「働き方改革」の中での課題のひとつが労働時間です。その課題を解決する方法として注目されているのが「RPA」です。この記事ではRPAの意味を説明し、金融・不動産・食品業界での導入事例、導入のメリットなどを紹介します。
この記事を、RPAツールの導入を検討するきっかけのひとつにしてください。
このページの目次
「RPA」は「Robotic Process Automation」の頭文字3つを取ったものです。
RPAの意味は、これまで人が定型作業として行ってきたパソコン操作をソフトウェア型のロボットが自動化する、あるいは代行するということです。
定型業務を自動化するのがRPAですが、それを実現させるツールが「RPAツール」です。ツール自体のことを「RPA」と呼ぶ場合もあります。
RPAツールで、定型業務などのオフィスワークがソフトウェア型ロボットにより自動化・代行されれば、それが人と同じように仕事を行なうので、ソフトウェア型ロボットをデジタルレイバー(Digital Labor)「仮想知的労働者」と呼びます。
RPA(デジタルレイバー)の処理速度は、人間のパソコン操作速度の約3倍です。
人間の労働時間は1日8時間ですが、RPAはその3倍の24時間働けます。3倍速で3倍働けるRPAは、単純に考えると人間の9倍の生産性があります。
金融業界に属する企業3社において、RPA導入を必要とするどんな課題があり、どのようにRPAが導入され、どんな成果を上げてきたのか、成功事例を3つ紹介します。
さらなる業務の効率化と新規事業に振り向ける時間の捻出を課題としていました。
一例として、営業部門の業務効率化のために、始業前に、RPAがスケジューラーから営業担当者がその日に訪問する顧客を確認し、その顧客の運用レポートを自動作成し、その後、RPAがレポートを営業担当者にメールするというシナリオを作りました。
レポート作成作業を自動化することで、営業担当者はより付加価値の高い仕事に余力を向けられるようになりました。
2017年4月からRPAを本格導入し、全体として1年間で約700種類のPC作業をなくしました。時間にすると110万時間の削減になります。
業務の中に手作業によるものが多く、これらをRPAより自動化できれば人的ミスの軽減、業務の効率化、人的資源の有効活用につながると考えていました。
業務の中から、RPA導入に向いているものを洗い出し、次の3つのタイプの作業がふさわしいと判断しました。
処理件数や扱うデータが多い業務としては、申込書や請求書の処理などが挙げられます。
プロセスの多い業務としては、複数の人間や部署を経由する作業などがあるでしょう。
作業負担は軽くても、1日に何度も実行する業務としては、1時間に1回、専用端末から必要なデータを抽出し、Excelに転記するといった作業がその例です。作業内容は簡単でも、行員が一定時間定期的に拘束されるというムダがあります。
約20の業務で累計2万時間の作業時間削減に成功し、人的作業によるオペレーションミスをなくすことにもつながりました。
投資信託の口座開設には、4段階の手作業が必要という課題がありました。
これにより行員に負担がかかっていました。負担となっていた作業の概要は以下の通りです。
1. 口座開設の申込書を紙で受け取り手入力する
2. 顧客情報を検索する
3. 申込書と顧客情報を照合する
4. 投信システムへの入力する
申込書のスキャン認識、顧客情報の検索、申込書と顧客情報の照合、投信システムへの入力をRPAにより自動化させました。
投資信託の口座開設業務に必要だった時間を1/3に短縮することに成功、これにより行員の負担が軽減され業務効率化ができました。
手作業による情報の入力など定型作業の多い不動産業界においても、RPA導入により業務効率化が図られています。
先と同じように、不動産業界に属する3社で、RPA導入を必要とするどんな課題があり、どのようにRPAが導入され、どんな成果を上げてきたのか、成功事例を3つ紹介します。
レオパレス21では、各種システムへのデータ入出力、集計業務などの業務に月間1,612時間を割いており、この分野での業務効率化を必要としていた。
NECの業務自動化ソフト「NEC Software Robot Solution」を本社8業務において導入
RPAを導入した8事業において73.1%の業務効率化を実現。
今後、作業自動化を見込んだ356業務において検証した上でRPAを導入し、月間1,000時間の作業時間削減を目標としています。
不動産業向けにテキストデータで提供されている空室情報を、スタッフが自社システムに手入力するという作業があり、この作業に1店舗当たり、平均で1日8時間の時間が割かれていました。
業務効率化と正確性の向上が課題となっていました。
2018年より直営店5店舗で、11ステップの作業の中の6ステップにRPAを導入
作業にかかる時間を1店舗当たり平均1日8時間から3.2時間に短縮することに成功、40%の業務効率化を成し遂げました。
RPAにより、業務効率化と入力ミスの削減、データの正確性が向上しました。
仲介業務において顧客に提示する資料は、社内の膨大な資料の中から、営業が人手で検索・編集・結合するという単調で工数の多い作業により作られていました。
例えば、不動産会社に掲示されている物件案内図には「帯」と呼ばれる請け負っている不動産会社の名前・連絡先・免許番号が記載されたものが付いています。
不動産仲介においては他社も取り扱っている物件を紹介する際には、この帯を差し替える作業が必要であり、大量に物件を紹介する場合、この「帯替え」が負担と手間のかかるものとなっていました。
ディープラーニングによる機械学習技術を活用し、社内のファイルサーバに保存されている営業資料を分類し、必要な資料のみを抜粋、編集を自動化するシステムを開発しました。
さらに自動帯替えのシステムも開発。この2つの機械学習技術を利用したRPAにより、資料の編集・加工の自動化システムを構築しました。
