ニュースなどで度々耳にする脱税事件。納税は国民の三大義務の一つとして定められているとおり、私たち国民は収入に応じた金額を税金として国に納めなければなりません。
しかしながら「本来より納税額を少なくごまかしたい」「そもそも税金なんて払いたくない」などと考え、不正を働いてしまう人も中にはいます。
ここでは、脱税をはじめ、脱税によく似た申告漏れ、さらには最近話題となっているイートン脱税についても詳しく解説していきます。
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脱税とは「納税義務を要する者がその義務を怠り、意図的に一部または全部を免れること」をいいます。
そもそも税金というのは、売上から経費を差し引いた「所得金額」に対して課せられるもので、納税額は得た所得金額の5%から45%まで7段階の税率によって区別されます。
つまり、所得が多くなればなるほど税率も上がり、支払うべき納税額も高くなるということになります。
そうなると、せっかく苦労して稼いだお金なのに、わざわざ支払いたくはないというネガティブな考えが生まれやすく、つい売上を少なくごまかしたり、架空の経費を計上してわざと経費を増やしたりなど、不正な手段を使って税負担を軽減しようとする人が出てくる場合があります。
国が定めた税法に従わず、偽装行為や隠ぺい行為などによって不当に納税額を少なくする、あるいは支払わない等の行為は違法行為であり、脱税にあたります。
さて、脱税は課税要件に対して偽装や隠ぺいなどの不正を行い、違法に納税を免れる行為である。ということが分かりました。
では、脱税でよく使われる手口にはどういったものがあるのでしょうか?
実際の売上よりも少なくして過小申告する。これは脱税においてもっとも多い手口です。
たとえば、実際に営業している時間が21時までの店でありながらも19時が閉店とし、19時から21時までの2時間分の売上を申告しないといったケースや、バーゲンやセールなどの特売をおこなった特定の日だけを除外するケース。
また、社長自ら数千円から数万円を毎日抜き出して除外するケースや、会社の銀行口座とは別な口座に入金されたものを除外するケースなど、実際の売上より少なくさせる手口は様々です。
経費を増やして脱税するといった手口もよく行われます。
なお、手口としてはおおよそ「領収書の工作」「架空の仕入れ・人件費」「架空会社との取引」この3つです。
領収書に記載されている金額を書き換えるケースや白紙の領収書をもらって自ら金額を書き入れるケース、偽りの領収書を機器などで作成し、それを経費として計上する。など
実際には仕入れていないものを仕入れたかのように見せかけるケースや、実際には存在しない架空の従業員を作りあげ、人件費として経費に計上するケースなど、よくある手口です。
実在しない会社、いわゆるペーパーカンパニーを設立させ、それを利用するといった手口。
これは主に架空取引や水増し請求などで利用されることが多く、たとえばペーパーカンパニーから架空もしくは水増し請求の請求書を送らせ、そのペーパーカンパニーにお金を逃がすといった手口です。
商品を仕入れて販売するビジネスには在庫が存在します。
ただ、在庫は売れてはじめて売上原価になるため、期末になっても在庫が多く残っていると、売上原価の計算式上、利益も多くなります。
そのため、意図的に期末の卸棚表を書き換えたり、わざと破棄して実際よりも少ない在庫量を記載したりするなど、在庫をごまかすケースも脱税によく見られる手口です。
このように、脱税でよく使われる手口として3つほど紹介しましたが、そもそも脱税の目的は納税額を減らすことです。
そのため、大きく分けると「収入を少なく申告する」「経費を多く申告する」この2つしかありません。
さて、これまで脱税について解説してきましたが、脱税以外にも税金を正しく納められていない状況は他にもあります。
それが「申告漏れ」と「所得隠し」です。
それでは続いて「脱税・申告漏れ・所得隠し」、それぞれの違いを見てみましょう。
申告漏れは、経理上の計算ミスなどで単純に数字を間違え、間違えた状態で申告してしまっていたケースのことをいい、「故意的ではなく悪意性も感じられない」といったところがポイントになります。
そのため、3つのなかでも悪質性はもっとも低いとされます。
前述のとおり、所得が多ければ多いほど納税額も大きくなります。
そのため、課税対象となる収入を少なく見せかけて、故意に税金を減らそうとする行為が所得隠しです。
この所得隠しは、申告漏れとは違って計算ミスではなく、故意的に操作しているものとなるため、脱税とほぼ同等で悪質な行為とされます。
根本的な部分では所得隠しと同じですが、ご存知のとおり脱税は非常に悪質行為です。
通常、申告漏れや所得隠しの場合は、事前通知されたのち税務署による税務調査が行われます。
一方、脱税に関しては国税局査察部(マルサ)による強制調査が行われたのち検察庁による捜査が入ります。
なお、検察による捜査結果によって犯罪の嫌疑が認められた場合は脱税容疑で起訴さて、裁判へと発展していきます。
