キャズム理論とは|イノベーター理論やキャズムの原因や超える方法・事例

キャズム理論とは|イノベーター理論やキャズムの原因や超える方法・事例

記事更新日: 2020/03/12

執筆: 編集部

新規事業の市場展開を考える際、ぜひ理解しておきたいのがキャズム理論です。

ただし、理論を正しく理解するには、その元となる「イノベーター理論」についても知見を深めておかねばなりません。

本記事では、キャズム理論とイノベーター理論の概要、さらにはキャズムを超える方法や具体的な成功・失敗事例について紹介します。

キャズム理論を理解し、普及段階に応じたマーケティング方法を検討できるようにしましょう。

キャズム理論とは

  • キャズム(chasm)(英)=溝、谷間、隔絶

「キャズム」とは、英語で溝や隔絶を意味する言葉です。

マーケティングにおいては、新しいサービスや製品が広く市場に普及するまでの「超えなければならない溝」という意味で用いられます。

キャズム理論について、詳しくみてみましょう。

ジェフリー・A・ムーア氏による理論

「キャズム理論」は、1991年に出版されたジェフリー・ムーア氏の著書『Crossing the Chasm(邦題:キャズム)』の中で語られている理論です。

キャズムとは初期市場とメインストリーム市場の間にある溝のこと。

著書では、新しい製品やサービスが広く一般に普及するには、両者の間にある深い溝、すなわちキャズムを乗り越えねばならないことが述べられています。

新しい製品やサービスの普及を目指す際は、このキャズム理論を理解して適切な市場展開を目指すのが有益でしょう。

ですが、理論そのものは、同じく市場普及に関して述べた「イノベーター理論」に基づくもの。キャズム理論を正しく理解するには、

まずイノベーター理論を知ることから始める必要があります。

イノベーター理論とは

イノベーター理論とは、商品やサービスの普及段階を5つに分けて解説した理論です。キャズム理論を知る上で欠かせないといわれますが、実際にはどのようなものなのでしょうか。

市場普及に関する理論

イノベーター理論は、「イノベーション普及学」内で示された理論です。本著は、1962年、米スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授によって出されました。

この中で氏は、商品やサービスを受容する消費者を早い者から順に5段階に分類しました。

そして、彼らの特性に合わせてマーケティング戦略や市場サイクルを考えることが、メインストリーム市場を攻略するポイントだとしています。

5つに分類されるそれぞれの層についてみてみましょう。

1. イノベーター(革新者)

イノベーター(革新者)は、新商品や新サービスを最初期に購入したり採用したりする層です。

特徴としては、情報感度が高く、新しいものへの好奇心が旺盛なこと。商品の良し悪しよりも「目新しさ」「最先端のもの」であることを重視します。

イノベーターにとっては、市場の価値観よりも自身の価値観の方が重要です。自らが「欲しい」と思えるものならば、コストをかけることも厭いません。

市場全体では、約2.5%がこのイノベーターに該当するといわれます。

2. アーリーアダプター(初期採用者)

流行しそうなものに注目し、積極的に取り入れたいと思っているのがアーリーアダプターです。

常にアンテナを張り巡らせているためトレンドには敏感で、「よい」と思ったものは自ら外に発信します。

他の消費者への影響力が大きく、いわゆる「インフルエンサー」「オピニオンリーダー」になる人の多くは、この層です。

商品やサービスをより広く展開する上で、アーリーアダプターをいかに取り込むかは非常に重要なポイントとなるでしょう。割合でみると、アーリーアダプターは市場全体の13.5%ほどです。

3. アーリーマジョリティ(前期追随者)

流行にはそこそこ敏感に反応するのが、市場の34%を占めるアーリーマジョリティです。

ただし、流行に乗り遅れまいとする一方で、新しい商品やサービスの採用には慎重になる傾向があります。

アーリーマジョリティの動向は、アーリーアダプターによる影響が少なくありません。

そのため、アーリーマジョリティを攻略するには、アーリーアダプターをいかにうまく取り込むかが重要です。

また、「目新しさ」だけでは動かないのも、この層の特徴。製品やサービス導入によるメリットや信頼性をきちんとアピールできないと、アーリーマジョリティへの普及は困難です。

4. レイトマジョリティ(後期追随者)

新しい商品やサービスには懐疑的なのが、市場の34%を占めるレイトマジョリティです。

この層は、新商品やサービスが普及しはじめてもすぐには受容しません。周囲の大多数が受け入れる状況に至って、ようやく導入を検討します。

この層にアピールするには、「大多数が購入している」という安心感を与えることが重要です。

5. ラガード(遅滞者)

最後まで新商品やサービスの導入に慎重なのが、市場の16%を占めるラガードです。この層にとって「新しさ」は魅力ではなく、不安の材料でさえあります。

ラガードにまで新商品やサービスを普及させるには、それらが日常生活に溶け込み「ごく当たり前のもの」となるまでは困難です。

キャズム理論の示すもの

イノベーター理論の中で、ロジャース氏は「イノベーターとアーリーアダプターを併せた16%」を攻略することが商品普及のポイントであるとしました。

これは「16%の理論」として語られるものですが、さらに踏み込んで「16%の先には大きなキャズムがある」としたのがキャズム理論です。

イノベーター理論を踏まえた上で、キャズム理論についてより深く考察してみましょう。

1. アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの移行は困難

キャズムは、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在するといわれます。

イノベーター、アーリーアダプターへと順調に普及したとしても、その先のアーリーマジョリティに受け入れられなければ、メインストリーム市場でブレイクする可能性はほぼありません。

初期市場の中で他の商品に埋もれ、やがては消えていくでしょう。

一方、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへと広がった商品やサービスは、「キャズムを超えた」ということです。

