大企業だから新規事業に成功しやすいか、というとそうとも言い切れません。
むしろ失敗する例の方が圧倒的に多く、近年では自ら手がけるのではなく、将来性のあるスタートアップを買収して新規事業化する例すら増える傾向にあります。
では、成功と失敗を分ける要因はどこにあるのでしょうか?そう問われても、あまりにテーマが大きすぎて即答できない方も多いかもしれません。
そこで本記事では、大企業が新規事業に失敗しやすい要因を解説し、成功例と失敗例、さらに成功させるための5つのポイントを紹介します。
このページの目次
近年、経営状態が安定しているはずの大企業が、新規事業に参入する例が増えています。新規事業の成功は決して容易ではなく、下手をすると本業の足を引っ張る恐れもあります。
そのリスクを冒してまで新規事業に取り組む理由はどこにあるのでしょうか。
4つのポイントに分けて解説します。
大企業にとって新規事業への参入は、生き残るための重要手段といえます。
というのも、近年のビジネス界における市場ニーズのスピーディーな変化ぶりは目を見張るものがあるからです。
気候変動や国際紛争、感染症の蔓延や急速なデジタルシフトなど、未曾有のリスクやニーズの変化が折り重なるようにして起きてくると、各業界でしのぎを削る大企業は、さらに生き残りをかけた覇権争いを強いられます。
その環境下で勝ち筋を見出す有効打の一つが、新規事業への参入なのです。
ブランド力や築き上げてきた知名度を活かして、新規事業に勝機を見出す例も少なくありません。
名もないスタートアップや中小企業が一から立ち上げるより、名の通った大企業の方が、顧客を獲得したり、培ってきたノウハウが活かせたりしやすいため、経営を軌道に乗せるまでのリードタイムが短くて済むことが多いのです。
スタートアップや中小企業の場合、新規事業に見合ったアイデアや研究成果、技術はあるものの、資金の目処が立たず断念せざるを得ないということがあります。
その点、大企業は豊富な資金量を武器に新規事業に打って出やすいといえるでしょう。
しかも自己資金に頼るだけでなく、豊富なネットワークを活かしてパートナーや金融機関と共同で立ち上げるという選択肢もあります。
人材が豊富な点も、大企業ならではの強みです。
規模が小さい企業の場合は、一人が何役もこなし、その上さらに新規事業となるととても手が回らないケースが多いです。
しかし、大企業は多種多様な人材の中から新規事業の内容により適切な人物を選出する余裕があります。
新規事業開発に取り組む大企業は増えていますが、その成功率はとても低いといわれています。
豊富な資金や人材があるにも関わらず、なぜ成功に結びつかないのか。
その原因を4つに分けて解説します。
新規事業立ち上げというミッションだけが先走りすると、失敗に終わることが多いです。
なぜその事業を立ち上げるのか、どこを目指すのかという目的が曖昧なままでは、社員は団結することができません。
結果として動きが鈍くなり、チームとしてモチベーションも保てずに、計画そのものが頓挫してしまうのです。
どのような事業も計画通りに進むことはまずありません。
設計や製造のミス、システムの誤作動、集客不足、クレーム、予算オーバーなど、想定外のことはいくらでも起こる可能性があります。
ところが、それらに対するリスク管理ができていないと、対応しきれずにチャンスを逃す例が少なくありません。
大企業によっては、社員数が多くても新規事業を立ち上げ、しかも成功に導いた経験をもつ人材は限られていることがあります。
また、新規事業開発には情報収集やマネジメントといったスキル面に加えて、ITやマーケティングなどの知識も必要不可欠です。
しかし、これらのスキルや知識を持つ人材が揃わないことも多く、思いのほか苦戦して打つべき手が打てず失敗に終わるパターンがあるのです。
新規事業は時間との勝負という面が多々あります。
ライバルに先を越されないとか、資金が枯渇する前に軌道に乗せるといったことが求められるからです。
しかし大企業では、何段階もの審査をパスしなければGOが出ないケースが珍しくありません。
するとスタートが出遅れるため、軌道に乗る前に為す術がなくなってしまうのです。
ここで大企業が新規事業に成功した例を3つ紹介しましょう。
日本を代表する自動車メーカーのホンダは、創業者の本田宗一郎がいつかはと夢見ていた航空事業に参入して大成功をおさめました。
開発した小型ジェット機は、燃費の良さや快適な居住性が高く評価され、2017年から5年連続で小型ジェット部門第1位の納入数をマークしました。
成功の要因の一つは、開発拠点を航空業界の本場アメリカに設けたことです。
航空機を使用するには、国ごとに型式証明(一定の安全基準をクリアしていることを証明するもの)を取得する必要がありますが、それを自国ではなくアメリカで開発することにより無事取得することに成功しました。
アメリカのお墨付きが得られれば、他の国でも承認されやすくなります。
加えて、航空業界では長年タブーとされてきた主翼の上面にエンジンを装備した点も奏功しました。
一般的な航空機のエンジンは、ほぼ100%主翼の下や胴体後部に積むのが常識でしたが、それを主翼上面に設置することに成功し、騒音や振動を大幅に軽減。
さらに17%も燃費を向上させて他社の製品と圧倒的な差別化を図ったことにより、爆発的な人気を集めたのです。
カラーフィルムやインスタントカメラ、プリント機器を手がける富士フイルムは、まったく畑違いの化粧品事業に参入して大幅な利益を獲得しています。
分野は異なるものの、写真分野で培ったナノテクノロジーによって、成分を極小化、安定・高濃度配合させることに成功し、高品質な化粧品を開発しました。
加えて、写真フィルムの劣化を防ぐ抗酸化技術が、紫外線から肌を守るスキンケアや、日焼け止めの開発にも応用されています。
日本郵政は、物流系ITベンチャーのYper株式会社と共同で、玄関先に折りたたんで設置し、宅配ボックスのように使用できる「OKIPPA」をサービス提供し、再配達率を劇的に改善しました。
