終身雇用制度が崩壊し、転職や退職などによる人材流失が懸念されている昨今。
企業では社員の成長を促し業績向上に繋げるため、コンピテンシー評価を導入する動きが広まりつつあります。
今回は、今もっとも注目されている人事制度であるコンピテンシー評価について、導入する必要性や作成ポイント、さらには具体例や注意点など、コンピテンシー評価について詳しく解説していきます。
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このページの目次
コンピテンシーとは、「職務やその役割において高い成果につながる思考や行動の特性」といった意味で、アメリカを中心に人材活用の場にて取り入れられた人事管理の考え方です。
たとえば、特定の業務において優秀な成績を出し、高い実績を残しているハイパフォーマーな従業員がいるとします。
このハイパフォーマーは、なぜ高い成果や実績を生み出すことができるのでしょうか。
そこにはやはり何かしらの理由があるわけで、業務に打ち込む姿勢だったり対人との交渉能力だったりなど成果や実績に結び付く様々な思考や行動があり、そうした行動特性こそがコンピテンシーにあたるのです。
実は、日本でもコンピテンシーを導入した企業もたくさんあります。
しかし、なかなかうまくいかない企業も多く、その要因として他の従業員に対してハイパフォーマーがとる行動だけをマネさせようとしたからだと言われています。
コンピテンシーは、「成果に直結する行動特性」と定義されているように「行動」だけではなく「思考」も伴いますので、たとえハイパフォーマーの行動だけをマネしたところで、有効にコンピテンシーが働くことはないのです。
コンピテンシーは、職務や役割に対して高い成果を生み出す優秀な人材の「行動特性」を意味します。
そのなかで、高い業務成果を生み出す行動特性(コンピテンシーモデル)を設定し、評価するものを「コンピテンシー評価」と言います。
コンピテンシー評価の考え方は、実際に高い成果や実績を生み出している従業員の行動傾向を評価基準にしてコンピテンシーモデルを作成。そのモデルに従って人事評価を行います。
前述のとおり、高い成果を出し実績を残せるハイパフォーマーは決して能力だけではなく、行動や思考も関係しています。
そのため、ハイパフォーマーの様々な特性を把握し、それらを他の従業員への評価基準とするということがコンピテンシー評価の基本的な考えです。
こうしたコンピテンシー評価を活用することで、企業は従業員の能力や適性を客観的に評価しやすくなるなど効果的な人材育成が可能となり、組織全体としてのレベル向上の期待も高まります。
コンピテンシーは、1990年以降アメリカを中心に導入された人事育成システムのひとつで、日本においてもコンピテンシーの必要性は高まりつつあります。
その理由として、日本独自の「職能資格制度」によって、その枠組みが形成されてきたことが挙げられます。
職能資格制度とは、これまで日本が導入してきた独自の等級制度で、従業員が持つ能力に応じて基準を定め評価を行う評価制度のことを言います。
この職能資格制度は、年功序列に陥りやすく、評価基準も基本的に上司の主観で非常に曖昧な部分があり、従業員の専門性が十分に評価されないといった課題があります。
また、勤続年数が長い従業員ほど賃金が高くなるということで人件費がかさむばかりか、従業員がその成果に伴っていなければ過払いとなるといった課題も生じます。
1990年代に起きたバブル崩壊以降、業務の成果によって評価される成果主義が主張されはじめ、近年では日本企業においてこれまで確立されてきた職能資格制度の見直しが求められるようになりました。
そうした背景などから、優秀な成果や高い実績を残している従業員が評価され、評価された従業員の行動プロセスを他の従業員に伝えるコンピテンシーの必要性が高まっているのです。
優秀な成果や高い実績を生み出す行動特性を可視化し、それを人材育成や採用活動に活かす取り組みのことをコンピテンシー評価と言いますが、ではコンピテンシーを取り入れ評価することでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
次に、コンピテンシー評価のメリット・デメリットをご紹介していきます。
コンピテンシー評価は、職務ごとにハイパフォーマーの行動特性を評価基準としているため、他の従業員にとって成果を上げるための具体的な行動イメージがしやすくなります。
また、評価基準も明確となるため、従業員のモチベーションの向上にもつながります。
従来の職能資格制度では、基本的に上司の主観による評価となるため、感情や思い込みなどが入って適切な人事評価がつけづらいといったケースがあります。
しかし、コンピテンシー評価の場合は評価基準が明確化であるため、主観にとらわれることなく評価しやすくなります。
また、従業員も「どんな行動が足りないのか」など、自分に足りないところが具体的に分かるため、評価内容を受け入れやすくなります。
コンピテンシー評価は、従業員の評価に対する不公平感の是正に効果的なのです。
