勤怠管理は法律で定められた企業の義務であり、従業員の健康を守るという意味でも重要な業務です。
本記事では、勤怠管理とは何か、管理の対象となる企業・従業員・管理項目、管理を行わないと起こるリスクについて解説します。
勤怠管理の具体的な方法とメリット・デメリット、多様化する働き方に合わせた管理のポイントについても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
このページの目次
勤怠管理とは、従業員の出勤・退勤・休暇などの労働状況を正確に記録して管理することを指します。
企業は、従業員の労働時間に基づいた給与の支払いや、休暇の管理を労働基準法により義務付けられているため、正確に把握する必要があります。
勤怠管理の目的は、従業員の労働時間を適切に管理し、法的義務を遵守することです。
労働基準法第32条には、下記の記載があります。
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:「労働基準法 第32条」
ただし、労使協定によって割増賃金を企業が従業員へ支払えば、例外的に時間外労働が認められます。
正確な勤怠管理を行うことで、企業は従業員の労働環境を管理することができるのです。
勤怠管理の仕事内容は、従業員と労務担当者でやるべきことが異なります。
従業員は、企業が定めた方法で出退勤時に勤怠記録を行います。
主な記録方法は、紙の出勤簿に記入する方法、タイムカードで打刻する方法、勤怠管理システムに記録する方法です。
上司は、部下の記録が正しくされているかを確認した上で承認作業を行い、労務担当者へ引き渡します。
勤怠管理業務を実際に担当するのは、一般的に労務部門の役割です。
従業員の出退勤時間、残業や欠勤の有無といった勤怠データの内容や不備を確認し、労働時間の集計・給与計算のために正確なデータを整えます。
また、法令や社内規定に基づいて適切な処理が行われているかという点も確認します。
ここでは、勤怠管理の対象となる企業・従業員の範囲や、必要となる管理項目について解説します。
勤怠管理の対象となるのは、労働基準法において「第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」に該当する全ての企業です。
農業や水産業といった自然や天候の影響を強く受ける業種を除き、従業員を雇用している企業は勤怠管理を行う必要があります。
勤怠管理の対象となる従業員は、業界・業種・事業規模にかかわらず、管理監督者を除く全ての「雇用されている従業員」です。
管理監督者とは、企業の経営に関わる業務や従業員の労務管理に一定の責任を持つ者を指し、部長や事業所長などが含まれます。
ただし、働き方改革によって、2019年4月に「労働安全衛生法」が改正され、現在は管理監督者も労働時間を適正に把握することが義務付けられています。
具体的には、以下のような項目を管理します。
出勤日は、従業員が通常勤務を行った日、欠勤日は病気や私用などで出勤しなかった日を指します。
休日出勤は、通常の休業日や法定休日に勤務を行った日であり、休日出勤があった際には振替休日や代休を取得できているかを確認する必要があります。
これらを管理することは、給与計算に影響を与えるだけでなく、従業員の健康管理のためにも欠かせません。
始業時間と終了時間の記録は1分単位で行います。
正確に管理することで、遅刻や早退が多い従業員に対して、適切な業務指導や配置換えなどの対処ができるでしょう。
また、法定労働時間を守るためには、休憩時間も含めて記録する必要があります。
これら3つには、下記のようにそれぞれ異なる割増賃金が適用されます。
労働区分 | 割増率 |
時間外労働(法定労働時間※を超えた労働) | 通常賃金の2割5分以上 |
時間外労働(月60時間を超えた労働) | 通常賃金の5割以上 |
深夜労働(22:00〜翌5:00の労働) | 通常賃金の2割5分以上 |
時間外+深夜労働 | 通常賃金の5割以上 |
時間外(60時間超)+深夜労働 | 通常賃金の7割5分以上 |
休日労働(法定休日に労働) | 通常賃金の3割5分以上 |
休日+深夜労働 | 通常賃金の6割以上 |
※法定労働時間:1日8時間、1週間40時間
会社の就業規定によっては、さらに割増率が高くなる場合もあります。
有給休暇の取得は従業員の権利であり、企業には取得を促進する義務があります。
従業員が有給休暇を適切に取得しているか定期的な確認が必要です。
残日数の管理は、従業員が休暇を取りやすい環境を整えるためにも欠かせません。
勤怠管理は、従業員を雇う上で必要な企業の義務です。
万が一、勤怠管理を行わなかった場合は、下記のような大きなリスクが発生します。
勤怠管理を適切に行わなかった場合、労働基準法やその他の労働関連法規に違反するリスクがあります。
例えば、労働基準法第119条もしくは第120条に違反した場合、下記の罰則が科せられます。
違反内容 | 罰則 |
時間外労働・休日労働の未払い | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結せずに残業させた | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
割増賃金の未払い | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
法定休日(1週間に1回以上)を与えなかった | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
