会社の基本となる情報やルールについて定めた定款。会社を経営していれば、定款を変更する必要に迫られる場面が出てきます。
本記事では、株式会社における定款変更の手続き方法をケース別に解説していきます。
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定款とは、簡単にいってしまえば、会社の組織や活動についての基本的なルールです。就業規則よりも基礎にある存在で、会社の設立に必須のものです。
定款について詳しくは以下の記事で解説していますので、理解がやや曖昧な方はぜひ参考にしてください。
定款には様々な事項を記載していきますが、会社法によって原則が定められているため、例外的なルールを設けない限り全ての事項に関して細かく記載する必要はありません。
しかしながら、定款に必ず記載しなければならない事項や、記載がなければ無効となる事項もあります。
そこで定款への記載事項を大別すると、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つのグループに分けることができます。
絶対的記載事項がなければ定款そのものが無効になります。
相対的記載事項は、定款そのものの効力には影響しませんが、その記載内容の効力の有無を決定づけるものです。
例えば、財産譲渡において譲渡人を正しく記載していないと、財産の譲渡を行うことができなくなってしまいます。
このように財産の移動や株式の内容に関する取り決めなどが該当します。
これは定款に記載することで、その事項について明確にする効果や、その事項の変更について変更手続きを必要とさせる効果があります。
定款に記載しておけば、任意的記載事項でも定款変更の手続きを踏まなければその内容を変えられないようにできるのです。
株式会社という団体の形成をするには、その団体の規則である定款の作成、そして機関を備え、株主の確定をする必要があります。
併せて設立登記をすることで法人格の取得ができ、会社が設立されることになります。
持分会社においても定款は必要になりますが、所有と経営が分離している株式会社においては、定款変更にかかる手間は持分会社に比べて多くなります。
株主総会を開いて株主の意見を取り入れる必要があるというのが大きな違いです。
定款変更をするにはどのような手順を踏めば良いのでしょうか。
変更内容によって必要な手続きが変わってきますが、1つ1つの事項について手順を覚えていく必要はありません。
着目するのはその変更内容が登記されていたものかどうか、または税務署に届出をしていたかどうかです。
なお、電子定款の場合も定款変更の手続きは変わりません。
まず、定款変更を行う流れを簡潔に説明すると、以下の2つによって定款変更が行われます。
1. 株主総会の開催及び株主総会議事録の作成
2. 株主総会議事録の備え置き
定款変更というと、定款を書き換えるというイメージを持っている方が多いのですが、実際は変更内容を決議した議事録を定款に付け加えることで変更を行います。
これにより、変更の履歴を後で確認できるようにしているのです。
変更を決議するのは、株主総会です。定款の内容を変えるということは株式会社の所有者である株主の権利を侵害する可能性があるため、株主の同意を得る必要があるのです。
株主総会の決議の方法にはいくつかパターンがあります。定款の変更では基本的に「特別決議」の要件を満たさなければなりません。
この要件とは、総議決権の過半数を有する株主が出席、そしてこのうち3分の2以上によって決議を行うことです。
同じく特別決議を要する内容として、「事業の譲渡」や「合併」などが並んでいることからも定款変更の重要度が理解できると思います。
株主総会の招集をするには通常2週間前に通知をしなくてはなりません。定款変更をするには2週間以上かかるということです。
例外的に非公開会社(全部の株式について譲渡制限を設けている会社)であれば1週間前の通知でも良く、さらに取締役会を置いていなければ定款の定めによって、制限なくこの期間を短縮して通知することも可能です。
株主総会の決議を要するのが定款変更の原則ですが、一部例外もあります。「株式の分割」や「単元株式」に関してある条件を満たして定款変更を行う場合です。
株式の分割では株式の数が増えることになりますが、この割合に応じた発行可能株式総数の増加であれば株主総会を開かずに定款変更が可能です。単元株式の減少や廃止をする場合にも同様です。
