人材採用においては、事業主の「採用の自由」より応募者の「基本的人権」が優先されます。
人材採用を行う企業は、法律に抵触しないよう公正な採用選考を実施しなければなりません。
本記事では、採用担当者が踏まえておくべき人材採用に関する法律や、採用活動で法律に抵触しないためのポイント、気を付けるべき選考時の質問をご紹介します。
参考:採用選考時の基本的な考え方・公正な採用選考の基本 | 厚生労働省
目次

企業の採用活動や労働者との雇用契約の締結は、求人・採用・雇用に関する法律にしたがって行われなければなりません。
採用管理の担当者が、まず理解しておくべき主な法律をご紹介します。
職業安定法(1947年施行)とは、官民の職業紹介事業や労働者の募集・職業指導などについて遵守すべきルールをまとめた法律です。
労働者に広く就業の機会を与えて安定的な労働力を充足し、日本経済および社会を発展させていくことを主旨としています。
採用担当者が理解しておきたいのは、求人募集についての項目です。
職業安定法では、事業者が労働者の募集や職業紹介事業者に求人の申込みを行うときは、労働条件の明示を義務付けています。
明示が必要な項目は、以下のとおりです。
引用:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省
なお2024年4月1日より、「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準」についても明示が義務化されました。法律違反とならないよう、必要な事項は抜け漏れなく記載しましょう。
参考:
職業安定法 | e-Gov法令検索
職業安定法施行規則改正|労働条件明示等|厚生労働省
募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省
男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律:1986年施行)は、性別による雇用差別の禁止や、婚姻、妊娠・出産などに起因する差別の禁止を定めている法律です。
男女の均等な雇用を推進すること、妊娠・出産後の女性労働者の健康措置を推進することを主旨としています。
企業の採用活動と大きく関わるのは、「第2章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等」です。
男女雇用機会均等法では、特別な理由がないにもかかわらず性別を指定すること・身長・体力・体形を採用条件とすることは違法とされています。
採用担当者は、募集条件や募集文の表現について十分に配慮しなければなりません。
参考:
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov法令検索
男女雇用機会均等法のあらまし|厚生労働省
男女均等な採用選考ルール|厚生労働省
労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律:2020年施行)は、労働者がやりがい・生きがいをもって働ける社会の実現を目指す法律です。
1966年に施行された「雇用対策法」がベースとなっており、2020年の改正では職場におけるパワハラ禁止が義務付けられました。
労働施策総合推進法ではなく、「パワハラ防止法」として認知している人も多いかもしれません。
採用において注目したいのは、この法律が募集・採用における年齢制限の禁止・外国人の適正な雇用管理についても定めている点です。
求人を出す企業は、応募者の年齢で採否を決定することは認められていません。
また外国人を雇用する際は、定められた様式での届出が必要です。
参考:
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 | e-Gov法令検索
募集・採用における年齢制限禁止について |厚生労働省
外国人労働者の適正な雇用管理の確保に向けた取組~外国人との共生社会の実現に向けたロードマップを踏まえて~|厚生労働省
労働基準法(1947年施行)は、労働者の権利を守るために制定された法律です。
法律では、労働者の賃金や契約・休暇などについて、労働条件の最低基準を定めています。
労働基準法で注意しておきたいのは、労働者と雇用契約を結ぶ際、労働条件を書面で交付することが義務付けられている点です。
明示が必要な労働条件に抜け漏れがあると、法律違反となります。
また労働基準法では、解雇・雇止めについても厳密なルールを定めています。
企業が採用者の内定取り消し・採用取り消しを行う場合は、労働基準法が定める手続きに従って適切に実施することが必要です。
参考:
労働基準法のポイント|厚生労働省
労働基準法 | e-Gov法令検索

人材採用では、募集から内定出し・採用まで、さまざまな法律リスクがあります。
法律トラブルを防ぐ上で、採用担当者はどのような点に注意すればよいのでしょうか?
