タックスヘイブンとは?対象の国や法人税軽減のやり方をわかりやすく解説

タックスヘイブンとは?対象の国や法人税軽減のやり方をわかりやすく解説

記事更新日: 2022/08/10

執筆: 編集部

タックスヘイブンとは、納税義務が免除されたり、あるいは著しく軽減されたりしている国や地域のことです。

脱税やマネー・ロンダリングなど、ネガティブなイメージがつきまといますが、タックスヘイブンはその国や地域の戦略のひとつであり、その税制を利用すること自体は違法ではないのです(グレーゾーン)。

そこで今回は、経営者に向けてタックスヘイブンの概要、タックスヘイブンを利用した法人税や相続税の軽減方法、タックスヘイブン対策税制などを紹介します。

タックスヘイブンとは?

タックス・ヘイブン(Tax Haven)とは、納税義務が免除されたり、著しく軽減されたりしている国や地域のこと。

和訳すると「租税回避地」

タックスヘイブンは、日本語では租税回避地や低課税地域と訳されます。

租税とは、国や地方公共団体が国民や住民にさまざまなサービスを提供するために徴収される税金のことです。

日本国内では、日本(国税)や東京都(地方税)の財源となるものが租税で、具体的には所得税や法人税などが租税に該当します。

仮に日本の税率が30%でタックスヘイブンの税率が5%だとすると、タックスヘイブンのほうが税率が低いため、企業はより多くの利益や財産を手元に残せるのです。

そのため、タックスヘイブンは租税を回避する地域、すなわち租税回避地と呼ばれます。

なお、タックスヘイブン(Tax Haven)の「Haven」は避難所のような意味を持つもので、楽園や天国を意味するHeavenとは異なる単語です

代表的な地域はバージン諸島やケイマン諸島

従来、タックスヘイブンは経済協力開発機構(OECD)が基準を定めてタックスヘイブンのリストを公表していました。

しかし、現在ではタックスヘイブンである国や地域を明確に示してはいません。

そこで今回は、OECDよりも広くタックスヘイブンを定義しているEU(欧州連合)のリストを紹介します。

2022年2月24日の評議会によって採択されたリストは次のとおりです。

  • アメリカ領サモア
  • フィジー
  • グアム
  • パラオ
  • サモア
  • トリニダード・トバゴ
  • バージン諸島
  • バヌアツ

 

また、財務省財務総合政策研究所が公表しているフィナンシャル・レビュー第143号によると、次の国や地域もタックスヘイブンとして挙げられています。

  • アイルランド
  • ルクセンブルク
  • オランダ
  • スイス
  • バミューダ
  • 香港
  • シンガポール
  • ケイマン諸島

 

 

タックスヘイブンの仕組みは?

タックスヘイブンは、租税回避地として納税義務が免除されたり、著しく軽減されたりしている国や地域のことだと説明しました。

ここでは、タックスヘイブンで行われている税優遇の種類や規模感など、タックスヘイブンの仕組みについてもう少し掘り下げて解説します。

税優遇は3つのタイプに分かれる

タックスヘイブンで行われている税優遇は、大きく3つのタイプに分けられます。

税優遇の内容と、その主な国や地域をまとめたのが下表です。

  税優遇の内容 主な国や地域
1.タックスパラダイス 税金がかからない(無税) ・バミューダ
・バージン諸島
・ケイマン諸島
2.タックスリゾート 特定の会社や事業活動に税の優遇がある ・ルクセンブルク
・パナマ
3.タックスシェルター 国外で生じた所得(国外源泉所得)が非課税になる ・パナマ
・アイルランド

 

タックスヘイブンと言われる地域は10ヵ所以上

タックスヘイブンの一律な定義はありませんが、世界にタックスヘイブンと言われる地域は、およそ10ヵ所以上あると見て良いでしょう。

国際的にタックスヘイブンの悪用を防ぐための動きが進められていますが、いまだタックスヘイブンは残り続けています。

タックスヘイブン3つのメリット

タックスヘイブンを利用するメリットとして、次の3つが挙げられます。

  • 税金を抑えられる
  • 会社設立の手続きや費用の負担が少ない
  • タックスヘイブンの経済成長に寄与する

1.税金の負担が国内より軽くて済む

タックスヘイブンを利用すると、国内でそのまま事業を進めた場合と比較して税金の負担を抑えられることが期待できます。

経済協力開発機構(OECD)は、BEPS(税源侵食と利益移転)の解説ページにて年間1,000~2,400億米ドルほどの税収減をもたらしていると述べているほどです。

