「カニバリゼーション」という言葉を耳にしたことはありますか。
マーケティング用語としてよく使われていますが、市場において同一企業の商品や店舗でお互いの売上を奪い合ってしまう「共食い」の現象のことを言います。
あまり良い意味では使われていないカニバリゼーションですが、避けることが可能です。また、戦略的に活用することもできます。
今回は、カニバリゼーションについて、避けるための対策や活用方法のほか、活用事例についても詳しく紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
カニバリゼーション(cannibalization)とは、同一企業などにおいて新しい商品やサービスを市場導入した結果、既存のものの売上や市場シェアが減少するさまを指します。
例えば、近隣に同一系列のコンビニエンスストアやチェーン店を複数出店させたり、同一企業から類似するブランド商品をいくつも販売したりして、顧客を取り合う現象が挙げられます。
モノやサービスがあふれている現在、その価格や機能が酷似してしまうとターゲットが同じになるため、カニバリゼーションが起こってしまうのです。
一般的に、カニバリゼーションには2つのパターンが存在します。
意図せずに発生して企業に不利益をもたらしてしまう「意図しないカニバリゼーション」と、戦略的に発生させる「戦略的カニバリゼーション」です。
意図しないカニバリゼーションは、新しく商品やサービスを市場投入する際に、ポジショニングがうまくいかなかったり、流通チャネルが統制できていなかったりすることによって発生します。
ビール業界では、酒税の安い発泡酒を販売することにより、新たな顧客の取り込みと売上拡大を図りました。しかし、顧客がビールから安価な発泡酒を購入するようになっただけで、同一企業内でビールと発泡酒とで売上を奪い合うことになったのです。
また、飲食店などでは店舗拡大による売上増加を目指して、急激に店舗数を増やしたところ、同一商圏に何件も同じ店舗を展開することとなり、それぞれの店舗が顧客を奪い合った結果、共倒れしてしまうケースもあります。
このように、事前のリサーチ不足や不十分なプランのほか、市場の変化などが原因で、意図せずにカニバリゼーションが発生することがあります。
企業に悪影響を及ぼしかねないカニバリゼーションですが、自社の市場を堅固にし、競争力を強化するため、戦略的にわざとカニバリゼーションを発生させるケースもあります。
競合他社の市場参入を阻むために、自社商品のシェアを拡大させて市場の独占を図れば、その市場は堅固なものになります。ただし、一社のみでシェアを獲得すると、競争がなくなることで市場が硬直してしまい、市場全体が廃れるおそれがあります。
しかしながら、戦略的にカニバリゼーションを発生させると、自社の商品の間で競争することになり、それぞれ切磋琢磨し合って活性化し、市場が硬直しづらくなるのです。
企業に不利益となるカニバリゼーションを避けるためには、どのような方法をとるべきなのでしょうか。
ここで、カニバリゼーションを避ける方法について、詳しく説明します。
まずは、しっかりとペルソナを設定することが大切です。
企業が提供する商品やサービスについて、正しくペルソナを設定せず、ターゲットを曖昧にしていると、カニバリゼーションが発生する可能性が高くなります。
何故なら、曖昧にペルソナを設定してしまうと、多くの人がターゲットとなり、見当違いの人たちが流入してくることになるからです。
カニバリゼーションの発生を防ぐためには、企画段階でのリサーチ、テストマーケティングによる検証などによって、ターゲティングやポジショニングの精度を上げることが必要になります。
しっかりとペルソナを設定すれば、企業の利益拡大へとつながることでしょう。
新しい商品やサービスについて、既存のものとの差別化を図ることも重要です。用途が酷似していたとしても、差別化することでカニバリゼーションを防ぐことが可能です。
例えば、Appleの「iPod touch」と「iPod shuffle」がありますが、いずれも音楽プレイヤーとして発売されているものの、うまく差別化が図られているのです。
「iPod touch」は、iPhoneから電話機能を省いたような商品ですが、ディスプレイが大きいため、音楽を聴くほかに動画やゲームを楽しむこともできます。
一方「iPod shuffle」はボタンのみの機器ですが、付属のクリップで服に固定して、音楽を聴きながらランニングや運動を楽しむことが可能です。
このように、商品やサービスの特性や価値を活かすことで差別化を図れば、新商品やサービスの販路拡大に成功できるのです。
カニバリゼーションを防ぐには、企業内で意思疎通を行うことも大切です。
カニバリゼーションは、自社内で何種類もの商品やサービスを作り出すことが可能な規模の大きい企業において発生する可能性が高くなるのです。
企業規模が大きくなると、うまく部署間の意思疎通ができなくなることもあります。
同じ企業内で類似する商品やサービスをそれぞれ開発してしまった場合、情報共有やコミュニケーションができていないと、カニバリゼーションが起こる原因になります。
カニバリゼーションを未然に防ぐためには、企業内で活発に意思疎通を行う必要があるのです。
デメリットの印象が強いカニバリゼーションですが、戦略的にうまく活用できれば、大きな効果が得られます。実際には、どのような効果があるのでしょうか。
