ここ数年、会社組織や働く場所にとらわれず、好きなことを仕事にできる働き方として『フリーランス』や『個人事業主』が注目を集めています。
そこで、個人事業主とはどのような働き方で、会社員をしながらでもできる働き方なのかどうか。
個人事業主になったときの健康保険や年金などの福利厚生面、お金の管理方法などを徹底的に解説します。
このページの目次
会社から独立して働くようになると「フリーランス」や「個人事業主」と言われることもあります。
しかし、厳密にいえばフリーランスと個人事業主には、明確な違いがあります。それを解説する前に、まずは『個人事業主』とはどのようなものかについて説明します。
事業をおこなう方法には、『個人』と『法人』の2つがあります。
これら『個人』・『法人』といった分類は、そもそも税務上の所得区分によるものであり、事業経営の一つの形態を指しています。
そのため、いち個人が経営する事業のことを『個人事業』、法人が経営する事業を『法人事業』といいます。
事業には、それぞれ事業主がいます。
事業を会社に見立てて考えた場合、会社を個人で経営している場合は個人事業主となり、会社を代表取締役など複数の執行役員で経営する場合は、法人格が事業主となります。
これは、事業に対する責任を負う範囲が違うため、個人と法人では取り扱いが異なるのです。
事業に関する負債などを含めた全責任を事業主である個人本人が負うのが『個人事業主』です。
責任の範囲に限度がないことから無限責任の義務を有することになります。よって、何らかの事由で負債が発生すると、その弁済義務は事業主一人の肩にかかります。
一方、法人の場合は、経営者と事業を切り離して考えます。これは、“法人化された事業”を法律上1つの人格(法人格)としてみなすことになっているからです。
そのため、事業に対する負債等を含めた責任は法人格(会社)のものと考えられ、代表取締役などの経営者は責任を負いません。これを有限責任といいます。
個人事業と法人事業では税務区分と責任の範囲が異なるのが、2つの相違点といえます。
個人事業主は、会社組織と雇用関係を持たず独立して仕事をするという点で、自由業とも呼ばれます。
フリーランスも、企業や団体などの組織と雇用関係を結ばない働き方をする点では、個人事業主と同じ自由業と言い表せます。
ただし、フリーランスの場合は、案件ごとに請け負いや委任といった契約を交わして業務にあたることになります。
単発の案件ごとに契約を交わして作業をすることもあれば、長期契約を結んで作業が発生するたびに指示書等に従って作業をすることもあります。
これらの作業を、会社を立ち上げずにおこなうのが個人事業主です。
つまり、個人事業主は事業の形態を表し、フリーランスは働き方そのものを表しているのです。
個人事業主と会社員は、雇用関係・働き方・福利厚生・収支面と異なる点がたくさんあります。
まず個人事業主は誰にも雇用されない、法人前の事業経営者という立場です。
仕事を獲得するには自らが動き、受注することになります。受注した仕事は、成果物を納品することによって完結します。成果物への対価として報酬を得て、それが事業所得になります。
事業所得は事業主個人の収入でなく、事業所得から必要経費を差し引いた金額が、事業主個人の収入になります。
さらに個人事業主で従業員を雇っている場合は、事業収入から必要経費を差し引き、残った金額から従業員へ給与を支給することになるため、その残りが事業主の収入になるのです。
また、個人事業主本人は雇用関係とは無関係のため、労働基準法は適用されません。
これに対して会社員は、事業経営者もしくは法人化した組織と雇用契約を結んだ労働者です。
会社組織が仕事を受注し、割り振られた業務をおこないます。給与は労働の対価として、会社から支払われます。
給与の内訳は基本給に加えて残業手当や住宅手当、交通費などが含まれています。
さらに、有給休暇も取得によって給与が発生するため、収入としてみなすことができます。
また、会社員は福利厚生の待遇が用意されています。
会社の健康保険や厚生年金の被保険者として加入し、給与から各保険料が差し引かれます。
加えて、所得税や住民税が給与から天引きされるため、保険料や税金が差し引かれた分が手取り分として支給されます。そして、会社員は被雇用者であり労働者であることから、労働基準法の適用となります。
このように個人事業主と会社員では、働き方そのものから収入・支出面、法律上の取り扱いまで大きく異なっています。
しかし、会社員が企業で働きながら個人事業主として活動することは可能です。この場合、勤めている会社が副業や兼業を認めているかどうかを予め確認しておくことが大切です。
もしも認められておらず、事業のことを隠して始めたとしても、所得に応じて変動する所得税額でバレてしまいかねません。
さらに事業内容が、勤めている会社と競合したり、あるいは会社のノウハウを使ったりするものでないことも重要なポイントです。
競合やノウハウを活用する事業の場合、会社の利益に相反する可能性があるからです。
これらに該当しない事業で、なおかつ会社が副業や兼業を容認しているのであれば、個人事業として開業することは可能です。
会社員は、会社が加入している協会けんぽや健康保険組合といった社会保険と厚生年金に加入することになります。
では、会社員が退職して個人事業主になった場合、社会保険や年金はどうなるのでしょうか。
日本には、国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)があります。これによって、どんな立場の人であっても健康保険に加入することが義務付けられています。
個人事業主の場合は、国民健康保険に加入することになります。
これは国民健康保険の加入条件が、“社会保険またはその他の保険に加入していない人”だからです。
