ピッチとは、ごく短めにまとめられたプレゼンのこと。
ビジネスチャンスを掴みたいベンチャーやスタートアップ企業が、投資家に対して行ったのが起源といわれています。
近年はビジネススキル向上のため、ピッチを取り入れる企業も増えているのだとか。
営業や渉外担当のビジネスパーソンは、ピッチのコツを掴んでおくとセールスやプレゼンに役立つでしょう。
本記事では、ピッチの特徴や・プレゼンとの違い、さらにはピッチのメリットや手順・ポイントを紹介します。
このページの目次
ピッチというと、「ピッチが速い」「野球のピッチング」などの言葉が連想されます。
では、ビジネスシーンで使われる「ピッチ」とはどのようなものなのか、具体的に見ていきましょう。
ピッチとは、短くまとめたプレゼン(プレゼンテーション)です。
長さはピッチの種類によって異なりますが、一般的なピッチなら長くても10分以内とするのが一般的でしょう。
ピッチで重要なのは、伝えたいことをいかに端的にまとめ、論理的に説明するかです。
わずか数分のアピールタイムを有効に活用できるよう、ロジカルな文法・分かりやすい言葉のチョイスが必要となります。
「ピッチ」の語源は英語のpitchです。
「音の調子」「調整する」「打者に向かって投げる」などとさまざま意味がありますが、ビジネスシーンで使われるときは「売り込み」を指すのが一般的です。
これは口語的な表現なので、学校の授業等で習うことはないでしょう。
ピッチは元々、スタートアップ企業家たちがシリコンバレーの投資家から資金を得るために始めたプレゼンスタイルです。
シリコンバレーといえば、GAFAのうち「Google」「Apple」「Facebook」が拠点を置くIT産業のメッカ。
世界を動かす巨大資本がうごめいており、ここで認められることは大きなビジネスチャンスにつながるといわれています。
チャンスが欲しい企業家たちは、投資家たちを捕まえては、わずかな時間で売り込みを行いました。
この手法が徐々に広まり、「ピッチ」といわれるスタイルが確立されたのです。
一口にピッチといっても、シチュエーションや内容により種類はさまざまです。
ここからは、主なピッチをピックアップして紹介します。
エレベーターピッチとは、エレベーターで移動中に行うピッチ、あるいはごく短めのピッチを指します。
シリコンバレーのスタートアップ企業家たちは、投資家と同じエレベーターに乗り込み、自社アピールを行っているのだとか。
その時間は、目的階に到着するまでのわずか30秒程度。日本語なら、250文字程度という短さです。
エレベーターピッチはピッチの中でも特に難易度が高いといわれ、日常的な訓練やロジカルシンキングの習慣が必要となります。
実際にエレベーターで行われるケースはまれですが、イベントや立食パーティーなどで行われるアポなしの売り込み・自己紹介も、エレベーターピッチの1種といわれます。
Investor(投資家)という呼び名のとおり、投資家への詳細な説明のために行われるピッチです。
説明時間は30分程度が一般的なため、ピッチとプレゼンの中間と考えてもよいでしょう。
インベスターピッチが行われるのは、アプローチが認められ、詳細な説明を求められたときです。
投資家はすでに検討段階(デューデリジェンス)に入っており、その企業の投資価値やリスクなどを知りたいと考えています。
インベスターピッチでは、インパクトのある言葉ではなく、財務内容や将来性などを具体的に説明できることが必要となるでしょう。
コンテストピッチは、主にスタートアップが投資家たちの前で行う、コンテスト形式のピッチです。
ピッチの出来を競うのが目的で、参加者の中から最優秀者や優秀者が決められます。
印象的なピッチを行えば業界での知名度が上がったり、投資を獲得しやすくなったりといったメリットがあるでしょう。
ピッチのテーマはコンテストによってさまざまですが、テクノロジー系・医療系などとジャンルが限定されるケース、ジャンル不問で自由なピッチが可能なケースがあります。
ツイッターピッチは、エレベーターピッチの電子版とよばれます。SNSを使って短い言葉でアピールし、投資を募るのが一般的です。
ツイッターピッチでは、規定文字数内でインパクトのあるメッセージを発信しなければなりません。
アメリカでは「company Haiku」(企業俳句)などとよばれることもあり、きれいにまとまっているピッチが高い評価を受ける傾向にあります。
ピッチはプレゼンの1種ではありますが、時間・内容・対象が異なります。
