人手不足が深刻化するなか、人材の確保・定着に神経を使う企業が増えています。加えて、働き方改革の浸透により、従業員の側でも勤める会社の労働条件や働きやすさを意識する機会が増えているのではないでしょうか。
企業にとって従業員満足度を高めることは喫緊の課題であり、社内アンケートを活用した従業員満足度調査の重要性が高まってきています。
この記事では、社内アンケートの具体的な質問例をご紹介するとともに、調査を設計する際の注意点もあわせてご紹介します。
このページの目次
社内アンケートがどんな問題意識にもとづいて実施され、どう活かされるのかが明確でなければ、有効な調査票の作成や実効性のある調査結果の活用に結びつきません。
経営者側の考え方とすり合わせながら、調査の目的を明確にすることが必要です。
社内アンケートに答える従業員の側でも、調査の目的や回答結果がどう活かされるかによって社内アンケートに対する態度は変わってきます。
質問の意図が不明確であったり、一貫性のない質問項目であったりする場合には、調査自体の信頼性が失われます。
社内アンケートは経営者側と従業員側の橋渡しとして機能するものです。
一方の視点に偏った質問項目を設定することで実態の把握が難しくなり、調査の目的を果たすことができなくなります。
中立な立場を意識した質問項目を作成しましょう。
中立性に関連し、質問文に作為や意図が感じられた時点で、回答する側は率直な考えや意見を質問表に記入することを躊躇してしまいます。
経営者側に忖度するような質問や圧力が感じられるような質問は避けるべきです。
調査を実施してそれが改善に活かされなければ、社内アンケートを実施する意味がありません。
社内アンケートの実施目的を意識し、課題や改善点を抽出するために効果的な質問項目を設定します。
社内アンケートの質問項目として一般的なものを8つご紹介します。
従業員満足度の測定を想定し、仕事へのモチベーションの高さを見る「動機づけ要因」と職場の不満に関わる「衛生要因」の2種類の質問項目を設定する必要があります。
性別・年齢・勤続年数・所属部署・役職など、回答者の属性を聞く質問項目です。従業員の属性ごとの傾向や特徴を明らかにするための基本情報となります。
年齢・勤続年数・所属部署・役職については、記述してもらう回答方式と選択肢を用意する方式があります。質問項目の数やサンプル数の規模などによって柔軟に選択しましょう。
それぞれの従業員が、自分の仕事に対してどれくらい満足しているかを明らかにする質問項目です。
従業員満足度のなかの「動機づけ要因」にあたり、仕事に対するモチベーションや責任感、目標達成意欲などを見ることを目的としています。
仕事へのやりがいや興味・関心の度合い、成長に対する意欲などが明らかになり、これらの評価が高い場合は従業員満足度が高いと考えられます。
反対に、低い場合でも不満足にはつながらない評価項目ですが、組織の生産性や成長性につながる要素であることから、これらを高める施策を検討することが必要です。
会社が持つ独自の価値観や文化が、従業員にとって好ましいものであるかどうか、日常業務のやりやすさや成長を促す組織風土があるかどうかなどを尋ねます。
スムーズなコミュニケーションやチームワークが機能する職場の雰囲気があるかどうか、自主性が認められ、承認欲求が満たされている職場環境かどうかなどが具体的な質問の内容です。
従業員の積極性を見る「動機づけ要因」に対して、職場に対する不満足を測る「衛生要因」とされる質問項目に当たります。
自分が正当に評価されているか、公正な評価が得られる人事制度かに対するそれぞれの従業員の主観的な評価を聞く質問項目です。この質問項目も「衛生要因」にあたります。
給与やポジションなどの処遇面、評価に対して上司による個人的なバイアスがないかどうか、会社の制度として正当性と公平性があるものかどうかが具体的な質問の内容です。
健全な日常生活を送る上で、仕事の負荷が過大なものになっていないかどうかを聞く質問項目です。休日・休暇や残業時間などがテーマとなります。
労働条件に関連し「衛生要因」のなかでも、職場の不満につながりやすい項目です。
日常業務が身体の健康に及ぼすマイナス要因や、職場の人間関係による心の面での健康に配慮する質問項目です。
労働条件とともに「衛生要因」のなかで重要な要素といえます。
特に仕事上の悩みやハラスメントといった精神面の不調は退職に結びつく原因となる可能性もあるため、アンケートを通じて把握することが必要です。
日々の業務のなかでの法令違反があれば重大な問題となるのは当然のこと、セクハラやパワハラといった社会倫理に背く状況があることを見過ごすことはできません。
そういった芽がないかどうかを把握することも社内アンケートの役割のひとつといえます。