違反事例とともにポイントを詳しくご紹介します。
企業が募集を出す際に注意したいのは「労働条件を明示すること」「年齢・性別で差別しないこと」です。
必要な労働条件が明示されていなかったり差別的な表現があったりすると、法律違反となります。
【違反事例1】
「経理」として募集を出し、1人を選んで採用した。ところが他の部署で人手が足りなくなったので、法務部署に異動してもらった。募集要項では、業務変更について記載していなかった。
2024年4月1日より、「従事すべき業務の変更の範囲」についても明示が義務付けられています。
業務変更の可能性がある場合は、どの業務に就く可能性があるのかを明示しなければなりません。
自社都合による安易な業務変更は、職業安定法違反となります。
参考:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます|厚生労働省
【違反事例2】
事務職の募集について、「女性のみ」「30歳まで」を条件として提示した。男性の応募者にのみ、より詳しい自社資料を渡した。求人条件に「身長○○cm以下は不可」と記載した。
年齢や性別・身体的特徴などで差別することは、男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法で禁じられています。
求人募集を出すときは、業務上やむを得ない特別な事情がない限りは「性別不問」「年齢不問」とすることが必須です。
参考:
募集・採用における年齢制限禁止について |厚生労働省
企業において募集・採用に携わるすべての方へ男女均等な採用選考ルール|厚生労働省
その募集・採用年齢にこだわっていませんか?― 年齢にかかわりなく、均等な機会を ―|厚生労働省
選考時、年齢や性別で採否を決定することは違法です。
また面接時に応募者の人権を害する行為があった場合も、法的トラブルに発展することがあります。
【違反事例1】
採用選考の一助とするため、求職者だけではなく、家族の資産情報や思想・信条について記載してもらった。
職業安定法では、社会的差別の原因となりそうな個人情報や家族・本人の資産情報を収集することを禁じています。
不適切な情報収集があったと認められた場合、行政指導や改善命令等の対象となるケースがあります。
【違反事例2】
男性社員の比率が少ないため、男性社員に入社してもらいたい。採用における基準を男女別にし、女性の方を厳しくした。若年層の社員が不足しているため、選考では能力・実績ではなく、年齢で優先順位を付けた。
募集時と同様、性別や年齢で選考を行うのは男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法違反です。
「男性または女性を採用しない」「若者を優先的に採用する」などの採用計画を立てるのは、違法と見なされます。
参考:
募集・採用における年齢制限禁止について |厚生労働省
企業において募集・採用に携わるすべての方へ男女均等な採用選考ルール|厚生労働省
【違反事例3】
採用面接で想定外の質問をしたり、強い言葉を使ったりした。応募者の柔軟性や対応力をチェックする上で必要だった。
採用担当者が採用面接で応募者を萎縮させるような態度を取ることは、「圧迫面接」に該当します。
圧迫面接とは、採用担当者が応募者の尊厳を傷つける行為をすることです。
求職者が「人権を傷つけられた」と訴えた場合、民法第709条の「不法行為責任」が認められることがあります。
また不法行為責任が認められた場合、そのような人材を雇った企業も使用者責任(民法第715条)を負わなければなりません。
企業の信頼性が低下し、企業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
応募者を採用する際は、労働基準法・労働契約法に基づいて労働条件の明示が必要です。
また何らかの理由で採用の取り消しを行う際も、労働基準法の定めにしたがって手続きを行われなければなりません。
明示方法に不備があったり、不適切な採用取り消しを行ったりすると違法となる恐れがあります。
【違反事例1】
採用者から特に希望はなかったが、コスト削減のため、労働条件をメールやLINEで送信した。
労働条件の明示は、書面が基本です。
SNSのメッセージやメールでも認められていますが、採用者からの希望がない限りは認められません。
また採用者の希望があった場合でも、「採用者からメール送信を希望されたこと」「確実に届いたこと」について、証拠を残しておくことが必須です。
参考:
「労働基準法施⾏規則」 改正のお知らせ|厚生労働省
労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等) |厚生労働省
【違反事例2】
求人募集で採用したが、売上が落ちてきて人を入れるほどではなくなった。内定を出した人には、内定取り消しを通知した。
