「使用人兼務役員」は一般には聞き慣れない役職ですが、取締役営業部長や取締役総務部長等がこれにあたります。
中小企業等では役員でありながら、従業員としての業務も行っていることは珍しくありません。
このような地位に当たる人の報酬に対し、役員報酬として一律の制限をかけるのではなく、実態に合わせた取り扱いとするのが「使用人兼務役員」です。
この記事では「使用人兼務役員」について、理解の助けになる内容をご紹介します。
このページの目次
「使用人兼務役員」とは、従業員(使用人)としての肩書(職制上の地位)を持ちながら「役員」としての職務も行っている人を指します。
役員は会社法で定められた会社の機関であることから、役員と認められるためには規定があり、使用人も労働基準法等に定められた法的な枠組みが定められています。
また、給与を損金にできるという点で税法の規定も関わり、「使用人兼務役員」はこれらの法令を理解することが必要です。
「使用人」は会社と雇用契約を結び、労働を提供する対価として会社から給与を得る人を指します。
会社の指揮命令によって業務を行う立場です。
「使用人」は従業員や社員のことを指しますが、会社法で定められていない執行役員は会社と雇用関係にあれば従業員にあたります。
また、社員といった場合には、株式会社の株主や社団法人の構成員を指す場合もあります。
「使用人」は労働基準法が適用されるため雇用保険・労災保険に加入することができ、容易に解雇することができません。
会社法上の「役員」は取締役、会計参与、監査役を指し、会社との契約関係は委任契約です。
「役員」は「使用人」に対して「使用者」となり、会社を経営する側の立場にあたります。
「役員」は株主総会で選任され、任期が設けられています。
株主総会の決議により、いつでも解任することができます。
「使用人兼務役員」は「役員」と「使用人」の両方の地位を与えられているという点が、「役員」との違いです。
「使用人兼務役員」に支給される報酬・給与の扱いに使用人としての規定も適用されます。
役員報酬は定款または株主総会で決定されます。
それに対し、「使用人兼務役員」は役員報酬と使用人としての給与を合算したものが支払われます。
ただし、役員報酬の部分の額を使用人としての給与の額が上回っていること、合計金額が不相当に高額ではないことを満たさなければ、使用人部分の給与に対して損金算入が認められません。
「役員」の賞与は損金不算入ですが、「使用人兼務役員」の使用人部分の賞与については損金算入が認められています。
ただし、以下の条件が定められています。
(1)支給時期は他の使用人に対する賞与と同時期であること
(2)損金処理はその事業年度に行われること
(3)他の使用人への賞与の支給状況に照らし、妥当な金額であること
使用人兼務役員の報酬や退職金に明確な相場はありません。
法人税では原則として、使用人兼務役員と「類似する職務に従事する使用人」がいれば、その使用人に支払った給与が「使用人としての適正な給与」とされています。
使用人兼務役員は、まだ使用人としての職務もあるため、使用人の部分については退職金を支給されないのが一般的です。
使用人兼務役員から、使用人と兼務できない役員(常務や専務など)になってはじめて、使用人であった時の退職金が支給されます。
(使用人分の給与の適正額)
9-2-23 使用人兼務役員に対する使用人分の給与を令第70条第1号ロ《限度額等を超える役員給与の額》に定める役員給与の限度額等に含めていない法人が、使用人兼務役員に対して使用人分の給与を支給した場合には、その使用人分の給与の額のうち当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人に対して支給した給与の額(その給与の額が特別の事情により他の使用人に比して著しく多額なものである場合には、その特別の事情がないものと仮定したときにおいて通常支給される額)に相当する金額は、原則として、これを使用人分の給与として相当な金額とする。
この場合において、当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務の内容等からみて比準すべき使用人として適当とする者がいないときは、当該使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額、その後のベースアップ等の状況、使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額等を参酌して適正に見積った金額によることができる。(昭55年直法2-8「三十二」、平19年課法2-3「二十二」により改正)
