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アダプティブラーニング(Adaptive Learning、個別最適化学習)とは、adaptive=適応性のある、と、learning=学習 の言葉のとおり、過去の膨大な学習データを解析することで、生徒一人ひとりの学習進捗度、得意分野や苦手分野、習熟度、興味関心に応じて、最適化された学習プランと教材を提供する、学習エンジンやシステム、サービスの総称をさします。
アダプティブラーニングのパイオニアと呼ばれる、米企業Knewton Inc. CEOのライアン・プリチャード氏によれば、
と定義され、IT技術を教育分野に活用するEdTech(Education Technology)の代表例として注目されています。
アダプティブラーニングは、教育業界では「理想的な教育の形」とも言われます。従来の画一的な教育では、学力の差に応じていても細やかな対応は難しく、またその内容もフォローも、指導者のスキルに依存せざるを得なかった、というのが実情でした。
しかし、アダプティブラーニングでは、一人ひとりの回答内容を分析することで、学習者個人の思考方法や弱点を発見し、弱い部分を改善することが可能となります。同じ弱点を持つ学習者同士でグループ学習に取り組ませ、力を合わせて全員で弱点を克服する、といった活用方法も実施されています。
塾の看板などにみられる「個別指導」「個別学習」も、一人ひとりの習熟度に応じた学習内容の提供という意味では似ているように思われます。ではその違いは何でしょうか。
個別学習は、年齢(学年)・テストの得点など、セグメントに応じた情報が決められており、これと個人の状況を比較したうえで学習プランを提供します。
一方で、アダプティブラーニングは、過去の学習過程で収集されたビッグデータを活用して、学習内容を「動的に」変更ができる点で異なります。
例えば、すららのように、
というサービスは、アダプティブラーニングに該当します。
アダプティブラーニングを実現する仕組みには、「ルール型」と「アルゴリズム型」の2種類があります。
「ルール型」は、あらかじめ、各問題の正解/不正解に対し次の問題を設定しておく、「場合分け」の積み重ねによる手法です。
ルール型のメリットは、きめ細やかな設定が可能となる点です。
例えば「微分積分」の理解のためには「極限」と「関数」が必要ですが、ある問題に不正解した場合、この学習者はそのどちらが弱いのかを判定し、それに応じて異なる解説を提供する、というようなことができます。
また、正解の場合でも、解答にかかった時間や何回目の解答なのか、というデータをもとに、その理解度を判定して、次の問題を変更するなども行われます。
一方で、事前に全ケースの場合分けを固定する必要があり、設計に膨大な時間がかかる点、またコース内容・問題変更の際も大きな負荷がかかる点がデメリットです。
一方、「アルゴリズム型」は、各問題の正解/不正解の結果を、「リアルタイム」に計算して動的に次の学習内容を提供する、アダプティブラーニングの理想の形式です。
ルール型で可能としている、各問題の正解/不正解に応じて解説や次の問題やを出し分けるという点では同じです。しかし、学習者の得意・弱点だけでなく、好きな学習法、理解しやすいコンテンツ、集中力が続く時間などを踏まえて、一人ひとりの「最適」を提供することができます。
ただし、アルゴリズムの精緻度合いによってサービスの質に差がうまれてしまう点、大量の計算が必要となるため、コンピューターリソースやネットワークという環境が必要である点に注意が必要です。
一人ひとりの学習特製にあわせて、最適な学習プランや教材を提供できるアダプティブラーニングには、利点しかないように思えます。これまで説明してきたメリットを整理しましょう。
さらには次のような効果もあります。
生徒同士で情報共有をすることも可能で、ゲーム要素を取りいれるなどして意欲を向上させることができる
一方で次のようなデメリットも指摘されています。
アダプティブラーニングラーニングの各サービスは、教科や分野ごと知識の相関関係を分析して類題などを判定します。
複雑で多岐にわたる相関関係をいかに精緻に加味するかなどは、サービス提供者によって異なり、すべてのサービスが完全とはいえません。
そもそもアダプティブラーニングは、学ぶ対象が電子データ化されていることが前提となります。
このため、コミュニティ活動やディスカッションなどから培う「コミュニケーション能力」や「リーダーシップ能力」、先人の「知恵」など、非言語領域を学習するのには向いていません。
アダプティブラーニングにはデメリットもありますが、やはりメリットへの期待は大きく、学校・学生という教育現場だけでなく、企業の社員教育や、生涯教育の一環として社会人を含めた個人にも、広がっています。
ここでは、こども・学生向け、社会人・個人向け、企業向けの3つに分けて、アダプティブラーニングを用いたツールをご紹介します。こども・学生向け学習ツール
小学校高学年から高校生まで、国・数・理・社・英の5教科を学習できるe-ラーニング教材です。
ゲーミフィケーションを取り入れることで、飽きずに取り組め、継続率89.1%を誇ります。
学校単位で導入している場合は、学年内での勉強時間ランキングが発表されるなど、子どもたちのやる気を高める工夫がこらされています。
ただし、問題数が少ない、入会金・月額費用が高い、という口コミも散見されます。