2022年7月16日時点で1米ドル139円ほどですから、このレートで日本円に換算すると13兆9,000億~33兆3,600億円に相当します。

つまり経済協力開発機構(OECD)によれば、年間約14兆円以上もの税負担が抑えられていることになるのです。

もっとも、この金額はBEPS(税源侵食と利益移転)といって、悪質な課税逃れを推計しています。

2.会社設立の手続きが短く外国企業誘致に有利

タックスヘイブンは外国企業を自国に誘致する目的で、会社設立の手続きや費用の負担を抑えていることが一般的です。

そのため、タックスヘイブンを利用すること自体のハードルは一定値程度低いといえるでしょう。

3.タックスヘイブン対象国の経済成長に寄与する

タックスヘイブンは所得税や法人税などの負担を抑えることで税収自体は減りますが、その分、企業誘致によって自国にお金が集まるというメリットがあります。

タックスヘイブンとしては、法人の設立登記にかかる専門家報酬や登記手数料(日本における登録免許税)といった収入を得ることも可能です。

そのため、タックスヘイブンを利用することは、タックスヘイブン対象国の経済成長に寄与するといったメリットがあります。

タックスヘイブン2つのデメリット

税金の負担を抑えられるなどのメリットがあるものの、タックスヘイブンにはいくつかのデメリット(問題点)もあります。

それぞれ確認していきましょう。

  • マネーロンダリングに悪用される可能性
  • 税収が減るため所得の再分配を期待できない

1.マネーロンダリングに悪用される可能性

タックスヘイブンは、その秘匿性の高さからマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されることもあります。

秘匿性とは、口座情報などについて政府や税務当局から情報開示の要請があっても、容易には情報が開示されないというものです。

そのため、テロや麻薬、反社会組織などがマネーロンダリングに利用しやすい環境にあることが指摘されています。

マネーロンダリングとは、犯罪で得た不正資金などを、架空または他人名義の口座を利用して転々と移動させ、出所が分からないようにして、正当な手段で得たように見せかけることです。

2.税収が減るため所得の再分配を期待できない

納税負担を抑えられる点は企業や富裕層からするとメリットですが、国や地方公共団体からするとデメリットです。

先ほども紹介したとおり、経済協力開発機構(OECD)によると、年間約14兆円以上もの規模でBEPS(税源侵食と利益移転)によって税収が減っています。

租税は公共サービスの財源になるという位置付けのほか、所得再分配の役割を果たす側面も。

所得再分配とは、国民や住民全体のために行う社会保障給付など、国や地方公共団体の活動費を、お金持ちほど多く負担するという仕組みです。

タックスヘイブンで、一部の多国籍企業や富裕層が租税回避を行うことにより、このような所得再分配が有効に機能しなくなります。

相続税・贈与税の節税方法はある?

それでは、タックスヘイブンを利用した節税方法について紹介していきます。

法人税について後述しますので、まずは相続税や贈与税の節税を考えている場合にタックスヘイブンを利用できないか確認していきましょう。

1.タックスヘイブンに法人を設立し、生前贈与する

個人から贈与すると贈与税がかかるところ、法人からなら、受け取った側が一時所得として所得税や住民税の課税対象になります。

一時所得であれば、50万円の特別控除後に2分の1を乗じた金額が総合課税の対象となります。

課税対象額が2分の1になるため、個人間で贈与するよりも節税が可能です。

法人についても、日本であれば役員や従業員相手なら賞与、その他なら寄附金となります。

役員賞与は損金不算入で、寄附金は一定限度額まで損金算入、従業員なら全額損金算入です。

一方、タックスヘイブンなら法人税を負担することなく贈与することができます。

2.「制限納税義務者」なら国外財産は相続税の課税対象外

相続税の納税義務者には「無制限」納税義務者と「制限」納税義務者の2つがあります。

何に対する制限なのかというと、課税される財産の範囲の制限です。

具体的には、相続税法の施行地(日本国内)に限定されるかどうかです。

制限納税義務者なら、海外の財産は相続税の課税対象外になります。

制限納税義務者とは、具体的にどのような場合に該当するのでしょうか。

制限納税義務者は、日本国籍を持っている人なら、相続人と被相続人の両方が、相続開始前10年以内に日本に住んでいない場合です。

相続人と被相続人のどちらかが、相続開始前10年以内に日本に住所があると、国外財産まで課税対象となります。

そのため、この方法はあまり現実的ではないでしょう。

法人税2つの節税方法を検証

続いて、タックスヘイブンを利用した法人税の節税方法も確認していきましょう。

1.タックスヘイブンの地域に法人を設立

最も単純な節税方法は、タックスヘイブンに移住したうえで法人を設立することです。

この方法なら、日本税法の対象である居住者や内国法人には該当しないため、日本におけるタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の適用外です。

