私の投資哲学 - 僕はエンジェルではなく、ブラックジャックになりたい

私の投資哲学 - 僕はエンジェルではなく、ブラックジャックになりたい

記事更新日: 2019/03/11

執筆: 山中勝輝

 株式会社ティーンスピリット 代表取締役社長 宮地俊充氏

青山学院大学を卒業後、監査法人、M&Aファーム、ITベンチャーのCFOを歴任。2011年にオンライン英会話スクールの株式会社ベストティーチャーを創業。2016年にSAPIX YOZEMI GROUPに売却、2017年12月に代表取締役社長を退任し、その後、エンジェル投資家としての活動と2018年2月に設立したエンタメ×テクノロジーの株式会社ティーンスピリットを経営するシリアルアントレプレナー。


今日は面白い話ができそうです。

インタビュー前にそう語ってくれたのは、エンジェル投資家兼シリアルアントレプレナーの宮地俊充氏。

エンジェル投資家として第一線で活動している方に、これまでのスタートアップ業界の変遷や現状の課題を聞けた貴重なインタビューとなりました。

起業家とエンジェル投資家、事業と投資を同時にやるべき

ーエンジェル投資家の活動を始めたきっかけを教えてください。

3つあります。まず、2011年から最初の会社を7年経営していたのですが、私以外の社長はどうやって経営しているのか興味が湧いたからです。私が社長をやらない会社をサポートさせていただき、成功させたいと思いました。

次に、私が起業するときにたくさんの人に助けてもらったので、業界への恩返し。最後に、普通に資産運用です。

ー 以前の会社ではエンジェル投資家からの投資は受けていたんですか。

前の会社を起業した2011年時点の個人投資家は家入さんと赤羽さんくらいしかいませんでした。エンジェル投資家という選択肢はなかったので、設立して2ヶ月目にサイバーエージェントベンチャーズから投資を受けました。

エンジェル投資家が増えてきたのはここ1~2年だと思いますよ。

ー 現在はティーンスピリットの経営もしていると思うんですが、なぜティーンスピリットをやりながらエンジェル活動を続けているんですか。経営に集中したいからエンジェル活動を止める人もいると思いますが。

そういう意味ですと、ティーンスピリットは今年の7月にアーティストのオーディションをやってから本格始動しているので、7月以降は紹介や元々の知り合い以外の起業家とは会ってないです。ソーシングが一番時間がかかるので、それがほぼなくなった今はティーンスピリットの仕事をメインでやっています。

以前の会社を退任した後の数ヶ月は、月30人くらいの起業家とskyland venturesの木下さんばりに会っていましたね。

経営に集中したいのも分かりますが、事業と投資の両方をやるのが今の時代に最も合っていると思いますよ。

それはどういう意味でしょうか。

変化のスピードが早く、前提条件がコロコロ変わり、何が何に作用するか分からなくなるからです。事業で得たものを投資に生かし、投資で得たものを事業に生かすことで、学びのサイクルが倍増すると思います。

株式会社ティーンスピリットの新オフィス(写真はダンススタジオ)

フルスタックビジネスパーソンとして支援したい

ー なるほど。今は何社くらい投資されているんですか。

MiddleField(車パーツEC)、VAZ(YouTuberマネジメント)、グリーンカード(スポーツメディア)、UniversalBank(株式型クラウドファンディング)、Onokuwa(音楽)、アンビリアル(アバターライブ配信)、非公開の7社です。

投資先一覧

ミドルフィールドは2016年末にシードで投資をして、2017年末にシリーズAに進んでいます。

出会いはStarBurst(当時)の栗島さんが主催したイベントでした。

社長と初めて会ったときはキラキラした人だなと思いました。資本政策や事業計画の作り方を個別ミーティングで教えたんですが、私は車を持っていないし、車好きなキャピタリストから投資を受けた方がいいよと伝えて帰ったんです。

そしたら、何を気に入ってもらえたのか、その夜に「絶対宮地さんがいいです」という連絡がきて。そこまで言うならと投資させて頂きました。

今は投資環境が良いので、シードやシリーズAまで進みやすくなった一方で、シリーズBに進めるかが勝負になります。シリーズAで調達した資金で、何の数字を達成しにいくかが重要だと思っています。

ー 投資をした企業にはどういったサポートをするんですか。

私は単一機能のビジネスパーソンではなく、フルスタックビジネスパーソンになりたいと思ってキャリアを積んできました。

例えば、弁護士は法務、会計士は財務・会計・税務、人事系で有名な方は人事の仕事がメインになると思います。ですが、経営者はそれらの機能を有機的に結びつける必要があります。

経営上の優先順位づけや、相反する事項のバランスをどう取るかを、これまで培ってきたキャリアを生かしてサポートしています。

また、フェーズに合わせてサポート内容を変えています。

シード期はファイナンスの支援がメインになることが多いですが、資金調達した後は数字を伸ばしにいくためにWebマーケティングの支援や営業先の紹介などです。従業員が増えて経営陣繋がりの採用に限界がきたら、良いエージェントや転職意思がある友人を紹介したりします。

エンジェル投資家であってもVCと同じ視点になる理由

ー 投資するときの判断基準はありますか。

次のVCに繋げられるかどうかですね。私は投資した後にVCに繋ぐことになるので、次のVCが良いと思わない企業には投資できないです。

ー VCが良いと思う企業とは何でしょうか。

いろいろありますが、分かりやすいところでは規模が大きい市場を狙っている企業です。市場が大きくないニッチなビジネスは、エグジット時の時価総額が小さくなるのでVCは投資できないと思います。

ー 狙っている市場規模が大きければ投資するのでしょうか。

いえ、社長・経営陣・市場規模・競合優位性・他の株主などを総合的にみます。あとは何か違和感を感じたら投資しない方がいいと思っています。

例えばおかしな株主構成になっていたり、社長と会社の間に金銭の貸借があって財布がごっちゃになっていたり、Facebookでのメッセージのやりとりがおかしかったり。違和感というものは100%当たりますし、大きな問題に発展することがよくあります。

リターンはあまり重視しないと言うエンジェル投資家は危険

ー エンジェル投資家界隈で何か思うことはありますか。

誤解を生んでしまうかもしれませんが、あえて言っても良いですか?

