企業買収の手法の1つであるLBO。かつてライブドアがフジテレビを買収しようとしたときも、このLBOが使われる予定でした。
LBOは理解しようとしても仕組みが複雑で難しいイメージかもしれません。
今回はそんなLBOについて、LBOとはどういったものか、LBOの仕組みやメリット・デメリット、成功と失敗の事例について徹底的に解説していきます。
このページの目次
LBOは、Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)の略のことで、企業の買収方法の一つです。
レバレッジは梃子(てこ)を意味し、バイアウトは「買収」を意味します。重量が大きな物を動かす時にてこの原理を利用すると、小さな力で大きな物を動かすことが可能となりますが、その状態に例えられてそう呼ばれています。
要するにLBOとは、少ない自己資金で大きな企業買収を行うことを指しています。
どうやって少ない自己資金で大型買収を行うの?
少ない自己資金で大きな企業買収を行うLBO。一体どのような仕組みなのでしょうか。
LBOは外部からの借入金を使って、M&A(企業買収)を行う方法です。
借入金を使うことで、自社で負担する資金を抑えて、大きな企業を買収することができます。
例えば1億円の企業を買収するときに、3,000億円しか自己資金がない場合でも、残り7,000億円を借金で補って買収することができるということです。
しかし、この借金が自社の資産を担保とした普通の借金であれば、普通のM&Aと大きな差はありません。そもそも企業の自己資金とは、銀行などから借りたお金であることが普通だからです。
LBOの最大の特徴は、借金の担保に買収先企業の資産・キャッシュフローを使うということです。買い手企業が借金を自分で返済するのではなく、これから買収する企業の持つ資産や将来の収益を返済原資にするのです。
借入金の返済は、M&Aが成功したあとに被買収企業が行っていくということになります。
LBOの仕組み(イメージ)
以下にLBOの仕組みをあらためてまとめます。
LBOのポイントとなる借入金ですが、借入金の返済を被買収企業が担うという特色に加え、もう一つ特徴があります。
それは、借入金の返済義務が被買収企業に限定されるという点です。すなわち、被買収企業が借金を返済しきれなくなっても、買収企業に借金の返済義務が発生することはないのです。
このため、買収企業のリスクは買収時に支払った自己資金の分だけに限定されることになります。
このように、責任範囲が限定された借入金のことをノンリコースローンと呼びます。ちなみにリコースとは「遡る」という意味です。
ノンリコースローンはお金を貸す側からすると回収できないリスクが高いので、一般的に金利は高めに設定されます。
LBOでは、買収される企業(被買収企業)が借金を返済します。
そのため、被買収企業にある程度キャッシュを稼ぐ力がないと、LBOという買収方法はうまくいきません。
すでにぎりぎりの経営を行っている会社をLBOで買収してしまった場合、利子の返済で経営がさらに圧迫され、買収した会社がつぶれてしまうということもあります。これがLBOの失敗です。
LBOの買収対象としては、安定した収益が見込めるストック型収益の割合が高い企業が向いているといえます。
LBOは、PEファンドでよく使われるM&A手法としてよく知られています。
PEファンドは主に会社を安く買収し、高く売却することで収益をあげる投資会社です。
PEファンドでLBOが使われるのは、LBOの活用によって投資利回りを上げることができるからです。
どうして利回りが上がるの?
