米国新興市場上場を経て10億円を調達 「代替肉」で社会課題に取り組むネクストミーツの歩み

米国新興市場上場を経て10億円を調達 「代替肉」で社会課題に取り組むネクストミーツの歩み

記事更新日: 2021/08/16

執筆: 編集部

2021年1月に米国証券市場OTCBBにSPACスキーム(※)で上場した日本発スタートアップのネクストミーツ株式会社。創業から史上最速で時価総額約4,400億円を記録した注目のユニコーン企業です。(※NEXT MEATS HOLDINGS 株価(ブルームバーグ)

ネクストミーツは「地球を終わらせない」をビジョンに、日本企業ではいち早く代替肉に目を向け、3年かけて研究・開発に取り組みました。2020年6月の創業から2021年4月までに大手製薬会社や食品用生産設備設計会社などから約10億円を資金調達し、世界展開を推し進めています。

しかし3年にわたる研究・開発期間は成果の出ない日が続き、暗闇だったと話す米国法人代表の白井良さん。どのようにハードシングスを乗り越え、食糧生産という大きな社会課題と向き合ってきたのでしょうか。話を伺いました。

※SPAC…Special Purpose Acquisition Company(特別買収目的会社)。それ自体は特定の事業を持たずに、未公開企業を買収することのみを目的とした会社のこと。

プロフィール

白井良

勤めていた大手証券会社を退職し、2006年から環境ビジネスで起業。3度のバイアウト経験を持つシリアルアントレプレナー。2017年より代替肉の研究を行い、2020年に代表の佐々木と共に株式会社化。2021年1月にSPACのスキームによりアメリカOTC上場。

ビジネスは度外視。社会問題に取り組む事業をやりたいと思った

日本法人代表の佐々木英之さん(左)、米国法人代表の白井良さん(右)

――シリアルアントレプレナーとして様々な事業に携わってきた白井さんですが、なぜ「代替肉」事業に目を向けたのでしょうか。

15年ほど前から環境問題に対して課題意識を持っており、いつか事業として取り組みたいと思っていたんです。日本法人代表の佐々木と「私たちが社会貢献できる事業は何か」を議論した結果、環境問題を解決する手段として「代替肉」事業にたどり着きました。

――どのように「代替肉」事業をスタートさせたのでしょうか。

まずは自己資金で始めました。当初から社会貢献を優先していたため、資金調達すると「利益優先」になってしまうと思ったからです。

また、日本ではなくアメリカでの上場も最初から視野に入れていました。代替肉市場は開発スピードが速い。日本は新規上場まで時間がかかるため、この速さに付き合っていたら世界では勝負できないと判断しました。

ネクストミーツの優位性は「味」「品質」「価格帯」

イトーヨーカドーの精肉売り場に陳列されているネクストミーツの代替肉(ネクストミーツ提供)

――アメリカにはすでに代替肉専業企業が多くありますが、ネクストミーツにはどのような優位性があるのでしょうか。

大きくまとめると「安全性」「味」「価格帯」です。

まず「安全性」について。アメリカではすでにいくつかの代替肉メーカーが台頭しています。しかしそれらの製品は遺伝子組み換え大豆を原料に含んでいたり添加物を使用していたりしているものが多く、必ずしも安全とは言い切れません。

ネクストミーツは大豆やエンドウなどの植物性タンパク質を組み合わせ、熱と圧力で成形することにより、無添加のものを生産可能にしました。機械工学や生物物理学、微生物学などさまざまな分野の研究者が携わっており、これほど高度な研究・開発をしている企業は日本はもちろん、海外でもほとんど例はありません

また、「味」に関しては営業努力もありますが(笑)、実際に担当者の方に食べていただき評価されているからこそ、イトーヨーカドーやライフなどの大手スーパーマーケットでも展開していただけているのだと思います。

「価格帯」は正直、普通の肉より高いのが現状。開発コストをいかに切り詰めていくかが業界全体の課題になっています。私たちは焼肉ライクやイケアなど、みなさんのなじみのある外食チェーンと共同で商品を提供し、生産規模を上げることでコストを下げていけるよう取り組んでいます。

ーー国内の食肉加工品メーカーも代替肉商品の展開を始めていますよね。

そうですね。ただ、国内メーカーの場合は代替肉を製造する企業から買い取って、自社で味付けをしたものを販売しているところが多い。つまり、開発から商品化までできるノウハウが社内にないため、スピードや価格帯に課題があります。

とはいえ、ほかの企業と争いたい気持ちはまったくないし、競合とみなしライバル視したいわけでもありません。「代替肉で社会問題を解決する」という大きな目標に向かって一緒に取り組み、よりよい世の中になるよう市場全体で盛り上げられたらと思っています。

代替肉の研究・開発は決して平たんな道のりではなかった

 

ーー「代替肉」の研究・開発には3年かかったとのこと。どのような思いで取り組んでいたのでしょうか。

まず、佐々木も私も食品開発に携わったことがないので、まさにゼロからのスタート。基本的に失敗することがほとんどで、納得のいく結果が出ない日々が続き、精神的に辛かったですね。このときを私たちは「暗闇の期間」と呼んでいます。お金もどんどんなくなっていき、3回くらい本気で辞めようと思いました。

ーー結果が出ず諦めかけたとき、どのように気持ちを奮い立たせたのでしょうか。

初心に返り、「なんのためにこの事業をやっているのか」を自分に問いただしました。

「お金や名誉よりも、次世代の未来のために地球環境を少しでもよくしたい」という考えでスタートしたことを改めて思い出し、何十年かけてでも続けたいと思いました。

研究・開発に着手して3年が経ち、製品化が見えてきた2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が世界規模に。この影響により社会全体で健康や環境問題に意識を持つ人が増えたことは、ネクストミーツの追い風になりました。 

代替肉が食卓で当たり前のように並べられるようになったら

 

ーー2021年4月までに約10億円の資金調達を実施しましたが、資金はどのように運用していく予定ですか。

海外展開を強化していきたいと思っています。すでに展開しているシンガポールやアメリカ、香港、台湾における生産体制の強化はもちろん、中国、インド、フランスの市場開拓にも力を入れていく予定です。

ーーありがとうございます。最後に、ネクストミーツの今後の展望を教えてください。

事業を通して社会貢献するという思いは変わりません。「地球を終わらせない」という大きなビジョンに共感してくれた優秀な研究者も国内外から集まっており、休みの日でも「こんな結果が出ました」とLINEで報告してくれるメンバーもいます。

彼らとともに、ネクストミーツの代替肉が「かまぼこのように食卓で並ぶことが当たり前になる日」が来るまで、研究・開発を重ねていきたいです。

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