雇用契約書とは、会社と従業員が労働条件に合意したことを証明する書類です。
この記事では、労働条件通知書の違いと、雇用契約書の記載事項について解説します。
雇用契約書のひな形を掲載していますので、自社に必要な記載事項を判断して作成を行いましょう。
また、雇用契約書の保存期間は、2020年に3年間から5年間に変更されています。
雇用契約書がない場合の対処法についても確認しましょう。
このページの目次
雇用契約書とは、雇用主と労働者の間で交わされる雇用契約の締結を行う書類です。
会社が人を雇用する事は、会社と個人の間で雇用契約を結ぶことを意味します。
雇用契約に限らず「契約」は口頭だけでも成立しますが、契約の証拠が残らずトラブルが起こる可能性があるため、雇用主(会社側)と雇用される人(働く側)の労働条件の合意を証明するために雇用契約書を交付します。
雇用契約書と労働条件通知書は、2つとも「労働条件を従業員本人に明示する書類」です。
雇用主は従業員を雇用したら「労働条件を従業員本人に明示する義務」があるのですが、下記のように雇用契約書と労働条件通知書は使い分けます。
労働条件通知書は、名前の通り「通知」なので会社の意向を伝えるだけの書類です。
労働条件通知書の交付が「労働条件の明示する義務を果たしている」とみなされるため、必ず交付が必要です。
労働条件通知書を交付しなかった場合は、労働基準法第15条で「雇用主に30万円の罰金」と定められています。
雇用契約書は、会社の意向だけでなく「労働条件通知」と「合意」を兼ねています。
雇用契約書そのものは、一般的な契約書と同じ位置付けであり、雇用契約において交付義務はありません。
労働条件通知書を交付していれば「労働条件を従業員本人に明示する義務」はクリアしているので、雇用契約書がなくても良いとされています。
雇用契約書も労働条件通知書もなく、労働条件の説明をしていない状態は違法になるので注意しましょう。
労働条件の明示だけなら「従業員本人の希望」と「紙に印刷できるデータであること」を条件に、FAXや電子メール、SNS等でも認められています。
雇用契約書は「署名・契約締結」が発生するため、電子データ化するには法的要件を満たした電子契約システムや労務管理システムが必要です。
雇用契約書には、労働基準法第15条に規定されている「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」を記載します。
「絶対的明示事項」は、口頭説明だけでは通知義務を果たした事にはならず、必ず書面で明示・交付しなければなりません。
「相対的明示事項」は、該当する項目が会社にあれば明示する項目です。
記載ではなく口頭説明でも構わない項目ですが、トラブル回避と労働条件の合意の観点から記載することが望ましいです。
無期限の雇用契約である正社員の場合は、下記を明記することが望ましいとされていますが、断定出来ない場合は「あり得る」と明示しておいても大丈夫です。
契約社員の場合は、契約期間・契約更新・業務内容に関して細かく明示することが必須です。
一度だけでなく、契約更新のたび、改めて雇用契約書の交付・締結を行います。
下記の4点は労働基準法では「相対的明示事項」ですが、パートタイム労働法では「絶対的明示事項」になるため、アルバイト・パートタイムの雇用契約書を作成する時は注意が必要です。
雇用契約書は2部作成し、両者の押印(署名)をした上で、会社と従業員それぞれが各1部づつ保管します。
雇用契約書を2部作成・押印するのは、合意の証明と改ざんを防ぐのが目的です。
雇用契約書は、従業員が在職中は破棄できず、従業員が退職してからも「最低5年間の保存」が必須です。
雇用契約書は、労働基準法109条の「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」に該当します。
労働関係に関する重要な書類の保存期間は、2020年4月1日の労働基準法の改正施行よって3年間から「退職から5年間」に変更されています。
また、退職金請求権や賃金請求権も「未払いが発生した日から5年間分をさかのぼって請求できる」となっているので、破損や劣化に気を付けて保存しましょう。
10年間勤務後、退職した従業員の雇用契約書=最低15年間保存
参考:厚生労働省リーフレット「未払賃金が請求できる期間などが延長されます」
雇用契約書は、一方的な通知になってしまう労働条件通知書よりも「合意」があるため、信頼した雇用関係を構築できます。
雇用契約書と労働条件通知書を雇用形態や期間など自社で基準を設けて使い分ける事もできますが、業務が煩雑になるため統一したほうが良いでしょう。
雇用契約書
氏名 | 生年月日 | ||
現住所 |
株式会社 (以下 「甲」 という) と (以下 「乙」 という) は以下の条件に基づき雇用契約 (以下 「本契約」 という) を締結する。
1、雇用・業務の内容 | |
2、雇用期間 |
期間の定め 有・無 ※期間の定めの場合 |
3、就業場所 | |
4、就業時間 |
午前○○時○○ 分 から 午後○○時○○ 分 まで 休憩時間○○ 時~○○時 |
5、休日・休暇 |
土・日曜日及び祝祭日、年末年始、夏期休暇 代替休暇(有・無) その他特別休暇(有・無) |
6、給料・賃金 |
基本給(○○○○円) 締切日、支払日・ 毎月 ○○ 日締め翌月○○ 日(銀行が休日のときはその前日)支払 |
7、昇給 | 年 ○○回 (○○ 月 ) (但し会社の業績 または個人の成績により改定しない場合がある) |
8、賞与 | 年 ○○ 回 ( ○○月 と ○○ 月 ) (会社業績により 支払日の変更 または支給しないことがある。 額は本人の成績勤務態度、能力等を勘案して定める。) |
9、支払方法 | ○○銀行 ○○支店 乙の口座へ振込 |
10、退職に関する事項 | 1.定年制:有(満 歳)・無 2.自己都合退職(自己都合退職の場合、退職する 日前に届け出ること) 3.解雇(解雇については、当社就業規則による) |
11、保険関係 | 健康保険 厚生年金 雇用保険の加入(労災保険は事業所に適用) |
12、就業規則 | その他 勤務上の詳細な規程は就業規則よる。 |
13、その他 |
以上の合意を証するため本契約書を 2通作成し、甲乙の両当事者記名 (又は署名) 捺印の上、各々1通を保有する。
○○年 ○○ 月 ○○日
(甲) 所在地 |
(乙) 住所 氏名 |
会社は、従業員が入社してくる前に労働条件を提示する事が望ましいとされています。
雇用契約書か労働条件通知書のどちらを交付するのか決定して、遅くとも従業員入社当日までに交付を行います。
従業員が労働基準監督署や弁護士に「会社が労働条件を通知しない」「通知の求めにも応じなかった」と相談した場合は違反が発覚します。
雇用契約書などで労働条件を書面で交付してくれない会社への就職は避けるべきです。
労働条件の確認と書面の受け取りは、できる限り「入社前」に行います。
入社後も交付されない場合は「いつ労働条件の書面通知があるのか」と確認して催促しましょう。
会社に書面通知を催促しても対応がなかった場合は、労働基準監督署か弁護士に相談しましょう。
労働条件の通知を催促しても交付されない場合は、違法行為を行っている会社と判断し退職した方が良いでしょう。
労働条件の通知がない場合は「雇用期間の定めがない従業員」と判断されるため、民法627条の「退職希望日の14日前に伝えれば退職が認められる」ルールが適用できます。
会社に「労働条件の合意と通知がないため、民法627条に従って退職する」と伝えて退職することが可能です。
雇用契約書についてまとめました。
雇用契約書は、会社と従業員が「雇用契約に同意した」証拠の書類です。
労働条件を従業員に明示するのは義務ですので、雇用契約書もしくは労働通知書で明示を行いましょう。
画像出典元:O-DAN
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