TOP > インタビュー一覧 > 「エンジェル投資は、体験価値が高い営み」 コネヒトの大湯さんが“体験”する投資家と起業家の幸せな関係
コネヒト株式会社代表取締役 大湯俊介氏
● コネヒト株式会社代表取締役 大湯俊介
2012年にコネヒト株式会社を島田達朗氏(現CTO)と共に創業。ママ向けQ&Aアプリ「ママリ」を展開。同社の社長として活躍する傍ら、エンジェル投資家として様々な業界の企業30社以上に投資を行う。
エンジェル投資家の投資遍歴や投資家文化について率直な思いを聞いていく「エンジェル投資家図鑑」(前回記事はこちら)。
第4弾としてお話を伺ったのはコネヒト(株)代表の大湯俊介さん。
2012年1月にコネヒトを立ち上げ、現在はママの悩みごとを解消するQ&Aコミュニティアプリ「ママリ 」を展開しています。
また、起業家として活躍する一方でエンジェル投資家としての一面を持つ大湯さんに、投資活動のきっかけを聞く中で起業家と投資家それぞれの立場のより良い関係性について探ります。
— 大湯さんは起業家としても、投資家としても活躍をされています。起業家サイドから見た時と投資家になった後で、起業家・投資家の見え方に変化はありましたか?
投資をしてみて初めて分かったことは非常に多かったですね。「あ、お金を出す時ってこんな気持ちになるんだ」とか。やはり両方の立場に立つと仕事をする上での想像力が湧いてくることを実感し、それがとても糧になったと思っています。
例えば、投資に至るまでに細かい事業の数値なども当然見るのですが、アーリー・シードステージの数値って多くの場合においてサンプル数は少ないし、統計的にも優位性がない。その状況で意思決定をする際は、最後は感性的な部分で判断する場面がやってきます。
自分が感じる事業への可能性、社長の人間としての可能性、しぶとさや執着心、何に野心をたぎらせているか、真っ直ぐで誠実そうかといったことを全身で感じ取るように心がけています。
自分が投資をされる立場だった頃は「このビジネスはこうスケールして、こんな市場規模で」ということを中心に考えプレゼンをしていました。
投資する立場になって「この市場は今大体これくらいのマーケットがある」「こういうビジネスモデルが海外にあって成功している」というプレゼンよりも、起業家が「なぜそれやろうと思ったか」をもっと知りたい気持ちが強くなりました。
シード・アーリーステージはビジネスの不確実性が高いからこそ、ロジックだけでなく人に投資をするという観点でその起業家のもっているストーリーや信念を思い描く力が大事だと考えています。
他の気付きとしては良い起業家には投資家が集まるので、投資する側とされる側はよりイーブンな関係でいられるということ。初めて自分が投資を受ける際には「投資していただく」「お金いただく」といったもらう側の視点しかなった。
「対等に自分の考えを伝える」ことが真っ当なディールを作るはず。それが最初はイメージできていなかったと思います。
— 今、エンジェル投資を積極的に取り組んでいますが、その経験は起業家とのコミュニケーションにも活かされていますか。
そうですね。「投資」というと一般的にお金を出す方がちょっと強いイメージが言葉としてはあるような気がしています。
しかし私は基本的に投資される側とフラットに話をしたいなと思っています。投資家も選ばれる対象であり、会話を通じてお互いがストレスなく一緒にやりたいと思えるかを大事にしています。
それは「同じ船に乗る」という感覚とも言えるのかなと思っています。一緒に船に乗って、できる限り自分たちも漕ぐ。
自分も勉強をさせてもらっているという気持ちを持ち続け、同時にアウトプットし時価総額をあげていくことにコミットしたいと思っています。
— 最近のエンジェル投資家の皆さんを見ていて思うのが、様々な所に投資しながらも「仲間になりにいっている」感じの方が増えている印象です。
また、シードに限った投資をする人も少なくないですが、大湯さんの場合シードステージ以外への投資もされています。何か理由があるのでしょうか。
もちろん基本的には早い段階の方がやれることが多いので、シードの方が投資先としては多いです。一方でそのフェーズに固執しているわけではありません。
結局、自分が何を応援したいのか、社会において表現したいものは何か。 そして事業が大きくなる可能性がどれくらいあるかといったことを考えます。
それにおいてフェーズは本質的な変数ではないと思います。
フェーズの早い段階で「バリエーションが低いから投資する」という投資は、やはり自分のなかでもあまり上手くいかない実感があります。
自分が自己実現をしたい、これ好きだなって決めている領域やテーマはいくつかあるのですが、そういうも投資の方が自分にとってはいい意思決定ができると思っているので、フェーズにはこだわらないですね。
好きなことをやるためにはノイズを減らした方が良い。
— その好きな領域とは、例えばどのようなものですか?
