メンター制度とは、先輩社員が若手社員のメンタル面やキャリア形成をフォローする人材育成の方法です。
メンター制度の導入は若手社員の成長や定着率を高める効果がある一方で、運用の仕方によっては課題が生じることもあります。
本記事では、メンター制度の目的やメリット・デメリット、導入方法について詳しく解説します。
このページの目次
メンター制度とは、年齢や社歴の近い先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティ)をサポートする制度のことです。
知識や経験が豊富なメンターが、メンティの職場での悩みや個人的な課題にも寄り添うのが特徴です。
サポートする先輩社員を「メンター」、サポートを受ける後輩社員を「メンティ」と呼びます。
メンターは、職務に関する指導だけでなく、メンティのキャリア形成やプライベートな相談にも乗る必要があるため、メンティと業務上の利害関係がないことが重要です。
一般的に、メンティとは異なる部署に所属する入社3年目〜5年目の若手社員から選ばれます。
メンター制度と似た機能を持つ制度として、OJT(On-the-Job Training)がありますが、OJTは、仕事の進め方や技術的なスキルの習得など、仕事に直結する内容が指導のメインです。
一方でメンター制度は、業務だけでなく、職場の人間関係やプライベートに関することなど、後輩社員の精神面をサポートします。
即戦力の育成を急ぐ場合やチーム全体の業務効率を向上させたい場合は、OJTの導入を検討しましょう。
エルダー制度は、OJTの一種で、新入社員の職務上の指導とメンタルケアの両面をサポートする制度です。
一般的に、同じ部署やチームの先輩が指導にあたるため、部署内での連携強化を図りたい場合に向いています。
一方でメンター制度は、精神的なサポートに重点を置くことが多く、基本的に職務上の指導は行いません。
メンター制度の目的の一つは、若手社員の定着率向上です。
日本企業では、従来より終身雇用制度や年功序列制度が基本となってきましたが、バブルの崩壊をきっかけに成果主義の導入や働き方の多様化が進みました。
成果主義では仕事の成果を主な基準として社員を評価するため、年次や年齢に関係なく社員をライバル視する側面があります。
その結果、先輩社員が後輩社員を指導する組織風土が形成しにくいケースが多く見られるのが実情です。
メンター制度導入では、人材育成やチームワークを醸成する風土を人為的に作り出すことができ、若手社員の孤立化防止につながります。
さらに、メンター制度を導入し、若手社員の相談先を確保することで、安心感や満足度が向上し、離職率の低下が期待できます。
ここでは、メンター制度のメリットをメンター・メンティ・企業それぞれの立場から解説します。
メンターは、メンティの不安や悩みを聞き、相手の気持ちをくみ取りながら、的確なアドバイスをしなくてはなりません。
メンティと対話を重ねる中で、相手の話を丁寧に聞き取る力や、わかりやすく伝える力が磨かれ、ほかの業務でも円滑なコミュニケーションが取れるようになります。
メンターにはキャリアの浅い先輩社員が選ばれることも珍しくありませんが、後輩を指導し支える役割を担うことで、メンター自身の責任感も自然に高まります。
さらに、メンティの成長をサポートする経験からは、自分が組織に貢献しているという実感を得られ、自身のキャリアアップにもつながります。
メンターは、後輩社員から尊敬され、「あんな先輩になりたい」と目標とされる存在になることで、自身の責任感やモチベーションが向上します。
また、メンティの成長を実感することで、自分の存在意義を感じやすくなり、仕事へのモチベーションが向上する場合があります。
メンティにとってメンターは、仕事やキャリアに関する悩みを気軽に相談できる身近な存在です。
「どんなキャリアを築けばいいのかわからない」「今の会社で長く働けるか不安」など、若手社員であれば誰もが抱える漠然とした不安や悩みを気軽に相談できる相手がいることは心強いものです。
若手社員は、会社の文化やルール、業務の進め方など、全体像をなかなかイメージできません。
他部署の先輩がメンターとなることで、さまざまな部署との交流が生まれ、会社への理解が深まり、自身がどのように貢献すべきか具体的にイメージできるようになります。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズの「新人・若手の早期離職に関する実態調査」によると、若手社員が悩みを話しやすい上司・先輩像として、「仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人」「普段から自分の人間性や価値観を認めてくれていると感じる人」が挙げられています。
