会社設立の際、作成が義務付けられているものの一つに「定款」というものがあります。
定款の作成手段には「書面」か「電子」かの2種類があり、電子定款で手続きをすれば費用がかからないのでお得だと、よく言われています。しかし実際のところ、必ずしもお得ではないのです。
そこで今回は、電子定款の作成手順を中心に、電子定款について詳しく解説していきます。
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定款は、組織や活動、目的など、その会社の根幹となる規則を記した書面の事を言います。
この定款は、会社を設立する場合、必ず作成しなければならないもので、約10年前までは紙媒体を使って作成することが基本でした。
しかし、現在ではCD-RやUSBメモリなど、いわゆる電磁気的方法による電子記録媒体での認証も可能とされ、こうした電磁気的方法を使用した定款認証方法を「電子定款」と言います。
ちなみに、株式会社を設立する場合、定款が法律に従って正しく記載されているかなど、公証役場にて認証してもらう「定款の認証」を受ける必要があります。
なお、合同会社の場合は定款の作成のみで、公証人による認証は不要です。
そもそも定款って何?と疑問に思った方は以下の記事を参考にしてください。
前述のとおり、定款を作成する際は「紙媒体」もしくは「電子記録媒体」の2通りがあります。
そのうち、紙媒体で作成した場合、定款を提出する際に定款印紙代として4万円が必要となりますが、一方の電子定款で作成した場合は、定款印紙代が不要です。
したがって、電子定款で作成すれば、単純に4万円のコスト削減に繋がりますが、ここで注意が必要です。
確かに、電子定款で作成すれば、紙媒体よりも4万円のコスト削減になるのは間違いありません。しかし、それはすべてが揃っていればの話です。
電子定款の作成は、Wordのようなワープロソフトなどで作成し、作成した文書をPDFファイルに変換します。
しかし、ただPDFに変換するだけなら特に問題ないですが、電子定款の場合、PDFに変換後、作成者の電子署名を必ず入れなければならなりません。
PDFに署名を入るとなると、一般的に使われるフリーソフトAdobeでは対応しておらず、電子署名挿入機能がついたソフトを使わないと作成することはできません。
ちなみに、電子署名挿入機能があるのはAdobe Acrobatぐらいで、価格も35,000円ほどします。また、その他ICカードリーダライタやその周辺機器なども必要となるので、すべて揃えるとなると、非常にお金がかかります。
また、パソコンを使用した電子申告に関して経験のない方だと、作成自体が非常に難しく、二度手間、三度手間になることも十分あります。
結局、電子定款のための専用機器やソフトの購入や、作成や手続きに要する手間や労力などを考慮すると、逆に電子定款の方が高くついてしまうことも多く、コスト削減に繋がるとは正直言えません。
紙を使わず、PDFで作成すれば印紙代もかからず手続きはできますが、電子定款を作成するには専用機器などを揃えなくてはなりません。また、認証手続きも非常にややこしいです。
高額な機器等の導入に加え、手間や労力が必要とされる電子定款はあまりオススメしませんが、どうしても電子定款で作成したいという人のために、手順を説明します。
電子定款を作成するにあたり、下の図にあるように専用機器などが必要となりますので、あらかじめ準備してください。
【電子定款の作成に必要な機器等】
書面でも電子定款でも記載する内容は同じで、Wordを使って作成します。
なお、定款には必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」がありますので、必ず記載漏れのないよう作成してください。
【絶対的記載事項】
定款の作成が完了したら、次に電子定款に変換しますが、変換前に作成した内容に誤りや法律上に問題ないかなど、事前に公証役場や法務局などでチェックしてもらいます。
チェックしてもらう際は事前に「定款を作成したので事前チェックをしてもらいたい」などの旨を電話で伝え、メールかファックスで送れば確認してもらえます。
この事前確認を怠ると、万が一誤りなど問題があった場合、訂正や再申請をしなければならないので、余計な手間がかかります。
定款の事前チェックが終わったら、作成した原稿をPDFに変換します。前述のとおり、PDF変換には電子署名挿入機能がついている「Adobe Acrobat Standard」などの有料ソフトが必要です。
