近年、企業にとって確実な戦力であり続けるために大変注目されている「リスキリング」。
その必要性は理解しているつもりでも、実際にどのように取り組めばよいのかわからない方や、社員にどのように促せばよいか思いつかない経営者・人事担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、リスキリングの意味やリカレント教育との違い、メリットや導入方法、注意点について詳しく解説します。
国内外の導入例や給付金・助成金についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
リスキリングとは、変化の激しいビジネスの世界において、新たな仕事や職務に適応していくための新しい知識やスキルを、働きながら習得することを意味します。
とりわけデジタルやITの世界においては、テクノロジーの進化ぶりが目覚ましく、常に新たな学びが求められます。
これを怠れば、付加価値の高いサービスの提供や新規事業開拓といった今後の業績を左右する業務はもちろん、日常のルーティンさえも対応できなくなるという事態を招きかねません。
そこで先を見越して社員が新たなスキルを習得したり、企業側が社員に学びの機会を与えたりといったリスキリングの必要性が、国内外を問わずに強く叫ばれているのです。
リスキリングの対象分野には以下のようなものがあります。
多くの業界において、IT関連の知識やビッグデータの分析と活用、多言語への対応が急務となっています。
とはいえ決して片手間で習得できるものばかりではないので、確実な成果を上げるためにはそれ相当の覚悟と環境の構築が必要です。
リスキリングのスタイルとしては、主に以下のようなものがあります。
学習内容や本人のスキルレベル、予算といった条件によって選択するスタイルは違ってきます。
ただ、外部講師を招く場合はどうしても時間や場所の制約が生じます。
講義も同じ項目についてはその場の一度だけというケースが少なくありません。
その点、オンライン学習であれば、場所も時間も気にせずに受講することができます。
何度でも好きなだけ動画を視聴できるサービスも多く、配信業者や講座の種類は年々飛躍的に増加しているため、大変コストパフォーマンスが優れているといってよいでしょう。
近年、あらゆる業界においてDXの必要性が強く叫ばれています。
しかしDXは、単にデジタル化を促進すればよいという単純なものではありません。
ビジネスモデルを根底から見直したうえで変革し、企業風土や文化、組織そのものを変えつつ競争上の優位を確立する、という目的で行うものでなくてはならないからです。
その意味で、デジタルスキルはもちろんのこと、データや市場動向の分析、さらにそれらを通じて将来的に新たな収益源となる新サービスや商品、あるいは新規事業を創出できるだけのスキルをもった人材の育成が欠かせません。
ところが、情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2023』によれば、DXを推進する人材が「大幅に不足している」とする国内企業は49.6%(2022年度)という高い数値をマークしています。
ここにリスキリングが必要とされる大きな意義があるのです。
デジタル化の波は日を追うごとに確実に強まっています。
とりわけAIの台頭は目覚ましく、なかでも生成AIの登場により、いよいよ多くの職業が機械に奪われかねない状況が押し迫っているといってよいでしょう。
こういった事態を回避するためにも現状維持ではなく、より高度で有用性と独自性の高いスキルの習得が求められているのです。
とくに若い世代を中心に、短期間で職場を変えるビジネスパーソンが増加しています。
終身雇用という考えではなく、職を変えながらスキルアップを繰り返す動きが強まることにより労働市場の流動化が顕著になっているのです。
この流れに乗るためにはリスキリングが不可欠です。
変化の激しいビジネスの世界では、過去の実績だけで勝負することは難しく、常に知識やスキルをアップデートする姿勢が求められます。
その意味でリスキリングの意義は非常に大きいといえるでしょう。
社会人が学習するという意味では、リスキリング以外にも「リカレント教育」「OJT」「アンラーニング」「生涯学習」などがあります。
それぞれの違いについて解説しましょう。
リスキリングによく似た言葉で「リカレント教育」があります。
リカレント教育は、社会人が自らの意思や考えでいったん職場を離れ、大学や大学院、専門学校といった教育機関に籍をおいて学習。
その後に就労し、また学習を繰り返すことを意味します。
リスキリングは企業側が主体となるケースが多いのに対して、リカレント教育は従業員が自主的に行うのが一般的です。
リスキリング | リカレント教育 | |
目的 | 働きながら新たな仕事や職務にためのスキルアップ | 職場を離れて専門性の高い学習を行い、再び就労するという行動を繰り返す |
実施機関 | 企業が中心 | 個人 |
期間 | 数週間〜数ヶ月が大半 | 数ヶ月〜数年に及ぶこともある |
学習内容 | デジタルスキルや語学など即応性の高い分野 | 経営学や会計、法律など専門性の高い分野 |
続いて、「OJT」「アンラーニング」「生涯学習」についても具体的に解説しましょう。
社内において先輩社員が後輩に現場で必要な知識や技術を伝えること。
教育研修やマニュアルでは伝えきれない細かなポイントやニュアンスにいたるまで徹底して教えて、業務知識やスキルの定着をはかります。
現実的に必要でなくなった知識や技術を捨て去り、実用性のある新たな知識やスキルを習得すること。
生涯教育とは、充実した人生を送るために生涯にわたって学習し続けることです。