表に出にくい事柄ではあるものの、社内アンケートはそれに気づくひとつの機会になるものです。
これまでに挙げた項目を総合的に評価した場合の満足度について問う質問項目です。
職場を人にすすめられるかどうか、今後もこの職場で働き続けたいか、全体的な満足度はどの程度かといったことを質問項目とします。
前に挙げた質問項目の具体的な例文をご紹介します。
基本情報以外の質問項目は、質問の文章が5段階でどの程度当てはまるかを回答してもらう方式を取ります。
肯定文で書かれた質問に対して、回答者が肯定的な態度が否定的な態度かを定量化できる質問方式です。
「当てはまる」「やや当てはまる」「どちらともいえない」「ほとんど当てはまらない」「全く当てはまらない」という形で段階を設定し、中立の選択肢を設けます。
中立的な選択肢と、両極と中立の間の選択肢を設けることで、YES or NOで割り切れないデリケートな問題に対して回答しやすい質問方式です。この回答方式はリッカート尺度と呼ばれます。
基本情報はアンケート対象者の属性を答えてもらう質問項目です。属性ごとの傾向や特徴を見るために必要な項目なので、該当する選択肢に漏れのないように設計します。
1.男性 2.女性 3.答えたくない
1.20代 2.30代 3.40代 4.50代 5.60代以上
1.1年目 2.2~4年目 3.5~9年目 4.10~14年目 5.15~19年目 6.20~24年目 7.25~29年目 8.30~40年目 9.40年目以上
1.営業・販売 2.生産・製造 3.人事・労務 4.経理・財務 5.総務 6.購買・調達 7.品質・生産管理 8.研究開発 9.企画・広報 10.情報システム 11.その他
1.役員 2.部長 3.課長 4.係長・主任 5.一般社員 6.契約社員・派遣社員 7.その他
現在の仕事に対する満足感を測るための質問項目です。
自分が所属する会社そのものに対する満足度を問う質問項目です。
従業員にとって上司は、日々の仕事のやり方に大きな影響を及ぼす存在です。上司との信頼関係、適切な指導・援助が得られるか、認められているかなどを問います。
人間関係やコミュニケーションを中心に、前向きな姿勢で仕事に取り組むことが出来る環境があるかどうかを問う質問項目です。
給与を含めた処遇、それに関連する評価制度は衛生要因のなかでも重要な位置を占めています。キャリア形成のための教育制度についてもこの項目で満足度を測ります。
業務負荷がワークライフバランスの障害になっていないかどうか、個人の事情に配慮したフォロー体制があるかどうかを聞く質問項目です。
日常業務が身体的な健康や精神面に与える影響について問う質問項目です。
会社としてコンプライアンスを遵守する体制が取られているか、自分が所属する組織に法令遵守を軽んじる風土や文化がないかどうかを確認します。
福利厚生制度に対する満足度を問う質問項目です。
会社に対する全体的な満足度を評価してもらう質問項目です。これまでの質問項目にもとづいた総合的な満足度を答えてもらいます。
質問項目と具体的な質問文を設計するにあたり、注意しなければならない点がいくつかあります。
最も重要な点は社内アンケートの目的を明確にした上で質問項目を設計することです。
その際に、社内アンケートの質問項目として相応しくないもの、また、質問の仕方として工夫すべきものをご紹介します。
「回答しにくい」には二つの意味があります。一つは回答する意思はあるのに、選択肢や回答方法に自分の考えを反映しづらいケース。
もう一つは回答するインセンティブが働かない、あるいは、回答することによる不利益が想定されるために答えたくないというケースです。
一つめのケースは、自分の答えたい選択肢がない場合や質問の内容が不明瞭な場合が考えられます。
一つの事柄について問うシンプルでわかりやすい質問文とし、選択肢に漏れがないよう気をつけましょう。
二つめは記名式アンケートや無記名でも属性情報により回答者が特定される可能性のある場合です。
忖度せずに自由に意見を言える組織風土が望まれますが、現実的には社内アンケートの難しい部分といえます。
社内アンケートの運営サイド、さらに言えば、会社側として、誠実な姿勢で従業員の意見を聞き、改善に役立てるための社内アンケートであることを明確にする必要があります。
ネガティブな回答に対しても不利益はないことを明示した上で、従業員の問題意識に働きかける告知や質問項目を設定するとよいでしょう。
経営サイドのこれまでの経営施策をことさら強調するような事柄や、業績向上を迫るような内容を質問項目に盛り込むことは、従業員側にとって経営サイドからの圧力と感じられます。
社内アンケートの作成にあたっては、中立的な立場から質問内容を考えていくことが重要です。