また単元株式数を設定・増加する場合でも、各株主の議決権の数に変化がないようにすれば株主総会の必要はありません。
どれも共通して言えることは、定款変更による株主への悪影響がないということです。
無事に定款変更が済んだら、その後に登記の変更申請や税務署への届け出が必要なケースがあります。
先ほど述べたように、このとき着目するのは、その変更内容が登記されていたものかどうか、または税務署に届出をしていたかどうかです。
<登記が必要な場合>
登記をしている内容について定款変更をした場合、上で紹介した流れに加えて登記の変更申請をすることになります。
これは、以下の場合が当てはまります。
この場合、以下の流れで手続きを進めます。
1.株主総会の開催及び株主総会議事録の作成
2.登記申請
3.株主総会議事録の備え置き
登記の申請では議事録に加えて変更内容に応じた書類を提出します。添付書類の1つには、議決権数上位10人の株主または議決権数割合が 2/3 に達するまでの株主が記載された株主リストも含まれます。
また定款変更の登記申請を行う場合、登録免許税として3万円の費用がかかります。
登記変更については以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
<税務署への届出が必要な場合>
事業の決算月を変更するような場合でも定款の変更をすることになります。このようなケースでは登記の必要はありませんが、税務署に変更があったことの届出をしなければなりません。
費用は必要ではありませんが、議事録とともに異動届出書を提出する必要があります。
定款変更までの流れは以下の通りです。
1.株主総会の開催及び株主総会議事録の作成
2.税務署への届出
3.株主総会議事録の据置
会社の所在地を移転する場合、定款変更と登記の両方が関わってきます。しかし、「定款に記載した所在地の書き方」と「法務局の管轄」によって手続きが変わってくるので要注意です。
<市内の引っ越しの場合>
定款では最小行政区画までの記載でかまいません。つまり東京都なら「区」、それ以外では市町村単位です。
そこで、定款に「〇〇市」という書き方をしていれば、その市内での引越しで定款変更は必要ありません。
しかし、登記では詳細に所在地を記載する必要があり、引越しがあれば登記の変更申請が必要となります。
<法務局の管轄が変わる場合>
法務局の管轄が移転後で変わる場合、登記申請書を2件分用意する必要があり、それに伴い費用が増えます。
申請先は引越し前の管轄登記所宛に2件分出せば足りますが、1件につき3万円の登録免許税額がかかり、合計6万円が必要になってしまいます。
また、移転先の管轄登記所で印鑑を再度登録する必要もあります。
会社名の変更では定款上の「商号」を変更することにあたります。定款変更及び登記申請が必要になります。
また、印鑑を新たに作ることになるため、所在地移転と同様「印鑑届出書」も提出します。
もともと会社の「目的」としていた事業内容とは異なる事業を始めることも考えられます。この場合には定款変更と登記変更が必要です。
定款で定めておくと、株式会社側に有利に働く事項もあります。
例えば株式の譲渡を制限している場合、できれば信頼関係にない人物には株主となってもらいたくありません。株主は会社に対して一定の権限を持つからです。しかし、株主が死亡すると相続が発生し、相続人が株主になります。
このような場合を想定し、あらかじめ定款で「相続等で株式を取得した者に対し、売り渡すことを請求できる」といった旨を記載しておけば、相続人の意思とは関係なく会社が株式を買い取ることができます。
会社法では株主総会の招集地について規定がありません。しかも株主総会は株主が開催の請求をすることができ、このときに場所を指定される可能性があります。
一定の場所で開催したければ、定款によって招集地を定めておくと良いでしょう。
定款変更では、まず株主総会を開くことになります。特別決議の要件を満たし、変更内容に関して議事録を作成します。そして、この議事録を会社を備え置くことになります。
登記が必要であれば登記申請、税務署への届出が必要であれば届出をします。
議事録は雛形を使うことで穴埋め式に作成することも可能ですが、不備を起こさないためにも司法書士や弁護士、専門家への依頼も考えてみましょう。
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