簡単な例で考えてみましょう。
例えば、100億円で買収した企業を1年後に120億円で売却することに成功したとします。この場合、1年間で20億円もうけています。
これを普通に100億円すべてを自己資金で行った場合、年間の利回りは20%です。
しかしLBOを使って、自己資金50億円で買収していた場合はどうでしょう。50億円に対して20億円のもうけですので、利回りは40%ということになります。
LBOを活用することで利回りが2倍になったのです。
実際はここまで単純ではないですが、PEファンドがLBOを活用する理由はなんとなく理解できたのではないでしょうか。
次はLBOのメリット・デメリットについてみていきましょう。
LBOのメリットを、買収企業・被買収企業の株主・(お金を貸す)金融機関の立場からみていきましょう。
買収企業からみた一番のメリットは、少ない自己資金・限定されたリスクで大きな企業買収を行えることです。
LBOを仕掛けるのは買収企業なので、LBOの最大のメリットはここにあるといえます。
被買収企業の株主は、買収企業に株主を売り渡すことになります。
通常株価を高めに設定して買収が行われるので、被買収企業の株主は金銭的に利益を得ることができます。
金融機関からすると、高金利でお金を貸すことができるのが最大のメリットです。
さきほども解説したようにノンリコースローンの金利は高めなので、LBOは金融機関にとって魅力的な融資案件である場合が多いです。
メリットの裏にはもちろんデメリットもあります。
買収された企業は、LBO後には高い借入金利を背負うことになります。
想定どおりに経営の改善ができなかった場合、利子の返済に手一杯で買収企業の業績が低迷したり、つぶれたりする恐れがあります。
買収企業からすると、せっかく買った企業の価値がさがれば損をしたことになります。
利子の負担がある分、被買収企業の経営改善の難易度が上がるというのがLBOのデメリットです。
M&A一般についていえることですが、買収されたあとは企業の経営に関わることができません。
少ない資金でも買収される恐れがあるというのは、被買収企業の株主からすると大きなリスクだといえます。
ノンリコースローンであるため、貸したお金を全額回収できないリスクが高いというのがデメリットです。
LBOの概要を解説してきましたが、より具体的なLBOの仕組み、実際の流れをみていきましょう。
LBOの仕組み
LBOを行う場合、まず最初に買収企業の受け皿となるSPC(特別目的会社)を設立します。買収を行う企業から100%出資された完全子会社として設立されます。
このSPCはペーパーカンパニー(実体を伴わない会社)です。
手続き上は、このSPCが買収対象企業の株式を買い取ることになります。
買収対象企業の資産価値やキャッシュフローを調査し、金融機関からの借入金の担保とします。
ここで行う調査はとても重要です。買収対象企業の資産価値や将来見込まれるキャッシュフローに不安が認められる場合は、融資を受けられない可能性があるからです。
またここでの見積もりが楽観的すぎると、LBOの実施の失敗につながることになります。
無事に調査が終われば、金融機関からSPCへ融資が実施されます。
集めた資金で買収を実施します。LBOでは対象企業の100%の株式を取得し、完全子会社とします。
買収が完了した後、株式対象企業とSPCの合併を行います。合併により買収対象企業を非上場企業とし、他社の参入を防ぐのが目的です。
この合併をもってLBOは完了となります。
LBO完了後、被買収企業が借入金の返済を行っていきます。理想的な経営改善を行われれば、返済はスムーズに行われていくことになります。
LBOの国内での代表的な成功例です。
2006年、1兆7000億円でソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収しました。とても有名な事例なので、ご存知の方も多いことでしょう。
1兆7000億円のうち1兆円は借入金として調達した資金で、有利子負債(利子をつけて返済しなければならない負債)も大きな金額となりました。
ソフトバンクはボーダフォン日本法人の設備を利用し、携帯電話市場に進出し、携帯市場を圧巻しました。2018年にはソフトバンクグループの子会社で、通信事業を行っているソフトバンクが上場を果たしたことを考えると、このLBOは成功だったといえるでしょう。
携帯事業事業は契約を結んでいれば継続して一定の収益が見込めるので、LBOに向いていたといえます。
こちらは失敗例です。
ダイセンホールディングスが、SBIキャピタルから借入を行ってLBOを実施しました。
買収対象企業のさとうベネックは、借入金を返済することができず黒字倒産してしまいます。金融機関から貸し渋りにあったことが原因でした。LBOのリスクが現れてしまった事例で、LBOは慎重に検討し行うべきであることを物語っています。
MBOは(Management Buyout)の略で、M&Aのスキームの一つです。
MBOでは、経営陣により自社の株式や事業を買収します。
上場企業を非上場にする際や、会社の中の一事業をスピンアウトさせる際に用いられます。
一般的に経営陣は手持ち資金が不足しがちなので、MBOにおいてLBOの手法が用いられることがよくあります。
少ない資金で大きなリターンを得る可能性のある手段であるLBOですが、上手く活用することでローリスク・ハイリターンも実現可能となります。
一方で、LBO実行後の経営改善が実行できない場合は、十分なリターンが得られないといったリスクもあります。
LBOを実行する場合は、買収対象企業の入念な調査と慎重な検討を重ねていくことが非常に重要です。
画像出典元:Pexels
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