今は「次世代の文化を作れるサービス」という言語化をしています。言い換えると、文化の匂いがするサービスといったところでしょうか。
僕が高校生の時はニコニコ動画が最盛期だったんですが、普通の人がすごい作品を投稿してめちゃくちゃ楽しみながらいつの間にかデビューしている、みたいなことがよくありました。
最初は仕事としてやってなかったはずのことが仕事になり、しかも仕事になってからも仕事とは感じず楽しくお金を稼いでいる、というのは本当に“文化”だなと思って感動したのを覚えています。
文化は義務的なものでなく「営み」ですよね。自然と取り組むなかで習慣化していって日常化していって、暗黙知になって文化になる。
そんな流れを生み出せる装置のようなサービスがとても好きです。
ニコニコ動画もそうですし5ちゃんねるみたいな掲示板、インスタグラムやSnapchatもすごくいいと思う。
それは別にBtoCだけでなく、BtoBでも新しい文化を提供していくようなものがあると思っていてそれらも応援したいと思っています。
例えば、立ち上がり期から応援している10Xという会社があります。同社は食のジャンルでも圧倒的に大きな課題がある「生鮮の流通」に真正面から取り組んでいます。
当然課題が大きい分、サービスづくりも一筋縄ではいかないのですが、社長の矢本さんはすごく野心的で尊敬しています。
まさに「今までの常識を変えていく」ことを考えている、とてもいい会社だなと思っています。
— まさに「ママリ」もインターネット上で文化を作っている一例ですよね。大湯さんの「インターネットが好き」という思いの源泉はどこから産まれたのでしょう。
高校受験をしている中学2〜3年の時に塾ですごくいい意味で変わった先生がいて、「勉強するっていうのは先人の知恵を学ぶことであり、学びながら次の世代に感謝をして渡していくことだ」とか、「親に感謝をすることだ」ということを言い聞かされていました(笑)。
そこでその人が行っている学校に行ってみたくて、夏休みとかは40日で500時間勉強するみたいなことをやっていた。
自分のやりたいことのために、とにかく死ぬほどコミットしてやることが好きだった。親にはむしろ心配をされていましたが(笑)。
もう一方その息抜きで、当時インターネットにも触れ始めていました。
そんなとき弟がやっていたオンラインMMOをやり始めてそれにすごくハマってしまって、朝5時ぐらいまでやったりしていたんですね。
そのなかで面白かったのが、チャットで30歳のフリーターや社会人のお姉さんみたいな人と会話ができたこと。日常で30代の人と14歳くらいの自分が対等に話す機会なんてまずない。
住まいは埼玉県の片田舎だったので、まさに地理の制約を飛び越える体験を通じて「インターネットっておもしろいな」と感じていたのが原体験です。
その後もインターネットでつながった人とバンドを組んだり、インターネットでコンテンツを発信するみたいなことが生活のなかに気付いたらあった。その体験は今に強く活かされていると思います。
— 今後、どういった分野に投資したいといった方針はありますか。
基本的には「自分が応援したいこと、好きなもの」という方針や土台はあまり変わらないと思います。ただ、自分のなかでアップデートはされていくと思います。
投資を始めたばかりの頃は良くも悪くも全然分からないので見よう見まねでやっていた。その内に投資数が5社くらいを超えると自分の好きなことが明確になってきました。
今は純粋なBtoCサービスに限らず、SaaSの企業やBtoBtoCのジャンルにも投資をしています。
最終的にユーザーの文化を変えるというストーリーが見えればジャンルに縛りは設けていません。
— 技術的な土台を作る企業にも興味がありますか。
あります。
例えば、最近ではAI領域に特化したインキュベーションを行う会社にビジネス側のメンターとして参画をしています。
個人的に「膨大なデータをどう処理するか」や「それによって世の中がどう文化が変わっていくのか」ということにも興味があり、エンドユーザーへのサービスを提供していない会社も興味をもっています。
繰り返しになりますが、文化の構築にはCとBの両方サイドから事業をつくることが必要だと思っています。
例えば、WeChatのペイメント機能はチャットというC向けの面がありその裏側に決済がある。その両方があることで初めて人の動向や決済の流れが分かる。ユーザー面とその産業面をセットで押さえて初めて事業になっていく。
基本的には垂直統合というべきか、様々なレイヤーで投資をしていくべきだと感じています。
— ご自身でも学びながら取り組む姿勢、学習欲がすごいですね。
好奇心はある方だと思います。
基本的には投資や応援する時も自分はその産業のプロフェッショナルではないことがほとんどなので、領域に特化したアドバイスをしようとは思っていないことが多いです。
自分が会社をやるなかで「経営者が相談できる人がいない」ということを身にしみて感じているので、そこを担える存在になれたらいいなと思っています。
