取締役会は、会社業務を執行するうえで意思決定をおこなう重要な機関です。
そこで決定した内容が、会社業務だけでなく経営そのものを左右することもあります。しかし、やり方を間違えると、決議したことが無効になってしまうことも。
そんな失敗をしないためにも、取締役会の決議方法と開催方法から議事録の取り方、議事録のまとめ方のポイントまで詳しく解説します。
このページの目次
そもそも取締役会ではどのようなことを決議するのでしょうか。
取締役会には、会社法によって権限が与えられています。その権限の範囲が及ぶ事項について、取締役会で決議します。
決議できる事項は、下表のとおりです。
大きく分けると、決議事項は7つです。決議事項によっては、のちに株主総会で決議するものもあります。
取締役会での決議方法にはルールがあります。正しく開催しなければ決議内容が無効になってしまいます。
取締役会の決議事項については以下の記事で詳しく解説しています。
決議が無効になるのはどのようなときか。それは会社法や定款など、決められたルールにのっとって決議がなされなかったときです。
取締役会での決議できる事項や、その決議方法については、会社法にて定められています。会議に出席すべき取締役については、定款で取締役に着任している人物の名が記されています。
つまり、定款で定めた取締役が取締役会に出席し、そのうえで会社法にのっとった決議方法で議決しないと、その決議事項は無効になるということです。
では会社法で定められた決議方法をこれからみていくとしましょう。
取締役会の正しい決議方法は、会社法369条1項に記載されています。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
取締役会では、さまざまな議案について決議をおこなっていきます。この決議される議案のことを議決といい、決定投票に参加できるのは議決権のある取締役だけです。
その取締役は、定款に記された取締役に就任した人物で、かつ議案に利益が絡まない取締役でなければなりません。
決議する事項に利益が絡む取締役が投票すると、その取締役自身の有利なほうに決議が動いてしまう可能性があります。
それでは、公正公平な結果とはいえません。そうした可能性を排除するために、議決に加われる取締役には先述した要件が設けられているのです。
議案を決議するには、議決権のある取締役のうち半数を超える人数が出席し、そのうち半数を超える人数が賛成(あるいは承認)を表明しなくてはなりません。
たとえば取締役が6人いる会社で考えてみましょう。
議決権を持つ取締役は本来6人ですが、うち1人の取締役が議案に利益関係がある場合、決議に参加できないため、残りの5人が議決権のある取締役となります。
決議には議決権のある取締役のうち過半数の出席が必要なので、最低でも3人の出席が必要となります。
議決権のある取締役5人全員が出席した場合は、過半数の3人以上の取締役から賛成もしくは承認を得た場合に決議が成立します。
もし最低限の3人しか出席しなかった場合は、2人以上の賛成があれば決議を行うことができます。
決議に参加できない取締役とは、決議事項に利害関係がある取締役を指します。本来、取締役には議決権といって、決議に参加する権利があります。
しかし、決議によって利益を得る可能性がある取締役が参加すると公正性を欠くことになるため、該当する取締役を「定足数に含めない」と会社法で明記されています。
定足数が、議決するのに必要となる最少人数のことを指していることから、「定足数に含めない」とは、最少人数としてカウントしないということを意味しています。
利害関係がある取締役とは、次に該当する取締役を指します。
該当する取締役がいる場合は、定足数から除外します。
なお、決議に参加できない取締役の取締役会への出席に関しては、会社法の条文に記載がありません。出席可とする意見と出席不可とする意見に分かれており、決議に影響が出るようであれば退席を促しても問題はないとされています。(※)
※参考資料:取締役会議の瑕疵とその効力(平成29年10月1日版)弁護士法人STORIA
取締役会を開催することになった場合、定款で定めた各取締役に招集をかけます。定足数に足る取締役が決議の場に揃わなければ、有効な決議ができませんので、そこを踏まえて招集していきます。
取締役会の招集は、招集する権利(招集権)を持つ取締役がおこないます。
招集権は、定款や取締役会で定めた取締役が有することになります。取締役のなかでも「取締役会長」や「取締役社長」といった企業内部で強い権限を持つ取締役を選出することが多いようです。
しかし、これはあくまで通例であって、会社法上で定められているわけではありません。
選出する際は、招集権を持つ取締役が事故や病気などで欠員となる可能性を考慮して、順序付けしておきます。なお、この順序も取締役会での決議が必要です。
招集権を持たない他の取締役(以下、平取締役)が取締役会を開きたい場合や、招集権を持つ取締役(以下、招集権者)が取締役を開かない場合には、平取締役が招集権者に対して取締役会招集の請求ができます。
招集権者を指定していない場合は、どの取締役でも招集できます。
平取締役が取締役会招集の請求をする際には、取締役会を開く目的となる事項を、招集権者に示さなければなりません。一般的に社内で会議をする際も、目的なく会議をすることはありません。
何のための会議であるか、参加者が目的を共有することによって有意義な会が成立するものです。取締役会招集においても、同様のことがいえます。
取締役会招集を請求された招集権者は、請求があった日を起算日にして5日以内に、他の平取締役に対して取締役会招集の通知を出さなければなりません。
5日以内に招集権者が通知できない場合は、招集を請求した平取締役が自分で取締役会の招集をすることができます。
開催する取締役会の日程は、請求された日を起算日にして2週間以内の日付で指定します。
招集権者が取締役会の招集をする場合は、取締役会を開く日の一週間前までに、それぞれの平取締役へ通知しなければなりません。
しかし、取締役全員より取締役会開催の同意を得ているときは、招集手続きを省略して、開催することができます。
取締役会の開催日通知に関して定款で定めた期間がある場合は、そちらを優先します。ただし、上述の一週間より下回る期間であることが前提です。
