「上場=目的達成のための手段」Kaizen Platformの創業者が語る“上場”とは

「上場=目的達成のための手段」Kaizen Platformの創業者が語る“上場”とは

記事更新日: 2022/01/14

執筆: 編集部

「21世紀のなめらかな働き方で世界をカイゼンする」をミッションに掲げ、企業のDXをサポートする株式会社Kaizen Platform。企業のWebサイトの見やすさ・使いやすさの改善や、顧客社内のDXプロジェクトへの伴走など、一気通貫したDX支援で着実に業績を伸ばし、2020年12月には東証マザーズ上場も果たしました。

日本国内のマーケットに軸足を置いたスタートアップでありながら、創業したのはアメリカのシリコンバレー。その背景にはどのような考えがあったのか、またスタートアップをとりまく環境は日本とアメリカでどのように違うのか。

今回は、Kaizen Platform創業者の須藤憲司さんに上場準備当時の思考フローやアクション、さらに上場時に経営者が考えておくべきことについてお聞きしました。

国内マーケットの成長を待つべく、アメリカで起業

―Kaizen Platform創業のきっかけをお聞かせください。

須藤憲司氏:日本のDXを考えたときに、非常に大きな市場があると感じたからです。

私が起業前に勤務していたリクルート社は独立や起業をする人が多かったこともあり、当時の年間退職率は8~10%。私がいた10年間で70%ほどの従業員が入れ替わる計算です。一方、日本のいわゆる大企業では、退職率が2.3~2.4%ほどといわれていて、10年間に入れ替わる人の割合は20%くらい。ほとんど人が入れ替わらないんですね。

すると、DXというこれまで会社でやったことのない新しいプロジェクトに挑戦することになったとしても、そのスキルを持った人材は社内にいないし、育成も難しいわけです。きっとほとんどの企業がDXをアウトソースする=大きな市場があるだろう、と予測しました。

 

―そこで、国内ではなくアメリカで創業されたのはなぜだったのでしょうか。

私たちがやろうと考えたのはSaaSとアウトソーシングというビジネスモデル。創業した時点では国内のSaaS市場はまだ未成熟で立ち上がってなかったんです。

海外に目を向けるとアメリカでは非常にスピーディーにマーケットが動いていて、日本で立ち上げるよりもアメリカで立ち上げた方がスピード感を持って会社を成長させられると考えました。ですからまずはサンフランシスコに法人設立をして、日本のオフィスは支店という形でスタートしました。

2017年に日本で現在のKaizen Platformを設立して日本法人としての形を整えましたが、この頃にはSaaS事業を行う企業がたくさん登場しており、評価も確立されてきていると感じたためです。逆に市場が育っていなかったら、日本にインバージョンすることはなかったのではないかと思います。

 

―アメリカと日本とで創業環境にはどのような違いがあるのでしょうか。

例えば、日本では起業しようと思って銀行の窓口に行っても、ほとんど門前払いになるんですよ。私自身も、国内で企業の口座開設はできませんでした。

一方アメリカには「シリコンバレーバンク」という起業家向けの銀行があり、事業内容の面談と並行して口座開設や法人クレジットカードの手配も短時間で完了しますし、必要に応じて弁護士や会計士の手配もしてくれます。

スタートアップの環境としては、良くも悪くも日本との“年輪”の違いを感じました

アメリカは創業しやすい反面、非常に競争も激しい環境です。会社ができては潰れたり、合併したり。それに人件費などの運営費も、僕の実感としては日本の3倍くらいのスピードで消費されていきます。参入するのは簡単だけど、サバイブしていくのは非常に厳しい。そんな印象ですね。

ですから、その環境が合う人であればアメリカなど海外での起業は向いているかもしれません。日本がいいか海外がいいかは確率論で語れるものではなく、自分のやりたいことを実現するために適した環境を選ぶことが必要なんだと思っています。

 

上場準備期間は、経営者からマネジメント層への権限移譲を進める期間

―2020年12月に東証マザーズへの上場を果たされましたが、上場に向けての日々について教えてください。

ベンチャーキャピタルから投資を受けている企業としては、いずれイグジットするのが当然の流れといえます。それをいつにするか、という議論をしました。

2020年の終わりに上場しようと決めたのは、5Gの提供に合わせて国内の動画事業やDXがさらに加速すると感じたので、そこへ向けて上場してエンジンをふかし、戦っていく準備をするためでした。

また、偶然ではありますがコロナによってデジタル化が思っていた以上に早く進んだことは、DXと言う市場環境的には良かったと言えるのかもしれません。

 

―準備していくうえで苦労されたことは何でしたか。

実際に苦労をしたのは各チームのメンバーだと思いますが、私が苦労したところをあげるとすれば、その「チームづくり」でしょうか。経営者としては、どんなチームでやっていくかを考えるのがミッションだと思い、ずっと取り組んできました。

