ビジネスをしていると「敵対的買収」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
ただ、その言葉の意味を正確に理解しているかというとあやふやだという人もいるはずです。
こちらの記事では、「敵対的買収」の言葉の意味と、実際に起こった事例や敵対的買収で狙われやすい企業はどんな企業なのか、防衛策も交え解説いたします。
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「敵対的買収(てきたいてきばいしゅう)」とは買収対象会社の経営者に事前同意の無い状態で株式買収を実行することです。
経営陣の同意を得ないままでの買収実行となるため、防衛策を取られたり、現経営陣との衝突が避けられないことから敵対的な関係のままの買収という言葉の意味になります。
対象会社の株式を市場で買い集めたり、株式の1/3以上を保有することで経営権を奪うという戦略です。その場合、商法の規定により買い付けの意思を公表することが定められているため株式公開買い付け(TOB)をしなければなりません。
敵対的買収という言葉を聞くと何となく敵対関係のままの買収なのでマイナスなイメージを持つ人もいると思います。
しかし、現経営陣にとっては敵対的関係となることがあっても経営陣以外の株主や従業員、市場経済にとって会社の発展に有効であれば友好的な場合もあり特に悪い手法の買収では無いことも覚えておくといいですね。
経営陣が変わることで会社の売り上げ向上を見込めるチャンスになることもあります。
実際に敵対的買収を行う場合には、株価の2〜5割増しで買い占めることが多いため仕掛ける企業は財力もあるということになります。
ここでは敵対的買収が行われた例を成功例と失敗例の両方を取り上げます。
2019年3月、総合商社「伊藤忠」がスポーツ用品大手「デサント」に対し株式公開買い付け(TOB)を行い成功しました。
2019年1月31日〜3月14日まで株式公開買い付けを実施し、買い付け価格は株価の5割高という好条件。応募数が目標上限を超えたため、抽選を行い、目標株数で買い付けを終了しました。
実際に伊藤忠は長い間デサントの筆頭株主として経営危機を共に乗り越えてきましたが、それが2018年夏に経営方針で対立し関係が悪化。
その理由に、伊藤忠から派遣されていた取締役に通告なしで石本デサント社長が社長昇格したことなどが指摘されています。
その他に、デサントから伊藤忠への通告なしにワコールホールディングスとの業務提携を発表したことも大きな溝になりました。
両者の話し合いは数回行われましたが、意見の食い違いが大きく、最終的には敵対的買収という形に。
元々すでにデサントの筆頭株主である伊藤忠は、さらに株を保有することで株主総会での拒否権を持つことに成功し、役員選任案への影響力を持つことになります。
デサントが現状の経営状態に固執せず、伊藤忠が持つ支援を活用していれば友好な関係を築けていたのではないかと思われます。
今後、デサントの業績低迷を回復するべく経営陣の刷新としてデサントの取締役を10人から6人体制に変更するなどの戦略が進められるとのことです。
2005年、日本で敵対的買収が一躍有名になったきっかけとなったライブドアによるニッポン放送への敵対的買収です。
ライブドアがフジテレビの経営権を得るために、その筆頭株主だったニッポン放送を買収しようと試みました。そうすればフジテレビの筆頭株主になることが出来るという筋書きです。
実際にライブドアはニッポン放送を買い占め、最大株主になることに成功しました。
そのままライブドアがフジテレビの経営権を獲得できるはずでしたが、防衛策を取られてしまいます。
というのも、ライブドアがニッポン放送の株を買い占めていることを知ったフジテレビもニッポン放送の株を買い占めますが、追いつきません。
そこで防衛策として、ニッポン放送の持つフジテレビ株を全てソフトバンク・インベストメントに5年間貸株にしたのです。
結果的にライブドアはニッポン放送の経営権を取得したものの当初の目的だったフジテレビ株を取得できず敵対的買収は失敗となりました。
その後ライブドアはニッポン放送株の過半数以上をフジサンケイグループに売却しています。
敵対的買収のターゲットになりやすい理由の1つに独自の強みを持っているかどうかが鍵となります。
特許を持っていたり、その企業特有の強みがあると買収側にとっては魅力的に感じられます。
実際に特許製品を自社で作り上げることは難しくても買収して自社に取り込めば強みになるからです。
それと同時にそういうものを開発できる能力のある社員を得ることも大きいです。