簡単にまとめると以下の表のとおりです。
時間 | 内容 | 対象 | |
プレゼン | 数十分〜1時間以上 | 顧客目線の利益やメリットの説明 | すでに内容に興味を持っている相手 |
ピッチ | 数十秒〜30分以内 | 相手の興味をひく自社・商品のアピール | 内容について何も知らない相手 |
それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
プレゼンは商品・サービスの魅力を伝えるため、じっくり時間を掛けるのが一般的です。
数十分から1時間を超えるケースが多く、数十秒で終わることはあり得ません。
「コンパクト&インパクト」が重視されるピッチに対し、「相手に伝わるように提案すること」「納得した上で選択してもらうこと」が重視されるのがプレゼンです。
プレゼンは、スライドや資料と共に行われるのが一般的です。
顧客目線で得られる利益やメリットなどを丁寧に説明し、最終的には「選んでもらうこと」「契約してもらうこと」を目指します。
ピッチは「アイデアの売り込み」に特化しているため、詳細な説明は入りません。
何を置いても相手の興味を引くことが重視されるため、自社アピール・商品アピールが重点的に盛り込まれます。
プレゼンは、すでにその商品・サービスに興味を持っている相手に対して行われるのが一般的です。
商品・サービスについてある程度の知識があることを前提とし、専門用語を交えて説明することもあるでしょう。
一方ピッチは、まっさらな状態の相手に対し行われます。
短い時間でも相手が理解できるよう、分かりにくい専門用語は使いません。平易かつインパクトのある言葉で、簡潔にアピールすることが必要です。
アピールしたいポイントをコンパクトにまとめるピッチ。
数十秒から10分程度のピッチには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
投資家や企業家を相手にピッチが成功すれば、出資の約束を取り付けられるかもしれません。
資金調達がスムーズにいきやすく、理想的な事業展開に役立てられます。
また近年は、有力なスタートアップとマッチングしたいと考える大企業が増えています。
精度の高いピッチを行うことにより、企業提携のチャンスが舞い込む可能性もあるでしょう。
コンテストやイベントに積極的に参加すれば投資家たちからの覚えもめでたくなります。
会場に集まった他のスタートアップとも親交を深めやすく、縦・横のつながりを強化することが可能です。
また大規模なコンテストで優秀な成績を収めれば、マスコミに取り上げられる可能性もあります。
SNSや雑誌・テレビ等に企業名が流れれば、PR効果の大きさは計りしれません。
「わずか数分のプレゼン」というのは、かなり高いスキルが必要です。ピッチの練習をこなしていくうちに、「分かりやすく伝えること」「効果的な言葉を選ぶこと」がうまくなっていくでしょう。
またピッチの経験を積めば、好感を持たれやすい話し方も身に付いてくるものです。
話し方・声の調子・テンポなどをプレゼン用に最適化しやすく、相手に伝える力が向上するでしょう。
分かりやすく・堂々と相手に伝えられるスキルは、ビジネスパーソンにとって大きな武器となります。
ピッチをうまく行うためには、必要な手順を踏み、コツを押さえることが必要です。
ピッチの流れとポイントを見ていきましょう。
スムーズなピッチを行うには、以下の手順を意識することが必要です。
一般的なピッチは、「導入」「提案」「まとめ」で構成されます。
導入では、「相手が困っていること・疑問に思っていることを解決したい」という姿勢をアピールします。
例えば「◎◎でお困りになったことはないですか?」などと口火を切ると、相手の興味を惹きやすくなるでしょう。
提案は、導入で口にした疑問・課題をいかに解決できるかを説明することが必要です。
アイデアの特徴はもちろんですが、「相手にどんなメリットがあるか」を適切に伝えましょう。
相手が感じるであろうデメリット・疑問についても、先回りして回答しておくとムダがありません。
まとめは、次のステップへの足がかりです。
「我が社なら、あなたの課題を解決できます」と伝え、「ご連絡をお待ちしています」「次回、もっと詳しくお話させてください」などの言葉で締めましょう。
いわゆる「クロージング」となる部分なので、端的にまとめた方が好印象です。
次に、ピッチを効果的に行うためのポイントを3つ解説します。
ピッチで自社の希望や野望をただ情熱的に語っても、耳を傾けてはもらえません。