出典:「基本通達・法人税法9-2-23」国税庁HP
「役員」は雇用保険・労災保険に加入することはできませんが、「使用人兼務役員」は雇用保険に加入することができます。
「使用人兼務役員」が労働保険に加入するためには、ハローワークから被保険者の認定を受けることが必要です。
以下の要件を満たす必要があります。
1. 就業規則の適用を受ける
2. 勤務場所・勤務時間に制限があり勤怠管理されている
3. 使用人としての給与額が役員報酬額を上回る
また、認定には「兼務役員雇用実態証明書」のほか、労働者としての実態を証明する「就業記録」や「賃金台帳」、役員として実態を証明する「登記簿謄本」や「取締役会議事録」など多くの書類が必要です。
労働者性のほか、業務執行権の比重も認定の判断基準となります。
役員は登記しなければ役員としての対外的な効力はありません。
「使用人兼務役員」は「役員」と同様に法人登記簿に氏名を載せることになります。
また、執行役員を「使用人兼務役員」とする場合は、会社法で定められた機関ではないため登記の必要はありません。
ただし「みなし役員(※)」である場合は除外されます。
※「みなし役員」:法人の使用人以外で経営に従事しているもの、または、同族会社の使用人のうち特定の条件を満たすもの
「使用人兼務役員」は、役員としての役割と使用人としての仕事を同時に与えられている立場といえます。
役員である以上、役員としての義務と責任を負い、そのうえで使用人としての業務も行うことになります。
役員は取締役、会計参与、監査役が該当します。
会社法のなかで会社と取締役は民法の委任に関する規定が適用され、取締役には以下の義務と責任が課せられます。
役員である取締役は、会社からの委任を受けて会社の利益を追求するために、違法行為や著しく不合理な経営判断を行わないよう、善良な管理者として注意を払う義務を負います。
取締役は株主総会の承認を得なければ、会社の事業と競合するような取引を行ってはならないとする義務があります。
原則として、取締役は株主総会の承認を得なければ会社と取引ができません。
会社が取締役の債務を保証する場合など、会社と取締役の利益が相反する場合も同様です。
取締役は、その任務を怠って会社に損害を与えた場合は、会社に対して損害賠償を行う責任を負います(任務懈怠責任)。
任務懈怠責任は原則過失責任ですが、自己の利益のための利益相反取引を取締役が行った場合は無過失責任(故意や過失がなくても責任を負うこと)となります。
「使用人兼務役員」は役員としての仕事に加え、従業員としての業務も担います。
「使用人兼務役員」の従業員(使用人)としての地位については、法人税基本通達9-2-5で次のように定められています。
法第34条6項
《使用人兼務役員》に規定する「その他の法人の使用人としての職制上の地位」とは、支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる地位をいう。したがって、取締役等で総務担当、経理担当というように使用人としての職制上の地位でなく、法人特定の部門の職務を統括しているものは、使用人兼務役員には該当しない。
つまり、役員である取締役が特定の部門を統括する役割を担っている場合は「使用人兼務役員」には該当しないことになります。
◯◯担当取締役といったケースがこれにあたります。
取締役〇〇本部長といった場合も〇〇部門を統括している立場にあるため「使用人兼務役員」には該当しないことになります。
それに対し、取締役〇〇部長は〇〇部長という使用人としての職制上の地位が与えられていることになり「使用人兼務役員」に該当します。
「使用人兼務役員」を置くメリットは、会社側にとってのメリットと「使用人兼務役員」となる本人のメリットがあげられます。
会社側のメリットとしては、納税対策として損金を増やせることです。
「使用人兼務役員」本人のメリットは、使用人の立場として享受できる点が当てはまります。
「使用人兼務役員」を置く会社にとって最も大きなメリットです。