今後、アーリーマジョリティからレイトマジョリティへと普及し、メインストリーム市場で受容される可能性は高くなります。

2. 初期市場とメインストリーム市場のニーズは異なる

アーリーアダプターとアーリーマジョリティのニーズの違いが、キャズムを生むといわれます。

イノベーター理論の5つの層のうち、イノベーターとアーリーアダプターを併せた16%は、サービスの「新しさ」に注目します。

「新しいものをいち早く持ちたい」「誰も知らないものを持ちたい」というニーズが購入を決めるきっかけの一つです。

一方、アーリーマジョリティやレイトマジョリティは、「新しさ」を重視しません。

彼らの購入のきっかけとなるのは「他の人も使っている」という安心感。商品やサービスを使うことで得られるメリットを具体的に示し、「損は無い」と判断してもらうことが大切です。

「キャズムを超えられなかった」という製品やサービスの多くは、こうした両者の違いを理解しうまく活用できなかったことに起因すると考えられます。

キャズムを越える方法

アーリーアダプターからアーリーマジョリティへとさらに普及を広げていくには、どのような展開を目指せばよいのでしょうか。キャズムを超えるための方法について考えてみましょう。

1. 新たなマーケティングが必要

初期市場からメインストリーム市場にまで製品やサービスを普及させるには、それぞれの価値観に併せたマーケティングを行うことが大切です。

リリース直後には「先駆性」「目新しさ」を前面に出してアピールし、イノベーターやアーリーアダプターの獲得を目指します。

そしてメインストリーム市場が見えてきた時点で、「高品質」や「誰もが使っている」というアプローチにスイッチ。マジョリティの安心感を得ることで、さらなる普及を目指します。

また、前述のとおり、アーリーアダプターがアーリーマジョリティに与える影響は少なくありません。

効果的にアーリーアダプターに情報を発信してもらえば、アーリーマジョリティの安心感を高めることにも繋がるでしょう。

キャズムを超えていくには、それぞれの対象の価値観に合うマーケティングを行い、訴求効果を高めていくことが必要です。

2. アンバサダー・マーケティング

アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの普及を図る際、有益な手法の1つのが「アンバサダー・マーケティング」です。

これは、初期購入者の中に熱心なファンを作り、製品やサービスのよさを周囲に発信してもらうマーケティング方法。

企業が顧客の中からアンバサダーになりそうな人を抽出し、「製品をおすすめするファン」を増やしていきます。

アンバサダーマーケティングは「顧客同士の繋がり」に基づくのが特徴です。通常の宣伝より浸透力が高く、長期的な効果が期待できます。

アンバサダーを利用すれば、SNSや口コミを通じてアーリーマジョリティに対してリアルなアプローチを展開できます。

3. インフルエンサー・マーケティング

同じくアーリーマジョリティへのアプローチ法の一つとして、「インフルエンサー・マーケティング」というものもあります。

これは、影響力のあるユーザー(インフルエンサー)を商品やサービスの認知拡大に活用するマーケティング手法です。

企業が直接マーケティングを行うのではなく、有名ブロガーや芸能人に商品のプロモーションを行ってもらいます。

彼らの知名度が高いほど、商品への注目度やブランドイメージもアップ。メインストリーム市場へのアプローチが容易となり、さらなる普及のきっかけとなるのです。

また、SNSを通じたマーケティングは、「拡散」効果も期待できます。一度バズれば、一気にアーリーマジョリティへの訴求効果を高めることが可能です。

キャズムを超えた成功事例と失敗事例

過去、キャズムを超えて成功した例、失敗した例はいくつもあります。その中から、特に注目したい事例を紹介します。

1. 成功事例:ネスカフェ・アンバサダー

キャズムを超えた例としては、2012年9月より展開する「ネスカフェ・アンバサダー」が有名でしょう。

これは、オフィス用コーヒーマシンの設置サービスを普及させるため、ネスレ日本株式会社が行ったマーケティング手法です。

最初のとりかかりとして、ネスレ日本株式会社は、オフィスを代表する「アンバサダー」を募集しました。

そして、アンバサダーとして一定条件を満たした人には、職場に無料でネスカフェのコーヒーマシンを設置するなどの特典を付与したのです。

自身がアンバサダーになるというプロモーションは目新しさに加えてメリットも大きく、結果的に大成功。

メインストリーム市場にもうまくアプローチし、1年あまりの間に約10万人がアンバサダーとして商品の普及をサポートしました。

2. 失敗事例:日本の電子書籍端末

現在電子書籍といえば海外資本の会社が主流です。しかし、日本でも1998年頃には出版社とハードメーカーが連合し、電子書籍の団体を作り上げたこともありました。

国内有名メーカーがオリジナルの電子書籍端末を発売するなどしましたが、いずれも普及の前に撤退。

端末の使い勝手が悪かったこと、著作権のトラブルで書籍の数が増えなかったことなど、さまざまな問題が噴出したためです。

日本の電子書籍端末は、最初期には「目新しさ」で注目を集めました。しかし、「安心感」や「メリット」をアピールしきれなかったことで、メインストリーム市場までは攻略できなかったのです。

まとめ

新商品やサービスを普及させるにあたり、キャズム理論を念頭に置いたマーケティング戦略は有益です。

ただし、キャズム理論を理解するには、まずイノベーター理論を知る必要があります。商品の市場普及の5段階について知り、適切なアプローチ方法を理解しましょう。

また、新商品やサービスを広くメインストリーム市場にまで普及させるには、「キャズム」を超えるためのマーケティング施策が必須です。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティのニーズや価値観の違いを十分に理解し、それぞれに合った戦略を検討してください。

画像出典元:Unsplash、Pixabay

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