よくインタビューで、"経済的なリターンよりもそこで得られる情報や恩送りを重視する"と答えている人がいるじゃないですか。その上、そんな「エンジェル感」を良いと思っている起業家の雰囲気があります。私は言葉を選ばずにいうと、めちゃくちゃリターンにこだわっています

投資先の企業が行なっているのはビジネスで、ビジネスは結果が全てです。スタートアップが結果を出すために頑張っている中、結果にこだわっていない人を同じ船に乗せるのは相当危ないことだと思います。

VCのキャピタリストはLPから預かった資金を運用しているので、「リターンはあまりこだわらない」と公言している方と出会ったことはないです。一方で、エンジェル投資家は自分の資金で投資しているので、このようなことが起こるのだと思います。

ー リターンを求めないではなく、リターンだけを求めないという意味なのではないでしょうか。

はい、それは理解できています。

その上で、優先順位の一番は投資先がビジネスにおいて結果を出すことなので、リターンが最初に出てこないとおかしいです。情報収拾や恩送りなどと言う方は、投資先のことよりも自分のことが先立っているように感じます。

もしかしたら私と同じ考えで、表現が違うだけの場合もあるかもしれませんが、それにより明らかに誤解している起業家が増えてきていると感じるので、ちゃんと発信しておこうと思いました。

Protostar栗島と宮地氏(ティーンスピリットオフィス)

何かあったら連絡して来てねという姿勢はありえない

ー 普段どのように投資先と関わっているのでしょうか。

私のモニタリングに対する考え方は、多くのエンジェル投資家とは異なると思います。

VCは月に1回必ず投資先と会っているんですが、40社、50社投資しているエンジェル投資家は定例会議もやらずに、"何かあったら相談してきてね"というスタンスが多いんですよね。

もちろんシードでプロダクトマーケットフィットしてない段階で頻繁に会ったところで、仮説検証もできていないのに無意味に投資家説明に時間を取られるのが嫌、というのは分かるのですが、それと定例をやらない又は参加しない、は別の話だと思います。

やっぱり待ちの姿勢で上がってくる情報は加工されていることが多いんですよね。スタートアップは1つ良いことがあれば99個悪いことがあるはずですが、投資家を安心させようと良い情報だけを伝えようとします。本来は悪い情報を共有して、原因分析と解決策を一緒に考えて実行する必要がありますが、共有したら怒られるという思考になっているのかもしれません。

優秀な起業家は、報告の時に「いい情報が2つと、悪い情報が1つあります。まず悪い情報からなのですが、〇〇」みたいに、悪い情報を積極的に共有してくれます。

ー とても共感します。一般企業でも起こりそうな話ですね。

私は投資家は自分から情報をとりにいく姿勢が重要だと思っています。

実際に会えば会社の雰囲気や社長の目の動きで不穏なことがあったら察知できるんですよね。非言語でのコミュニケーションが重要なので、チャットだけでのモニタリングには限界があると思います。

ー 40社、50社に投資をすると、スタートアップの情報を把握するのは難しいですよね。

40社、50社に投資しても、情報を取りにいって投資先の問題を全て解決しているならとても尊敬します。

世の中の営業マンに担当社数の限界があるように、一定以上のサービスを投資先に提供したいなら1人あたりの投資先の数は限定すべきだと思います。もちろん起業家側も実績のある方が株主にいることが権威づけになるので、投資を受けたいというニーズがあるのも分かります。

権威づけのための投資に偏りすぎているように思うので、こんな考え方もあるよと伝えたかったです。

エンジェルではなくブラックジャックになりたい

ー 今までにないエンジェル投資家論がでていますが、他に思うところはありますか。

エンジェル投資家という言葉が良くないのかも知れませんね。失敗しても許してくれるっていうイメージがエンジェル(天使)にはあるじゃないですか。

つまり、エンジェルって無条件承認なんですよ。だけど私は条件付き承認。不誠実なことをしていたり、勝率を上げるために必要な仕事をしていなければ、それは違うんじゃないの?という話をしてしまう。

私はブラックジャックの話が凄くいいなと思っています。ブラックジャックは高額の医療費を請求する代わりに絶対に病気を治すんですが、おそらく支払わなくても取り立ててこないし、受け取った医療費は寄付しているんです。

じゃあなぜ高額の医療費を請求するかというと、患者の本気度を見ているからなんですよ。本気で病気を治したいと思っている人にだけ力を貸しているんです。

私も、絶対に成功したいという起業家だけと関わりたいと思っています。今回のインタビューではかなり甘くない話をしていますが、「それでもいいんじゃない」、「それが普通だと思っていました」みたいに飛び越えてくる起業家に投資したいと思っています。

私はブラックジャック志向なのでかなりシビアですが、その代わり投資した企業には全力で支援しますし、結果を出すことにコミットしたいと思います。

ー 本日は、ありがとうございました。

 

 

次回はガリバーで専務取締役を務めた吉田行宏氏に取材します。

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