債務整理の一つである「個人再生」は、自己破産や任意整理と何がどう違うのかご存知ですか?
個人再生とは裁判所に申し立てをすることで、自己の財産を大きく毀損させることなく債務総額を大幅に圧縮してもらう手続です。
場合によってはマイホームを処分することなく住み続けながら、圧縮された債務を3〜5年の間で返済することも可能となります。
この記事では、個人再生のメリット・デメリットや注意点とともに、自己破産や任意整理との違いを比較しながら解説します。
このページの目次
個人再生とは、民事再生法13章の規定に従い、個人債務者に対する返済負担を大幅に軽減させ、再生計画の立案を支援する手続きのことです。
再生手続には、サラリーマンを対象とした「給与所得者等再生手続」と、個人事業主など小規模事業を営む人を対象とした「小規模個人再生手続」があります。
裁判所より再生計画の認可を受けることにより、大幅に減少した債務額を原則3年〜最長5年の期間で返済することとなります。
認可前の総債務額に対して、認可後の総返済額が5分の1から10分の1程度に減額され、残りは免除されることから、個人における借金問題の解決に有効的な手段です。
個人再生の手続きをとることにより、これまで多額の債務を抱えていた個人に対する金銭的負担や、精神的負担などから開放されるメリットがあります。
主なメリットは以下の5つです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
借金などの債務に応じて、再生手続きを行う場合の金額が以下の通り減額されます。
債務総額 | 再生計画認可後の返済額 |
100万円未満 | 債務全額(減額なし) |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円を超え1,500万円以下 | 債務総額の5分の1 |
1,500万円を超え3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 債務総額の10分の1 |
※債務総額には住宅ローンは含まれません
元々抱えていた債務に比べて大きく減額されることから、個人にとって大きな金銭的メリットがあると言えるでしょう。
しかし、給与所得者等再生手続の場合は下記①〜③を比較して一番多い金額が返済金額となります。
①上表で算出した返済金額
②個人の可処分所得(収入合計-最低生活費-税金)の2年分
③財産と判断された資産の総額
例えば、債務総額が500万円(減額後100万円)の方にとって、2年分の可処分所得が200万円、自家用車の価値が250万円であった場合は、返済額は上記③にあたる250万円が返済額と判断されます。
住宅ローン特則という制度を用いて再生計画が裁判所より認可されれば、住宅ローンは他の債務と別扱いとなり、マイホームを手放さずに債務の返済を行っていくことができます。
ただし、住宅ローンのみ別扱いとなり、債務が減るということはありません。
そのため、引き続き住宅ローンの返済を行っていく必要があります。
個人再生は申し立てを行った本人に対して行われることとなり、家族が影響を受けることはありません。
ただし、家族が個人再生を行った個人の連帯保証人や保証人になっている場合は、家族に対して請求がいくこととなります。
個人再生で債務が減額されるのは個人のみのため、保証人は弁済しなければならないためです。
保証人を設定している場合は、個人再生手続をする際に注意が必要となります。
個人再生をした場合であっても、自動車ローンを完済している場合は、マイカーを手放さなくても残すことができるでしょう。
ただし、ローンの返済途中で自動車の実質の所有権がローン会社に留保されている場合においては、ローン会社に引き取られることも考えられます。
個人再生においては、士業の資格や金融業等、資格が必要な場合であっても、資格における欠格事由に該当することはありません。
一方で破産の場合は、復権を得るまでは士業等の資格を使用できず、業務に支障をきたすこともあります。
そのため、業務上の影響を受けずに、継続して業務を遂行できることは有資格者にとって大きなメリットになるでしょう。
個人再生を行うことで、一定のデメリットが存在することは理解しておきましょう。
主なデメリットは以下の4つです。
それぞれ詳しく解説していきます。
一定の債務を免れることができる一方で、返済能力に問題があるとみなされ信用情報に登録されることとなります。
登録されている間の5〜10年程の間は、新たなローンなどの借入ができず、またクレジットカードを作ることもできなくなるでしょう。
さらに、子どもの奨学金の保証人になることもできなかったり、携帯電話の分割購入ができなかったりするなどの弊害も生じる可能性があります。
個人再生をした場合には、政府や各府省が国民に広く知らしめるために発行する機関紙である官報に、住所や名前、手続きの内容などが掲載されます。
官報には以下の手続きのタイミングで3度掲載されることとなります。
一般には中々閲覧する書面ではないですが、税務署や金融機関等がチェックしていることがあるかもしれません。
個人再生手続は、破産手続のように債務全額が免除される訳ではなく、債務が減額される手続です。
減額はされますが、返済金額が100万円以下になることはありません。