月額費用は3科目(国数英)8,000円、4科目(国数理社)8,000円、5科目(国数理社英)9,980円。
通塾よりは安いものの、6,000円程度の従来の通信教育よりは少々高めの設定となっています。
また、視覚に訴えるゲームタイプの問題が多いことから、スマートフォンでの受講は推奨されておらず、インターネット接続可能なタブレットまたはパソコンを用意する必要があります。
良質な通信教育で定評のあるZ会が、Knewton,Inc.のエンジンを用いて提供する、無学年制・定額制のアダプティブラーニングサービスです。
英語は単語や表現を覚え始めた初学者から、帰国子女の英語力維持まで、「話せる・使える英語」を武器に国際的な環境の中で協働できる英語力を育みます。
数学は中学~高校レベルにとどまらず、大学で教養として取り扱われる内容も踏まえて、数学を4つの領域「代数(数や式)」「幾何(図形)」「解析(関数や微積分)」「統計」に再設計した、学年やカリキュラムに縛られない、一段高い数学力を得ることができる特徴的な講座としています。
サービス開始からまだ日が浅いことから口コミは広まっていませんが、大規模なキャンペーンをせずとも総合学習は定員を超え新規受付を停止している点からも人気がうかがえます。
1カ月1教科3,950円~という価格帯も魅力ですが、iPad専用のアプリケーションである点に注意が必要です。
・Qubena(キュビナ):https://qubena.com/
・classi(クラッシー):https://classi.jp/
<中学生〜>
・スタディサプリ:https://studysapuri.jp/
・atama+(アタマプラス):https://www.atama.plus/
※同社エンジンをもとに予備校各社でサービスを提供
アダプティブラーニングサービサーの古参Cerego社が開発し、2015年よりDMM.comが譲受し運営を続ける英単語・フレーズの学習サービスです。
脳科学などの知見をもとにしたオリジナルのアルゴリズムを用い、人間の記憶に定着しやすいように問題が提供される点が特徴です。
人間が学んだことを忘れやすいタイミングで、前に正しく解答できなかった問題が出題されるなど研究が重ねられています。
ターゲットとなる単語について日本語・英語の両方で表示されたあと、「音声聞き取り」「日本語⇔英語」「スペルチェック」など、あらゆる方面から出題され、着実に記憶に残るようにプログラムされているので、ある程度英語力のある場合でも、「語彙力の伸び悩み」に悩んでいる方におすすめです。
またPC・タブレット、iPhone・Androidアプリ、全端末で学習状況が同期できる点が便利で、1つのアカウントであっても、移動中はスマートフォンで、自宅に帰ってからはPCで、といった使い分けができます。
1ヶ月1,510円で受講することができますが、DMM英会話の有料会員であれば無料で使え大変お得です。
デジタル・ハリウッドは長らくアダプティブラーニング手法を取り入れたWebデザイン講座を開講していますが、2020年10月からはオンライン講座にも展開を開始しました。
目標は同じ「Webデザイナー」でも、 その後の人生でどう役立てたいか、 そのためにはどんな課題に取り組むべきか、は、学習者によって異なります。
入学時に学習目的と学習方針を個別に策定し、インプット(リファレンス)とアウトプット(課題)の量を最適化します。
最適化はシステムではなく、経験豊富なトレーナーや講師自身がアドバイスという形で行い、学習者に伴走します。
あえて「人」を介在させることで、挫折を防ぎ、意欲を高めることに成功しているサービスです。
米サンフランシスコに拠点を置くCerego(セレゴ)は、科学的根拠に基づいて受講者に最適な学習を提供するアダプティブラーニングのプラットフォームです。
受講者の学習のパフォーマンスを計測・予測し、ベストなタイミング、難易度で最適な出題をしてくれるため、着実に知識を定着させることができます。
天文学から看護学まで、あらゆる学習コンテンツを希望の言語で作成することができ、多くの企業や組織が従業員の教育のために導入しています。
その中には米陸軍も含まれ、基本軍事訓練のトレーニング時間を40%削減することに成功したとされます。
日本ではJR西日本が、運輸関係司令員の学習に導入し効果を得ています。
列車のダイヤが乱れたときに正常なダイヤに戻すためには、多岐に渡る知識が必要です。
しかし、運輸関係司令員は昼夜問わず非常に忙しい職種のため、隙間時間に学習できることが求められました。
また、対応を間違えると危険な状況を作り出してしまうケースがたくさんあり、現在誰がどの分野の記憶定着が弱いのかを把握でき、すぐに補って底上げできるツールとして、Ceregoが採用されています。
画像参考:ソフトバンク株式会社 Future Stride<https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/technology/20170704/>
コアラーンは、人それぞれの苦手分野を分析し、個々に応じた出題で完全理解を促す完全習得型デジタル教材です。
理解が足りないとクリアできない仕組みになっており、受講者に合わせたスピードで、効果的に知識の習得ができます。
きんざいの監修の下、金融業界向けに「法務」「財務」「税務」「外為」「FP技能検定教本」「貸金業務取扱主任者」が提供されています。