役員報酬は定期同額給与と事前確定届出給与という条件を満たさなければ、損金(税額を計算する場合の費用部分)にすることはできません。
「使用人兼務役員」の給与は役員報酬と使用人としての給与を合算したものですが、「使用人兼務役員」として認められれば使用人部分の給与を損金として計上することができます。
損金を増やすことは所得を減らすことになるので、結果として節税をすることにつながります。
「使用人兼務役員」の給与に関連する会社側のメリットとしてもう1つあげられるのが、使用人部分の給与は変動させることが可能なことです。
役員報酬は期中を通じ同額としなければならないのが原則です。
使用人部分の給与は従業員としての給与であり、勤務実態に合わせて変動させることができます。
使用人部分の賞与も役員報酬のような事前確定届出は必要ありません。
「使用人兼務役員」と「役員」の違いであげた労働保険に加入できることのほか、有給休暇や残業等割増賃金について一般従業員と同じ会社の制度・規則が適用される点も、「使用人兼務役員」本人のメリットです。
「使用人兼務役員」本人のメリットとして、役員の任期満了で再選されない場合、あるいは、役員を解任された場合に、使用人としての地位は残るため、そのまま会社に在籍することができます。
「使用人兼務役員」本人のメリットとなる部分が、会社側としてのデメリットであると考えることができます。
さらに、「使用人兼務役員」と認められるための法令が細かいことなど、手続きの部分を含めて煩雑な部分がデメリットです。
「使用人兼務役員」本人のメリットとしてあげられたものが、会社側にとってはデメリットになるという考え方ができます。
労働保険関係や有給休暇、割増賃金は会社側にとっては費用を増やすことだからです。
最終的には、損金に算入できる金額とこれらのコストのバランスを見た結果として、どちらが会社にとってメリットが大きいかという判断になります。
「使用人兼務役員」になれない人に定められているとおり、納税の際に「使用人兼務役員」として認められるには、細かい規定をクリアしなければなりません。
労働保険を申請するだけでも、就業記録や賃金台帳、労働者名簿など、多くの書類等が必要となり、手続きの面でも手間がかかります。
税法上では「使用人兼務役員」となれない人が規定されています。
役員報酬は利益操作に利用されることのないよう厳しい規定が設けられるのに対し、「使用人兼務役員」は使用人部分の給与があるため柔軟に金額を設定できます。
しかし、役員のなかでも主要なポストについては厳しく規定する必要があるため、この規定が設けられています。
代表取締役、委員会設置会社の代表執行役、公益法人や非営利法人の代表理事など代表権を持つ地位にある人と清算人は「使用人兼務役員」にはなれません。
各企業独自の職制による副社長、専務、常務などに該当する役員は「使用人兼務役員」にはなれません。
副社長、専務、常務といった役職は会社法で設置義務のある機関ではありませんが、役員のうちこれらの職制が与えられている人はなれないということです。
CFOやCOOといった職制上の肩書がある場合も、「使用人兼務役員」にはなることができません。
合名会社、合資会社、合同会社を総称して持分会社といいます。
株式会社の取締役にあたる持分会社の定款で定められた業務執行役員は「使用人兼務役員」にはなれません。
役員のうち会計参与と監査役、委員会設置会社の取締役、公益法人・非営利法人などの監事は「使用人兼務役員」になれません。
(1)50%超の保有割合を持つ株主グループに属している
(2)属する株主グループが10%超の保有割合を持つ
(3)本人と配偶者の所有割合の合計が50%超であり、かつ、「使用人兼務役員」となるいずれかの保有割合が5%超の場合
わかりにくい規定ですが、株式の保有割合によって同族会社の役員と判断される場合は、「使用人兼務役員」にはなれないということです。
中小企業等では経営の意思決定に関わる役割を果たしながら、現場の業務にも携わっている従業員は少なくありません。
「使用人兼務役員」は、そのような従業員に対してふさわしい地位を与えるものと考えられ、税務上のメリットもある制度です。
規定や手続きの面で専門的な知識が必要となりますが、税理士等専門家に相談したうえで活用したい制度です。
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