その内容は、ビジネス以外に社会教育、趣味、文化活動、スポーツ、ボランティアなど多岐にわたります。
リスキリングのメリットについて解説します。具体的には以下の3点になります。
それぞれについて解説します。
新規事業を開発したり、顧客からの新たなニーズに応えたりできる人材が社内に不足している場合は、外部から新規採用する必要があります。
採用活動には多くの手間が発生するうえ、とくに優秀な人材になるほどコストも上がる傾向にあります。
リスキリングにより、必要な知識やスキルをすでに在籍する社内人材の中からまかなうことができれば、採用コストを大幅に削減することができるでしょう。
リスキリングが進むと、デジタル化や市場分析、新たなアイデアの考案などが促進され、業務効率が向上することによって生産性が高まると期待できます。
そうなると、売上が増加するのはもちろん、自社の市場価値も高まると考えてよいでしょう。
リスキリングによって自社の強みが増えれば、新サービスや商品の開発、新規事業の開拓などに大きく寄与します。
すると業界内における競争力が高まり、さらに規模の大きな市場において新たなビジネスモデルの構築が実現する可能性も広がるでしょう。
企業がリスキリングを導入する際の手順は大きく分けて4つあります。
それぞれを詳しく解説していきます。
リスキリングは、売上の増加や組織の成長、事業の発展に直結することが最終目的であり、そうでないとすると個人の学びや趣味の範疇を超えないものとなる恐れがあります。
社員にリスキリングを促す際は、「何を」「何のために」学習するのか、自分にもどんなメリットがあるのか、といった点をきちんと共有して理解を得ることが大切です。
自社の将来のためにどのようなスキルや知識をもつ人材が必要か絞れたら、それに相応しい人材を募集します。
現在のスキルや社内での実績、学習意欲などを総合的に考慮して最適な人材を選出していきます。
社内でリスキリングを制度化しようと思えば、それ相当の予算が必要になります。
しかしそのすべてを自社でまかなう場合、コスト面での負担は決して少なくありません。リスキリングは、国や自治体で数種類の給付制度が用意されているので、その中から利用できるものがあれば積極的に利用することを考えましょう。
給付制度の詳細については、この記事の最後の章で紹介しています。
予算の確保と同時に検討しなければならないのが、どのような手段でリスキリングを行うかです。
外部から講師を招くのか、オンライン講座(eラーニング)を活用するのか、通学を促すのかなど、手段によってコストにも開きが生じるので、自社にとって最適な学習メニューを策定する必要があるでしょう。
続いて、リスキリングをより効果的・スムーズに実施するための3つのポイントを紹介します。
リスキリングは、通常業務の合間に行うものなので、社員の負担が増える可能性が高いです。
よって、仕事の精度を落とさずに新たなスキルの習得を促すには、それなりの学習環境を整えることが大切でしょう。
残業をさせない、就業時間中にリスキリングのための時間を確保できるようにするといった制度設計が不可欠です。
また個々の学習状況を把握して予定通りに進まない場合は、何らかの支援を行ったり、方針を変更したりといった柔軟なフォロー体制があると、社員も安心できるかもしれません。
リスキリングは、会社から強制されたからといって十分な成果は望めません。
それより学習のサポート体制を充実させたり、資格手当を支給したり、上級のポストを用意するなど社員のモチベーションがアップして自主的にリスキリングに臨める体制作りを確実に行うことが大切です。
リスキリングは、実際の現場で学習成果が発揮できてこそ意味をなします。
導入ステップのはじめに精査したリスキリングの必要性と整合性のとれた新たな仕事や新規事業への抜擢といった動きは非常に重要です。
このような実例があれば、社内におけるリスキリングへの関心や認知度の向上はもちろん、モチベーションのアップにもつながるでしょう。
それではここから、国内外の企業におけるリスキリング導入事例を紹介します。
物流大手のヤマトホールディングス株式会社は、2021年にデジタル人材の早期育成を図る目的で「Yamato Digital Academy(YDA)」を開設し、全社でデータ・ドリブン経営の実現を目指しています。
YDAでは、以下の3つの階層に分けた研修プログラムを設けています。
YDAは順次グループ会社への展開を目指しており、3年で1,000人規模のグループ社員の受講を予定しています。
大手広告代理店の博報堂と博報堂メディアパートナーズは、2005年から「HAKUHODO UNIV.(通称:博報堂大学)」において全社員を対象に年間約200におよぶ様々な講座を提供してきました。
これをベースとして2022年に「リスキリング支援」施策として過去にニーズの高かった約200種の社会研修プログラム(語学、時事ニュース、プログラミング、ビジネススキル全般、デジタルマーケティングなど)を新設。
すると全対象者のうち半数を超える54%の社員が自主的に受講しました。
参照:博報堂「調査レポート」
通信事業大手KDDIグループは、DXを推進する「DX人財」を2021年度から2023年度までにグループ全体で約4,000名に増やす取り組みを実施しています。
DX人財の中でもとくに中核となる社員をDXコア人財とし、「KDDI DX University」という人財育成機関において約1年間で200時間の研修を実施し、こちらは500名規模までの育成を目指しています。
世界最大の通信会社であるAT&Tは、10万人の従業員に10億ドルを投じてリスキリングを行いました。
自前のオンライン訓練コースを開発し、データ分析やプログラミングといったITスキルに関する単位の取得が可能に。