戦略的にカニバリゼーションを活用することによって、自社ブランドのシェアを拡大することが可能となります。
販売体制の強化やドミナント戦略によって、うまく活用することができます。
グループ傘下に多数の販売子会社を持つ、多くの代理店と販売委託契約を締結するなどして販売体制を強化することにより、自社ブランドのシェア拡大が可能となります。
子会社や代理店間で競争させることで、ブランドを認知させる機会の増加や、顧客単価をアップさせるための工夫も生じるなど、シェアの拡大と同時に顧客の囲い込みも期待できます。
ドミナント戦略とは、特定の地域内における市場占有率を向上させて、独占状況を目指すという経営手法です。
特定市場や地域を限定して集中的に販売強化を行うことにより、ターゲットへのアプローチの機会が増えるため、売上やシェアの拡大へとつながるのです。
このように、自社グループ内であえて競争させることにより、営業力を高めて、シェアを拡大することが可能となります。
結果として、長期的に見て競争優位へとつながっていくのです。
前述した通り、意図的にカニバリゼーションを引き起こす活用方法もあります。
自社グループ内で競争させることにより、製品やサービスの品質を向上させるのです。
通常、企業の多角化を進める場合、市場カテゴリーごとに担当部門を分けるなどして、自社内では競争させないようにします。
この手法は、経営資源を有効活用できるというメリットがありますが、競争の機会が減ることで競合に弱くなるというデメリットがあります。
意図的にカニバリゼーションを発生させることで、味方であるはずの企業内からライバルが生まれます。
近くに競争相手がいることによって、商品・サービスの品質管理やコスト削減、販売方法、サービスなどに創意工夫をするようになります。
品質やサービス力の向上を目的としてカニバリゼーションを活用する場合、傘下グループ内のみで行うケースもありますが、外部の提携企業、委託先などでも行うこともあります。
自社内や傘下グループでは、コストがかかる一方で、管理がしやすいというメリットがあります。
提携先企業や委託先などの場合は、コストを削減しながら、優秀なパートナーを探すことが可能です。
戦略的にカニバリゼーションを活用させて、成功した企業があります。
ここでは、セブン-イレブン、トヨタ自動車の活用事例について紹介します。
大手コンビニエンスストアのセブン-イレブンは、都市部に集中して出店しています。
セブン-イレブンの大きな特徴の一つに商品の新鮮さと品揃えの多さがありますが、その実現のためには、大量同時配送ではなく少量の商品を何度も配送しなけばなりません。
効率的に配送するには、店舗間の距離が近いことが必要となるため、あえて近隣に多く出店させているのです。
近隣に店舗展開をすると、商品配送やマネージャーの巡回にかかるコストを削減できます。さらに、近隣エリアの顧客を取りこぼすことなくシェアの確保が可能です。
激しいシェア争いをしている小売チェーンの場合、顧客を惹きつける商品によるシェア獲得とコスト面での競争優位性を目指すには、ある程度のカニバリゼーションを許容していると言えます。
トヨタ自動車では、戦略的にカニバリゼーションを活用して、マーチャンダイジングの最適化を実現しています。
マーチャンダイジングというのは、消費者にとって適正な数量・価格・タイミングなどで自社の商品やサービスを提供する企業活動のことです。
国内メーカー最多の製品ラインナップを誇るトヨタ自動車は、車種数20~30である日産自動車やホンダの約2倍の車種を取り揃えています。
さらに、一つの車種の中に、性能別にさまざまなグレードを設けて、価格帯に幅を持たせています。
車種ごとにしっかりと価格帯を分けていないことからカニバリゼーションが起きますが、車種同士競争させて品質の向上を目指し、買い替え時にもトヨタでと顧客の囲い込みを狙っています。
またトヨタ自動車の販売店のうち、ネッツは若者向け、カローラは家族層、トヨペットは中・高級志向者、レクサスはハイクラスと、販売店ごとにターゲットを定めています。
しかし、販売店が取り扱う車種は限定せず、ある程度までは販売店の垣根を越えて販売が可能です。
販売店の間でターゲットが重複することとなりますが、グループ内で競争させることで、販売力やサービスの向上を目指す狙いがあります。
特定のエリア内でトヨタ自動車の販売店が飽和状態となっていても、そのエリアの顧客はいずれかの販売店から購入することとなるため、他社が入り込む余地がなくなります。
その結果、トヨタ自動車が国内第一位のシェアを維持できているのです。
カニバリゼーションと聞くと、あまり良いイメージを持たないことが多いですが、実はネガティブ要素だけではなく、ポジティブに転換できる要素も兼ね備えています。
比較的に成熟した市場で発生しやすくなるカニバリゼーションですが、戦略的に活用する場合には、安定した市場で意図的に適用するケースも見受けられるのです。
企業の利益拡大や発展を目指して、市場戦略の一つとして、うまくカニバリゼーションを活用してみてください。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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