申告漏れ、所得隠し、そして脱税。一見するとすべて脱税のように思えますが、故意性があるかどうかで、それぞれ使い分けられているのです。
納税義務がある者がその義務を怠り、納税額の一部または全部をのがれる行為は脱税にあたります。
もし脱税が発覚した場合、本来納めるべき税金とすでに納めた税金の差額などの「追徴課税」に加え、脱税において科される行政処分(ペナルティ)「加算税」が課せられることになります。
なお、脱税において科される行政処分(ペナルティ)加算税には「過少申告加算税」「無申告加算税」「不納付加算税」「重加算税」の4種類あり、実際に行われた脱税状況によって決定されます。
また、4種類の加算税に加え、定められた期間までに納付されない場合の「延滞税」「利子税」も課されることになります。
過少申告加算税は、申告期間内に申告を済ませたが、本来納めるべき納税額よりも過小申告だった場合に課税されるもので、課税率は基本的に増差本税の10%です。
また、期限内に申告した税金額または50万円のうち、いずれか多い方を超える部分については15%で課税されます。
なお、税務調査による事前通知が行われる前に自ら修正申告した場合は加算税の対象外となり、事前通知が行われて調査終了までに修正申告した場合は5%、さらに期限内に申告した税額または50万円のうち、いずれか多い方を超える部分については10%に軽減されます。
法人の場合は決算日の2か月後、確定申告は3月15日までが申告期間と定められており、その期間中に申告を済ませなかった場合は、無申告加算税として課税されます。
無申告加算税の課税率は増差本税の15%で、期限内に申告した税額または50万円のうち、いずれか多い方を超える部分については20%で課税されます。
だたし、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合は、さらに10%が加算されます。
なお、一定の要件に該当している場合は5%に軽減、さらに無申告加算税の金額が5,000円未満の場合や期限内申告をする意思があったと認められるなどの場合は免除となります。
源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日までが納期限とされています。
定められた納期限までに源泉所得税を納めなかった場合に課税されるのが、不納付加算税です。
不納付加算税の税率は10%となりますが、事前通知前に申告もしくは納付を行うことで5%に軽減されます。
また、不納付加算税が5,000円未満の場合は納付が免除されます。
書類の隠ぺいや改ざん、仮装など単純な計算ミスではなく、意図的に納税額を少なくする悪質な不正行為を行い、それが発覚した場合に課せられるのが重加算税です。
重加算税は他と比べて悪意的なものとみなされるため、もっとも重い罰則となります。
重加算税の税率は、過少申告加算税・不納付加算税に代わる場合は35%となり、無申告加算税に代わる場合は40%と非常に高い税率となります。
また、過去5年内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合、さらに10%が加算されます。
延滞税とは、上記の加算税とは異なり、定められた期限までに税金を納付しない場合に課せられるペナルティです。
なお、税率に関しては原則として納期限の翌日から納付日までの日数によって異なり、納付期限の翌日から2ヶ月以内までは2.6%、それ以降は8.9%となります。
法人税や所得税、相続税に贈与税など様々な税金が存在し、それらすべての税金に対して納付期限が定められています。
利子税は、納付期限以内に一括納税ができず、一部だけを納めて残りを分割納付(延納)する場合に課税されるものです。
なお、延納するためには税務署での申請手続きが必要となります。
申告漏れや所得隠しをはじめ、特に脱税は犯罪です。前述のとおり、悪質な脱税行為は加算税や延滞税に加えて刑事責任は免れません。脱税は税務調査が入れば必ずと言ってよいほど発覚します。
では次に、実際に脱税事件として話題となった事例をいくつか紹介します。
2019年2月12日、「青汁王子」こと三島勇太氏が約1億8千万円を脱税したとして、法人税法違反などの罪で東京地検特捜部に逮捕・起訴されたという報道がなされました。
健康食品販売会社「ファビウス」(旧メディアハーツ)の元社長である三島勇太氏は、架空の宣伝費を計上するなどして2015年9月期と2017年9月期の2年間で会社の所得となる約5億1,000万円を隠し、法人税と地方法人税の約1億4,000万円を免れ、さらに架空の課税仕入れを計上して、消費税と地方消費税合わせて約4,000万円を免れました。
東京地方裁は、三島勇太氏に対し懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。
また、法人として同社にも罰金4,600万円(求刑罰金5,500万円)が言い渡されました。
なお、三島勇太氏は逮捕・起訴されたあと、脱税した分はすでに納めたとしていますが、結局のところ、法人の重加算税などすべて合わせて約4億円近くの修正申告が必要とされました。