そのため、3年〜5年の期間で債務を返済していく必要があることから、将来的に一定の収入が必要になります。
個人再生の手続きは複雑で、申立てから認可決定が確定するまで半年から1年程度掛かると言われています。
また、債権者との協議を重ねて理解を得るとともに、法的な側面もクリアしなければなりません。
さらに、弁護士や司法書士といった専門家を活用する場合は数十万の費用が掛かります。
仮に専門家を活用した場合であっても、個人再生の認可に至らない可能性もあることを認識しておく必要があります。
個人再生の申し立てをするには、最低限の条件があることを覚えておきましょう。
個人再生の認可後は、計画通りに毎月一定額の債務を返済していく必要があります。
計画通りに債務を返済していくためには、一定の安定収入が見込まれることが重要です。
安定収入が見込める要件としては、必ずしもサラリーマンである必要はなく、個人事業主や年金受給者、またパートやアルバイトでも認められる場合があります。
一方で、短期的なアルバイトやパートの場合は、安定的な収入が見込める対象と判断されない場合があるため注意が必要です。
個人再生により減額された債務の返済期間は、原則3年ですが、特別な事情がある場合には5年間の分割払いにすることができます。
安定的な収入を得たうえで、3年〜5年で返済できる計画が必要です。
個人再生は、住宅ローンを除いた債務総額が5,000万円以下でなければなりません。
5,000万円超の高額な債務については、個人再生ではなく、民事再生手続を取ることとなります。
高額の債務を個人再生により減額させるとなると、逆に債権者が不利益を被ることとなるため、個人再生の手続を取ることができません。
個人再生手続は、以下のような流れで行われます。
※参照:「仙台地方裁判所 個人再生手続利用にあたって」より
個人事業主や、小規模事業を行っている事業主を対象とした再生手続です。
給与所得者もこちらの再生手続を申し立てることができます。
申請要件は、安定した収入見込みがある事に加え、住宅ローン以外の債務総額が5,000万円以下である必要があります。
また、小規模個人再生の特徴として債権者による承認が必要となり、以下の場合は個人再生ができなくなります。
▶︎債権者の半数以上が不同意の場合
または、
▶︎不同意の債権者の債権額が債権総額の過半数以上の場合
給与所得者に限って申請できる再生手続です。
小規模個人再生手続の要件に加えて、給与などの定期収入が見込まれ、かつ変動幅が少ないことが必要となります。
弁済額については、小規模個人再生手続の弁済額に加え、個人の可処分所得の2年分も対象となり、それぞれ比較して一番多い金額となります。
個人の可処分所得の2年分が一番高額になる傾向にあることから、給与所得者の場合はその要件がない小規模個人再生手続を選ぶことが多いのが実情です。
比較ポイント | 個人再生 | 自己破産 |
債務の返済 | 3〜5年で返済 | 原則返済は不要 |
財産の処分 | なし | あり |
住宅の取り扱い | 住宅ローン特則の利用で手放さずに済む可能性あり | 住宅の処分が必要 |
資格の制限 | なし | 復権を得るまでは資格を使用できない場合あり |
比較ポイント | 個人再生 | 任意整理 |
裁判所の介入 | あり | なし (交渉で和解を目指す) |
手続要件 |
|
|
減額割合 | 債務総額や資産額、可処分所得により減額幅が決まる | 元本返済が一般的だが債権者との交渉により決まる |
専門家に掛かる費用 | 数十万円 | 数万円 |
官報への掲載 | あり | なし |
個人再生後の注意点も必ず確認しておきましょう。
税金や社会保険料、養育費や交通違反の罰金等、減額や分割されないものがあります。
これらの債務は個人再生に関わらず、支払っていく必要があるでしょう。
また、税金や社会保険料を滞納している場合は個人再生の認可がおりない、または取り消し処分になる可能性もあります。
個人再生を申し立てる場合は、滞納分についての対処をしておきましょう。
個人再生においては、身内や友人に対する債務がある場合や、金融機関から債務がある場合であっても、債権者は平等に扱われることとなります。
迷惑をかけたくないということで、身内や友人だけ特別に扱うことはできず、他の債権者と同様に減額された金額を分割して支払う事となります。
債務者は再生計画に従って毎月返済を行っていく必要がありますが、不慮の事由によって返済が困難な状況を除き、返済を忘れたり怠ったりすることはできません。
支払が行われなかった場合、債権者側から裁判所に申立てをすれば、再生計画が取り消される可能性も発生します。
個人再生の内容について、メリットやデメリット、申立の要件や流れ、さらに他の債務整理の方法として、自己破産や任意整理との違いについても確認しました。
個人再生は、認可された場合は債務が大幅に圧縮されたり、引き続きマイホームに住むことができます。
一方で、ブラックリストに掲載されたり、手続きに手間が掛かるなどのデメリットも存在します。
他の債務整理方法とも比較検討しながら、より良い方法を選択する必要があるでしょう。
画像出典元:O-DAN
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