過半数代表者の選出方法が変わったのは、何のため?誰のため?

過半数代表者の選出方法が変わったのは、何のため?誰のため?

記事更新日: 2020/05/13

執筆: 編集部

「過半数代表者」とは、労使協定を結ぶときの労働者の代表のことです。

今この言葉が注目されいるのは、安倍内閣が推進する「働き方改革」の重要な柱の1つである「長時間労働の是正」に関係があるからです。

なかなか進まない長時間労働の是正を推進するために、労使交渉にあたる労働者側の代表となる「過半数代表者」の選出方法が2019年4月から変わりました。

この記事では過半数代表者とは何で、選出方法がどのように変わったのかを分かりやすく解説しています。

過半数代表者とは労使協定の労働者側の当事者になるヒト

過半数代表者とは、パートを含む従業員全員の過半数で支持されて、労使協定を結ぶ際に労働者側の当事者になる人です。

36(サブロク)協定とは

労働組合がある会社の社員は「36協定」という言葉を聞いたことがあると思いますが、組合がない会社の社員にはなじみがない言葉かもしれません。

36協定とは、時間外労働に関する労使の協定のことです。

法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働をするときは、組合があるなしに関わらず、労使間で書面による協定を結んで、労働基準監督署に届けなければなりません。

この規則が労働基準法第36条に定められているので「36協定」と呼ばれています。

しかし、この36協定が空文化して過労死などの過重労働問題が後を絶たないために、2018年の6月に成立した「働き方改革関連法」で、労働時間について新たな規制が加わり、労働者の代表の選出方法にも新たな規則が追加されました。

過半数代表者の役割

社員の過半数が加入している労働組合がある場合は、労使交渉の代表は組合になりますが、組合がない場合に労働者の中から「過半数代表者」が選ばれて、36協定の話し合いに臨み、協定書を作成します。

今回の改正のポイントは、過半数代表者が「使用者の意向に基づいて選出されたものでない」という条件を加えたことです。

組合のない中小企業などでは、経営者が時間外労働についての協定書を任意に作って、適当に指名した形だけの過半数代表者に「ハンコを押して」と頼むというケースが想定されます。

それではいつまでも働き方改革はできない、というので今回の改正になったのです。

過半数代表者の任期は?

過半数代表者の任期については、法律上の定めはありません。

過半数代表者の任期は従業員の話し合いで自由に設定できます。

36協定の有効期間が1年なので、それに合わせて任期を1年にするという考え方もあります。

過半数代表者になれる人は?

過半数代表者になれるのは

(1)管理監督者ではない

(2)投票、挙手などの手続きで選ばれた

(3)使用者の意向で選出されたものでない

という3つの要件を満たす人です。

「管理監督者」でないこと

労働基準法が規定する「管理監督者」は過半数代表者になることはできません。

「管理監督者」とは、課長とか部長などの管理職のことではありません。管理監督者と見なされるのは「労務管理について経営者と一体的な立場にある者」です。

「一体的な立場」というのは抽象的で分りにくいのですが、次のような基準で実態に応じて判断されます。

  • 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
  • 重要な責任と権限を有していること
  • 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあること
  • 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

参照:日本労働組合総連合会「Q& A 労働基準法の「管理監督者」とは」

この基準もかなり抽象的ですが、例えば部長という肩書はあっても残業手当をもらっている場合は、管理監督者には該当しません。

投票や挙手で選ばれた人

過半数代表者の選び方のポイントは次の2点です。

  • 過半数代表者にどんな役割があるかを明らかにした上で選ぶこと
  • 投票や挙手などの民主的な方法で選ぶこと

「オレが選ばれたみたいだけど、過半数代表者って何をすればいいの?」というような選び方ではいけません。

投票の方法は、社内メールを利用するなど、労働者の過半数が支持していることが明らかになる手続であればOKです。

使用者の意向で決めた人でないこと

社長が「君、過半数代表者になってくれないか」という決め方はできません。

当然のことですが、この規制が2019年4月から施工された法律に新しく追加されたというのは、これまでそういう決め方をしていた例が少なくなかったからでしょう。

会社が指名した労働者を形式的に選挙で選ぶという方法も認められません。そういう選び方で選出すると、その代表者と使用者で結ばれた労使協定は無効になります。

なお、施行時期は大企業は2019年4月ですが、中小企業は1年間の猶予期間があり2020年4月からです。

派遣社員やパートにも投票権がある

過半数代表者は労働者の過半数で決めますが、その「労働者」とは正社員だけでなく、

  • パートタイム労働者
  • 派遣社員(派遣先ではなく派遣元)
  • 産休、育休などで休職中の社員
  • 嘱託社員
  • 出向社員

など、残業手当、休日出勤手当などをもらう立場の労働者のすべてが含まれます。

過半数代表者になるのはお得なの?

過半数労働者に選ばれるとどんな役割があり、それは選ばれた人にとってどんなメリットがあるのでしょうか。

過半数代表者の同意が必要な労使協定はたくさんある

使用者が就業規則を定めるときに過半数代表者の同意が必要な労使協定には、36協定以外にも色々あります。

  • 時間外・休日労働 (36条)
  • 賃金から社会保険料以外の控除をする場合 (24条)
  • 変形労働時間制 (32条)
  • フレックスタイム制 (32条)
  • 休憩の一斉付与の例外(34条)
  • 裁量労働制 (38条)
  • 年次有給休暇の付与 (39条)
  • 労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合 (18条)
  • 1か月60時間を超える時間外労働の賃金 引上げ部分の代替休暇の付与 (37条)

上記の中の「変形労働時間制」とは、例えば繁忙期の7,8月は1日9時間労働だが、閑散期の1,2月は1日7時間労働にする、などの制度です。

「裁量労働制」とは、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種で、あらかじめ労使間で定めた時間分を労働時間とみなして賃金を払う制度です。

過半数代表者に選出されたら、これらの協定の内容や現状についても勉強する必要があります。

過半数代表者になるメリットはあるの?

法律は使用者に正しく過半数代表者が選任されることを妨げないことを義務付けていますが、労働者にとって過半数代表者に選任されることはどんな意味があるのでしょうか。

過半数代表者になっても特別な報酬や手当はありません。労働者代表として社長に言いにくいことを言うのは、不利益をこうむることはあっても得をすることは何もないようにも思えます。

法律は「労働者は正しく団結して、言うべきことを言いましょう」と奨めています。

それでこそ民主国家の法律で文句の付けどころはないのですが、猫の首に鈴をつける役目に選ばれた人に当惑があるのも現実でしょう。

このように、過半数代表者になることに個人的なメリットはありませんが、「労働者みんなのため、しいては自分のため」と考えて役目を果たすことが求められているのです。

過半数代表者に対する不利益な取扱いは禁止されている

会社は、過半数代表者であることや過半数代表者として正当な行為をしたことを理由に、不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

不利益な取り扱いとは、解雇、賃金の減額、降格など指します。

このたびの改正では「事業主は、過半数代表者が同意(または協議)に関する事務を円滑に遂行することができるような必要な配慮を行う」ことが明記されましたが、「必要な配慮」の具体的な内容については、今後厚生労働省の通達で明らかにされることになっています。

まとめ

過半数代表者とは、時間外労働などの労使協定で労働者を代表して意見を述べ、協定書にサインをする人です。

過半数代表者に選ばれても個人的なメリットはありませんが、労働環境を改善するために役目を果たすことが望まれます。

画像出典元:pixabay

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