本来なら、宅配ボックスを利用する際はエリア担当の郵便局に「指定場所配達に関する依頼書」を提出する必要がありますが、OKIPPAはそれが不要です。
その手軽さも評価され、利用者が順調に増えているのです。
再配達は、ドライバーの長時間労働の要因として深刻な問題となっており、2024年4月からは、ドライバーの年間時間外労働時間が大幅に規制されることになっています。
「2024年問題」として物流危機が心配される中、そこに光をあてる新規サービスとして高く評価されているのです。
続いて、大企業の新規事業の失敗例を3つ紹介しましょう。
ファストファッションで圧倒的な知名度と売上を誇るユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)は、かつて野菜販売事業に進出して失敗した経験があります。
狙いは、ユニクロで培った生産から流通、販売までの一貫システムを、野菜販売事業に応用することにより農作物の価格を下げるというものでした。
会員制の宅配サービスとしてスタートし、2002年の創業開始から半年後くらいまでは順調に会員数が増加していきます。
ところが、契約農家の拡大が思いのほか難航したり、野菜の収穫が不安定なため欠品が生じたりといった問題に直面し、3ヶ月後には、売上予定額の半分の実績しか計上できず、9億円を超える赤字を抱える結果になります。
その後は、実店舗展開をしたり、会員募集の範囲を広げたりするも、どれも振るわず結局2年足らずで26億円の特別損失を計上して撤退しました。
コンビニ最大手のセブン&アイホールディングスは、独自の決済サービス「7pay」を導入するも、わずか3ヶ月でサービスを終了するという苦い経験をもちます。
原因は、サービス開始直後に多発した不正アクセスによる被害です。
約800人が総額3,800万円をクレジットから不正に引き出されるというものでした。
その後もセキュリティの脆弱性が指摘され、サービス開始1ヶ月後には、7payの廃止を決断せざるを得なくなりました。
フリマアプリで世界一の売上を誇るメルカリは、イギリスに進出するも振るわず、わずか3年で撤退するという失敗の経験をもちます。
売上高は、わずか43万円。損失額は、約10億3,900万円にのぼりました。
理由は、フリーマーケットをネット経由で行うCtoCが、イギリス国民に受け入れられることが難しかったことによります。
イギリスでは、古くからフリマ文化が浸透しており、国民は、直接対面で交渉しながら物品のやり取りを行うことに意義を感じています。
したがって、フリマそのものには価値を見出しても、それをネット経由で行うことには賛同が得られませんでした。
これが大きな誤算となり、ほぼ売上が計上できないままの撤退を余儀なくされたのです。
最後に大企業で新規事業を成功させるためのポイントを5つに分けて解説します。
新規事業が成功するとすれば、必ず何らかの課題を大きく解決できるモノやサービスを提供した結果といえるでしょう。
つまり、なぜそのサービスなのか、その商品で誰がどのように得をしたり助かったりするのかについてこれ以上ないという域までとことん議論し、精査してその結論を社内で共有する必要があります。
それにより担当者の中にブレない軸が生まれ、使命感に満たされることによって、さまざまな困難に立ち向かい乗り切って成果を得るに至るのです。
新規事業がうまく実を結ぶには、すべての社員や担当者が一丸となって何がなんでも成功させるというコンセンサスがとれていることが非常に重要です。
ところが組織が大きいと、少しでも自分の担当と違ったことには関わりたくないとして他人事と捉えたり、他人任せにしたりという空気が生じかねません。
この点に注意して、社内においてコミュニケーションの活性化をはかり、新規事業で成功するためにできることは協力し合うという気運を作り出すことが欠かせないでしょう。
新規事業では、的をいた商品やサービスの開発は必須です。
ただし、その中身や目的、動機が適切でも、サービス提供の仕方やツールが的外れだと成功はおぼつかないでしょう。
それらは必ずしも新しければ良いということではありません。
その商品やサービスを求めている潜在顧客やターゲットのインサイトにもっとも良く響き、需要を掘り起こすための対策や研究といったアクションが不可欠ということです。
そのためにも、入念な市場調査をしたり、テスト版をリリースしてフィードバックを集めたりして、市場ニーズにマッチする事業展開を行う必要があるでしょう。
新規事業の内容や方針に合致した優秀な人材を、社内から選出することも重要です。
いかなる事業も、突き詰めれば最後は人の力がものを言います。
よって、経営トップが、これ以上ないという適材を適所に配置するだけの人を見る目をもつことが大切でしょう。
また、その人物が新規事業という重責を担うにあたり、もっともモチベーションが上がる方法で任命することも忘れてはなりません。
最初から失敗すると考えて新規事業に挑む企業はどこにもありません。
しかし、実際に成功する例は、残念ながらごくわずかというのが現実です。
よって、成功しないとなれば、極力傷が浅いうちに勇気ある撤退を判断するのも経営者の大事な仕事です。
意地を張ったり、世間体を気にしすぎたりして引き際を見誤ると、本業や社の存続にまで影響を及ぼす由々しき事態に発展しないとも限りません。
具体的には、いつまでに、どのような結果が得られなければ撤退するという目安を厳密に決めておくのが賢明でしょう。
新規事業は、たとえ大企業といえども成功する保証はありません。
もし簡単に上手くいくとすれば、とっくに他の企業が手掛けているでしょう。
記事内で解説したポイントを参考に、成功する条件を万全に整えた上で新規事業に挑んでください。
画像出典元:Pixabay
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