コンピテンシー評価を行うことで、各従業員の能力や行動などが把握しやすくなるため、適材適所への人員配置や人材マネジメントなど、経営に関する戦略が立てやすくなります。
また、上司によって育成の仕方にバラつきを防ぐことができるため、組織全体の業務向上が期待できるほか、従業員の不満やストレスの軽減にも効果があります。
前述のとおり、コンピテンシー評価は実在する優秀な人材の行動特性を分析したうえでモデル化するため、基本的なテンプレートというものは存在しません。
そのため、モデルの開発や評価基準の確立などに多くの時間や労力が必要となります。
コンピテンシー評価は、ハイパフォーマーの行動特性を細かく分析したうえで作成されるため、明確かつ細分化されています。
そのため、経営状況など環境の変化などに対応しづらいなど柔軟性に欠ける面があります。
少なからず企業は成長していきます。企業が成長していくにつれ事業の各フェーズも変化し、それに伴い必要な行動特性も変化します。
こうした経営状況など環境の変化に合わせ、コンピテンシー評価も再定義する必要があります。
このように、コンピテンシー評価にはメリットもあればデメリットも存在します。コンピテンシー評価を導入する際は、こうしたメリット・デメリットをしっかり把握するようにしましょう。
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では続いて、実際にコンピテンシー評価を導入する場合、どのような手順で進めて良いのか。コンピテンシー評価の導入手順について解説していきます。
コンピテンシー評価を導入するにあたり、まず自社で優秀な成績、高い実績を生み出しているハイパフォーマーを特定し、ヒアリングを行います。
ヒアリングでは他の従業員との違いや成果に繋がっている行動特性を特定します。
ハイパフォーマーの選定はコンピテンシー評価を作成するうえで非常に重要となります。
そのため、管理職などから様々な情報を集め、さらに対象者の周りにいる同僚や部下などにもヒアリングを行うと良いでしょう。
複数のハイパフォーマーへのヒアリングをもとに、共通する行動特性を取りまとめ、他の従業員の目標となる人物像を具体的にモデル化していきます。
なお、コンピテンシーの評価モデルを設計する際、理想とするモデルタイプは原則として「理想型」「実在型」「ハイブリッド型」の3モデルがあります。
理想型モデルとは、自社が求める人材像に沿って評価モデルを設計していくタイプで、理想とするモデルを想定したのち、細かい評価項目を決めていきます。
理想型モデルでは、自社の事業内容等にマッチする期待行動を構築するので比較的容易で、自社内に理想とするハイパフォーマーが見つからない場合などに有効です。
ただし、理想を追いすぎて現実とはかけ離れた設計になってしまうケースもあるので注意が必要です。そのため、自社の状況にあった実務的なモデルを設計するよう心がけることが重要です。
実在型モデルは、実在するハイパフォーマーをモデルに設計していくタイプで、コンピテンシー評価を活用するうえで、このモデルがもっとも多く使われています。
実在型モデルでは、実在する人材をモデルとして設計していくため、現実に即したモデル設計が可能です。
なお、実在型モデルでは、「いかにハイパフォーマーの行動特性を正確に把握することができる」ということがカギになります。
万が一ハイパフォーマーの行動特性が、他の従業員に対して再現性が難しい場合は、評価モデルにすべきか検討する必要があります。
「理想型モデル・実在型モデル」この2モデルの良いところを融合したのが、ハイブリッド型モデルです。
設計のイメージとしては、実在型モデルで設計したのち自社の理想像モデルをプラスしていくイメージです。
このハイブリッド型モデルは、実在型モデルで選出されたハイパフォーマーにとっても更に学ぶべきところが見つかる優れたモデルと言えるでしょう。
実在型モデルのみで構成した場合、コンピテンシーモデルとなったハイパフォーマーにとっては「普段行っていることに過ぎない」からです。
コンピテンシー評価モデルの設計が決定したら、さらに詳しく行動特性を把握するため、ハイパフォーマーと面談を行います。
この面談では、「なぜ高い成績・実績を残すことができているのか?」といったところを知ることが最大のポイントとなります。
そのため、ハイパフォーマーにヒアリングを行う際、事前準備として「どのような成果を上げて、そのために何をしたのか?」ということを明確にヒアリングできる状態にした上で、実施すると良いでしょう。
次にコンピテンシー評価モデルの項目を作成していきますが、前述のとおりコンピテンシーには決まったテンプレートがなく、職種や職務によってもそれぞれ異なります。
そのため、1からすべてを作成するのは非常に難しいため、評価項目を作成する際は「コンピテンシー・ディクショナリー」を活用しながら作成していくと良いでしょう。
このコンピテンシー・ディクショナリーは、アメリカでコンピテンシーを研究している「ライル・M. スペンサーとシグネ・M. スペンサー」が開発した分類法で、コンピテンシー・ディクショナリーには、下記のように「6領域」と「20項目」で分類された領域があります。