海外移住という点では、簡単にできる節税方法とは言えないでしょう。

2.タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立

日本に住みながらタックスヘイブンにペーパーカンパニー(外国子会社)を設立する方法もあります。

そのペーパーカンパニーに船舶や航空機、または著作権や特許権などの資産を移転させます。

リース料やライセンス料などの名目で、日本の親会社はペーパーカンパニーに料金を支払うのです。

つまり日本の親会社で課税される所得を、租税負担を抑えられるタックスヘイブンのペーパーカンパニーに移転させます。

この方法は、日本におけるタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の適用対象となり、利用できなくなりました。

 

タックスヘイブンにまつわる3つの文書

タックスヘイブンにまつわる3つの文書として、パナマ文書とパラダイス文書パンドラ文書が挙げられます。

それぞれどのような文書なのか解説していきますので、ぜひチェックしてみてください。

  パナマ文書 パラダイス文書 パンドラ文書
報道年 2016年 2017年 2021年
データ量 2.60TB(テラバイト) 1.40TB(テラバイト) 2.94TB(テラバイト)
ファイル数 1,150万 1,340万 1,190万

参照:国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)「OFFSHORE LEAKS DATABASE」

1.パナマ文書

パナマ文書とは、会社設立手続きなどを手がけるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が1970年代から作成していたペーパーカンパニーなどに関する情報です。

その情報量は、約21万4,000社、1,150万件を数えます。

2015年にドイツの新聞社「南ドイツ新聞」に匿名で情報漏えい(リーク)し、その後、ワシントンを本拠とする国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、2016年4月3日から報道を開始しました。

2.パラダイス文書

パラダイス文書は、同じく国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって2017年11月5日に公表された、ペーパーカンパニーなどに関する情報です。

パナマ文書はモサック・フォンセカからリークしたものですが、パラダイス文書はバミューダ諸島を拠点に活動するアップルビー法律事務所や、シンガポールの法人設立サービス「アジアシティトラスト」などからリークしています。

パナマ文書の1,150万件に対し、パラダイス文書は約1,340万件がリークすることになりました。

3.パンドラ文書

パンドラ文書も、パナマ文書やパラダイス文書と同様に、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が発表したペーパーカンパニーなどに関する情報です。

パンドラ文書は、法律事務所や信託会社など14機関による内部文書で、91ヵ国330人以上の政府関係者によるタックスヘイブンとの関連が明らかになりました。

節税は最新情報を参考に

この記事ではタックスヘイブンを利用した節税について簡単に解説しましたが、国際課税制度は、経済の変化にあわせて変化していきます。

そのため、現時点の情報が常に新しいとは限りません。

例えば、日本の税務当局は令和4年度税制改正の解説資料において、次のように述べています。

国際課税制度については、経済活動の重要なインフラとして、こうした環境の変化や重要性の高まりを踏まえ、健全な経済活動を支援しつつ、公平な競争条件を確保し、国際的な課税逃れに対しては的確に対応していく観点から、引き続き、必要な見直しを行っていく必要があります。

引用元:財務省「令和4年度 税制改正の解説 国際課税関係の改正」

実際、日本におけるタックスヘイブン対策税制は、昭和53年に導入されたのち、多くの改正が行われてきました。

今後もタックスヘイブン対策税制は改正される可能性がありますので、もしタックスヘイブンを利用する場合は、事前に専門家に相談すると安心です。

まとめ

タックスヘイブンとは租税負担が著しく軽い国や地域のことで、該当するのはバージン諸島やケイマン諸島などです。

タックスヘイブンに移住して法人を設立するなど、タックスヘイブンの利用で租税負担を抑える方法はあります。

しかし一方で、日本にいながらペーパーカンパニーなどを設立し、租税負担を抑える方法はタックスヘイブン対策税制によって規制されているのです。

簡単にタックスヘイブンを利用できるわけではありませんが、もし利用を希望する場合は弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。

画像出典元:Pixabay

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