PDFに変換したら、そのPDFファイルに「電子署名」をつけなければなりません。また、電子署名をつけるためには、住民基本台帳カード(住基カード)と電子証明書を取得する必要があります。
ちなみに、電子証明書は実印でいう印鑑証明書にあたり、取得する際は500円ほどの手数料がかかります。
PDFに変換した定款に電子署名をつけるため、ICカードリーダライタで電子証明書を読み込みます。ちなみに下の図がICカードリーダライタです。
出典:サンワサプライ株式会社 公式サイト
ICカードリーダライタは、いろいろと種類がありますが、およそ2,000円~6,000円で販売されています。
ICカードリーダライタを使って読み出した電子証明書を「PDF署名プラグイン」を使用し、電子定款のPDFデータに挿入します。
なお、PDF署名プラグインは法務省の公式サイトから、無料でダウンロードすることが可能です。
以上、ここまでで電子定款の作成は完了です。
電子定款の作成が完了したら、定款が正しく作成されたことを公的機関にて証明してもらう「定款の電子認証」を行う必要があります。
8-1. 申請者情報登録とソフトインストール
電子定款の認証手続をする際は、法務省のオンラインシステムを使用します。
そのため、法務省「登記ねっと」にある「申請者情報登録」にて登録をし、手順に従って「申請用総合ソフト」ダウンロード、インストールしてください。
8-2. 電子定款を送信
申請用総合ソフトのインストールが完了したら、申請用総合ソフト使用し、作成した電子定款を公証人役場へ送信します。
なお、電子定款を送信する際は、電話で事前に定款を送信する旨を伝えておくと、よりスムーズです。
電子定款の認証は、オンライン上で受け取れるわけではありません。公証役場に直接行き、定款を受け取ることが原則です。
なお、公証役場へ定款を受け取る際は、以下のものを持参します。
【公証役場に行く際に持参するもの】
電子定款を送信する際と同様、定款を受け取る日程を予め公証役場と打ち合わせしておくと、よりスムーズに進みます。
公証役場にて定款を受け取り、定款の認証が完了すれば電子定款は終了です。あとは会社設立登記をおこなうための書類を作成し、登記をすれば会社設立は完了です。
すでにご存知のとおり、紙での定款は4万円の印紙代が必要ですが、電子定款はそれが不要です。それだけを見ると、電子定款で手続きした方が断然得だと思いがちです。
しかし、電子定款は専用機器やソフトウェアの購入が必要で、さらに定款の作成自体がややこしく、非常に手間のかかる作業です。
電子定款を作成するための機器の購入費や、作成に必要な時間と手間、これら諸々を考慮すると、自分で電子定款を作成するメリットはほとんどありません。
むしろ、自分で作成するよりも行政書士など専門家に依頼した方がはるかに確実で、費用も安く済む場合もあります。
また、現在では「会社設立freee」というクラウド会計作成ソフトがあり、それを利用することによって、わざわざ専用機器を購入しなくても、5,000円で簡単に電子定款を作成することもできるので、そういったツールを使用するのも、有効な方法です。
いずれにせよ、ある程度の作成スキルがあり、さらに専用機器などが揃っている状態でない限り、最初から最後まで、自ら電子定款を作成するのは、効率的とは言えません。
今回は、電子定款の作成手順を中心に、電子定款について詳しく解説してきました。
一見すると、紙の定款よりもお得に感じる電子定款ですが、ICカードリーダライタやAdobe Acrobat Standardなど、専用機器やソフトウェアを購入しなればなりませんし、それらすべてを購入するとなると、5万円程は必要となります。
さらに、作成する手間や、認証のための手続きも非常にややこしいので、電子定款を自分で作成するというのは、あまりオススメできません。
もし、電子定款で作成するのであれば、行政書士など専門家に依頼するか、もしくは「会社設立freee」を利用して作成することが、もっとも賢明だと言えるでしょう。
会社設立に必要な手続きは定款の作成だけではありません。以下の記事では、会社設立の全体の流れを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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