企業が内定を出した時点で、企業と採用者には労働契約が発生します。
内定取り消しは「解雇」に当たるため、安易に行うことはできません。
解雇を妥当とする適切な理由がない限り、企業からの一方的な採用取り消しは違法です。
経営状態の悪化を理由に内定取り消しを行う場合、事業廃止レベルの危機でない限りは認められません。
「売上が落ちた」程度で内定取り消しを出しても、ほとんどのケースで無効となります。
参考:
労働相談Q&A|2.採用内定取消・延期|日本労働組合総連合会
労働相談Q&A|23.解雇|日本労働組合総連合会

選考は応募者の適性・能力に基づいて行うのが基本であり、不適切な質問が採用差別となるケースもあります。
採用選考において、企業が避けるべき質問を見ていきましょう。
参考:事業主啓発用パンフレット「公正な採用選考をめざして」|厚生労働省
日本には同和問題があり、出自に関する質問が採用差別を連想させるケースが少なくありません。
「なぜ本籍地を聞かれるのか」と応募者が不審に思えば、企業にとってのイメージダウンにもなります。
また応募者が外国籍を持っていた場合、出自に関する質問が外国人差別と見なされるケースもあるでしょう。
本籍・出自についての質問は、基本的にNGです。
家族の職業や資産・学歴などは、本人の適性や能力とは無関係です。
居住地についても同様で、採用とは全く関係がありません。
家族や家庭の情報を得ようとすることが、採用差別と見なされる恐れがあります。
採用担当者の中には、面接前のアイスブレイクとして上記のような話題を持ち出す人が少なくありません。
何気なく口にした話題が応募者の人権侵害に当たるリスクがあることは、理解しておくべきです。
思想・信条・宗教などは、「思想の自由」「信仰の自由」として日本国憲法で保護されています。「本来自由であるべき事項」に該当するため、関連する質問は採用面接では不適切です。
上記のほか「どんな雑誌を読んでいますか?」「愛読書はありますか?」といった何気ない質問も、本来自由であるべき事項の侵害に問われるリスクがあります。
「本来自由であるべき事項」に該当するものは非常に多く、面接者の「ついうっかり」が発生するケースが少なくありません。
採用差別のリスクを低減するなら、「業務に関係のない話題は基本的に口にしない」と決めておくのがベターです。
男女雇用機会均等法では、男女どちらかだけに特定の質問をすることを避けるべきとしています。
また男女に同じ質問をしている場合でも、返答内容を男性または女性のみを雇うための判断要素とするのはNGです。
このほか容姿やスタイルも、業務への適性とは関係ありません。
たとえ相手をリラックスさせるためだとしても、採用面接では不適切な質問と見なされます。
参考:企業において募集・採用に携わるすべての方へ男女均等な採用選考ルール

採用者を労働者として雇うときは、雇用契約の締結が必要です。
雇用契約に必要な書類や、書面に明示すべき事項についてご紹介します。
採用者の雇用に当たっては「雇用契約書」「労働条件通知書」の準備が必要です。
雇用契約とは、労働者が労働を提供すること・事業主が労働の対価として賃金を支払うことを約束する契約です。
雇用契約は口頭のみでも成立しますが、双方の認識が誤っていた場合法的なトラブルが発生するリスクがあります。
労働者・事業主が不安なく働く上で、双方が署名・捺印した雇用契約書の取り交わしは必須です。
労働条件通知書とは、賃金・給与・労働場所などの労働条件について詳細を記した書類です。
発行の義務は労働基準法に明記されており、労働者を雇い入れる事業主は必ず準備しなければなりません。
ただし労働条件通知書は事業主から労働者に提示するものであるため、署名・捺印は不要です。
労働条件通知書も雇用契約締結時に用意するのが一般的ですが、内定を出した時点で採用者に提示するケースもあります。
参考:
労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール|厚生労働省
労働条件通知書|厚生労働省
雇用契約書や労働条件通知書では、労働条件について必ず明記しなければならない項目があります。
以下は、書面での通知が必須な事項です。
労働条件の通知に当たって注意したいのは、賃金や休日・時間外労働について労働基準法の基準をクリアしている必要があることです。
労働基準法では、最低賃金や労働時間の上限を厳密に定めています。たとえ双方が納得していたとしても、労働基準法の基準を満たさない労働条件は無効です。
また先述したとおり、2024年4月から、全ての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」有期雇用契約者には「更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容」、「無期転換申込機会」「無機転換後の労働条件」の明示が義務化されました。
