「従業員の時間給(事業場内最低賃金)を上げたい」「作業効率を良くしたい」「設備を新しくしたい」と思っていても、予算の制約ですぐには出来ない事業場も多いと思います。
ですが、国が実施している業務改善助成金を活用すれば中小企業・小規模事業者でも可能となります。また、賃金の引き上げや生産性の向上が従業員の勤労意欲の刺激にも繋がり良いことばかりです。
ここでは、業務改善助成金の具体的な内容や申請方法の解説、実際の活用事例などを紹介していきます。
このページの目次
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性を向上させることで、事業所内の最低賃金を引き上げるための制度です。
生産性向上のために設備投資を行い事業所内最低賃金を一定金額引き上げた場合にその設備投資にかかった費用の一部を負担するものです。
業務改善助成金は、事業内最低賃金を引き上げるために始まった制度です。
事業内とは、同じ場所で行っている事業のことで、同じ場所で二つの異なる事業を行っている場合は別々の事業と判断します。
その事業内の最低賃金を上げることを目的としています。
また最低賃金には地域別最低賃金と特定最低賃金があり、業務改善助成金を活用することでそれらの最低賃金が引きあがります。
最低賃金を上げる理由には、国が平成28年6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総括プラン」があります。
現在の日本は少子高齢化が急速に進み、それによって労働人口の低下や生産性の低下などの問題を引き起こしています。
このままでは日本経済が低速してしまう可能性があり、経済の成長のためにはじまった政策です。
政府は「ニッポン一億総括プラン」実現のために「戦後最大のGDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」という強い大きな目標に掲げ、そこに新しい三本の矢を放ちました。
それが、①「希望を生み出す強い経済」、②「夢をつむぐ子育て支援」、③「安心につながる社会保障」です。
大きな目標達成のためには、この新しい三本の矢がすべて揃っていないことには意味がありません。
さらに、「成長と分配の好循環を形作っていくためには、新・三本の矢に加えて、三本の矢を貫く横断的課題として働き方改革と生産性向上という重要課題に取り組まなければならない」と示しています。
その重要課題の具体的な政策について定量的に評価されたのが以下の5つです。
①子育て支援の充実
②介護支援の充実
③高齢者雇用の促進
④非正規雇用労働者の待遇改善
⑤最低賃金の引き上げ
①~⑤の政策をすることで賃金・所得・消費に直接的に好影響し、新しい三本の矢の実現をするという考えがあります。
⑤の政策には、最低賃金の年率3%の上昇による雇用者全体の賃金底上げが示されおり、国の支援対策の一つとして「業務改善助成金」ができました。
対象者は、コースによって異なります。
事業場内最低賃金が800円未満の事業場で、下記の表の「どちらかを満たせばOK!」のいずれかに当てはまった場合に支給対象となります。
ただし、800円未満コースの対象は、地域別最低賃金800円未満の、青森、岩手、秋田、山形、福島、鳥取、島根、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の17県のうち、事業場内最低賃金800円未満の事業場に限られます。(令和元年10月現在)
必須! | 事業場内最低賃金 800円未満の事業場 |
どちらかを満たせばOK! | 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内 |
事業場規模30人以下の事業場 |
最低賃金の指定はなく、下記の表のいずれかに当てはまる場合に支給対象となります。
どちらかを満たせばOK! | 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内 |
事業場規模30人以下の事業場 |
地域別最低賃金は、厚生労働省のホームページで確認できます。
対象者は事場業内最低賃金が800円未満かどうかで助成率が異なります。
(参照資料:厚生労働省「業務改善助成金の概要」)
実際に例を出して、助成金がいくらになるのかをみてみます。
例えば、800円未満コースの助成率は実際にかかった設備投資費の4/5(80%)が支給されるので、引上げる労働者数が7人の場合は100万円までが支給されます。
160万円のうち100万円が助成金として支給され、残りが事業場での負担です
また、過去に業務改善助成金を受給したことのある事業場や、「人材育成・教育訓練費」「経営コンサルティング経費」も設備投資などに含まれるため助成の対象となります。
