ビジネスの決済手段が多様化した現在でも約4割の企業が約束手形を振出していて、それを受け取る機会はどの企業にもあります。
約束手形はどんな仕組みで使用され、どんな役割を果たしているのでしょうか。
この記事では、約束手形仕組みや手形割引、裏書譲渡について分りやすく解説するとともに、約束手形のリスクや注意点についても解説しています。
このページの目次
約束手形とは、購入した資材や請け負わせた仕事の代金を、期日を決めて支払うことを約束する証書です。この「約束」には手形法に定められた義務や権利がともないます。
約束手形の券面は次のようになっています。
画像引用元:全国銀行協会「手形・小切手の基礎知識」
1. 約束手形であることを示す文字
2. 支払いを約束する金額
3. 支払期日
4. 支払う場所(銀行)
5. 受取人
6. 手形振出し日
7. 振出地(振出人の住所)
8. 振出人の署名
手形を発行した人(振出人)は通常90日~120日の支払い猶予期間が手に入りますが、手形を受け取った人(受取人)は、その間現金が手に入りません。
そのため、支払期日前に現金を入手する方法として「手形割引」と「裏書譲渡」という方法があります。(後述)
手形の役割は、いま手元にお金がなくてもビジネスを停滞させなくて済むことです。
手形を発行することで、仕入れれば売れる見通しがある商品を仕入れることができるし、作れば売れる見通しがある製品の製作機械を購入することができます。
このように手形は、現金払いでは不可能な商業活動や産業活動を可能にし、ビジネスの幅を広げる役割を果たしています。
また、手形は各企業の経済活動を円滑にすることで、商業界・産業界全体の発展に寄与する役割も果しています。
約束手形がビジネスを円滑にする役割を果す前提になるのが、振出人の「信用」です。
請求書をもらって「月末〆の翌月末払い」にするのも信用取引の一つですが、約束手形は支払期日がもっと先になるので、より大きな信用が必要になります。
TVドラマなどでは、手形の支払期日が迫って必死で金策に駆け回る中小企業の社長がよく登場します。
これはドラマだけでなく、多くの中小企業で日々繰り返されいる光景で、手形の不渡りが会社にとって致命的な信用失墜になることを物語っています。
約束手形は、支払いを先に延ばすことによってビジネスを円滑に、ダイナミックにする役割を果たす半面、商売の見通しや目論見が外れたときには大きな負担になるというリスクを持っています。
筆者が知っているあるデザイン会社の社長は、120日間という手形の支払期日を利用して蓄財し、高級住宅地に家を建てるというとんでもないことをしました。
「今後毎月売り上げがあるから大丈夫」というつもりだったのでしょうが、これは見通しが甘いというレベルの話ではなく、取引先や従業員を危険にさらす不道徳な行為というしかありません。
案の定、その社長はその後手形の支払いに追われて、会社はバブルが崩壊した数年後に倒産しました。
約束手形を発行するには、銀行に当座預金口座を開設して、約束手形用紙を交付してもらう必要があります。
手形には次の項目を記入します。
支払期日を空欄にすると、提示を受けたらすぐに支払う「一覧払い」とみなされるので、必ず記入しましょう。
画像引用元:中小企業庁「夢を実現する創業」
支払期日は振出人が自由に決めることができますが、一般的には発行した日の90日または120日後が選ばれます。
これらは、手形サイト(発行から支払期日までの期間)が異常に長い手形につけられたあだ名です。
・台風手形―210日
・お産手形ー10ヶ月
・七夕手形―1年
なぜこんなあだ名が付いたか分りますね。
こんな手形は受取人に嫌われるので、実際にはほとんど発行されることはありません。
約束手形も小切手も、銀行に当座預金の口座を持っている人が発行できる有価証券です。
受取人にとっての約束手形と小切手の違いは、約束手形は支払期日が来る前は銀行に持って行っても現金化できないのに対して、小切手は受け取った翌日には現金化できることです。
振出人にとっての違いは、約束手形はそのとき口座にお金がなくても発行できますが、小切手は口座にお金がないと発行できない(少なくとも発行したその日のうちに口座に入金しておかないといけない)という点です。
不渡り手形とは、支払期日に振出人の当座預金口座に手形を決済するだけの残高がなく、受取人に決済不能として戻ってきた手形です。
不渡り手形を半年間に2回出すと、振出した会社は銀行の当座取引停止処分を受けます。
また、2年間融資を受けることもできなくなる(貸出取引の停止)ので、事実上の倒産となります。
株式を上場している企業が半年間に2回不渡り手形を出すと、上場廃止の処分を受けます。
その前に、1回でも不渡り手形を出すと取引先の信用を失うので、ビジネスの継続が非常に難しくなります。
取引先は仕事を引き受けてくれないか、引き受けるとしても前払いを要求されるのが通常です。
また、不渡りを出すと手形交換所は「不渡報告」作成して全国銀行協会に通知するので、どこの銀行からもお金を借りることが困難になります。
一方、手形の受取人も、もらった手形が不渡りになると、金額によっては大きなビジネス上の危機に遭遇することになります。