三菱UFJ銀行の法人部門の人材育成を担当する「法人企画部法人アカデミー」では、コアラーンをカスタマイズしたオリジナルの自学自習システム「骨太ドリル」を導入し、効果を得ています。
銀行員には、関連する知識について、7~8割ではなく100%の理解が求められます。
解いた問題がその場で自動採点され、受講者の解答を分析し、その理解度に合わせた設問が自動的に配信されるというしくみにより、復習の効率が良い・ムダのない学習体験を提供しています。
参考:凸版印刷株式会社 事例紹介 <https://www.toppan.co.jp/solution/service/corelearn/case/01.html>
atama+EdTech研究所によれば、アダプティブラーニングの市場規模は、2019年時点でUS$2,700(約3,000億円)のところ、2025年にはUS$5,706(約6,000億円)にまで拡大すると予測されています。
日本国内の市場規模も、2025年にはUS$332(約370億円)に到達すると考えられています。
参考:〈https://edtech-research.com/blog/vol6-adaptive-learning-5select/〉
例えばタブレットやスマートフォンのインカメラを使って学習者の顔を撮影すれば、集中しているかどうかや、特定の問題に対してどのような感情を抱いたかを分析すること可能となります。
米国のClasscraftは、ゲーミフィケーションとAIを活用して、RPG型の学習システムを提供しています。
他の生徒と協力していたか、前向きに学習に取り組んだか、といった姿勢がAIで把握され、それに基づいてサービス内で「経験値」を得ることができます。
つまり、顔認識や感情分析といった技術を使うことで、これまでアダプティブラーニングの活用は難しいとされていた、「コミュニケーション能力」や「リーダーシップ能力」といった非数値化領域の学習・育成もアダプティブラーニングで可能になると考えられます。
岡山大学の寺澤教授の研究によれば、どうしても勉強に対しやる気のない子どもたちが、アダプティブラーニングを導入することで、半年間で劇的に前向きに取り組めるようになった研究成果を発表しています。
・個別に「成長している」「できるようになっている」ことがわかるデータ(グラフ)を提供した。
・データを保護者、教師にフィードバックすることで、個別に細やかな指導が可能になった。
・これにより、勉強に対しやる気のない子どもたちが、あきらかに前向きに勉強に取り組めるようになった。
参考:「教育ビッグデータを活用したビッグデータを活用したeラーニングで、児童の意欲を劇的かつ確実に向上させられることを世界で初めて実証-意欲低位層を軒並み平均レベルに上げられる-」
<https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id565.html>
その実証実験中には、同時に「2秒に満たない学習で語彙力は確実に伸びる」「同じ英単語は1日に5回を超えて反復しても実力には効果を持たない」といった事実もあきらかになっています。
こういった分析結果が蓄積されることで、学習ツールの改善がなされ、誰でも「意欲的に」「効率よく」学習することは、当たり前・日常となっていくことが予想されます。
米国の高等教育へのICT推進機関非営利団体 EDUCAUSE は、アダプティブラーニングの費用対効果には疑問が残り、有効性を語るには今しばらくの時間が必要だ、としています。
しかしながら、アダプティブラーニングコースを開講したミシシッピ大学によれば、
・アダプティブラーニングは、学期ごとに定められたカリキュラムやスケジュールといった教育慣習から生徒を解き放ち、学習に対する自律性を高めることができる。
・しかしながら生徒の多くは、機械による個別の学習アルゴリズムよりも、人間のインストラクターとの交流が望ましいと答えている。
・アダプティブラーニングにより、教育者は効果が立証されている学習内容を確立できる。
といった報告がされています。
参考:EDUCAUSE 2019 Horizon Report <https://library.educause.edu/-/media/files/library/2019/4/2019horizonreport.pdf>
従来のコンテンツをデジタル化するだけではアダプティブラーニングの効果は充分でなく、その結果をどう活用して学習者を導くのか、良質な教材を作成していけるのか、をあわせて考えられるかどうかが、アダプティブラーニングの広まりの鍵といえるでしょう。
アダプティブラーニングは、学習者一人ひとりに最適な学習プランを提供するEDTechの1種類です。
事前の問題の正誤だけでなく、その問題の背景の理解度、学習者の嗜好・生活スタイル、なども踏まえてくれるため、最短ルートで、修了が可能となります。
近年多くのサービサーが登場し、児童・学生だけでなく、個人の生涯教育、企業研修などにも利用されてきています。
従来苦手とされていた感情面など非数値化領域への適応も始まっており、効率のよい学習ツールとして利用はさらに広まると考えらます。
画像出典元:ODAN、すらら公式ホームページ、Z会公式ホームページ、すらら公式ホームページ、iKNOW!公式ホームページ、デジタルハリウッド公式ホームページ
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