「自分の成功体験を押し付けない」 吉田さんが理想とする ”運命共同体”というエンジェルの在り方とは

「自分の成功体験を押し付けない」 吉田さんが理想とする ”運命共同体”というエンジェルの在り方とは

記事更新日: 2019/03/11

執筆: 狐塚真子

株式会社アイランドクレア代表取締役/株式会社LIfepepper代表取締役 吉田 行宏氏

元株式会社ガリバーインターナショナル(現株式会社IDOM)専務取締役。創業4年でガリバーを全国展開させ同社を株式公開に導く。同社退任後は、若手経営者の育成支援と、共同での新規事業創造の為、株式会社アイランドクレアを設立。

エンジェル投資家の投資遍歴や投資家文化について率直な思いを聞いていく【エンジェル投資家図鑑】。

今回、お話を伺ったのは(株)アイランドクレア代表取締役、(株)LIfepepper代表取締役を務める吉田行宏さんです。

「自分が出せる価値に対して、相手が必要だと思うものを選んでもらう」というスタイルで、吉田さんが支援している企業はなんと27社。
ガリバー時代の貴重な経験談や、起業家支援に対する吉田さんの熱い思いは必読です。

起業家支援を始めたきっかけ

ーまずはエンジェル投資を始めたきっかけについて教えてください。

2012年にガリバーを円満早期定年退職しました。会社を辞めたらたくさんの会社から、「顧問やアドバイザーになってほしい」と言われたので、ある意味受動的に支援を始めたという感じですね。地元の福島の企業や、若い方とかは特に応援していきたいなと思っていましたので。

その後、何度か信頼する知人からの依頼でベンチャー企業の社長とお会いする機会がありました。例えばFiNCの溝口さん。彼からは全面的な参画支援として社外取締役への就任と、出資を依頼されました。

それから徐々に、多くの企業から支援を頼まれるようになっていきましたね。今は出資以外での支援先も含めると27社になります。自分の会社もやっているので、支援の依頼はたくさんいただくのですが、お受けするのが難しくなってきています。

ー具体的にどの企業の経営・支援を行っているのでしょうか?

代表取締役をやっているのがISLAND CREAとlife pepper。
役員をやっているのがPOLとOTONAL。
社外取締役がFiNCとFactelierとProtoStarになります。

出資をしているのが現在、タビナカ、教育図鑑、ipoca、そらいろなど20社ですね。

そして、経営顧問がIDOM、Healios、ONOYA、MoneyForward、JapanTaxi、studistですね。

吉田さんが経営・支援している会社一覧(2018年10月現在)

支援先を見極める4つの基準

ーこういった支援先を選ぶときに基準はありますか?

総合的には、「ワクワクできるか」ですね。
ワクワクを少し具体的に説明すると、「事業」「経営者」「相性」「ゲームポイント」の4つでワクワクするかですかね。

「事業」としては、革新性とスケールの可能性が感じられること。単なる受託ではなく、何かを変えることで革新性・イノベーションが生み出せるっていうイメージがつくこと。ラーメン屋を例にすると、店を1軒だけ作るのではなくて、どうせやるんだったら「世界中に感動的で、画期的な店舗を作ります!」っていうくらいスケールを感じられること。

「経営者」については、強いミッション・ビジョン・使命感を持っている方が良いですね。非常に若い経営者の場合はそこまでしっかりしたものを持っていない場合もありますが、その場合は成長しながら持てていくポテンシャルを感じるかですね。

そして諦めない意思、覚悟があること。高い目標・挑戦心があること。

あとは地頭の良さも大事で。戦略思考・コンセプチュアルスキルを持っていて、高いレベルで経営戦略の議論が出来ること。

社長のマインドセットに関しては、我欲で動いていないとか、謙虚さがあるとかをを見ています。


あと事業の観点では、専門領域での経験や当事者意識をもった修羅場経験がある人が強いですね。

自分の価値が発揮できるか、相手との「相性」も重要ですよね。支援をしていて楽しいか、価値観が合うかどうか。

投資のリターンについていうと、私は金銭的な部分だけに重きをおいていません。自分にとっても学びや成長があるかどうかをかなり大事にしています。

そうはいってもボランティアではないので金銭的なリターンの効率も考えますが、それはもしゲームで点数がないといまいち盛り上がらないように、真剣なゲーム感覚で、「やるからには勝ちにこだわる」とか「本気でスケールを目指す」ために必要な「ゲームポイント」として考えています。

バリュエーションについては、もちろんフェーズやポテンシャルによって違いますが、自分がよりコミットしやすいのは、アーリーステージから、一緒に立ち上げるものですね。

起業家との出会いは全てご縁と信頼だった

ーこれまで出会った企業の中で特に印象的な出会いはありますか?