このように、6領域・20項目に分類されたコンピテンシー・ディクショナリーを参考にしつつ、それぞれ自社の要素を踏まえ、具体的な評価項目を作成します。
なお、コンピテンシー・ディクショナリーは、あくまでひとつの目安であり、職種や職務によってそれぞれ内容は異なります。
そのため、コンピテンシー・ディクショナリーを用いて評価項目を作成する際は、自社の実態と項目内容が一致しているかがポイントとなります。
コンピテンシーモデルや項目と実際の運用とでズレが生じているなどの場合は、今一度コンピテンシーの行動特性を検討し直すことも必要です。
コンピテンシーモデルを作成することができたら実際に制度の導入を開始させます。
ただし、いきなり制度を開始させるのではなく、評価基準が適正であるかをしっかりテストし、制度の導入について従業員へ適切な説明を行う必要があります。
コンピテンシー評価の目的は、従業員全体の行動意識を変化させ、企業業績を向上させることにあります。
そのためには、従業員をはじめ経営層や管理職など、社内全体の理解を得るということが何よりも重要です。
コンピテンシー評価の基礎的な部分となるコンピテンシーモデルの参考となる具体例として、「WHOグローバル・コンピテンシー・モデル」が挙げられます。
WHOグローバル・コンピテンシー・モデルは、WHO(世界保健機関)が公開しているもので、「コア・コンピテンシー」「マネジメント・コンピテンシー」「リーダーシップ・コンピテンシー」といったように3つのカテゴリーに分類し、さらに13項目を設定しています。
このように、職務レベルに合わせてクリアすべき具体的なコンピテンシーを挙げることで、従業員それぞれの能力や企業全体の業績アップに繋がっていくでしょう。
なお、上記項目や定義のなかにWHOや保健に関する項目が記載されている箇所がありますが、こちらのWHOの具体的となるため、実際には自社に置き換えて活用するようにしてください。
コンピテンシー評価を活用し、高い人材育成や採用活動を効果的に行っていくには、いくつか注意するべき点がありますので、導入の際の注意しておきたいポイントをご紹介します。
企業が理想として作成したコンピテンシー評価の人物像に合致した完璧な人材は、基本的に存在するものではないということを、しっかりと理解しておきましょう。
コンピテンシー評価は、コンピテンシーを高レベルで満たす人材を見つけることではなく、前述のとおり従業員全体の行動意識を変化させて企業業績を向上させることが目的です。
また、企業の求める理想像のレベルが高すぎると、従業員にとっては不可能な手本となってしまう可能性があるので注意が必要です。
人事評価としても活用することのできるコンピテンシー評価は、人材育成や職務配置などの人材マネジメントとして捉えてしまうケースが度々あります。
しかし、コンピテンシー評価というのは目的を達成するための行動であり、成果を向上させていくことが大前提です。コンピテンシー評価の本来あるべき目的を、しっかり忘れないように運用してください。
企業の成長に伴う環境の変化やビジネスモデルの変更など、基本的にコンピテンシー評価は変化に対する柔軟性はありません。
コンピテンシー評価を効果的かつ有効的に活用していくためには、やはり長期的な運用が求められます。
そのため、評価項目や内容の見直しを行い、常に自社の状況にあったものに更新していくよう心がけましょう。
コンピテンシー評価というのは、優秀な成績、高い実績を生み出している人材(ハイパフォーマー)の行動特性を細かく分析・把握し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための取り組みです。
コンピテンシー評価は、これまで日本が行ってきた職能資格制度(能力評価)とは異なり、具体的な行動特性が評価基準となるため、より客観的かつ公正公平な評価がおこなえ、評価者・被評価者ともにメリットは大きいでしょう。
しかし、コンピテンシー評価には決まったテンプレートが存在しているわけではなく、すべて自社に合わせてコンピテンシーを見出し、それぞれの評価基準を策定する必要があります。
そのため、人事制度の一環としてコンピテンシーの概念を落とし込むということは、人事担当者にとって容易なことではありません。
また、コンピテンシー評価は、基準に対して明確かつ細分化して作成されているため、企業環境の変化に弱く、日々の維持管理(メンテナンス)が非常に重要になってきます。
ただ、こうした手間のかかるコンピテンシー評価は、人材育成や人材配置、生産性向上など企業全体の利益を考慮したとき非常に大きな価値を生み出す優れた制度であることは間違いありません。
ぜひ焦らずじっくり時間をかけ、ひとつひとつ確実にクリアして、自社にマッチしたコンピテンシー評価を作り上げていってください。
画像出典元:o-dan
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