メンターは、仕事に関する悩みだけでなく、職場内外の人間関係やキャリア形成についても相談できる存在です。
こうした「心のよりどころ」があることで、若手社員は職場に早く馴染み、安心して働けるようになります。
メンターとメンティの関係を軸に、部署の垣根を越えた交流が生まれ、社内全体のコミュニケーションが円滑になります。
特に、メンターを務める社員は、メンター直属の上司や先輩社員とも密に連携を取る必要があるほか、若手社員の支援・育成という共通の目標を持つことで、組織全体のコミュニケーションが活発になる効果が期待できます。
メンター制度によって、メンターとメンティの間に信頼関係が生まれると、職場に対する満足度が上がり、結果として離職率の低下につながります。
また、メンターの存在が若手社員にとって身近なロールモデルとなれば、将来の目標やキャリアプランを考えやすくなります。
OJTやエルダー制度は同じ部署の先輩社員が指導するのに対して、メンター制度は他部署の先輩社員がメンターとなるのが一般的です。
部署の異なる社員同士が関わることで、情報共有が促進され、社内の風通しが良くなります。
メンター制度には多くのメリットがある一方で、導入や運用の過程で課題やリスクも伴います。
ここでは、メンター・メンティ・企業それぞれの視点からデメリットを解説します。
メンターは通常の業務と並行して、メンティをサポートしていかなくてはならず、メンター自身の業務パフォーマンスが低下する可能性があります。
特に繁忙期は、メンターに過度な業務負担が生じていないかチェックするなど、周囲の配慮やサポートが必要です。
メンター業務にも積極的に取り組めるよう、アシスタントをつけたり、業務の優先順位を調整したりしましょう。
メンティの指導に時間を割いても、その成果がメンター自身の評価に直結しない場合、メンターのモチベーションが低下するリスクがあります。
メンターを適切に評価する仕組みが整っていないのならば、社内の評価基準や人事制度を見直し、メンターとしての活動や成果を人事評価に反映させましょう。
メンティの成長や離職率の低下などを評価項目に加えると、メンターの貢献度を見える化できます。
メンターが適切な能力を持たず、指導の内容が曖昧だったり、アドバイスが的外れだったりすると、メンティーの成長につながらない可能性があります。
メンターを選定する際は、能力やスキルに注目し、一定のレベルに達した社員のみをメンターに任命するなどの対策が必要です。
専門家を招いてメンタリングに関する知識を深めるなど、メンターを対象とした事前の研修を実施し、メンターの育成にも注力しましょう。
メンターとメンティの性格や価値観が合わないと、メンティにとってストレスとなり、職場環境への不満やモチベーション低下につながる可能性もあります。
メンターをアサインする際には、まずコミュニケーションスタイルやキャリアの目標、興味関心の分野などが「似ている者同士」のペアリングを検討しましょう。
双方のストレスを減らせるだけでなく、メンターと同じアプローチで成果が出せる可能性が高いです。
メンターとメンティの信頼関係がうまく構築できず、ストレスを抱える状況が続くと、結果的に離職リスクも高まります。
ペアリング後でも、双方の関係性がうまくいっていない場合には、早期に介入し、必要であればメンターの変更やサポート体制の見直しを柔軟に行いましょう。
メンターとなる社員のスキルや業務状況、制度に対する意識の違いによって、メンティの成長スピードや成果にばらつきが生じる場合があります。
まずは企業としてメンター制度の目的を明確にし、サポート内容や進め方について一定のルールを設けることが重要です。
メンター制度を効果的に運用するためにも、メンターへの定期的な面談や研修を実施し、全体的な質を均一に保ちましょう。
ここでは、メンター制度の導入フローと導入時に押さえるべきポイントについて解説します。
適切な計画と準備を行えば、メンターとメンティの信頼関係を構築でき、制度をスムーズに運用することが可能です。
メンター制度の導入フローを整理すると、以下の通りです。
フロー | 概要 |
課題の整理と |
自社の若手社員・女性社員の定着率を確認し、若手社員育成の課題を整理し、メンター制度導入の目的を明確化する |
計画策定 | 制度導入にかかる期間やメンターの選定方法などの具体的制度設計や制度導入の定量目標を設定する |
