滝川クリステルのCMでもお馴染みのマニュアル制作会社グレイステクノロジーが、2022年2月28日に東証一部上場廃止になることが決まり大きなニュースとなっています。
1月27日に開示された特別調査委員会の調査報告書によれば、元代表取締役を中心とした大規模な不正取引による粉飾決算と、背景に元代表によるパワハラともとれる圧制の記録が赤裸々に記載されていました。
グレイステクノロジーの粉飾決算はなぜ起こったのか、ライブドアなど過去の事例も含めて粉飾決算の手法やその理由を徹底解説していきます。
画像引用元:グレイステクノロジーCM動画
このページの目次
グレイステクノロジーは、故松村幸治氏により2000年に設立され、産業機械やソフトウェアメーカー向け技術マニュアルの制作と、マニュアル基幹システム「e-manual」の販売を行う、社員数40名の会社です。
2016年12月に東証マザーズに上場、2018年8月には東証一部上場に市場変更を行っています。
2020年12月には、1株4235円の値をつけていたグレイステクノロジー株ですが、過去の四半期報告書に不正があったと発表した2021年11月以降は株価は下落を続け、2022年1月には58円まで値を下げました。
今回、134ページに渡る特別調査報告書が公表され、上場以降売上の前倒し計上や実態のない架空売上が横行し、売り上げ高の半分がそうした不正計上によって成り立っていたことが判りました。
(画像引用元:「グレイステクノロジー株式会社特別調査委員会」P.103)
上場後、架空売り上げは年々その額を増やし、2021年3月期には、売上高18億円中9.9億が架空売り上げを占めるという驚きの実態がわかりました。
グレイステクノロジーの不正計上の手口は、大きく分けると3パターンあります。
注目すべきは、不正計上を成立させるために、松村氏をはじめ不正に関与したメンバーが自腹を切っているという点です。
足りない分は、自らの資金(自社株売買益など)で補填し、会社の利益として偽装し続ける自転車操業を行っていました。
実際に受注した案件で、顧客にまだ製品が納品されていないなど売上計上が認められないタイミングで前倒しで売り上げを計上するパターン。
主に不正計上に関わっていた営業担当者が受注の見込みがあると判断した案件で、実際には引き合いレベルであったとしても、受注内容確認書や受領書を詐取若しくは偽造して売上を計上するパターン。
のちに正式に受注を受けて顧客から入金がされパターン1として扱われるもの、実際の受注を受けられず松村氏を筆頭に不正に関与した取締役・営業担当者が個人の資金によって偽装入金するものに分かれる。
顧客と受注に向けた話すらない状態で、売り上げを計上するパターン。
当然ながら入金はされないため、松村氏の個人資金によって偽装入金が行われる。
「この世は算数でできている。」「寝ても覚めても数字を考えろ。ほかのことなんか一切考えるな。」「売ってナンボ。売れば全てOK。単純だろうよ。くだらないことぐちゃぐちゃ考えるなよ。」「自信もねえわな、いいものを納められる。そんなもんいるか、営業に。まず売って考えるんだろうよ。」
(引用元:「グレイステクノロジー株式会社特別調査委員会」P.105)
経営会議や取締役会では、松村氏によるこんな怒号であふれていたと報告されています。
グレイステクノロジーの粉飾決算の背景には、こうした松村氏からの人格否定、罵倒、恫喝により、役職員は予算必達以外の選択肢はないとマインドコントロールされていた部分が多いにあります。
特に取締役の経歴を見ると、いわゆる就職氷河期に松村氏の会社に新卒入社している面々が揃っており、苦しい時代に育ててもらった恩義も手伝って、松村氏に迎合していったのではないかと推測します。
グレイステクノロジー以外にも、過去多くの有名企業が粉飾決算で話題に上がりました。
これからご紹介する2社は、特に話題性が非常に高く、グレイステクノロジーに比べその手口は少し複雑ですが、共通しているのは、不正を行う際のお金は結局自腹という点です。
かつて時代の寵児と呼ばれていた「ホリエモン」こと堀江貴文氏が代表を務めていたIT企業の株式会社ライブドア。
2006年に堀江氏は、「有価証券報告書虚偽記載」と「偽計及び風説の流布」の2つの容疑で逮捕されました。
具体的には、2004年9月期決算報告として提出された有価証券報告書に、実際は3億1,300万円の経常赤字であったにも関わらず、50億3,400万円の経常黒字であったと虚偽の内容を提出した罪です。
ライブドア事件で指摘された粉飾決算の中で、高額を占めていたのが約37億6700万円の自社株売却益でした。
例えば、携帯電話販売会社クラサワの買収を例にとると、買収の際に、現金8億円で売りたいクラサワに対し、ライブドアは8億円分のライブドア株で株式交換をしたいと主張が対立しました。
そこで元ライブドア社員のA氏が間に入り、投資ファンドを立ち上げ、以下の流れで買収を進めることとしました。
①ライブドアは、株式交換の形でクラサワを買収。
②ライブドア(ファイナンス)から8億円の出資を受けた投資ファンド(A氏)が、クラサワからライブドア株8億円を現金で購入。
これで、一旦現金が欲しいクラサワと、株式交換がしたいライブドアの要望は叶います。その後、
③株式分割した株(クラサワから買ったライブドア株)はすぐに売買が行えないため、堀江氏が元々所有しているライブドア株8億円分を借り、売却。クラサワから買った8億円分のライブドア株を堀江氏に返却。
④8億円分のライブドア株が18億円で売却できたため、ライブドア(ファイナンス)に18億円を入金。
当時人気の高かったライブドア株は、8億円分が18億円で売却でき、ライブドアファイナンスは10億円分の差額を投資利益として計上しました。