運営は各市町村単位でおこなわれており、市役所や区役所などの役所窓口で加入手続きを行います。
会社員を退職して個人事業主になる場合は、窓口でその旨を伝えます。
このとき、必ず離職証明書を持参しましょう。前の保険と加入期間が重複してしまうことを避けるために必要になるからです。
保険料は世帯単位で計算され、加入者の人数や年齢、収入といったものが算定基準になります。
社会保険料であれば、保険料は会社との折半になりますが、国民健康保険は100%本人負担となります。
そのため、社会保険加入時よりも国民健康保険のほうが、保険料が高くなることもあります。
さらに国民健康保険の場合、40歳以上になると介護保険の支払いが発生します。
40歳以上から64歳以下は、国民健康保険料と合算して支払うこととなり、65歳以上からは、国民健康保険料と介護保険料は別々に支払うことになっています。
社会保険では親や子、配偶者を扶養として扱うことができますが、国民健康保険には扶養という考え方がありません。そのため、世帯構成員として扱います。
このように、健康保険でも国民健康保険と社会保険では、加入条件・運営者・保険料・扶養に違いがあります。
また、健康保険は、国民健康保険・社会保険のどちらか一方しか加入できません。
たとえば、あなたが個人事業主・配偶者が会社員の場合、あなただけが国民健康保険に加入することになり、配偶者は会社の社会保険に加入したままとなります。
会社員のまま個人事業主になった場合も、すでに社会保険に加入していますから、あえて国民健康保険に加入しなおす必要はありません。
個人事業主の年金は、国民年金のみとなります。
管轄は市区町村の年金窓口となり、離職後に健康保険への加入手続きと併せて、国民年金への加入を申請します。
支払額は毎年度改定されるため、年度ごとに役所から送られてくる決定通知書を確認するようにしましょう。
なお、2018年度(算定対象期間:2018年4月~2019年3月)の支払額は月16,340円です。この金額は一律で、収入で増減することはありません。
この国民年金は、実は会社員時代から厚生年金として給料から天引きされています。
厚生年金として差し引かれている内訳には、国民年金の保険料も加わっているのです。
そのため、将来年金を受給する際には、厚生年金と国民年金の両方から年金を受け取ることができます。
会社を中途退職して個人事業主へと独立を果たした場合は、加入していた期間分の厚生年金を受け取れます。
ただし、独立後から受給までに支払った年金が国民年金のみの場合、定年退職まで会社員を務めた人と比べたとき、個人事業主のほうが受け取る年金額が少なくなります。
このことを踏まえて、個人事業主は自身の将来のために、個人事業主になった早い段階で個人年金に加入したり、資産運用するなどして蓄えを始めておくのが安心です。
会社員は、会社が源泉徴収してくれるため、確定申告をする必要がありません。
ところが個人事業主は、事業所得を得たら確定申告をする必要があります。そのため、日々の収支管理はとても大切です。
個人的な支出と事業に伴う支出が混在しないように、事業専用の銀行口座を作りましょう。
通常、銀行口座は個人名義でしか開設できません。しかし、開業届を出すことによって、事業名義での銀行口座を作ることができるようになります。
開業届は、事業を開始したら必ず出さなければならないものではありませんが、届け出ておくことによってメリットを享受できます。
どのようなメリットがあるかは、次の記事で解説していますので、参考にしてみてください。
事業名義の口座に報酬を入金してもらえば、いつ誰からいくらの入金があったか把握しやすくなり、事業に関わる支出もこの口座から支払えば収支管理が楽になります。
それだけでなく、毎年年度末に訪れる確定申告に合わせて会計情報を照らし合わせる際にも、チェックしやすくなるので便利です。
個人事業主として活動を始めると、備品購入や交通費などさまざまな支出が発生します。こうした支出は、受け取った報酬とともに一年間管理することになります。
収支頻度が少なければノートに手書きで記録することもできますが、頻度が多いとそうもいきません。そんなときは、会計ソフトを使いましょう。
手書きで記録するよりも手間も少なく、経費管理に慣れていない人にとっては勘定項目(会計情報を区分するための分類)を間違えづらくなります。
さらに確定申告の時期になれば、簡単に申告に必要な情報を取り出せたり、申告書が作れたりします。
会計ソフトにもさまざまなものがあります。こちらの記事で詳細に解説をしていますので、参考にしてみてください。
確定申告では、事業所得に応じた税金を納めなければなりません。
これも日々の経費管理を基に算出するため、会計情報がずさんに管理されていると、余分な税金を払うはめになることもあります。
納めるべき税金の金額は、一定の計算方法があります。それについては、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
個人事業主とは何か、また個人事業主になったときの健康保険や年金などの福利厚生面、お金の管理方法などについて徹底的に解説しました。
個人事業主は、好きな仕事をしながら報酬が得られる事業形態の一つです。
働く場所も、仕事の内容も自分で選ぶことができるため、これまで蓄積した自分のスキルを武器に活躍することも可能です。
副業や兼業が進む今後は、会社員の新たな働き方や収入源の一つになるかもしれませんね。
本記事を参考に、ぜひ個人事業にトライしてみてはいかがでしょうか。
画像出典元:PEXELS、o-dan
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