ランチェスター戦略は市場を絞り込み、商品の差別化で戦う弱者の戦略

ランチェスター戦略は市場を絞り込み、商品の差別化で戦う弱者の戦略

記事更新日: 2020/05/20

執筆: 編集部

マーケティングを勉強したことのある人は、ランチェスター戦略という言葉を聞いたことがあると思います。

ほとんどのマーケティング理論が欧米発なのに、ランチェスター戦略は日本で考案されて世界に広がった理論です。

この記事では、「弱者の戦略」として有名なランチェスター戦略の成り立ちと理論を分かりやすく解説しています。この理論を用いた成功事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

ランチェスター戦略とは

ランチェスター戦略とは、もともと軍事用語だった「ランチェスターの法則」をビジネス(マーケティング)に応用したものです。

同じ武器なら勝敗は兵力数で決まる

ランチェスターの法則は、第一次世界大戦中に、イギリスの航空学者フレデリック・W・ランチェスターが提唱した「戦闘の法則」です。

第一次大戦は機関銃の本格的使用や航空機の戦争利用など、新しい武器が登場して死者数がこれまでの戦争とはけた違いの膨大な数になり、「戦闘による消耗」が深刻なテーマになっていました。

そんな中でランチェスターは、航空機による空中戦の損害を研究して「武器の性能が同じなら勝敗は兵力数で決まる」と述べました。

あたりまえのことですが、この法則は第二次世界大戦中に米国海軍で研究が進められて「ランチェスター戦略方程式」に発展しました。

ランチェスター第一法則

ランチェスター第一法則は「戦闘力=武器効率 × 兵力数」というシンプルな法則です。

これは、刀や槍、弓矢、鉄砲などの古典的な武器での戦闘に当てはまる法則で、その戦いは、一騎打ち、接近戦、局地戦という特徴があります。

兵力数が同じなら、弓矢で戦う軍よりも、鉄砲で戦う軍が勝利します。両軍が刀と槍なら、兵隊の数が多い方が勝ちます。

ランチェスター第二法則

第二法則は「戦闘力=武器効率 × 兵力数の2乗」という式で表されます。

機関銃が登場して以降の近代的な戦闘に適用されるのがこのランチェスター第二法則です。

1人が100人の敵を相手に勝つことも可能な近代兵器(確率兵器)を使う戦闘は 兵力数の2乗が戦闘力になる第二法則が適用されます。

A軍の兵力が20人でB軍の兵力が40人とすると、A軍の戦闘力は20×20=400、B軍の戦闘力は40×40=1600となります。

第一法則では2倍の差だった戦闘力は、第二法則では4倍に広がるのです。同じ武器を使うとすると、兵力の少ない軍が勝つことはきわめて困難です。

武器効率も機関銃よりミサイルが何倍も勝るでしょう。第二法則が適用される戦闘は、確率戦、遠隔戦、広域戦です。

日本で開発されたランチェスター法則の平和利用

ランチェスターの法則の平和利用が考案されたのは、第二次大戦でとんでもない「近代兵器」でとどめを刺された日本でした。

1970年代前半、日本は戦後の高度成長が初めて経験した深刻な不況であるオイルショックに見舞われました。

この不況からの立ち直りのためにコンサルタントの田岡信夫氏(1927〜1984)が考案したのが「ランチェスターの法則による販売戦略」でした。

軍事戦略がそのまま販売戦略に応用できるわけではありませんが、例えば「武器効率」を「商品力」に、「兵力」を「販売力」に置き換えて、競争企業にいかにして立ち向かうかという戦略です。

第一法則が適用される戦い、つまり武器効率(商品力)がお互いに素朴な段階での戦いでは、兵力(販売力)をいかに集中させるか、どこに手中させるかが戦略の中心になります。

第二法則が適用され戦いでは、武器効率(商品力)に圧倒的な差が生じる場合があるので、武器効率を兵力(販売力)以上に高める「商品の差別化」が戦略の柱になります。

弱者の戦略

ランチェスターの法則のビジネスへの応用で重要なのは、「弱者の戦略」といわれるものです。

弱者とは市場シェアが2位以下の企業・製品すべてを指します。

弱者が強者に勝つためには、確率戦、広域戦、遠隔戦を避けて、一騎討ち、局地戦、接近戦を挑むのが戦略になります。

言い換えると、ランチェスターの第二法則が適用されるような戦いは避けて、第一法則が適用される戦いをすることです。

もちろん、一騎打・局地戦・接近戦というのはあくまで戦争用語なので、マーケティング戦略にそのまま使えるわけではありません。

販売戦略における一騎討ち、局地戦、接近戦は、マイケル・ポーターの競争の三原則でいえば、差別化戦略または集中戦略にあたります。

もう1つの原則のコストリーダーシップ戦略は、強者の戦略になります。

局地戦(集中戦略)