不安定な株主構成とは、例えば利益を求める投資家が主な株主であった場合、利益を優先的に考えてしまうこともあります。そうなると株式を売った方が利益を得ることができると判断した場合には敵対的買収に応じる可能性も高くなります。
逆に、経営者がほとんどの株式を所有している中小企業などは株主構成が安定的だと思われます。
純資産額に対して株価が低い場合、仕掛ける側にとって魅力的です。というのも純資産額は、企業の財産から負債を差し引いた金額です。純資産額に対して株価が低い場合には、買い取った後の利益を得やすいので手に入れたいと思われる企業となります。
狙われやすい企業の特徴をあげましたが、買収を防衛する対策もありますので紹介します。
ホワイトナイトとは、その名の通り「白馬の騎士」という意味です。
敵対的買収されない手段として、友好的な関係のある企業に買収してもらいます。自ら友好的な企業に協力者となってもらう防衛策です。
この場合、敵対的買収側からの防衛策としての手段とはいえ、自社の株式をホワイトナイトになってくれた企業に一定数渡す事になります。
そうなれば経営に対しての発言の権利も発生しますので友好的な買収といってもしっかりとお互いの状況を把握しておくことが大切です。
マネジメント・バイアウトとは、経営陣や役員が自社買収し経営権を獲得することです。結果、自社株式を集め上場廃止をし上場企業でも非公開にしなければなりません。
株式が非公開になるということは買収することが難しくなるということです。
この手段をとることで他に経営権を奪われないということも狙いの1つです。
ポイズンピルとは、現株主に対し新株予約権を発行し買収を食い止める手法です。
新株予約権をすでに持っている現株主が市場価格よりも安価に新株を獲得し敵対的買収を阻止します。
この場合、株価や株式の保有比率の低下を招きますので、敵対的買収以外のリスク回避もしておきましょう。
ゴールデンパラシュートとは、現経営陣の退職金を大幅に割増支給する設定をすることです。
そうすることで買収しても経営陣を退職させることで資金を大幅に損失してしまう恐れがあるため、経営陣の交代が見込めなくなり敵対的買収に至らないという考え方です。
敵対的買収にはどんなメリットがあるのでしょうか。買い手と売り手のメリットを紹介します。
買収すると経営権を取得でき、経営陣の変更や自社の経営方針を取り入れた経営方法にすることができます。
今まで自社には無かった分野の獲得をコストをかけずに行うことができるので大きなメリットだと言えます。
イチから新たな分野の構築をするには時間も費用もかかるため大幅なコストカットになりえます。
例えば、貴重な技術や能力がある企業であっても後継者がいないという問題に直面している場合があります。
経営者の高齢化に伴い廃業を余儀なくされてしまう企業もあり、ノウハウを継承できないという状態から救ってくれるメリットとして敵対的買収が実施されるケースも。
廃業するにもコストはかかりますし、第一に貴重な技術が残ることは企業にとって大きなメリットとなります。
反対に敵対的買収によるデメリットはどんなことがあるのでしょうか。
同様に買い手と売り手にとってのデメリットを紹介します。
買収し、経営権利を得るということは良い部分も悪い部分も引き継ぐということです。
そのため、利益になる点は良いのですが、簿外債務が発覚したりというトラブルがある場合も。
買収後に期待していた効果が得られない場合もあったりします。
事前にしっかりと把握しておかなければ思わぬデメリットになってしまう可能性があります。
買収された企業の傘下に入ったり、合併することになった場合にお互いの企業の良さを発揮できることで買収された側にもメリットとなるはずが、思ったよりも買収された企業の価値が低くなってしまうこともあります。
買収側にとっても本来は相乗効果で業績をあげることが目的ですので、そのような状態にならないように事前に情報をシェアするなど関わりを密にとることが大切です。
いかがでしたでしょうか?敵対的買収という言葉の意味や実際にあった買収例などを交えて解説いたしました。
敵対的買収とは、買収対象の経営者への同意を得ずに株式買収を行うこと。
敵対的買収自体、悪い訳ではありませんが自社の想いをしっかり自社に反映していきたい場合には日頃から敵対的買収をされないような企業作りを心がけましょう。
企業に属する従業員や株主に対して満足してもらえるような経営体制を整えること。
定期的に満足度をチェックしたり株主への還元率を見直すなど、関わってくれている人達に還元する企業であれば企業価値は向上し株式を手放さない信頼関係で応援される企業になるでしょう。
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