手形が不渡りになっても、振出人には支払い義務が残り、受取人にはお金を請求する権利か残りますが、「ない袖は振れない」のたとえ通り、実際には払ってもらえないケースが大半です。
1通の不渡り手形によって振出人も受取人も倒産する「連鎖倒産」に陥ることが少なくありません。
手形のジャンプとは、振出人が受取人に手形の支払期日の延期を依頼することです。
具体的には、振出人は期日を延期した新しい手形を用意して、受取人に以前に渡した支払期日が迫っている手形と交換してくれるように依頼します。
手形のジャンプは拒絶されるケースが大半ですが、振出人の「〇月〇日までにはお金が入る」という説明に明確な根拠があれば承諾される可能性もあります。
ジャンプを依頼された側は、長年の取引があるなどで断りにくい場合がありますが、断るにしても引き受けるにしても今後の取引には慎重にならざるをえません。
手形を受け取った人が支払期日まで手形を自分で保管することはまれで、ほとんどの場合「手形割引」または「裏書譲渡」によって、早期に現金化するか支払いに使用します。
手形割引とは、手形の支払期日前にお金が欲しいときに行なう早期現金化です。手形割引は銀行または専門の割引業者に依頼します。
銀行や割引業者は、手形の支払期日までの金利と手数料を割り引いて支払うので「手形割引」と呼ばれています。
銀行での手形割引は、手形を担保に融資するという形になるので、事前の審査があります。
割引業者に依頼すると、依頼人の信用調査はなく、割引業者は手形を振り出した会社の信用度で割引率を決めます。安定した大企業の手形なら割引料が安くなります。
割引きすると支払期日前に現金が手に入りますが、その手形が不渡りになった場合は銀行や割引業者から、手形の買い戻しを要求されます。
買戻しでは一括払いを要求されますが、それが困難な場合は分割払いなどの方法を銀行や業者と交渉することになります。
割引きを依頼した人は、買い戻した不渡り手形に裏書があれば、裏書きした人に支払いを要求することができます。(裏書については後述)
もちろん手形の振出人に支払いを要求することもできますが、不渡り手形を出すくらいなので実際には支払ってもらえる可能性は低くなります。
受取った約束手形を支払期日前に利用する方法には、手形割引で現金化する他に、手形の裏面に署名して支払いに使用する方法があります。これを「裏書譲渡」といいます。
画像引用元:全国銀行協会「手形・小切手の利用法」
このサンプルは、最初の手形の受取人のゴリ森文太⇒びば沼研一⇒ライオン商会という順に裏書譲渡されたことを示しています。
手形を所有しているのは最終裏書人から譲渡された誰かです。
裏書した人は手形を現金同様に使用したわけなので、手形を譲渡した相手に対して「もしこの手形が不渡りになったら私がお金を払います」という約束をしたことになります。
手形を持っている人(被裏書人)は、裏書人に支払いを要求することができ、裏書人が複数いる場合はどの裏書人に請求するのも自由です。
例えば、A⇒B⇒Cという3人の裏書人がいて、その内のBが大企業だった場合は、Cを飛ばしてBに要求する方がスムーズに支払ってもらえる可能性が高くなります。
手形を手元で保管するときは支払期日を忘れないように注意が必要です。
手形を紛失してそれが第三者の手に渡ったら、お金が手に入る可能性はほとんどなくなります。
手形を手元で保管する場合は、支払期日に注意して「支払呈示期間」内に銀行に行って現金化しましょう。
支払呈示期間は、支払期日を含めて銀行の3営業日です。
支払呈示期間を過ぎてしまうと、振出人に直接支払を要求するしかありません。
支払いを請求する権利がなくなるわけではありませんが、ミスは受取人にあるのでていねいにお願いしなければなりません。
手形を落としたり盗まれたりして、それが紛失手形であることを知らない「善意の第三者」の手に渡ったら、受取人の権利は消滅してしまいます。
紛失したときの対策は、銀行に届け出て「事故届」をだしてもらい、警察に届け出て「遺失(盗難)等届出受理証明書」を発行してもらった上で、裁判所に「公示催告の申立て」を行ないます。
公示催告とは、官報や裁判所の掲示板に、「紛失した手形を持っている人は一定の期間内に届け出るようにと広告することです。
期間内に届け出がなければ、裁判所はその手形の無効を決定します(除権決定)。除権決定後に善意の第三者が現れても権利を行使することはできません。
もし期間内に届け出があった場合は、届けた人が善意の第三者ではないこと(例えば手形を盗んだ本人であること)を裁判で立証できれば、手形の返却を要求できます。
約束手形は、事業を円滑に進める有効な手段である反面、事業の継続を困難にするリスクも持っています。
手形は支払期日が3~4ヶ月先になることから、手形割引や裏書譲渡で期日前に現金化したり、支払いに利用するのが通常です。
会社相互の信用を基礎にした決済手段ですが、紛失して善意の第三者の手に渡ると手の打ちようがないという非情な一面もあるので、取り扱いには十分な注意が必要です。
画像出典元:PIXABAY、写真AC
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