うーん… みんな印象に残っていますね。

支援先の皆さんにお会いしたのは全てご縁からなんです。自分は出不精なのと、積極的に出資支援先を増やしたいとも思っていなかったので、自分からベンチャーの集まりに行ったり、こちらからアプローチしたことは一度もないんです。全て信頼している方からのご紹介でお会いして、じっくりお話をさせていただき、是非支援してほしいと頼まれてお受けしたものばかりですね。

例えばFiNCの溝口さんに出会ったときは、会社もまだ10人程度のアーリーの時期でした。若いのに凄い起業家だなと、大変驚いたことを覚えています。先ほどお話した私の投資支援基準がほぼ全て当てはまっていました。彼とも、知人の紹介で会ったのですが、今でも溝口さんは、その知人に「吉田さんがいなければ今のFiNCは無かった。紹介してくれたことを本当に感謝しています」といってくれているそうです。お世辞だとは思いますが(笑)。
私も溝口さんとの出会いにとても感謝していますし、多少でもFiNCの成長のお役に立てれることにワクワクしています。

POLもそうですね。ProtoStarのStarBurstのイベントに加茂君がたまたま来ていて、栗島さんに紹介いただきました。そのとき、会社をまだ作ってない状態でしたが、話をしていくうちに「ぜひ一緒に世界を変えたい」という話になり、共同創業という形で事業を始めました。

ー会社を設立していない状態だと、事業モデルがまだ固まっていないときでしたか?

当時、加茂くんは数名のビジコンの仲間と、今まさにProtoStarがやっている「起業家と投資家をつなぐプラットフォーム」を作ろうとしていました。アイデアとしてはありだけど、彼らにはその領域に関する専門的な知見や経験がほとんど無かったのと、戦略ストーリーや強みも心もとなかったですね。(プロトスターの栗島さんであれば、それらはかなりカバーできるし、そこへの想いも強かったので今順調に伸ばしてますよね)。ですから、私は完全に否定はしないけど、そのビジネスをスケールさせることがかなり難しいことは伝えました。

でも人物的に面白いし、若く志が高く、信頼もできたので、一緒に会社を作りました。まさに何をやるかでなく、だれとやるかですね。

その後に、もう1案のプランとして出たのが今の事業モデルでした。大学生発で本格的に企業として永続的に学生のサポートできるサービスができたら、絶対に強みを出せると思ったのでその案には大賛成しました。学生サークル等で、ノリでイベントや企業への就活サポートをする人は結構いますが、就活の時期に辞めちゃうので一貫性、継続性がないけど、会社としてやり続けるんだったら差別化できますし。それに理系に特化するのも筋のよい打ち手だと思いました。それから週に何度も戦略の議論と実行検証を繰り返して順調に拡大しています。

彼のように、会社がアーリーの段階で、年齢が若く、経験も少ない場合、私は「ミッション・ビジョンがなければ事業を始める意味がない」とは言いません。いろいろとチャレンジして失敗や修羅場を経験することで、本質や、ミッション・ビジョンが明確になってくることもあると思います。もちろん、すでにそれらの経験が多い場合は、はじめからそこに向かうことはとても重要ですが。

ー経営者側が若手であれば、地頭とかそちらを見るわけですね。

はい。伸びる素養があるかどうかとか、謙虚さなどのマインドセットと行動力を中心に見ています。

起業家の「運命共同体」でありたい

吉田さん

段々やっていくうちに、「自分はコンサル的な立場はあまり好きではないな」と再認識しました。どちらかというと「運命共同体」みたいなものが良いなと思っています。

ー「運命共同体」とはどういう事でしょうか?

アドバイザーやコンサルを否定するわけではないのですが、これらの立場だと、結果に対する利害が一致しない場合も多いと思います。結果がでるでないに関わらないフィーの体系であったり。エンジェルとして出資して、支援もするのであれば、支援企業と成果とリスクを共有することができますし、ミッション・ビジョンの実現にも当事者意識100%で関われます。そういう点で自分は出資をして関わる方が好きだなと思います。

私にとって「運命共同体」というのは、別の船からアドバイスするのではなく、「経営者と共に同じ船に乗っている」状態だと思います。これは単に利害が一致するということではなく、志をともにすることだと思います。

自分が出せる価値を選んでもらう

ー投資だけして、あとは経営に一切口出しをしないという投資家やかなり細かい点まで関わる投資家もいらっしゃいますが、吉田さんは支援先に対して具体的にどのようなサポートをされていますか?

「絶対的にこういう支援スタイルしかしない」というものはありません。私が出せると思われる価値に対して、先方が必要だと思うものを選んでもらっています。ガリバー時代にほとんどの部門の担当役員をやっていたので、戦略レベルであれば可能な限り対応しています。

具体的にはガリバー時代、経営戦略、マーケティング、フランチャイズ運営や店舗開発、新規事業、人事や教育育成、それにCFOやCIOも役員として担当しました。

現在、一番支援依頼が多いのは事業戦略と組織戦略ですね。特に組織系の支援をされる方は少ないようで、お願いされることが多いですね。

 

現在、肩書きをつけるとしたら、

代表取締役、共同創業者、取締役、社外取締役、エンジェル投資家、メンター、戦略顧問、ファシリテーター、講師、No.2代行、CLO(チーフラーニングオフィサー)など様々です。もちろん、多すぎて名刺には書いていませんけど。(笑)

具体的な業務内容でいうと、事業戦略策定・運営支援、組織戦略策定・運営支援、リーダーマインドセット向上支援や組織強化プロジェクト支援など。あとはMission・Vision・Value浸透支援や評価制度の作成等なども行っています。

それらの実際に行う支援の場が、戦略会議とか合宿、研修などとなります。

「自分の役割・肩書き」「支援内容」「支援の場」。これら3つを掛け合わせて支援を行っている感じですね。

会社の成長に必要な要素

ーそれぞれのフェーズ毎によって会社に必要なものは変わってくると思いますが、依頼内容としてはどんなものが多いのでしょうか?