運用ルールの策定 | 円滑な制度運営ができるよう、運用マニュアルを策定する |
メンターの選定 | 一定の業務実績やコミュニケーション能力を持った社員を選定する |
社内へのガイダンス | メンターやメンティへの通知のみならず、社内全体からの理解を得るために目的や実施内容を具体的に説明する |
実際の運用と |
一旦制度運営をスタートさせ、定期的にメンターやメンティの状態をアンケート等で確認し、改善していく |
メンター制度をさらに活かすためには、メンティの部署や雇用形態に応じた人選が大切です。
例えば営業系の社員に対してはエンジニア系や製造系の社員をメンターにすることで、メンティが自社製品・サービスに対する理解を深めることにつながります。
バックオフィス系の社員に対しては、業務で関わりが多い部署の社員をメンターにすることで、通常業務の円滑化も図れるでしょう。
また、メンティが正社員であれば、自社を支えていく存在であるとの自覚や幅広い業務・職種への理解を深めるために、経験豊富な社員をメンターにすることが効果的です。
パート・アルバイト社員に対しては、自身の業務内容と同じ職種の社員をメンターに据えることで、早期に業務スキルや知識を吸収してもらうことが望めます。
メンター制度を運営していくうえでメンターの人選はもちろん、メンターとメンティの信頼関係をいかに構築するかを第一優先にしたマニュアル設計をしましょう。
メンティから個人的な相談を受ける可能性もあるため、相談された話の扱いなどに関するルール決めがとても大切です。
また制度運用をメンターとメンティの2人だけに任せきりにしないよう、企業としてもサポートし、メンタリングの現場で使えるツールを充実させていくことが求められます。
さらに、メンターに求める役割を明確にし、メンター業務に対する評価体制を作ることもポイントです。
メンター制度の導入に失敗する背景には、メンターとメンティの相性や制度設計の甘さなどが挙げられます。
ここでは、具体的な失敗例とその対応策について解説します。
メンター制度はメンターとメンティの信頼構築がとても重要であるため、両者の相性が悪いとうまくいきにくくなります。
相性の良し悪しに関わらず一定レベル以上の運営が可能なマニュアルを作成する、両者のフォロー方法を確立する、メンターの変更方法を明確にするなどの対応が必要です。
メンターがメンティの上司に近い立場の人物だと、メンティが心を開くのはなかなか難しいことも考えられます。
また、メンターとメンティの上司が対立関係にある場合も、メンティの評価に影響を及ぼしかねません。
メンターにはメンティと利害関係のない他部署の社員を選定すると良いでしょう。
メンターの適性がある社員はどうしても限られているため、特定の社員へ依頼が集中するケースもあります。
多くの社員に成長機会を平等に与えるためにも、メンターの役割をローテーションで分担するルールを設け、経験が特定の社員に集中しない仕組みづくりが必要です。
また、メンタリングに必要なスキルを備える社員を増やすには、事前研修やロールプレイングなどを実施し、メンター候補の底上げを図りましょう。
メンター制度を導入し、若手社員の育成や離職防止に成功した企業の事例を3つ紹介します。
SJNKホールディングスでは、女性管理職育成促進のために女性社員をサポートするメンター制度を導入しています。
女性同士でなければ相談できないことはやはり多く、優秀な女性社員の離職防止が期待できます。
資生堂は、若手社員がメンターで社長や執行役員を含む先輩社員がメンティという、通常とは逆になったユニークな制度「リバースメンター制度」を採り入れています。
社内コミュニケーションの促進や、IT領域に関するベテラン層の教育、マネジメントされる気持ちを思い出すことによる経営・管理層のレベルアップが目的です。
近年目覚ましい成長をしている株式会社メルカリでは、新入社員に必ずメンターが付けられます。
メンターとメンティのワークショップや2人セットでさまざまな部署の社員とランチでコミュニケーションを図る「メンターランチ」など、両者の信頼関係を構築する対策が充実しています。
メンター制度には、若手社員や女性社員の孤立化や離職の防止が期待できます。
メンターとメンティとの信頼関係をいかに構築していくかなど、重要なポイントを押さえた制度設計・運用ができれば、社内コミュニケーションの促進にもつながります。
実際に導入した事例なども参考に、自社にとって最適な制度導入を目指しましょう。
画像出典元:Burst
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