会社にとっての憲法ともいうべき重要な文書・定款。
会社設立時に公証役場の認証を受けた最初の定款である「原始定款」はもちろんのこと、変更した後の定款などもしっかりと保管しておくことが大事です。
ところが、定款は普段の業務で使うことがあまりないので、色々とバタバタしているスタートアップ企業はもちろん、長く運営されている企業でも保管していたはずの定款を紛失してしまった!なんていう事態は起こり得ます。
もし定款を紛失してしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
今回は定款を紛失してしまった場合にとるべき対処法について解説していきます。
このページの目次
まず、定款は会社運営の途中で変更できます。すなわち変更をすればするほど定款のバージョンは増えていきます。
基本的には業務で使用するのは最新バージョンの「現行定款」と考えておけば間違いないですが、会社設立時に作成して公証役場からの認証を受けた「原始定款」も会社できっちり保管すべき重要なものです。
原始定款と現行定款とでは保管されている場所が異なるので紛失したときの対処方法も変わってきます。
まずは原始定款と現行定款について保管場所などを確認していきましょう。
会社設立時に作成し、公証役場からの認証を受けた一番最初の定款を「原始定款」と言います。
定款の認証は紙で行う紙定款と、電子証明書に署名を行う電子定款との2種類があります。
紙定款の場合には、公証役場に認証を受ける際に3部の原始定款を作成・提出します。
そのうち1部はそのまま公証役場に基本的には20年間保管され、返却される2部のうち1部は法務局に会社登記の手続きを行う際に附随書類として提出し、最後に残った1部を会社で保管することになります。
電子定款の場合も同様で、原始定款の認証申請はインターネット上で行いますが、その後に公証役場に出向いて認証された原始定款の電子データを受け取り、この電子データをもとに法務局手続き用と会社保管用の原始定款を作成することになります。
つまり、会社設立時に作成し公証役場に認証を受けた原始定款は、公証役場、法務局、会社でそれぞれ保管されるということになります。
会社を運営していく中で定款を変更することもあります。
変更を行う際には株主総会を開催しその旨を議決する必要がありますが、変更は何度でも可能なので、変更を行うたびに新たなバージョンの定款が作成されることになります。これらのうち最新バージョンの定款を「現行定款」と言います。
定款の変更のうち会社登記の内容にも変更が伴うような場合は、法務局や税務署にも定款変更の申請を行うことになります。すると、法務局や税務署にも変更段階での現行定款が新たに保管されることになります。
一方で法務局などへの申請を必要としない定款変更を行った場合には、現行定款はその会社にしか保管されていないことになります。
つまり、(保管期限が過ぎていなければ)公証役場や法務局にも保管されている原始定款とは異なり、現行定款の場合には法務局や税務局などに保管されている場合もあれば会社でしか保管されていない場合もあるということです。
具体的には、以下のような変更内容であれば登記内容の変更も行っているので、現行定款が法務局にも保管されています。
なお、定款変更の流れについて再確認したい方は以下の記事を参考にしてください。
ここまで定款の種類について解説してきましたが、要は会社設立時に作成した「原始定款」と、その後何度かのバージョンアップを行った「現行定款」とが会社には存在すると認識しておけば間違いありません。
では、まず会社設立時に作成した原始定款を紛失してしまった場合にとるべき対処法について解説していきます。
原始定款を紛失した場合は、公証役場で再発行できます。
紙定款の場合と電子定款の場合を分けて、説明します。
紙定款の場合
会社設立時に紙定款を提出して認証を受けた原始定款は、その後20年間は公証役場に保管してあります。もし原始定款の保管期限を過ぎていなければ、公証役場に出向き請求することで原始定款の謄本(コピー)を発行してもらえます。
原始定款の謄本発行を請求できるのは作成当事者か、もしくは公証法第51条で「利害の関係を有することを証明したる者」と定めている者、つまり利害関係者のみです。
ここでいう利害関係者は会社の代表取締役や役員、株主、債権者などが当てはまりますが、本記事では定款を紛失した場合を想定しているので、ひとまず代表取締役もしくは役員が請求するものと考えておけばオーケーです。
