TOP > 経営 > 税金 > 経営者が知るべき特別償却と税額控除の仕組みと違いを解説
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法人が高額な機械・車・ソフトウェアなど、いわゆる固定資産を購入した時、税理士から「特別償却」「税額控除」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
この二つの制度は、「固定資産の取得を活用した節税対策」が可能な税制の優遇措置であり、制度に該当する固定資産を購入した際には「特別償却と税額控除どちらを適用するか?」という選択をしなければならない場面が必ず出てきます。
しかし、そもそも「特別償却」「税額控除」とはどのような制度か?という基本的なところを理解していなければ最善の選択をすることはできませんよね。
かと言って、税理士さんに全て任せてしまうのは賢い経営者のやり方ではありません。選択をする際には経営者にしか予想できない要素も判断材料となるからです。
ということで今回は、特別償却と税額控除の仕組みとその違いについて簡単に解説します。
このページの目次
特別償却と税額控除はどちらも固定資産を購入した時に登場しますが、税制上の性格は全く異なります。
特別償却というのは減価償却の一種であり「より多く経費を計上するため」の制度。減価償却費という経費を増やすことで利益を抑え、結果として税金を安くすることができます。
一方、税額控除というのは「計算した税額から控除額を直接引算する」制度。税金から、一定の割合を引算し税金を安くすることができます。
特別償却と税額控除がよく比較されるのは、計算の仕方は違えど、結果として「税金を安くする(節税効果)」という目的が一緒だからです。
では、具体的にどのような違いがあるのか?それぞれのメリットとデメリットを簡単にみてみましょう。正しい選択ができるかどうかで、財務内容に大きな違いを生む可能性もあるので、しっかりと理解するようにしましょう。
特別償却というのは、前述した通り「減価償却」の一種で「普通に計算した減価償却費(普通償却)」にさらに上乗せしてより多くの減価償却費を経費にすることができる制度です。
中小企業の設備投資を促進することで国内消費を活性化させるとともに、国際競争にも打ち勝つことのできる、強い企業をつくるという主旨のもと創設されたものです。
特別償却にはさらに減価償却費を上乗せする「即時償却」という制度もありますが、今回は割愛します。
特別償却のメリットは、購入した年度において利益を抑えることができることです。特別償却により減価償却費を上乗せすることで経費が増加し、利益を抑えることができ税額が軽減されます。
「せっかくの黒字決算、わざわざ経費を増やして利益を少なくする必要はないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし銀行の見方は少し違います。財務の安全性という観点から、動かないお金(固定資産)よりも動くお金(預貯金など)の比率が高い会社を評価します。
固定資産を早期に費用化し、固定資産比率を下げることで流動比率が高くなり、銀行が会社を見る「経営針表」に安全性が生まれる…ということです。
また、減価償却費を早期に費用化することで、万が一、翌期以降に業績が厳しくなった場合の将来の費用負担(減価償却費)を軽減することができる、という効果もあります。
なお赤字決算にするメリット・デメリットについては、以下の記事で解説しています。
特別償却のデメリットは、購入した年度でしか適用できないことです。残念ながら特別償却は過去に遡って適用を受けることはできません。
当期が黒字決算だから前期に購入した固定資産を当期に特別償却しよう、ということができないのです。
よって、例えば赤字の年に設備投資をしてしまった場合、特別償却をすると経費が増えて赤字の額がさらに大きくなってしまいますので、適用に躊躇してしまうのではないでしょうか?(翌期以降の黒字決算に備えて繰越欠損金を作っておくという選択肢もありますが、)せっかく与えられた特別償却のチャンスを有効に活かすことができません。
もし、大規模な設備投資を予定している場合には、投資年度の利益を十分に見極めたうえで投資を行う必要があります。
次に、計算した税額から控除額を直接引算する制度である税額控除のメリット・デメリットを解説していきます。