取締役会の招集には、定款で定めた取締役全員に対して通知します。招集をおこなう場合は、以下の項目を明記しておくようにしましょう。
1. 開催日時
2. 開催場所
3. 目的事項
・第1号議案
・第2号議案
・第3号議案
会社法では、通知の形式について明言されていません。そのため、これらを口頭で伝えてもいいとされています。
しかし、取締役全員に通知がなされていない場合、決議した事項が無効になってしまうため、のちのトラブルを防ぐためにも口頭での通知は控えましょう。
できるだけ記録が残るよう、メールや書面で送付するのがベストです。なぜなら、万が一のときに、通知手続きに違法性がなかったかを検証する際の証拠にもなるからです。
メールで通知をする際、平取締役それぞれに宛て送るよりも、取締役全員を送信先に指定して一括送信したほうが漏れがなく安心です。
書面で通知する際は、下図の例を参考に作成し、チェックリストをつくるなどして、漏れがないか十分に確認するようにしましょう。
決議事項で利害関係を有する取締役がいる場合も、招集通知は送らなければなりません。
取締役会は、最低3ヶ月に1回の頻度で開催しなければなりません。その理由は、会社法363条に記されています。
第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
条文には、代表取締役または取締役の役職にある人物は、自身の業務状況について定期的に報告する義務を有していることが明記されています。
また、その頻度は3ヶ月に1回以上とも明示されています。このことからも、招集権者は少なくとも3ヶ月に1回は取締役会を開く義務があるといえます。
取締役会では、議長を置いて議会を進行させていくのが一般的です。
議長には、取締役会にて選任した取締役が着任します。この議長役として一般に選任されるのは、招集権を持つ代表取締役会長や代表取締役社長です。
取締役会では、議事録を作成することが定められています。そこには、議会で交わされた決議事項に関する審議の内容や決議内容を記します。その記載内容には、細かな決まりがあります。
会社法によって、議事録に残すべき項目が指定されています。記録すべき項目が漏れていると、トラブルが起きた際などに困ることがあります。議事録は、議会での決議を証明する大切な資料だからです。
取締役会で決議した事項がある場合は、上記事項とともに次の事項を議事録に残します。
代表取締役を含む各取締役は、取締役会に業務執行の報告義務があります。
しかし、全取締役ならびに会計参与、監査人等の取締役会を執行する構成員に対して、予め報告していた場合においては、取締役会での報告はしなくてもよいことになっています。この場合、報告が省略されたことを議事録に記載します。
議事録には、議事の概略を記載するよう決められています。
しかし、複数人が参加する議事をリアルタイムに記録することは、慣れていても意外に難しいものです。特に、金銭や数量、固有名詞が出てくるような議事であれば、聞き間違いやメモの取り間違いなどが起こりがちです。
取締役会の議事録は、会社の公的資料でもあります。株主総会や別の取締役会で、誰が何を言ったのかによって、責任の所在追及に関係することもありえます。
このように議事録は、何かしらのトラブルが起きた際の証拠になることもあるのです。
議事録をまとめるときには、次の点に注意しましょう。
聞き間違いやメモの取り間違いを防ぐ、最も有効な方法は議事内容をICレコーダーで録音することです。人数が少ない取締役会では、アットホームな雰囲気で議事が進むこともあるでしょう。
また、決議事項がない場合などでは、かしこまった場所ではなくカジュアルな場所で議事をおこなうこともあるかもしれません。
どのような場合であろうと取締役会として開催するのであれば、議事を正しく記録するために録音することが望ましいです。なお、議事内容を録音する際には、出席者に必ずその旨を伝えるようにします。
レコーダーの使用ができない場合は、パソコンを持ち込んだり、ポイントを書き残せるようにフレームワークを使ってメモを取りましょう。
議事録において、誰がどのような発言をしたかは大変重要なポイントです。
議事録をまとめる際には、発言者についてわかるように記載します。あとから読んだときに、誰が発言したのかがわからなければ、その議事録の信ぴょう性が疑われる原因になります。
また、主語がどこにあるのかによって、その前後の文脈や発現の意味が変わってくることがあります。誰が何について発言しているのか、わかるようにまとめます。
主語がないことも齟齬が生まれる原因になります。主語を常に明確にすることを念頭に文章を作成します。
資産や株式、移転など数字や固有名詞がでてくる議決案では、金額や数量、場所の間違いはあとあと大きな問題に発展しかねません。
ICレコーダーに頼り過ぎず、きちんとメモに残すとともに、議事の間にきちんと確認しておくようにしましょう。発言者の声の大きさや通りやすさによっては、録音した音声から聞き取りづらいこともあります。十分に確認することによって、間違いが防げます。
・何の議決案に対して、誰が何を発言をしたのか
・議決案がどのような経緯で決議に至ったのか。
これらは、すべて時系列でまとめます。これにより、あとから議事録を読み返した時に、決議がどのような経緯でなされたのかが把握しやすくなります。
ですが、全ての発言を記載する必要はありません。あくまでも必要なのは、議事の概要と決議の経緯です。
議事録として「明瞭性」と「誰が読んでも同じ理解ができる」ものになるよう、時系列で簡潔にまとめるようにします。
議決案が決議した、その結論をもって決議の結果とします。
議事録では、結論から決議を把握することになりますので、誤認されないように明確な言葉で記すことが重要です。そのためにも情報をまとめ、論点を整理するようにしましょう。
取締役会の決議方法と開催方法から議事録の取り方、議事録のまとめ方のポイントまで解説してきました。
取締役会での決議は、会社業務の方向性を決めるものです。議会で決まったことを有効にするには、取締役会における諸作業や手順、方法を間違わないようにすることが大切です。
なお定款で定めている取締役会開催の方法を変えたい場合は、定款変更の必要があります。
画像出典元:PEXELS
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