加えて、大学と提携してサイバーセキュリティやデータサイエンスなどの学位を取得できるようにもしています。
また、「キャリアインテリジェンス」というキャリア開発支援ツールを独自開発することで、希望のポストにつくために、どのようなスキルが必要かを誰でも把握できるようにしました。
大手通信会社のベライゾンは、「Verizon Skill Forward」という独自の教育プログラムにより、ウェブ開発、デジタルマーケティングアナリスト、Javaの開発などに必要となるITスキルが学べる講座を無料で提供しています。
2030年までに約50万人の従業員にリスキリングの機会を与えることを目標としています。
米アマゾンは、7億ドルをかけて2025年までに約10万人の従業員のリスキリングを実施する予定です。
その内容は、従業員全体のITスキルの底上げで、非エンジニアをエンジニアに育てる「Amazon Technical Academy」や、AIをはじめとする機械学習スキルの習得を促す「Machine Learning University」などです。
最後にリスキリングを実施するうえで個人および企業が活用できる給付金について解説します。
厚生労働大臣が指定する約14,000の教育訓練の内のいずれかを自費で受講した個人に、その一部が支給される制度です。
給付金には以下の3種類があります。
【対象となる講座】
看護師、介護福祉士、美容師、調理師、保育士、キャリアコンサルタン、高度IT資格など
【支給額】
教育訓練経費の50%(上限40万円)
【対象となる講座】
社会保険労務士、税理士、宅地建物取引主任者、司法書士、FP技能検定、介護職員初任者研修など
【支給額】
教育訓練経費の40%(上限20万円)
【対象となる講座】
英検、TOEIC、簿記、MOS(マイクロソフト・オフィス・スペシャリスト)、中小企業診断士、インテリアコーディネーターなど
【支給額】
教育訓練経費の20%(上限10万円)
該当講座は「教育訓練給付金制度 厚生労働大臣指定訓練講座」で検索できます。
再就職に必要な知識やスキルを習得するための個人に向けた支援制度です。
給付金には以下の2種類があります。
なお、ハローワークに求職の申し込みをしていることが前提です。
公共職業訓練 | 失業手当を受給している場合に原則無料で受講可能 |
求職者支援 | 失業手当の受給資格がない人が原則無料で受講可能 |
職業訓練のコースは「ハローワークインターネットサービス|職業訓練校検索・一覧」で検索できます。
看護師、介護福祉士など就職の際に有利となる一部の資格で、養成機関において6ヶ月以上修業するひとり親に対して、修業期間中の生活費の一部を支援する制度です。
【対象となる人】
児童扶養手当を受給しているか、同等の所得水準にあり、養成機関にて6ヶ月以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得等が認められるひとり親の方
【対象資格】
看護師、准看護師、保育士、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、調理師など
【支給内容】
訓練期間中に月額10万円(住民税課税世帯は月額70,500円)
訓練修了後に5万円(住民税課税世帯は25,000円)
事業内において職業能力開発計画を立て、その計画に従って従業員に職業訓練を実施する事業主等を支援する制度です。
具体的には以下の7つのコースが設定されています。
雇用する被保険者に対して、「職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練」「厚労大臣認定のOJT付き訓練」「非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練」を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成。
有給教育訓練などの制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成。
「デジタル人材・高度人材を育成する訓練」「労働者が自発的に行う訓練」「定額制訓練」などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成。
新規事業立ち上げなどの事業展開に伴い、新たな分野で必要となる知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成。
認定職業訓練または指導訓練のうち、建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の、訓練期間中の賃金の一部を助成。
雇用する建設労働者に、技能向上のための実習を有給で受講させた場合、訓練経費や訓練機関中の賃金の一部を助成。
障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、一定の教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行う場合、その費用を一部助成。
世の中の経済情勢やビジネスモデルのあり方が急速に変化をとげる中、リスキリングは今後、企業が生き残っていくために不可欠といってよいでしょう。
適切な人材に新しい知識やスキルの習得を促し、ライバルに負けないだけの競争力を強化することが重要です。
各種給付金の制度をよく調べて、条件に合うものがあれば積極的に活用しましょう。
画像出典元:Pixabay
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