税額控除のメリットとしては、
の2点があげられます。
税額控除を適用した場合には長期的に見た場合、結果として両方の適用を受けたのと同じ効果があるのです。
※一つの固定資産について両方を適用(重複適用)することはできません
「固定資産」は資産ごとに決められた年数(法定耐用年数)にわたって最終的にほぼ全額(残り1円になるまで)経費として落とすことができます。
特別償却は、将来発生する減価償却費を前倒しで当期の経費とするものであり、今の決算期での節税効果は高いのですが、長い目で見た場合には経費として落とせる総額は適用を受けなかった場合と全く変わりません。
つまり、減価償却費の総額が変わらないのであれば、取得した年度の税額が軽減されるというオマケがつく税額控除のほうが節税効果は高いということになります。
さらに、税額控除は取得した事業年度で控除しきれなかった部分を翌期に限り繰越すことができます。
例えば、赤字決算の時に固定資産を取得してしまった場合などに税額控除を適用しておけば、翌期が黒字決算であったときに発生する税額をこの繰越しを使って軽減することができます。
また、固定資産比率の低い会社が自己資本の充実を目指し、大きく利益を出したい時など、特別償却を適用した場合におこる「減価償却費の増加→利益減少」といったこともなく、税制の優遇を受けることができます。
税額控除のデメリットは、控除できる上限が税額の一定割合だけである点です。
利益を減らすことなく優遇措置を受けられ、なおかつ余った部分を繰り越すことができるというメリットがある税額控除は一見「特別償却よりお得!」と思ってしまうかもしれませんが、実は税額の○○%までという上限があります。
取得した資産の価額と利益の金額によりますが「当期の決算」という短期的な観点から見た場合の節税効果でいえば、特別償却より弱くなってしまうのがデメリットでしょう。
国・地方の実効税率を30%、中小企業が機械等を取得した場合の30%特別償却を適用
【税額控除】
2,000万×30%(実効税率)=600万(税金)
600万×20%(税額控除上限)=120万(節税額)
【特別償却】
5,000万×30%(特別償却)=1,500万(減価償却費)
1,500万×30%(実効税率)=450万(節税額)
というわけで、税額控除での節税額が120万円、特別償却での節税額が450万円と、取得した年度に限ってみれば特別償却による節税効果の方に軍配が上がります。
ここまでそれぞれのメリット・デメリットを挙げてきましたが、財務状況に応じてどちらを選べば良いのかをまとめてみました。
特別償却の方が良いケース |
・翌期以降の業績が悪くなると予想される場合(黒字→赤字→赤字) 減価償却を前倒しで費用化することで将来の負担を軽減することができる |
・当期の納税額をできるだけ抑えたい時 資金繰り等の関係で当期の納税額をできるだけ抑えたいという場合に有効 |
・赤字決算が連続すると予想される場合(赤字→赤字→黒字) 翌期も赤字決算の場合は、繰越した税額控除が無駄になってしまうので特別償却により繰越欠損金を作っておいたほうが将来の黒字決算に備えるという観点で有効 |
税額控除の方が良いケース |
・赤字決算の翌期が黒字決算となることが確実視されている場合(赤字→黒字→黒字) 赤字決算のときに税額控除を繰り越しておき、翌期以降の黒字決算の税額を軽減長期的に見れば税額控除のほうが節税効果が高いため |
・決算の利益を落とすことなく節税をしたい時 税額を直接軽減するので経費が増加することなく節税ができるため |
どちらにもメリット・デメリットはありますが、会社にとってこの税制優遇を有効に活かすためには目の前の決算だけで判断してはいけません。
中長期的な業績予想も考慮した上で選択することが大切です。
黒字決算になった時、あそこで適用をうけておけばよかった…ということがないよう経営者の方は制度の仕組みを理解したうえで、会社の実情を良く知る税理士さんに相談しながら判断することをおすすめします。
なお、税理士の探し方・選び方については以下の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
画像出典元:pixabay, Unsplash
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