M&Aは、シェア拡大や収益向上など、成功すれば大きなメリットを得られますが、失敗するリスクも大きい取り組みです。
では、なぜM&Aが失敗してしまうのでしょうか?また、失敗を防ぐには何をすれば良いのでしょうか?
この記事では、M&Aが失敗してしまう原因について、企業事例とともに考察し、それを防ぐためのポイントについても解説します。
このページの目次
まず「M&Aが失敗する」とはどんな状態を指すのか、考えてみましょう。
M&A失敗の大部分がこのケースです。
M&Aに投資した金額に対して、売上や利益の拡大など、得られる経営上のメリットが小さい場合には、うまくいったとは言えません。
なかには、買収コストすら回収できず、損失を計上してしまうケースもあります。
買収コスト、特にそのうちの「のれん代」を高く設定しすぎたり、買収後のシナジー効果が期待よりも低い場合などにこうした状態になってしまいます。
買収後に、不正会計や粉飾、コンプライアンス問題といった想定外の経営リスクの発生などによって対象企業の対外的なイメージが損なわれることもあります。
特に、コミュニケーションや事前のデューデリジェンスが不足しがちな海外企業に対するM&Aを行う場合に発生しやすいケースです。
こうした事態は、対外的なイメージだけでなく、時として内部での信頼の低下や従業員の離脱にもつながりかねません。
デロイトトーマツが2013年に行った調査によれば、企業のM&Aが失敗に終わる確率は、実に64%にものぼります(※)。
また、一部の専門家によれば、実際の失敗確率はさらに高い75%とも言われています。
成功の基準にもよりますが、M&Aに取り組む企業のうち、少なくとも半分以上は目標を達成できていないというわけです。
それだけM&Aで成功して利益を出すのは難しいのです。
※M&Aにおける目標の達成度が80%を下回っている企業の割合
多くの企業が失敗するM&Aですが、その原因ははたしてどこにあるのでしょうか?
買い手と売り手、それぞれ詳しく解説していきます。
買収の目的や戦略が曖昧なままM&A自体が目的化してしまうと、成功するのは難しくなってしまいます。
など、ゴールはさまざま考えられますが、事前にできる限り綿密に設計し、社内で意思統一しなければなりません。
対象企業の選定や、その企業に対する調査を行うデューデリジェンスの徹底も、M&Aの成功を左右します。
事前のデューデリジェンスが不足していると、のれん代や企業価値を正確に評価できない、簿外債務や隠れた経営リスクなどを見落とすといったリスクがあります。
買収金額や経営状況はのちの収益性に直結するため、コストや時間をかけて調べるべきポイントと言えるでしょう。
買収後の統合プロセス(Post Merger Integration)がうまくいかないと、シナジー効果が思うように創出できず、結果的に利益が得られません。
経営層だけでなく、実際に現場で働く従業員の働き方や環境、意識まで統一できないとM&Aの失敗確率は高まります。
経営方針、組織構造、業務規定、ITインフラなど、統合すべき内容は多岐にわたり、実は難易度が高いポイントです。
買い手の評価や提示額、条件をそのまま受け入れてしまうと売却益が小さくなるばかりか、自社の価値を損なうことになってしまいます。
また、買収後の統合プロセスやシナジー創出戦略なども、相手の都合の良い説明に終始して実態がわからないまま進んでしまうと、さらにリスクが大きくなります。
売り手側の業績が悪かったり、企業規模が小さい場合などはこうした状況に陥りがちです。
売却に不利な情報はなるべく隠しておきたいのが人間の心理ですが、長期的に企業価値を高め、M&Aを成功させるためには、むしろ逆効果です。
帳簿外の財務リスクやコンプライアンス問題、業務の実態に関しては、ありのままの状態を伝えるようにしましょう。
そのほかにも、必要な情報は全て提供し、買収プロセスがスムーズに進むように協力することが重要です。
買い手、売り手ともに、株主や役員会で意思統一ができておらず、企業内部の目線が一致していない場合には失敗のリスクが高まります。