資料の編集・加工の自動化システムにより年間20,000時間の工数削減を実現、帯替えの自動化が、他の仕事に時間を割く、上司との会話を通じてスキルアップに挑戦する、働き方改革を推進させるなどいくつも副産物を生み出してきました。
食品産業に属する有名企業2社で、RPA導入を必要とするどんな課題があり、どのようにRPAが導入され、どんな成果を上げてきたのか、成功事例を2つ紹介します。
焼肉のタレなどの多彩な調味料や調味食品を提供するモランボンでは、Webからの受注処理を手作業で行なっていました。
今後の取引拡大に伴う作業増により、マンパワーが不足した場合の対応体制を整えることが課題となっていました。
モランボンは、ユーザックシステム株式会社の提供するブラウザ操作を自動化するツール「Autoブラウザ名人」を導入し、Webからの受注業務の自動化を推進中。
自動化を計画しているWeb受注処理約100受信のうち、2019年9月の時点で約16受信を自動化に成功。マンパワー不足に備えることができ、業務フローの改善に役立っています。
マルコメでは50社以上ある各卸先企業のPOSデータ収集のために、それぞれの企業のPOSデータダウンロードサイトにアクセスし、データを取得するというルーティンワークを行なっていました。
この作業には1社あたり約20分かかり、多大の時間と手間を割いていました。
ソフトバンクの提供する「SynchRoid」というRPAツールを導入
作業の自動化により、POSデータ収集作業が1社あたり20分から5分に短縮され、対応時間が約70%削減できました。
RPA導入の具体例でも、RPA導入のメリットをいくつか見つけることができました。この部分では、さらに具体的にどんなメリットがあるのか5つの点を紹介します。
メリット | 具体的な内容 |
1. 業務の自動化・効率化 | RPAツールがあればプログラミングの知識がなくても、ツールがシナリオを作成し定型業務の効率化・自動化が実現できる |
2. クリエイティブな業務に時間を割ける |
定型業務の自動化により、従業員はより重要な他の業務に時間を割けるようになる |
3. ミスの削減 |
人間には集中力の限界があり、定型作業を長時間もしくは繰り返し行なうならミスが起こる可能性が高まる |
4. コスト削減 |
複数の従業員による作業、長い時間を必要とする作業が、少人数・短時間で行えるようになる |
5. 人材不足の解消 | RPAは労働人口の不足という問題を解消する方法のひとつとして期待されている |
RPA導入にはたくさんのメリットがありますが、導入するにあたり、注意しなければならない点や失敗につながるポイントを把握しておくことも大切です。
RPA導入における注意点として以下の3つが挙げられます。
定型業務は自動化できますが、特殊な工程が間に入っている業務はRPAツールで自動化ができない場合があります。
自前でRPAツールを開発できるなら、こうした問題はクリアできますが、開発のためにはコストと時間が必要です。
RPAでもエラーやシステム障害が起こる可能性があります。
さらにRPAツールに指示した内容に誤りがあれば、その間違いを繰り返すことになり、ミスが大量発生します。
自然災害やシステム障害などで、RPAがストップした場合のバックアップ体制を整えておく必要があります。
RPAツールを自社で開発した場合、開発・導入・運用・メンテナンスなどにコストがかかります。
ベンダーから提供されるRPAツールを利用したり、クラウド型のRPAサービスを利用する場合でも、年間利用料や月額利用料が発生します。
RPAを、誰が、どんな目的で運用しているのか曖昧になっていると、その後の運用に失敗する可能性があります。
RPAを管理しているのが、誰で、どんな目的のために仕事をしているのかが不明瞭なら、運用目的や内部構造がブラックボックス化した「野良ロボット」が生み出されます。
管理者不在の「野良ロボット」は他の人が修正やメンテナンスをすることができません。そうした管理者不在のRPAが増えれば、導入しても運用できなくなるかもしれません。
運用に失敗しないために、RPAを導入する場合は、管理や育成、サポートに関する権限やルールを作っておきましょう。
RPA導入を有線すべき業務、具体的にどんな業務でRPAを導入できるのかを最後に紹介します。
以下の5つの作業が、もし自社内にあれば、この機会にRPA導入を検討できます。
具体的な内容 | |
時間がかかる作業 |
1回の作業時間が長い |
繰り返しの多い作業 | 同じ内容の作業を取引先企業ごと、商品単位ごとに行なっている |
終業時間外に行われる作業 | 作業が就業時間外となるもの |
他の作業を中断して行なわれる作業 | 作業時間が限定的で、他の重要な作業の進行を妨げるもの |
作業者に負担が多い作業 |
作業難度が高い |
中小企業でもRPAツールを利用すれば以下のような業務を自動化できます。
具体例 | |
顧客 |
顧客データの管理 |
営業 |
顧客や会員へのDM(ダイレクトメール)の配信 |
データ分析 |
データの分析と予想による受注・発注業務 |
経理 |
売上伝票・領収書・請求書データなどのデータ作成 |
人事 | 賞与考課表への転記 |
RPAツールには、オンプレミス型・クラウド型・デスクトップ型の3種類があります。
クラウド型・デスクトップ型は導入コストも低く抑えることができ、運用に関しても専門的な知識を必要とせず、簡単に導入できるので中小企業向けです。
金融・不動産・食品業界で有名な企業のRPA導入事例を8つ紹介しました。
定型作業の自動化により、業務効率化ができ、従業員の負担が軽減され、より重要な仕事に時間を割くことができるようになりました。
中小企業でも、長時間作業や繰り返しの多い作業などでは、RPAにより自動化が可能です。
人材不足の解消にもつながるRPAの導入をぜひ積極的に考えてみてください。
画像出典元:pixabay
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