販売戦略での局地戦とは、グローバルな市場での総力戦を避けて、細分化した市場で、絞り込まれた商品でシェアナンバー1を目指すことです。

経営資源(ヒト、モノ、カネ)の総量で劣る中小企業が、それを大きな市場に分散させて大企業と戦っては勝ち目はありません。フルラインの品揃えで挑むのも同じです。

しかし、大企業があまりリソースをつぎ込んでいない市場あるいは商品に集中的にリソースを投入すれば、局地的には優位に立ちシェア1位を獲ることが可能です。

接近戦、一騎打ち(差別化戦略)

接近戦、一騎打ちでは、敵の意表をつくユニークな武器が戦闘力になります。

掃除機は2万円程度という常識を無視して、ダイソンは差別化された高額掃除機を市場に投入し、先発企業を抑えて成功を収めました。

電気炊飯器は1万円程度という常識も、2005年に三菱電機が「本炭釜」をヒットさせたことでくつがえりました。

このように、先発企業に対する差別化、自社の過去の路線を見直す差別化でシェア1位企業を脅かすことができます。

強者の戦略

ランチェスター戦略には、シェア1位を奪われないための強者の戦略もあります。それは強者のプライドをかなぐり捨てる「真似っこ」作戦です。

強者の戦略はミート作戦 と呼ばれるものです。ミート作戦とは、弱者が差別化によって強化した武器を真似をして追随し、武器効率の差をゼロに戻すことです。

ミート戦略の有名な例が、ホンダのハイブリッド車「インサイト」に対してトヨタの「プリウス」がとった価格戦略です。

2009年2月にホンダのインサイトが発売される。ハイブリッド車はそれまでの間、高級車のイメージが強かったが、それを覆す189万円という大衆車並みの価格でインサイトは発売からすぐに販売台数を伸ばした。

これに対して、トヨタは徹底的にミートする。5月に販売予定の新型プリウスの発売前に現行のプリウスの最低価格を43万円もの大幅な値下げで約190万円とした。さらに5月の新モデルでは性能を向上させたにも関わらず、205万円という驚きの価格設定をしたのである。

引用元:“世界の王者”トヨタの強者の経営戦略:強者が強者であるための術を知れ

弱者が武器の差別化で一騎打ちを挑んでも、強者はそれを真似て最終的には価格で打ち負かそうとする仁義なき戦いです。

トヨタの強者の戦略によって2009年発売のインサイト(第二世代)は2014年に生産を修了しました。

ランチェスター戦略の事例

弱者が強者に挑んだランチェスター戦略の事例を紹介します。

【タニタのヘルスメーター】差別化で世界トップシェアに

タニタは体脂肪率も計れる体重計など高機能なヘルスメーターで世界のトップシェアを誇っています。

しかし、1980年代までは、体重計の他にトースターやライターなどの生産ラインも所有するメーカーで、体重計以外は赤字になっていました。

そこでタニタは、まず赤字部門を切り捨てて体重計だけを生産する集中戦略をとりました。

さらに、従来はアナログだった体重計をグラム単位まで計れるデジタルにするという差別化戦略をとりました。

これがダイエット志向の女性に受けて「タニタの計り」は大ヒットし、オムロンやパナソニックなどの大企業をしのいで国内トップシェアを獲得しました。

その後、世界で初めて家庭で体脂肪率を計測できる「ヘルスメーター」を開発するというさらなる差別化で世界トップシェアに躍進したのです。 

[手術用縫合針のマニー】接近戦で国内シェア70%を達成

マニーは外科手術用の縫合針の国内シェア70%を占め、高い営業利益率を誇る優良企業です。

最初、マニーは強くて錆びない特殊ステンレス製の縫合針を開発して、その商品力で勝負していましたが、人命にかかわる商品ということもあり無名のメーカーだったマニーの製品を問屋はなかなか買ってくれませんでした。

そこでマニーがとった戦略は、従来の流通ルートへのセールスではなく、有名な外科医に直接アプローチするという接近戦です。

この戦略によって「名医のお墨付き」をもらったマニーの縫合針は、病院から問屋に注文が入るという形で認知され、トップシェアを獲得するに至りました。

まとめ

ランチェスター戦略はシェア2位以下の企業・商品がシェア1位を獲得するための「弱者の戦略」です。

その戦略の要は、兵力の差が2乗に作用する確率戦、広域戦、遠隔戦を避けて、一騎討ち、局地戦、接近戦を挑むことです。

具体的には、どこに集中するか、どのような差別化を図るかが勝敗のポイントになります。

画像出典元:pixabay

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