アーリーフェーズでは事業構想や資金調達、あとはプロダクト戦略が多いですね。
次のフェーズに入ると、人材採用や戦略を高速で回すための組織体制や人材育成、評価制度。
さらに成長すると、次世代リーダーの育成やミッション・ビジョンの浸透も大事になってきますね。

私は会社の成長のためには4つの要素が必要不可欠だと考えています。正しく強いミッション・ビジョン、そしてそれに向かっていくためには事業戦略力と組織力・人材力が両輪で重要です。

会社の成長に必要不可欠な4要素

ですから、両輪のバランスを考えて、支援企業がそのどちらをより強化していけばよい状態かを見極めながらアドバイスや必要に応じて研修等もしています。

そして、戦略を強い組織力・人材力で実行し続けることで市場創造・イノベーションを起こしていく支援ができれば本望ですね。

自分の成功体験が必ずしも正しいわけではない

ー吉田さんが考えるエンジェル投資家の仕事や、他の投資家に対して何か思うことはありますか?

人によっていろいろなスタイルがありますし、私が色々と言える立場ではないですが、お金のためだけとか、我欲だけではやらないでほしいとは思いますね。もちろん、投資効率のみでやられている人はあまりいないと思いますが。

「若い世代のため・日本の未来のために」という使命感をみなさん持たれていると思います。強い想いや使命感をもって、経営者や会社を育てていく気概が大事だと思います。

 

また、エンジェル投資家は自分の事業で何らかの成功体験があってやられている方が多いと思いますが、その成功体験を押し付けた指導は好ましくないと私は考えています。

自らの知見や経験を次の世代に提供することは素晴らしいことです。ただ、成功するための手段は決して一つでは無いですし、時代やリソースも異なります。経営者によって戦略も変わります。ベンチャー経営者から聞いた話ですが、「絶対にこうだ!これが正しい」と言い切り、強くその考えを押し付ける投資家もいるようです。それってすごく危険だなと私は思います。

私は経営者が考える戦略に対して、いくつかの別の可能性やリスクを提示するように心がけています。そして「参考意見として、私はこの案だけど、それが正解かはだれもわからない。最終意思決定は社長であるあなたがしてください」と、必ず言うようにしています。

「正解を選ぶ」のではなく、「選んだものを正解にしていく」のが経営ですから

ー確かに、吉田さんと戦略会議をすると「この選択が”私のお勧めです”」と言われるのが印象的でした。

断言してしまうと相手の可能性や主体性をつぶしてしまうことにもなるので。もちろん、経験上のお勧めは提示しますが、あくまで参考意見でしかありません。

ただ、限られた時間内では、あらゆる選択肢の案を、徹底的に深く考えて意思決定してほしいですね。意外と簡単に決めてしまうケースにもたくさん遭遇しますね。深く考えた中で、理由があってその選択をしていればいいのですが。
考えが浅いのではと感じる場合は「何でその選択にするの?」と徹底的に聞くようにしています。

ーそれらを踏まえると、吉田さんにとってエンジェル投資家とはどんな存在でしょうか?

肩書がない経営幹部の一人ですかね。影のNo.2、No.3の気持ちでやるべきだなと思います。

ー日本におけるエンジェル投資の文化についてはどう思われますか?

ガリバーのときは、今のようにベンチャーブームやITブームの前だったので、資金調達や上場もすごく大変でした。

現在は、優れたビジネスモデルや優秀な経営者には、適切にお金が集まる環境ができあがっているのは本当に素晴らしいことだと思います。
また、Googleカレンダーや社内コミュニケーションのようなITツールも、今でこそほぼ無料で利用できますが、昔は社内で全てサーバーを立て、高額な投資をしなければできませんでした。それが今は、志とアイデアをより早く形にできる環境ができていると思います。

良いエンジェル投資家やVCとITを活用すれば、余計なことに意識やコストを奪われずに、本質的なことにお金と時間を割くことが出来る時代ですね。

もちろん、どんなに良い環境が整っていても、起業することとエンジェル投資をすることは簡単ではないので甘えた気持ちで臨んで失敗事例を増やすのではなく、強い志をもって挑戦してほしいです。

起業家と投資家が、この環境を活用して「世界に通用する素晴らしいプロダクトやサービスを運命共同体として育てていく」という文化がさらに広がってほしいですね。

 

 

次回は、32ものベンチャー企業に投資した山口豪志氏を取材します。

狐塚真子

この記事を書いたライター

狐塚真子

津田塾大学英文学科に在学。趣味は映画鑑賞、ダンス、旅行、ライブに行くこと。

この記事に関連するラベル

ページトップへ