その面でいうと、上場する手前のタイミングで現在のCOOである海本桂多、CFOである高崎一が入社してくれて、経営体制としては盤石というか、経営チームとして準備が出来たと思っています。

 

―チームづくりにおけるポリシーなどはありますか。

採用ってすごく難しいなって思っているんです。それは、人というのは能力のかけ算ではないということで、単に能力の高い人をどんどん入れれば会社がよくなるかというと違っていて。

お互いに助け合う、信頼し合う…という、個の力を発揮するための“人と人の間に流れるもの”や“人間性”がとても大切なんです。優秀な人が応募してきてくれるとそれだけで採用したくなってしまうのですが、その人の人間性が組織と合わない場合、その人によって組織が壊れてしまうこともある。

ただ、それはその人の人間性だけに問題があるのではなく、経営の責任でもあります。採用した人を最大限活躍させるための努力は、経営の重要な仕事の一つなんじゃないでしょうか。

チームづくりというのは時間がかかるものでもあって、お金を使ってすごい人を連れてきても、必ずしもいいチームにはならないんですよね。その会社のユニークネスが出てくるには、ある程度時間をかけてチームを成熟させていく必要があると思います。

 

上場=目的達成のための手段。創業時の思いを持ち続け、常に成長を考える

―複数の資金調達や上場を経験されて経営フェーズも何度か変わっていますが、須藤さんをはじめとした経営陣の経営における力点は何か変わったところはありますか。

本当にスタートして間もないころのCEOというのは、よく言われますが「チーフエブリシングオフィサー」だと思っていて(笑)。つまり何でもやらなきゃいけないんですよね、採用も営業も資金調達もCEOがやるもの。

それが、企業規模が大きくなったり上場したりという成長を経ると、私のいない現場でビジネスが回っていくようになります。COOやCTOに権限移譲をして、私が出ない会議を増やしていく。

率直に、上場する企業というのはもうそういった権限移譲が進んでいる状態にあるものだと思っています。上場準備とは企業としての強い経営体制を作っていく“助走期間”のようなもので、ミドルマネジメントへの権限移譲や各役員や自分のテーマをしっかりと担ってくれている状況を作っていくのが、上場前後の姿かなと思います。

CEOである私は現場に権限を渡して空いた時間を使って新規事業を考えたり、もっと長期的な会社の成長の舵取りをどうするか…といったことを考えるのに時間を使えるのが理想ですね。

 

―上場を「ゴール」として考えているスタートアップも多いかもしれませんが、須藤さんはどのように考えていましたか。

上場というのは目的にはなりえない、手段ですね。企業って、上場してからのほうが絶対に長いじゃないですか。どんな会社になって、どんなふうに社会の役に立ち続けるかと考えるのってとても大切なんですよね。

上場するというのは、地球から宇宙へ出ていくようなものだと思うんです。そして、宇宙船が進むうえで方向を変えたり加速したりするために他の星の引力を利用する「スイングバイ」という技術がありますよね。

企業が成長するうえでの資金調達はこのスイングバイのようなもので、いろいろな出会いをして、投資家の方々の信頼を得て新たな投資を受けながら、企業は進んでいく。だからこそ「どこに行きたいのか」という目的地は非常に重要なんです。

だから、上場は目的地に到達するための手段にすぎない。その後も続く会社としての人生を進んでいくためには、創業時に感じていた「もっとこういう世の中ならいいのに」という想いや“ヘルシーな怒り”ともいうべきエネルギーを持ち続け、どうすればそこへ行けるのか、もっと早く行けるのかを経営者として考え続ける必要があります。

 

―貴社は今後、どのようにビジネスを展開していかれる予定ですか。

コロナの影響もあって、日本でもDXが注目されたり、働き方は変化してきていると感じます。

でも、その根っこにある「価値観」は実は変わっていないのではないか、とも思うんです。仕組みはできつつあるけど、そこにいる人間の価値観も同時にアップデートしていかないといけない。

これまで経済を成長させてきた、マンパワーに頼る「労働集約」型の働き方も変わってきています。

Kaizen Platformの提供するサービスやプラットフォームによって、例えば大企業の社員とクリエイターがクロスオーバーするような世界をつくれたらいいなと考えているんです。違う才能同士が重なる場所があると、そこにDXが起こる。だからこそ、プラットフォームの領域を広げていきたいなという思いはありますね。

実際に8月にM&Aで子会社化しご一緒する事になったWeb制作会社がありますが、制作会社というのも労働集約型のモデルです。もしこの会社で、労働集約の比率を少しずつ下げていくことができたら、もっと面白いことになるんじゃないかな?とか、Kaizen Platformと様々な企業や事業でかけ算の成長を描けるようになれたらと考えています。

 

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