質問項目の順番や質問文の内容によっては回答を誘導していると受け止められる場合があります。
以下のような例が当てはまります。
「当社は昨年度比で二酸化炭素の排出量を10%削減しました。この取り組みについてどう思いますか」
「当社のSDGSの取り組みを評価しますか」
前の質問で具体例を提示した上で、次の質問で評価を問われれば、ポジティブな回答が増えることは目に見えています。
前後の質問文の関連性や質問文の内容について、誘導質問になっていないかどうかを精査することが必要です。
当記事では従業員満足度を測るための社内アンケートを前提としていますが、それ以外にも離職率低下や組織改革、業務改善など社内アンケートはさまざまな目的に活用されます。
いずれの場合にも、質問項目はアンケートの目的に沿った一貫性があるものでなければ、回答する側の問題意識は散漫になってしまいます。
告知の段階から社内アンケートの目的を明確に示した上で、まとまりのある質問項目とすることが重要なポイントです。
意図的ではなかったとしても、特定の組織や人物を示唆するような質問項目を設けることは社内アンケートの目的からして相応しくありません。
アンケート調査そのものに作為や意図が感じられることで、回答者からの信頼が得られなくなります。
前述したように、中立性と公平性を保つことが社内アンケートの信頼性に大きく関わります。
社内アンケートの目的は従業員の意見を聞いて集計することだけに留まりません。
調査結果として抽出された問題点や課題を明らかにし、改善につなげることが最終的な目的です。集計後に実施すべき対応として以下のようなものがあげられます。
調査結果を集計した結果が、実態とかけ離れたものではないかどうかを検証する必要があります。
各部署のマネージャーなどを集めたミーティング等を設けて、社内アンケートの結果を共有して検証を行うことが有効です。
仮に、各マネージャーの認識以上に集計結果がポジティブな内容が見られる場合は、社内アンケートの信頼性が疑われます。
反対に、想定以上にネガティブな結果である場合は、上層部が気づけていない問題点が多数存在するということです。
経営上層部と調査結果を共有することは、社内アンケートの結果を踏まえた改善につなげるための最初のステップになります。
社内アンケートは経営側と従業員側のコミュニケーションの一つの方法です。
社内アンケートの集計・分析結果の妥当性が認められれば、経営側には抽出された問題・課題に対応することが求められます。
集計結果は経営側だけでなく、回答者である従業員にも公開する必要があります。
従業員側では、自分の認識と従業員全体の認識について違いを知る機会となり、会社に対するエンゲージメントを高めるきっかけとなる可能性があります。
社内アンケートで指摘された問題点に対する改善は、基本的には経営サイドで取り組むべきものです。
しかし、アンケート調査を行っただけに終わらせないためにも、アンケートの運営主体も関わる形で改善につながる取り組みを行うことが求められます。
全社的な改善が求められる特に重要な課題については、経営側と連携し、関連部署を巻き込む形で改善のためのイニシアチブを取ることが理想的です。
ここまで、アンケートの設問の作成方法、注意点、集計後の対応方法などを解説してきましたが、アンケート作成、結果の集計や報告・分析にも意外と工数がかかりそうですよね。
できる限り手間を省いて意味のあるアンケートを作成したい!とお考えの方には、アンケート作成ツールがおすすめです。
アンケート作成ツールの基本的な機能の例を以下ご紹介します。
機能 | 特徴 |
アンケート作成 |
画面の指示に従うだけで簡単に調査票が作成できる 入力値制限・選択数制限・排他的選択肢の設定・回答内容による分岐などの設定も簡単 |
アンケート配信 | 性別・年齢・都道府県・職業などの属性や回収目標などの条件を設定してアンケートを配信できる |
アンケートの回収と集計 |
リアルタイムで回収状況が確認できる 集計ツール「Fxross」で自動的に結果を集計 |
この他にも、ツールごとに様々な機能や特徴がありますので、ご興味のある方は、以下の資料や比較記事もご確認ください。
働きやすい良い会社にしていくための一つの取り組みが社内アンケートです。
調査項目や質問文の設計にはさまざまな工夫が必要であると同時に、経営側の理解と運営サイドとの連携した取り組みが求められます。
今回ご紹介した質問例は従業員満足度調査のための社内アンケートを想定したものです。
基本的な社内アンケートの内容を理解して、さまざまな社内アンケートに応用してみてください。
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