これらについても適切に明示を行いましょう。
参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
以下の事項については、口頭のみで労働条件を伝えることが認められています。
ただし口頭のみでは思い込みや誤解が生じやすい上、法的なトラブルが発生した際不利になるかもしれません。
「口頭で可」とされている事項についても、書面での情報開示をおすすめします。
なお先述のとおり、2019年の労働基準法施⾏規則の改正により、労働者の合意があればFAX・Webメールサービス・SNSメッセージなどでの労働条件の明示が可能となりました。
書類の準備を省きたい場合は、電子データで労働条件を明示することも可能です。
労働条件の明示を怠った場合、労働基準法第15条違反です。
労働基準法第120条の定めに従い、企業には「30万円以下の罰金」が科される恐れがあります。

採用・人事に関係する法律はさまざまあります。
その他の労働に関する法律について詳しく見ていきましょう。
なお労働に関する法律は多岐にわたり、ここに紹介したものが全てではありません。
状況によって参照・注意が必要な法律が異なる点は、留意しておいてください。
最低賃金法(1959年施行)とは、労働者の最低賃金について定めた法律です。
労働者を雇用する場合は、最低賃金を下回ることは許されません。
最低賃金以下で雇用契約を結んだとしても、その内容は無効となります。
最低賃金は各都道府県ごとに定められており、全ての産業・職種に適用される決まりです。
改訂は毎年10月に行われ、厚生労働省のHPで確認できます。
労働条件通知書や労働契約書に賃金を明示する際は、自社の賃金が合法であるかを必ず確認しましょう。
参考:
最低賃金制度とは|厚生労働省
最低賃金法 | e-Gov法令検索
地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省
労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律:1986年施行)は、派遣労働者を保護するための法律です。
労働者派遣とは、派遣先企業と労働者派遣契約を結んだ派遣元企業が、自社の労働者を派遣先企業の業務に従事させることです。
派遣労働者を採用する場合は、労働者派遣法に則った手続きや管理が必要となります。
派遣労働者を採用する企業が注意しておきたいポイントは以下のとおりです。
なお企業が同一の派遣社員を3年以上受け入れる場合は、直接雇用への転換といった措置が必須です。
参考:
派遣社員を受け入れるときの主なポイント|厚生労働省
労働者派遣とは|長野労働局
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 | e-Gov法令検索
障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律:2016年改正・施行)は、障害者の職業の安定・自立の促進を目的に制定された法律です。
対象となる企業に一定の割合で障害者を雇用することを義務付ける「障害者雇用率制度」の根拠が明示されています。
2024年4月時点、国が定める障害者雇用率は「2.5%」です。
すなわち従業員が40人規模の企業は、必ず1人以上の障害者を雇用することが必要となります。
なお2026年7月から障害者雇用率はさらに上がり、「2.7%」となる予定です。
これにより、従業員数37.5人規模の企業についても、障害者の雇い入れが必要となります。
参考:
障害者の雇用の促進等に関する法律 | e-Gov法令検索
雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務|厚生労働省
障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について|厚生労働省
事業主の方へ|厚生労働省
事業主の皆様へ|厚生労働省
企業の人材採用においては、「職業安定法」「男女雇用機会均等法」「労働施策総合推進法」「労働基準法」といった法律について理解しておく必要があります。
求人条件の明示、性別・年齢・国籍等による差別のない採用選考、適切な労働契約の締結を行いましょう。
また派遣社員雇用や障害者雇用については、労働者派遣法や障害者雇用促進法が適用されます。
派遣労働者や障害者を受け入れている企業は、これらの法律についても理解が必要です。
採用担当者が正しく法律を理解することが、法的リスクやトラブルのない採用活動につながります。
画像出典元:O-DAN
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