助成率の欄(上図)にある「生産性」とは、企業の決算書類から算出した、労働者1人あたりの付加価値をいいます。
助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性を比較し、伸び率が一定水準を超えている場合などに、加算して支給されます。
(※厚生労働省「業務改善助成金の概要」より引用)
支給を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
事業場内最低賃金を一定金額引き上げる(就業規則等に規定)
(①単なる経費削減のための経費、②職場環境を改善するための経費、③通常の事業活動に伴う経費は除きます)
その他、申請に当たって必要な書類があります。
申請してから助成金を受け取るまでの手順はそれほど多くありません。
提出する書類 | 交付申請書(様式第1号) |
書類の内容 | 業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上げ計画)を記載 |
提出する場所 | 都道府県労働局 |
都道府県労働局で提出した交付申請書の審査が行われます。審査が通れば、助成金交付の決定通知が届きます。
・常務改善計画に基づいて設備投資等を行いましょう。
・賃金引上計画に基づいて、事業場内最低賃金の引上げを行いましょう。
提出する書類 | 事業実績報告書(様式内9号) |
提出内容 | 業務改善計画の実績結果と賃金引上げ状況を記載 |
提出する場所 | 都道府県労働局 |
都道府県労働局で事業実績報告書の審査が行われます。内容が適正と認められれば助成金額が決まり、事業主に決定通知が届きます。
助成金額の確定通知を受けた事業主は、支払い請求書(様式第13号)を提出します。
申請時には以下の3つに注意しなければなりません。
①設備投資
②事業場内最低賃金の引上げ
申請は各都道府県労働局雇用環境・均等部屋で受け付けています。
・従業員数:40人
・事業の種類:食品製造販売業
ベルトコンベア導入前は、配膳台の周りを従業員が移動しながら弁当の盛り付けを行っていたが製造に時間がかかり非効率だった。
ベルトコンベアの導入により、弁当の盛り付け時間が2時間から1時間半に短縮した。さらに、弁当を10%も多く製造することができるようになった。
弁当の製造時間の短縮、製造数も向上できたので従業員28人の事業場内最低賃金を30円引上げた。さらに、事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げも実施した。
・従業員数:24人
・事業の種類:生鮮食品小売業
購入代金やお釣りの受け渡しまでのすべてを行っていたため、繁忙時間になるとレジの前には行列ができる状態となっていた。そこでレジ精算業務の効率化をすることにした。
助成金を利用し、セミセルフPOSレジを導入。商品バーコードの読み取りは従業員が行い、その後の精算を顧客が機械で行うことで精算時間がこれまでよりも短縮し、1.5倍も速くなった。
また、預り金やお釣りの受け渡しの間違いが無くなった。
レジ業務の効率化によって生産性が向上し、23人の従業員の時給(事業場内最低賃金)を52円に引き上げた。さらに事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げも実施した。
・従業員数:61人
・事業の種類:ホテル業
25年前に導入した食器洗浄機を使用していたため、洗浄に要する人員・時間・経費がかかり、業務が非効率になっていた。助成金を利用して新型の食器洗浄機を導入した。
新型食器洗浄機を導入したことにより、洗浄・乾燥にかかる人員を6人から5人に減らすことができ、時間・電力・水・洗剤の削減もすることができた。
時間が2/3に短縮したことから清掃や整理整頓などの他の作業をする時間が作ることができた。
食器洗浄にかかる人員や時間の削減ができたことによって生産性が向上し、1人の従業員の時給(事業場内最低賃金)を40円引上げた。
さらに、事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げを実施した。
経済成長のために国が実施している制度で、事業場や従業員にとっても有益的なことであれば活用しない手はありません。
賃金改善や業務改善に意欲的に取り組もうとする企業の後押しになるだけではなく、従業員の仕事に対する意欲向上にも繋がってきます。
1人1人の生産性を上げることで事業場内が活気づき、日本経済もさらに元気になるので、ぜひ助成金を上手に活用してみてください。
画像出典元: o-dan
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