同様の方法で合計約37億6700万円の投資利益を計上しましたが、検察側から自社株発行をして得たお金は、投資利益ではなく資本金であり粉飾に当たるという指摘をうけました。
ライブドア事件における株取引の見解について、ホリエモン側と検察側の主張は今現在でも議論が分かれるところです。
また、他の粉飾決算事件はすでに経営破綻している企業が多いのに、破綻していないライブドアに対し捜査の手が及んでいる点も特徴的です。
当時ホリエモンは、多くのメディアに登場し、プロ野球球団の買収やニッポン放送株の買い占め、政界進出など、ヒルズ族の代表格として、良くも悪くも世間の注目を集めていました。
執行猶予のつかない重い実刑判決、ファンドを運営していたA氏の不審死など、ライブドア事件には何か別の力が働いているのでは?と想像してしまう疑惑が数多く残っています。
真相は、今も霧の中です。
光学機器メーカーのオリンパス株式会社は、バブル期からの資産運用で生じた巨額の損失を「飛ばし」という手法で10年以上に渡り隠し続けた末、企業買収という形で不正処理した事件のことです。
オリンパスの菊川元会長、森前副社長、前常勤監査役及び関与が認められた証券会社、投資会社の役員らが金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載罪)で逮捕されました。
オリンパスは、バブル期に本業外の財テクとして資産運用を行っていましたが、バブル崩壊後、960億円近い多額の含み損を抱えることになりました。
多くの企業は、正直に損失を決算によって顕在化し、本業での収益によって取り戻そうと企業努力を行います。
しかしオリンパスはその含み損を、簿外(B/Sに載らない資産)に分離する「飛ばし」という手法で隠蔽することを考え付きました。
画像引用元:金融庁公式HP「損失分離スキーム概要」
「飛ばし」は、簿外ファンドに、オリンパスからの資金を流入させ、その資金を利用しファンドに安値で含み損のある金融資産を購入させ、あたかも売却したとしてオリンパスの財務報告書から分離する方法です。
その後、ファンドに移した損失は、M&Aを利用し、通常よりはるかに高額な企業買収代金やFA報酬の支払いを装い、ファンドに資金を流入させ返済するよう試みました。
オリンパス側では代金を、企業買収会計処理として連結貸借対照表の「のれん」に計上し10~20年で償却することによって、この長年の壮大な損失隠しに幕が引けると考えていました。
画像引用元:早川書房「解任」マイケル・ウッドフォード著表紙
オリンパスの隠ぺい体質は最後の最後まで変わりませんでした。
2011年雑誌『月刊FACTA』8月号に、内部告発によって情報提供された粉飾決算についてのスクープが掲載されました。
同年よりオリンパスの社長であったイギリス人経営者マイケル・ウッドフォード氏は、独自調査により不正の事実を把握、会長及び副社長の引責辞任を促しました。
これに対し当初、会長・副社長は即座に取締役会を開き、ウッドフォード氏の発言・議決権行使は認めぬまま全員賛成で社長解任を決定し、あくまでも隠ぺいを続けようと画策。
この解任劇はまさに、10年以上もの間960億円という巨額の含み損を隠し続けた企業体質の象徴的な出来事であったと言えます。
トップダウン、隠ぺい体質、これがこのオリンパス事件を長きに渡り白日の下にさらすことから遠ざけた原因だったのでしょう。
参考:オリンパス「第三者委員会調査報告書 要約版」
中小企業が粉飾決算に走る理由の多くは、赤字決算や債務超過といった経営上の問題を隠すためです。
中小企業にとって経営の要となる金融機関からの融資、仕入先との取引などは、経営不安があると失ってしまうリスクがあります。
特に建設業の場合、公共事業の入札には、経営状態が悪いとその権利すら与えられないなどシビアです。
中小企業の経営者は、自社の存続のために少しでも良い経営状態であるとアピールするため粉飾に手を染めてしまうのです。
グレイステクノロジーの元社長の発言にも度々登場していましたが、上場企業の場合は、株主や機関投資家から株価の維持と向上を厳しく追及されます。
経営状態の悪化を顕在化すれば、株主や機関投資家が離れていき、会社の価値そのものも落ちていきます。
上場企業にとって、上場したからには、一定の利益を出し続けなければならないという激しいプレッシャーの中で粉飾決算に手を染めていくという流れは良くあるパターンです。
また、大手企業の場合は、監査法人や公認会計士が付いているのになぜ粉飾決算が起こるのかという疑問もあるでしょう。
大手企業の監査法人は、莫大な監査報酬を得ているため、仮に粉飾に気づいていても、なかなか糾弾する行為に出にくいという構造があります。
それぞれの立場上、関係悪化を恐れて公正な立場でものを言えないという苦しい状況が生み出しているのでしょう。
グレイステクノロジーの粉飾決算は、社長を始めとした役員たちが身銭を切って自転車操業を行っていたものでした。
調査報告書を読むと、社長が創業当時は「日本のマニュアルを変える」という強い信念の元経営を行っていたことがわかります。
いつからか、その信念は機関投資家や株主に対し、いかに価値のある会社であるかと認めさせるための虚栄心に取って代わってしまったようです。
多くの企業がコロナの影響で苦しい経営状況に陥っている中、粉飾決算は決して対岸の火事ではなく、身近に存在しているものです。
しかし過去の事例を見ても、粉飾決算で幸せになった企業はないことが判ります。
不正に流されず、知恵と工夫で経営の危機を乗り越えられる企業だけが、本当に価値のある会社なのかもしれません。
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