交渉が途中で滞って売り時を逃したり、M&A後の統合プロセスに支障が出てシナジー効果の創出がうまくいかなくなってしまいます。
特に親族経営の中小企業などは、こうした問題が原因でM&Aに失敗することが多いようです。
M&Aが失敗する原因をより詳しく理解するために、企業における失敗事例を見ていきましょう。
パナソニックは「グローバル競争力の強化に向けたシナジー効果の最大化」を目的に、2009年に三洋電機を約6,600億円で買収。
のれん代はなんと5,180億円にものぼりました。
しかし、三洋電機の主力事業だったリチウムイオン電池の事業価値が、円高をはじめとした環境悪化のせいで大きく損なわれ、企業価値が半減。
結果、パナソニックは買収から2年後にのれん代のうち2,500億円を減損処理することになってしまいました。
キリンホールディングスが失敗したのは、海外企業のM&Aです。
2011年11月に、ブラジル国内2位のシェアを誇るビール会社「スキンカリオール」を3,000億円で買収しました。
しかし、現地通貨の価値下落や他社との競争に敗れた影響から、シェアは3位に後退。
15年12月期決算では1,100億円の減損を計上し、17年6月には770億円でオランダのハイネケングループに事業を売却するという結果になりました。
大手総合商社の丸紅も、海外企業のM&Aに失敗しています。
アメリカの穀物メジャー「ガビロン」を約2,800億円、うちのれん代1,000億円で買収。
しかし、当初期待していた、ガビロンら米国の複数拠点での穀物集荷事業と、中国を中心としたアジアでの販売網の相乗効果がすぐに得られず、2015年3月期の決算では、1,200億円の減益損失となりました。
LIXILは、グローバル戦略の一環として、2011年から2014年にかけて、中国、イタリア、ドイツ、南アフリカの企業を次々と買収しました。
しかし、「海外子会社について実態をしっかり調べたり適切に管理したりできる人材」がおらず、経営を現地経営陣に任せたままに。
結果、軒並み業績悪化や不祥事に見舞われてしまいました。
DeNaは2014年に、キュレーションサイトを運営する「iemo」と「ペロリ」を合計50億円で買収。
そのノウハウを活かして独自のキュレーションプラットフォームを立ち上げました。
しかし、そのうちのひとつである医療情報サイト「WELQ」に根拠の乏しいコンテンツが大量に掲載されていることが発覚し炎上。
結果的にプラットフォームの全てのサイトを閉鎖する事態になってしまいました。
続いて、中小企業における失敗事例も見ていきましょう。
運送業を営むA社は、社長の加齢と後継者の不在から、M&A専門業者にマッチング支援を依頼し、同地域内のB社とのマッチングが実現。
しかし、会社を手放すのが惜しくなった社長がB社によるデューデリジェンスに協力せず、B社に対して経営権に関する無茶な要求をするように。
結果、B社は不誠実な対応に嫌気が差し、信頼関係が損なわれたことを理由にA社とのM&Aを断念、交渉を中止してしまいました。
金融機関からの借入でなんとか事業を継続していたものの、社長の加齢に伴い満足に営業できなくなってしまったA社。
顧客も少しずつ離れており、さらに資金繰りは日に日に悪化していき数ヶ月以内に資金繰りが尽きることが見込まれる状況に。
弁護士に相談し社外の第三者に事業を譲り渡そうと決意しましたが、買い手を探す時間的な余裕がなく、結果、資金繰り悪化に耐えきれず破産してしまいました。
副社長がM&A専門業者を介して買い手を探していたA社。
しかし、3代続く家業を第三者に譲ることに反対していた社長が激怒し、副社長を辞任させ、交渉を打ち切ってしまいました。
結果、A社の従業員は、経営陣の内紛に不安を感じ退職者が急増。
売上も伸びず、徐々に事業規模を縮小していき、最終的には廃業に至りました。
A社では、M&A専門業者を介してB 社とのマッチングが実現。
基本合意を締結し、あとは最終契約に向けて交渉を詰めていく段階に至ったものの、代表が従業員や一部取引先にM&Aに関する情報を漏えいしてしまいました。