お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実氏が2019年10月23日、1億円を超える申告漏れがあるとして、東京国税局に指摘を受けたことは記憶に新しいところでしょう。
徳井義実氏は、テレビやラジオなど吉本興業から支払われた出演料を自ら設立したペーパーカンパニー(株式会社チューリップ)を通じて給与として受け取っていたとしています。
今回、徳井義実氏が東京国税局に指摘されたのは「所得隠し」と「申告漏れ」の2つで、2012年~2015年までの4年間、個人的に使用したと思われる洋服やアクセサリー代、旅行費など約2,000万円を会社の経費として計上していました。
しかし、それが経費とは認められず、国税庁は2,000万円の仮装隠ぺいを伴う所得隠しを指摘しました。
また、2016年~2018年までの3年間、徳井義実氏本人の収入も一切申告しておらず、国税庁より1億円の申告漏れの指摘を受け、あわせて約1億2,000万円の「所得隠し」と「申告漏れ」が判明したわけです。
こうしたことにより、重加算税などを含めた追徴税額は約3,400万円となり、徳井義実氏はすでに修正申告をして納税を済ませているとのことです。
なお、今回は指摘された事実を素直に認め、修正申告、納税を済ませたことや追徴税額が1億円に達していなかったことなどから刑事告発までには至っていませんが、もし新たな申告漏れなどが発覚したり、繰り返したりした場合は逮捕の可能性も考えられるでしょう。
マイナンバーは、行政の効率化や社会保障、税に関する利便性の向上、そして所得の正確な把握による公平・公正な社会保障制度の実現を目的として2015年より導入されました。
特に副業やアルバイトを行っている人などから、マイナンバー制度によって無申告が発覚するのか?ということを、よく耳にします。
マイナンバーは、会社が税務署に提出する支払調書に記載されるほか、確定申告を行う際も記入が必須となっています。
そのため、国はマイナンバーを検索すれば「誰が」「どこから」「いくら」収入を得たかなどが簡単にわかるようになり、これまで以上に個々一人ひとりの収入が把握しやすい状態となっています。
つまり、報酬など収入を得ている先が源泉徴収票や支払調書が発行されている場合、税務署も所得が把握しやすくなるため、発覚しやすくなるとは言えます。
しかし、マイナンバー制度によって、申告漏れ・無申告(脱税)が発覚することはありません。
とは言え、たとえ副業やアルバイトであっても年間所得が20万円を超える場合、確定申告が必要となりますので、課税対象となる場合は必ず適正な申告および納税を行うようにしてください。
さて、これまで納税に伴う脱税について解説してきましたが、「イートイン脱税」という言葉をご存知でしょうか。
そもそもイートインとは「購入した食べ物を店内の客席で飲食すること」という意味で、2019年10月1日より導入された軽減税率に伴って用いられている言葉です。
この軽減税率はテイクアウトにした場合に適用されるもので、イートインにした場合は標準税率の10%が適用されます。
つまり、同じ食べ物でも購入するにしても、購入の仕方で8%と10%と、それぞれ消費税率が異なります。
そこで最近増え出しているのが「イートイン脱税」という行為。
具体的には「会計の際はテイクアウトを告げて8%の消費税で購入しながらも、店内で飲食する」といった行為を言います。
本来であれば、店内で飲食する場合は標準税率である10%を支払わなければなりません。
こうしたイートイン脱税は、主にコンビニやファストフード店を中心に多発しており、さらにイートイン脱税ができるかできないかなどを試す「イートイン脱税チャレンジ」といった悪質な行為も行われています。
なお、イートイン脱税によって逮捕されたという事例はありませんが、イートイン脱税も脱税行為であることに間違いはなく、故意的に行うのは言語道断です。
商品を購入する側として、しっかりとルール・モラルを守るよう心がけたいところです。
ここで解説してきたとおり、納税は国民の三大義務のひとつとして定められており、納税義務者である私たち国民は、得た利益に応じた税額を自ら納付しなくてはなりません。
しかしながら、なかには納めなければならない税額に対して偽装や隠ぺい行為など不正行為によって、それを免れようとする人も存在します。
ただ、あの手この手を使って脱税を試みたとしても、税務署は税のプロフェッショナルであり、脱税の手口は当然熟知しています。そのため、たとえ今は大丈夫だったとしても、いずれは発覚します。
税額は少しでも低くしたいという気持ちは誰しも思うことですが、脱税は犯罪です。
脱税が発覚すれば結果的に倍以上の税金や罰金を支払うことになりますし、場合によっては前科がついてしまうことにもなり兼ねません。
繰り返しになりますが、税務調査が入れば脱税は必ずと言ってよいほど発覚します。もし納付額の負担を軽減したいのであれば、合法的な節税を心がけるべきです。
画像出典元:Pixabay・写真AC
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