消費税10%引き上げ、軽減税率導入にともない、2023年より導入されるインボイス制度が話題になっています。
この記事ではインボイス制度とは何なのか、インボイス制度が個人事業主やフリーランスに与える影響、インボイス制度施行に向けて個人事業主やフリーランスができることを解説します。
このページの目次
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。
インボイス制度が導入されると、仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)等の保存が必要になります。
消費税が10%のものと8%のものがあるので、こうした複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」つまりインボイス制度が導入されます。
インボイス制度を理解するために、まずは仕入税額控除の仕組みを知っておく必要があります。その仕組みを表にすると以下のようになります。
仕入税額控除は、売値の消費税から仕入れ値の消費税を差し引いた分です。
インボイス制度導入後、「適格請求書」がなければ以下のようになります。
インボイス制度施行後は「適格請求書」を発行しない仕入先と取引した場合、これまでよりも多くの消費税を納税することになります。
適格請求書とは、「売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」であり、一定の事項が記載された請求書や納品書およびそれらに類する書類を指します。
適格請求書に記載される事項には以下の6つがあります。
1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
2. 取引年月日
3. 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
4. 税率ごとに合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
5. 消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
注目できるのは、これまでの一般的な請求書の記載事項になかった「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」や、10%・8%の複数税率があるので記載する必要がある「税率ごとに合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率」の事項です。
適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者のみです。
発行した適格請求書は、自社でコピーを保存するこも義務付けられています。
適格請求書発行事業者になるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し登録を受けなければなりません。
申請の受け付けは2021年(令和3年)10月1日から可能です。
登録を受けることができるのは、「課税事業者」(消費税を納付する義務がある法人・個人事業主)でなければなりません。
ほとんどの個人事業主やフリーランスが含まれる「免責事業者」(課税期間に係る基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者)のままでは適格請求書(インボイス)は発行できません。
インボイス制度のルールをまとめると以下のようになります。
インボイス制度は2023年10月1日から適用されます。
ちなみに複数税率がすでに導入されましたが、2019年10月1日から2023年9月30日までの仕入税額控除の方式は「区分記載請求書等保存方式」となります。その後「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)に移行します。
区分記載請求書に記載される事項には以下の6つがあります。
1. 区分記載請求書発行事業者の氏名又は名称
2. 取引年月日
3. 取引内容
4. 軽減税率の対象品目である旨(※印等を付けて軽減税率の対象であることを示すなど)
5. 税率ごとに合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
参考:政府広報オンライン
区分記載請求書と適格請求書の違いは、適格請求書発行事業者の登録番号があるかないかの違いだけです。
適格請求書に対応したシステムやフォーマットをすでに作成していれば、区分記載請求書等保存方式にも対応できます。
インボイス制度により以下の状況が生じます。
これら2点を考えると個人事業主やフリーランスには次のような問題が生じます。
個人事業主やフリーランスの免税事業者は適格請求書を発行できません。
取引先や業務委託元は、そうした免税事業者との取引によって生じる消費税を自社で被るか、取引先を見直すかの選択をしなければなりません。
こうした状況により、免税事業者の個人事業主やフリーランスは、取引先や業務委託元から取引や契約の継続を断られる、課税事業者になるよう求められるという可能性が出てきます。
課税事業者であれ、免税事業者の個人事業主やフリーランスでも、すべての事業者が10%と8%の複数税率に対応した請求書や領収書を書かなければなりません。
インボイス制度導入前の区分記載請求書等方式の時点で、免税事業者や簡易課税の事業者でも、取引先やお客様からの要望があれば、請求書や領収書に10%と8%の税率で分けられた合計額を記載しなければなりません。
将来的に免税事業者から課税事業者になることを考えている個人事業主やフリーランスであれば、こうした帳簿の記載方法に今から慣れておく必要があります。
免税事業者のままならば、インボイス導入後、適格請求書が発行できないという理由で、取引先が減るという可能性があります。
こうした可能性を考え、個人事業主やフリーランスの免税事業者はどんな対応を取れるのか次に説明します。
免税事業者には現時点で次の2つの選択肢があります。
1. 免税事業者として事業を継続する
2. 課税事業者となる
それぞれの選択肢にもう少し説明を加えます。
主な取引先が同じ免税事業者や個人の消費者の場合、インボイス制度導入後も免税事業者として事業を継続しても問題はありません。
さらにインボイス制度の本格導入後には個人事業主やフリーランスとして事業をしないことが決まっている場合も、現時点で免税事業者として事業を継続しても問題が起こることはありません。
課税事業者となり消費税を払うという選択ができない免税事業者もいます。
しかし課税事業者側は、免税事業者と取引すると余分に消費税を払い、利益を減らすことになります。
それで免税事業者側は、課税事業者の取引先が去るのを防ぐために、取引先の税額控除分を値引きした金額で取引するという方法をやむを得ず選択するということも生じます。
取引先の減少を防ぐために課税事業者となり、適格請求書が発行できる「適格請求書発行事業者」として登録するという方法があります。
課税事業者になるケースとして次の2つがあります。
1. 任意で課税事業者になる
2. 課税事業者に該当するようになった場合
消費税の課税事業者に該当するのは、前々年度の売上が1000万円以上の事業者です。
しかし、売上がそこまでなくても任意で消費税の納税義務を負う課税事業者になれます。
通常の場合は、「消費税課税事業者選択届出」を税務署に提出します。
しかしインボイス制度施行前の措置として、特定の期間内に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出することで、課税事業者と適格請求書発行事業者に登録できるという取り決めがあります。
売上が1,000万円以下でも課税事業者・適格請求書発行事業者となった場合、免税事業者が対処しなければならない取引先の減少という問題は回避できます。
しかし免税事業者の時には必要がなかった消費税の納税という新たな支出が生まれます。
売上が1000万円以上になった場合、翌々年度には消費税の課税事業者に該当します。
その場合「消費税課税事業者届出書」を税務署に提出します。
もし個人事業主やフリーランスの免税事業者として売上を伸ばすことができ、課税事業者に該当すれば、次に適格請求書発行事業者として登録すれば、免税事業者が対処しなければならない取引先の減少という問題は起こりません。
免税事業者の個人事業主やフリーランスは、自分の取引先や売上の伸び具合などを考慮して、インボイス導入前に自分の事業スタイルをどうするかあらためて考える必要があります。まとめると以下の選択肢がありました。
どの選択肢を選ぶ場合でも複数税率に対応した請求書や領収書の発行、帳簿の記載が必要です。会計ソフトを導入すれば、面倒な計算や記入ミスなどから解放され、経理業務を効率化できます。
区分記載請求書方式・適格請求書等保存方式に対応できるよう今から会計ソフトの導入を検討しましょう。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは何か、この制度の問題点、個人事業者やフリーランスなどの消費税の免税事業者に与える影響を解説しました。
免税事業者は、課税事業者が税額控除を受けるために必要な適格請求書を発行できません。
それで、課税事業者の取引先から取引を断られる可能性がでてきます。
そのために個人事業主やフリーランスは、免税事業者として事業を継続するか、課税事業者となるかを選択する必要があります。
インボイス制度の本格導入は2023年ですが、それに間に合うように今から計画や準備を入念に行う必要があるでしょう。
画像出典元:pixabay
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