労働時間を改ざん・虚偽の記載をした | 30万円以下の罰金 |
タイムカードなどの勤怠記録を保管期間より前に廃棄した | 30万円以下の罰金 |
適切な勤怠管理を行わなければ、企業は法的な責任を負うことになります。
従業員の残業時間を正確に把握できず、未払いの残業代が発生した場合、企業は法的にその支払いを求められることになります。
支払いを放置し続けると、遅延損害金が発生したり、従業員からの信頼を失って裁判を起こされたりする可能性も。
裁判で悪質性が認められれば、付加金(ペナルティ)の支払いが命じられるケースもあります。
残業代未払いや労働時間の不正な扱いが公になると、企業の評判は大きく損なわれます。
特に最近では、企業のコンプライアンスや働き方改革が注目されており、不正が明るみに出れば、顧客や取引先、株主からの信頼を失うことにもつながりかねません。
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署が発表している資料によると、下記が明記されています。
(ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ)タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
引用元:「労働時間の適正な把握のために使用者が構ずべき措置に関する基準」
これらの基準を満たした勤怠管理方法について、ここでは代表的な4つの方法とそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
まずは、従業員が出勤した日や時間を手書きで記入する方法です。
従業員は毎日出退勤時間を記入し、上司や担当者がその内容を確認する形で管理が行われます。
特別な機器やシステムを必要とせず手軽に始められるため、予算が限られている場合に便利です。
一方で、集計作業に時間がかかったり、紛失・破損のリスクがあるという点はデメリットといえます。
タイムカードは、従業員が機械にカードを挿入し、打刻するシステムです。
自動的に記録されることから打刻ミスが少なく、効率的に勤務時間を把握できるメリットがあります。
ただし、不正打刻がないかを定期的に確認する必要があります。
また、専用の機械や紙といった設備の導入・運用に一定の費用がかかるという点にも注意が必要です。
従業員の勤務時間や出勤日をエクセルシートに入力し、計算式を使って集計を行います。
カスタマイズ性に優れているため、企業のニーズに合わせた管理ができるだけでなく、データ集計や分析も実行できます。
しかし、手入力によるミスが発生しやすいという点や、従業員数が多い場合には同時操作が向いていないという点はデメリットです。
勤怠管理システムは、出退勤時間の打刻から、時間外労働や休暇申請まで、従業員の勤怠を一元管理できるシステムです。
多くの企業で導入されており、業務効率化や法令遵守のために活用されています。
従業員数に関係なくスムーズな管理を行うことができ、ヒューマンエラーや不正の減少、データ分析やレポート作成が簡単にできるメリットがあります。
一方で、初期費用や月額費用が発生したり、システムの設定や運用に知識が必要という点には注意が必要です。
勤怠管理は、雇用形態や働き方に合わせて適切な方法で管理する必要があります。
続いては、多様化する働き方に合わせた勤怠管理のポイントについて解説します。
パート・アルバイトの場合は、勤務日や勤務時間が異なるため、休憩時間を含めて把握しておく必要があります。
また、従業員ごとに時給の設定も差があるので、管理者は給与計算にも気をつけなければなりません。
学生・主婦・主夫であれば、扶養控除内での就労を希望していることも多く、労働時間を調整しながら年単位で管理が必要になるケースもあるでしょう。
契約社員は、労働契約期間に定めがあるという点を除いて、正社員に近い待遇であることが多いため、特別な勤怠管理は必要ありません。
派遣社員は、出退勤の記録や残業管理は派遣先が行い、給与計算・労務管理は派遣元が行います。
そのため、派遣先は派遣元に対して、労働時間など給与計算に必要な情報を共有する必要があります。
リモートワークや在宅勤務では、始業・終業時刻の記録や時間外労働の計算が難しくなります。
従業員がオフィスにいないため、正確で客観的な勤怠データをどう管理するかが大きな課題といえるでしょう。
勤怠管理システムを活用するなど、時間外労働や休憩時間をきちんと把握できる仕組みを整えることが重要です。
業種や業界に関係なく、勤務状況を効率的に記録・管理するためには、勤怠管理システムの活用がおすすめです。
手入力によるミスを減らすことができるだけでなく、労働時間の集計や給与計算にかかる時間を大幅に削減できます。
また、雇用形態や働き方にとらわれずに、労働時間や休暇管理をリアルタイムで行うことができるという点もメリットです。
最近では、無料で使える勤怠管理システムも提供されているため、コストを抑えつつ業務効率化を実現できます。
勤怠管理とは何か、対象となる企業・従業員・管理項目、管理を行わないと起こるリスクについて解説してきました。
勤怠管理は、雇用形態や働き方に合わせて、正確に管理できる仕組みを作ることが大切です。
勤怠管理システムであれば、従業員も簡単に利用ができ、管理者側も業務効率化が実現できるので活用してみてください。
画像出典元:O-DAN
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