事業の立ち上げやサービスのPMFといったことだけでなく、法律面のことや人事もサポートしてたりします。
とにかく一定の近い距離感で精神的な拠り所というか、困ったことが起きたときに最初に「話したいな」と思ってもらえる人になれたらいいと思っています。
具体的なスキルも提供しますが、精神的にサポートする存在が実は価値が高いんじゃないかなと思っています。
— 経営者にとっての心の拠り所、という感じですね。
そうですね。起業したての頃ってよく分からない契約をしてしまったり、創業者同士で揉めたり、ナンバー2とうまくいかなかったりいつも問題だらけなのが普通なのかな、と。
そんな起業家の近くで心身双方からサポートするのが自分の役目かなと思っています。
— 最近、投資をしている企業やジャンルはどのような共通点があるでしょうか。
基本スタンスとして野心的に時価総額1,000億円以上、いわゆる「ホームランを狙う」といった企業に投資をしています。
今まで「好きなものに投資をする、文化をつくる」といった話をしているので語弊のないように補足したいのですが、「リターンはどうでもいいんです」みたいな考えはなくて当然しっかりとリターンを返すべく頑張ってほしいと思っています。
それを目指すために株主もチームなので、他の人ができないことを補完する存在でありたい。そうなった方が、結果投資先が成功してリターンも上がるだろうとも考えています。
伴走者のような存在は時間もマインドシェアも一定以上に必要なので、正直時間コミットとしてはすごく大変なのですが(笑)、今の自分はそこをなんとか担えるのかなと思ってやっています。
— 大湯さんも起業家として、成長していくことを目指していると思います。
もちろんです。
少し話は変わりますが、今の弊社の「ママリ」という事業は社会からはソーシャルグッドなものとして捉えられています。
最近面白いなと思うのが、この「社会にとって良い」ということが、経済合理性に転化していく実感があるということです。
「社会的に良い、だから応援したい」ということで採用が強くなる。また「社会的に良いけど儲けにくそう」だからこそ競合は投資しづらいという風に需要と供給の歪みが生まれそこが機会になる。
グッドなことをグッドとしてやり切っているから、儲からなくても良いではない。グッドでやっているからこそ実はリクープする、合理的になる利益が出るようになる。今のサービスを5年ほど続けてこのループを強く実感しています。
そのためにはとにかくやり続けることが大事です。上記でエンジェル投資家としてのコミットの話をしましたが、まさに投資先との関わり方もこういった側面があるのではないかな、と直感的に感じています。
— 大湯さんから見て、日本のエンジェル投資の文化はどう見えていますか?
エンジェル投資家自体はこれからもっと増えていくと思います。
スタートアップのM&Aが増え、多くの人が投資余力をもつようにもなっている。起業家も増えている感覚も当然ある。
そうなれば、必然的によりマッチングというものの重要性が高まっていくと思います。投資家も選ぶし選ばれる、起業家も選ぶし選ばれる。そんなフラットな関係がより色濃くなっていくのではないでしょうか。
— エンジェル投資をすることで投資家として起業家として学べることがある、というお話がありました。投資を通じてどのようなことを学んだと感じますか。
投資や業界の知識など様々なことがあるので一概には言えませんが、例えば医療向けのサービスを作っている会社があります。
そこは医者やユーザーへのヒアリングを徹底してやっていて、「家に帰ってない」「そのお医者さんと一緒に泊まり込んでいます!」という報告をよく受けます(笑)。そういった姿を見ていると、ここまで必死にものを作る情熱ってすごいなと、本質的な価値の突き詰め方について改めて考えさせられました。
最初に0から1を生み出す瞬間ってとにかく泥臭いし、汗水流さないといけない。
人は経験が増えるとどうしても賢くやろうとするけれど、時にはカオスに飛び込まなきゃいけない場面がある。そういうことを思い出させてくれる体験が記憶に新しいです。
— エンジェル投資をすることは大湯さんにとってどんな行為といえますか。
個人的に「寝ているお金をいかに減らすか」ということが人生を通じて非常に大事だと感じています。その上でエンジェル投資は一番パフォーマンスの良い、言い換えれば体験価値が高い営みなのかなと思っています。
もちろん、投資した後にどう関わるかで投資したものを活かすも殺すも自分次第ではあります。
一方で、誰かの会社に足を突っ込んで勝ち筋を考えたり、苦難を一緒に経験したりという体験は、他ではなかなか味わうことができない価値です。
何事も自分で見て体験し、理解を腹に落とし込みたい。そのためにお金をどんどん使うのが「動いているお金を持っている」感じがして、良い生き方なんじゃないかなと思っています。
次回は、株式会社StartPoint / 創業者・代表取締役社長である小原聖誉氏を取材します。
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