投資家が望んでいるのは、「どのようなリターンがあるか」です。
以下の条件を満たした、根拠のある提案を行いましょう。
知りたい情報が網羅的にまとまっているピッチは信頼性が高く、相手の興味を惹きやすくなります。
短時間勝負のピッチは、GTCメモを作成して構成を練るとよいといわれています。
GTCメモとは、「Goal(自分の目的)」「Target(相手が得られるもの)」「Connect(両者の共通点)」の頭文字を取った言葉です。
それぞれの項目について思いつくことをランダムに書き、これをヒントにピッチを作成しましょう。
ゴールとはすなわち、「ピッチによってどのような効果を得たいか」ということです。
ここがブレるとピッチの内容もブレるので、必ず明確にしておかなければなりません。
「ゴールを達成するために、どのような主張を入れるべきか」と考えていけば、アピールポイントや省略すべきポイントが見えてきます。
ピッチでは、自身の提案により、相手がどのようなメリットを得られるのかを伝えなければなりません。
相手が「メリットだ」と感じられそうなことを事前に想定・把握しておく必要があるでしょう。
ピッチでは、自身の主張を相手に刺すことが必要です。
相手のペインポイントや課題を知ることが、ピッチの精度向上につながります。
自身の提案と相手のニーズが、どのようにマッチするかを考えます。
ピッチでは、「お互いにWin-Winになれる」とアピールできるのが理想です。
自身のアピールポイント・相手のニーズを徹底的に比較して、リンクしていると思われるポイントを見つけましょう。
どれほど優れた内容であっても、話し方でマイナスな印象を持たれることがあります。
自信たっぷりな話し方を心掛けましょう。
また笑顔は、相手の緊張・警戒を解くカギとなります。
親しみのある表情で、ハキハキと話すと好印象です。
ピッチイベントとは、ベンチャーやスタートアップ企業が集まってピッチを行うイベントです。
ピッチイベントの目的や内容をチェックしてみましょう。
ピッチイベントは、複数のベンチャーやスタートアップ、投資家・投資会社・大企業の前でピッチを行うイベントです。
規模や内容はさまざまですが、ピッチイベントでの成功がビジネスチャンス獲得につながるケースが多々あります。
また近年は、自社以外から有益な技術・知識を取り込む「オープンイノベーション」が盛んです。
ピッチイベントでお互いの価値を認め合った企業同士が、業務提携・連携に発展することもあります。
ピッチイベントの主旨にもよりますが、ピッチコンテストが開催されることもあります。優秀な成績を収めれば商品・償金の獲得が可能です。
自社の資金リソースを増やしたいスタートアップやベンチャーにとっては、大きな魅力といえるでしょう。
ピッチイベントは日本でもたびたび開催されています。
中には政府主導のものもあるので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
日本のピッチイベントの事例を紹介します。
画像出典元:アトツギ甲子園
中小企業庁が開催するピッチイベント。
「アトツギ」という名称のとおり、後継者候補が新規事業のアイデアをピッチで披露し、競い合います。
エントリーの資格は、39歳以下の後継者候補のみ。1次・2次審査をクリアした15人がファイナルに進出できます。
上位入賞した場合は、イベントで提案した新規事業実現のため、上限200万円・補助率2/3を補助する補助金(持続化補助金の新陳代謝枠)が提供されます。
現在第2回まで行われており、第3回の開催は未定です。
画像出典元:Keidanren Innovation Crossing(KIX)
経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)が主催するピッチイベント。
2022年7月に第11回が開催されました。
イベントではスタートアップ企業がピッチを行い、自社の紹介を行います。
参加できるのは、オープンイノベーションや新規事業担当の執行役員以上のみです。
KIXの特徴は、ピッチ終了後にネットワーキングタイムが設けられていること。
登壇者と参加者が自由に交流を行い、オープンイノベーションの可能性を探っています。
第12回は9月に開催される予定です。
画像出典元:Morning Pitch
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社・野村證券株式会社が主幹する、オンライン式のピッチイベント。