また、代表取締役が委任した代理人による請求も可能となっています。
原始定款の謄本発行を請求する際には、以下の書類を揃えて公証役場に出向きましょう。事前に管轄する公証役場に電話で確認を入れておくと手続きがスムーズになるのでオススメです。
電子定款の場合
もし紙定款ではなく電子定款で認証を受けた場合には、法務省のオンラインシステムで「同一の情報の提供の請求」という手続きを行うことで原始定款の書面あるいはデータを交付してもらえます。
紙定款の再発行と同様に代表取締役もしくは役員が手続きをするものです。
この手続きを行う際には紙定款の謄本請求と同様に会社の登記事項証明書、印鑑証明書、委任状(代理人による請求の場合)を提出するとともに、「登記管理番号」という19ケタの管理番号も必要となります。
登記管理番号は定款を認証してもらった際に公証役場から受け取る領収書に記載されているほか、認証された定款データのフォルダ内にあるファイル名としても使用されているので、それらを確認してください。
紙定款と電子定款どちらの場合でも、原始定款は基本的には公証役場が20年間保管してくれているので、公証役場で再発行の手続きを行えば問題ないのですが、法務局で保管してある原始定款を閲覧し再作成するという方法もあります。
法務局では定款は附随書類として保管されているので、閲覧する場合には附属書類閲覧申請という手続きを行ってください。なお、公証役場での再発行申請と同様に当事者、利害関係者もしくは代理人しか行うことができません。
次に、会社にとって最新バージョンの定款である現行定款の紛失への対処方法です。
会社の業務として使用するのは現行定款であることが多く、かつ先述のとおり現行定款は原始定款とは異なり公証役場や法務局などで保管されているとは限りません。そのため、むしろ現行定款を紛失した場合の方がやっかいな問題といえるでしょう。
先述のとおり、現行定款は最新の定款変更の内容により、法務局などにも提出している場合と、そうでない場合とがあります。それぞれの場合で対処方法も変わってきますので、自分の会社の状況に合わせた対処を行ってください。
最新バージョンの現行定款を法務局などにも提出していることが明らかな場合には、先述の現行定款の再作成と同様に、法務局などに出向いて閲覧を申請し、それをもとに再作成を行いましょう。
もし現行定款を法務局などには提出していなかった場合には、株主総会の議事録を遡って確認し、定款変更が行われた際の議事録をもとに最新バージョンの現行定款を再作成してください。
株主総会の議事録を作成することは会社法施行規則第72条に定められている法的義務ですので、議事録を正しい内容で残してあれば、それを遡ることで必ず最新の定款変更を確認することができるはずです。
もし会社設立時や定款変更の際に行政書士や司法書士などに書類作成や申請等の代行業務を依頼していた場合には、行政書士や司法書士などの事務所に定款のデータが記録として保管されている可能性もあります。
公証役場や法務局にも保管されていないなどの場合には事務所に連絡をとり確認してもらいましょう。
もし公証役場や法務局あるいは行政書士などの事務所にも定款がない場合には、会社の登記情報や株主総会の議事録などの情報を元に定款を再作成することになります。
再作成の手順としては定款の変更と同様に株主総会で決議をとることになります。ただし定款の変更とはちがい登記情報や株主総会議事録などから情報をまとめる作業は骨が折れますし、何より定款は会社の憲法ともいうべき重要な文書なので、その内容には万全を期すべきでしょう。
ですから、司法書士や行政書士に支援してもらうことをオススメします。
今回は定款を紛失した際の対処方法について、原始定款と現行定款それぞれで具体的にご紹介してきました。
原始定款は公証役場もしくは法務局に保管されている可能性が高いので再発行等の申請を行ってください。
現行定款は法務局に保管されていれば閲覧することで再作成することができます。
万が一定款がどこにも保管されていない場合には、司法書士や行政書士に支援してもらいながら定款の再作成を行ってください。
また、そもそも定款は会社にとって重要な文書です。二度と紛失することのないよう管理方法を見直すことも忘れないようにしましょう。
画像出典元:PhotoAC, Burst