B社はそれを知って激怒し、信頼関係が破壊されたことを理由に、その後のM&Aに関する交渉を打ち切るという結果に終わりました。
企業事例を参考に、改めてM&Aで失敗しないために重要なポイントを整理しましょう。
具体的なM&Aのプロセスに取り組む前に、明確な目的と戦略を定めることが重要です。
なぜM&Aを行いたいのか、どのような成果やシナジー効果を期待しているのかを明確にしましょう。
これにより、ターゲット企業の選定や統合プロセスの策定における方向性を明確化し、M&Aを成功させるための合理的な判断を行うことが可能になります。
M&Aの成功には、適切なターゲット企業を選定することは欠かせません。
事前に検討した目的や戦略をもとに、自社との相性やシナジー効果の高さ、企業ポテンシャルなどを考慮して絞り込みを行いましょう。
また、業界や市場のトレンド、競合他社の動向についても分析し、長期的な目線で選定することが重要です。
対象企業が決定したら、財務面、法務面、人的資源、技術など、さまざまな側面から情報収集と評価を行います。
その際、対象企業への情報提供を依頼して、できる限り実態に近い情報をタイムリーに入手することが重要です。
ここで決算書や帳簿に載らないリスクをしっかり特定できるかどうかで成功が左右されるため、徹底的に調査を行いましょう。
M&Aは複雑なプロセスであり、失敗を避けるためには経験と専門知識が求められます。
M&A専門のアドバイザーや、法律専門家、財務アナリストなどの専門家のサポートを受けるのも有効な手段です。
また、中小企業であれば、M&A専門のマッチングサイトを利用するのもひとつの手です。
コストはかかりますが、業績や企業価値に直結する判断であることを考えれば、決して無駄にはならないでしょう。
最後に、M&Aで成功した企業の事例を紹介します。
失敗を避けるためのポイントを押さえたうえで、ぜひ参考にしてみてください。
2003年に「楽天トラベル」の規模拡大のため、競合他社のマイトリップ・ネットを約323億円で100%子会社化。
業界1位、全体の約7割にのぼるシェアを手に入れました。
すでにシェアを得ている競合他社をM&Aすることで、スピーディーに業界での地位を確立する極めて効率的な手法と言えます。
2017年に医療機器開発の米スタートアップ「ヴァイオス・メディカル」を、三角合併の手法を用いて約114億円で買収。
主力だった電子部品分野に加えて、安定的に収益を期待できるヘルスケア・メディカル分野の新規事業立ち上げの足がかりとしています。
比較的低コストで買収可能で、かつ技術力に優れたスタートアップ企業の買収は、非常にコスパの良いM&Aと言えるでしょう。
2019年に約4,000億円でZOZOの株式のうち50.1%をTOB(公開買付)で取得し子会社化。
買収コストは巨額ですが、これによってヤフーはeコマース事業の利益拡大を実現し、ZOZOの持つ物流インフラ「ZOZO BASE」も手に入れました。
売り手の持つ資産やインフラに注目してM&Aが行われるのもよくあるケースです。
個別指導学習塾を経営するA社は、インターネット上のM&Aプラットフォームを利用して事業譲渡先を選定。
理想的なスキルを持つ学習塾の創業希望者とマッチングし、低コストでのM&Aを実現。
廃業を避け事業承継を行うことができました。
靴の小売店を営むA氏は、加齢に伴って引退、廃業を考えていましたが、事業承継の個別説明会に参加することでM&Aという選択肢を知りました。
さらに事業引継ぎ支援センターにて譲り受け相手を見つけ、事業譲渡を実現。
M&Aや事業承継は、企業だけでなく個人事業主にとっても有効な選択肢になり得ます。
M&Aは、企業の大きな成長を実現できる一方で、失敗する確率も高いのが特徴です。
失敗を避けるためには、企業事例から学び、以下のようなポイントを押さえて進めるのが重要です。
M&Aを検討している方は、成功確率を高めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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