毎週木曜日の朝7時に開催され、ベンチャー企業5社が4分間のピッチを行います。
視聴者は投資家や大企業担当者・ベンチャー企業などで、毎回2~300人が参加するのだとか。
ピッチ終了後には個別にコンタクトを取る機会が与えられるほか、オンラインで個別連絡を取り合うことも可能です。
2013年から現在まで開催されており、登壇した企業は1700以上・観覧者約5万人にも上ります。
完全申込制なので、メンバー登録と参加申込が必要。
参加対象は、大企業(上場会社及びその子会社・法定監査を受けている会社)・ベンチャーキャピタル・金融機関・メディア・官公庁・地方自治体です。
画像出典元:FINOPITCH
全て英語で行われる、国際色の強いピッチイベント。
メインはピッチコンテストで、国外からも多くの企業が参加します。
2022年度のピッチコンテストの対象は、フィンテックのスタートアップ。
創業から5年以内または7年以内で、サービスが過去2年または3年以内にリリースされた企業に限定されました。
コンテストでは、審査を通過したスタートアップが7分間のピッチを行います。
優秀者にはグランプリが与えられるほか、オーディエンス賞やサポーター賞もあります。
2022年度はすでに終了し、次回の予定は未定です。
画像出典元:IVS LAUNCHPAD
IVS(Infinity Ventures Summit)は、次世代インターネット企業が一同に介する招待制のピッチイベント。
LAUNCHPADはその中で行われる、日本最大級のピッチコンテストです。
ピッチコンテストの対象者は、スタートアップに限定されます。
本番で登壇できるのは、厳正な審査をクリアした人のみ。2022年は250社以上が応募したうち、14社がファイナリストとなりました。
またピッチイベントではピッチコンテストのほか、パネルディスカッションで知見を深めたり、ネットワーキングで新しいつながりを作ることが可能です。
参加対象は、成長企業の経営幹部・VCを含む投資家・大企業の投資担当者・その他スタートアップ企業創業者で、事前に申請を行う必要があります。
2022年度は7月に開催され、次回の予定は未定です。
画像出典元:無錫市グローバルイノベーション・テクノロジーコンペティション スタートアップグローバルピッチイベント
中国江蘇省無錫市が主催するグローバルなピッチイベント。
2022年7月15日に開催されました。
参加できるのは、「先駆的なIT技術に関する製品・技術を有している」「社会的に不適切な事由がない」「法律を遵守している」などの条件を満たした企業です。
審査を通過した企業は、オンラインで約6分間のピッチを実施しました。
優勝者には100万円・準優勝(2社)には50万円、3位(3社)には10万円が進呈されたほか、無錫市からのサポートを受けられるという特典も送られています。
無錫市は上海の隣にあり、長江デルタの最重要都市ともいわれる都市です。
世界市場における中国の存在感が無視できない昨今、中国主催のイベントに目を向けるのも一つの手です。
画像出典元:Marui Co-Creation Pitch
株式会社丸井グループと株式会社サムライインキュベートが主催するピッチイベント。
第3回は、2022年12月1日に行われる予定です。
イベントの目的は、オープンイノベーションにより全く新しい価値観を創出すること。
ピッチイベントで存在感を発揮できた企業は、丸井グループによる協業・出資の検討や、丸井グループの各種媒体を活用した企業によるPR支援を受けられます。
第2回までの累計応募数は69社で、8社の提案が採択されました。
このほか2社が出資を受け、5社が協業に成功しています。
イベントに参加できるのはスタートアップのみで、丸井グループとの協業シナジーや将来性・成長性などがチェックされます。
ピッチは、ベンチャーやスタートアップが自社の製品・サービスをアピールするときに活用するプレゼンの手法の一つです。
「ロジカルな構成」「分かりやすい言葉選び」が必須とされ、いかにピッチの精度を高めるかがビジネスチャンス獲得のカギとなります。
現代のビジネスシーンでは、必要な情報を正しく・ロジカルに発信できる人は重宝されます。
スタートアップ社員はもちろん、一般企業社員でもピッチのスキルを身に付けることは有益でしょう。
画像出典元:Unsplash
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