入に便利なテンプレートまで紹介しているため、書き方がよく分からない方はぜひ参考にしてみてください。
賃金台帳に記載すべき事項は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条により以下の通りに定められています。
氏名 | 労働者の氏名 |
性別 | 労働者の性別 |
賃金計算期間 |
月末締めなら1日~31日、10締めなら11日~翌月10日までの期間を指す。 |
労働日数・時間数 | 賃金計算期間内の労働日数・労働時間の合計を記載。 |
時間外・休日・深夜労働時間数 |
労働時間数のうち時間外・休日・深夜に労働のあった時間数。 |
基本給・手当その他賃金種類ごとにその額 |
賃金台帳では給与支給額の総額ではなく、基本給と手当の合計が給与となる。 |
賃金の一部を控除した場合はその額 |
控除の欄は健康保険料・厚生年金保険料など給与から控除される額を記載。 |
賃金台帳の様式は異なれど、上記項目は必須で記載しなければならないため、忘れずに記載しておきましょう。
賃金台帳を記載する際には、賃金台帳テンプレートを利用すると非常に便利です。
以下では厚生労働省の公式サイトに掲載されている賃金台帳テンプレートを掲載しました。
テンプレートは厚生労働省の公式サイトだけでなく、各種書類テンプレートサイトから無料でダウンロードできます。
賃金台帳テンプレートは様々な様式が用意されており、社員用とアルバイト・パート用で分かれていることも。
テンプレートを選ぶ際は、自社のフォーマットになるべく合いそうなものを選ぶと、あとで管理がしやすくなります。
下記では賃金台帳テンプレートがダウンロードできるWebサイトを3つほど例挙しました。
1から作成するよりもテンプレートを使うと非常に便利なので覚えておきましょう。
人事・労務などの担当ではない方の多くは、賃金台帳よりも給与明細の方が親しみやすいのではないでしょうか。
賃金台帳も給与明細も「従業員の給与を記載したもの」という点では同じですが、給与明細の方がより簡素な内容となっています。
実際に給与明細であっても、先述した様な賃金台帳に記載されるべき法定項目が網羅されていれば、賃金台帳としても利用できます。
しかし多くの場合、給与明細は賃金台帳の代わりとして使えないことが多いです。
給与明細は従業員自身が銀行振込などで得た給与が、明細と合致しているかどうか確認する意味合いが強いもの。
賃金台帳に記載がある「賃金計算期間」「労働日数・時間数」などは、給与明細においては割愛されていることが多いです。
賃金台帳は給与明細よりも、法的な拘束力を持っている書類であるため、記載すべき項目が完全に決められているというのも大きな違いであると言えるでしょう。
賃金台帳における保管期限は、労働基準法第109条において従業員の賃金について最後に記入した日から起算して3年と定められています。
第109条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
ただ同じ法定三帳簿でも保管期限の起算日は異なります。
起算日を他の帳簿と混同して、3年が経過していないのに捨ててしまわない様に注意しましょう。
ここでは実際に賃金台帳に関するよくある質問をまとめています。
他にも賃金台帳について気になることがある方は、ぜひ参考にしてみてください。
従業員は1人であっても、賃金台帳は作成しなくてはなりません。
労働基準法で定められている様に、使用者は各事業所ごとに賃金支払いの都度遅延なく記入する必要があります。
ただ従業員1人のためにわざわざ書式をダウンロードして作成するのは面倒だと感じる方も多いですよね。
その場合は、先述した様に給与明細と賃金台帳を兼ねて作成する方法をおすすめします。
給与明細の作成・送付は会社の義務ではありませんが、法人であるならほぼ全ての企業が行っているはず。
であれば賃金台帳をベースとして作っておき、その写しを給与明細としても利用する方がスマートです。
従業員1人でも賃金台帳は作成しなければ法律違反となるため注意しましょう。
賃金台帳を会社外に持ち出すことは可能です。
法定三帳簿で定められている重要な資料だからと言って、社内以外に持ち出してはいけないという決まりはありません。
賃金台帳は労働保険の更新などのタイミングで、社外で社労士さんに確認してもらうケースもあります。
社労士の方に賃金台帳を対面して直接見てもらう場合は、郵送やFAXなどで送付すると紛失の危険も考えられます。
また他の法定三帳簿である労働者名簿や出勤簿も、賃金台帳と同様に会社外に持ち出しても問題ないため覚えておきましょう。
今回は賃金台帳について、書き方や保存期間、給与明細との違いなど詳しく解説してきました。
賃金台帳は法定三帳簿のうちの1つである重要な書類であり、たとえ社員が1人であっても必ず作成しなければなりません。
テンプレートを利用するとより便利に作成することが可能で、自社に合った無料テンプレートを選べば、簡単に作成できてしまいます。
賃金を支払うごとに必ず記載しなければならないため、労務の方は忘れずに記入する様にしましょう。
画像出典元:Pixabay
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