代表取締役 羅 悠鴻
「エレベーターという密室空間を心惹かれるものにしたい」。そんな思いから大学を休学し、会社を立ち上げた株式会社東京の羅氏。
前回取材を行ってから2年。
今回は、その間に起きた合弁会社立ち上げやビジネスモデルの転換。
そして、新たな取り組みについて伺った。
プロフィール
羅 悠鴻
この2年間では、大きく分けて3つの変化がありましたね。
まず、三菱地所さんと株式会社東京の合弁会社spacemotion社を設立しました。
この提携によって、日本初の『エレベーター内プロジェクション型メディア事業』を開始することになったんです。
この事業によって開発されたのが「エレシネマ」になります。
次に、その三菱地所さんと既存株主のX Tech Venturesさんからは株式会社東京に出資をいただきました。
最後の変化は、プロダクトポートフォリオを変更したことです。
これは、最も大きい変化だったと言えますね。
創業時以来エレベーター広告という領域に挑んできたのは一貫して変わらないのですが、その中で
2年前まで、我々は「エレベーター内」✖️「タブレット」でプロダクトを開発しておりました。
そこから「エレベーターホール」という場所に進出をし、また「エレベーター内」という場所では、デバイスを三菱地所との合弁事業という形で「タブレット」から「プロジェクター」に進化させました。
結果、進化させたプロダクトで構成される面の数は、2年前の数十台から700台超まで増やすことができました。
はい。かなりの影響を受けましたね。
実は、弊社は2020年3月まで売り上げが一切ない会社でした。
それは、広告媒体として最低限の面数を確保すべく、ディスプレイを設置することに注力していたからです。
いざオリンピックイヤーになるのと同時に広告販売を開始しようとしたところ、新型コロナウイルスの影響でオリンピックは延期に。多くの企業が広告費、特に屋外広告費をストップする判断をしました。
これらの影響により実際の売り上げは、当初予測していた売り上げから90%減ってしまいました。
つまり、本来得られたはずの10%しか収益が上がらない状況が続きました。
弊社はこの状況下で、不動産オーナーへの提供価値の転換にリソースを集中しました。
そもそも、我々の一番のセールスポイントはビルオーナー側が端末に付属したカメラを防犯カメラとして無料で利用できるという点でした。
本来、防犯カメラの設置費用は1台あたり50万円ほどかかります。それが物件側では金銭負担がなくなるという点が、弊社のプロダクトの画期的なところでした。
ところがコロナ禍の影響で、ビルオーナーさんの関心事が、金銭的な付加価値からコスト削減や感染防止などをいかにテナントさんに提供できるかといった間接的な付加価値に移りました。
具体的には「エレベーターの乗車人数に制限を設ける」「朝の時差出勤を啓発する」などの情報を掲示したいというニーズが高まったんです。
我々もそれに呼応する形で、そういったコンテンツのテンプレート化や、オーナー/管理会社が自分で配信できるツールを充実させることにリソースを集中させました。
すると設置数もどんどん増えて、今まで顧客になりえなかった大規模ビルにも設置できるようになりました。
今まで大規模ビルでの設置がなかったのは、防犯カメラの設置費用が浮くというメリットも、そもそも管理予算の潤沢な大規模ビルのオーナーにとってはそれほど大きな魅力ではなかったからなのです。
それがお金ではない、テナント満足度の向上やESG(持続可能性と社会的影響を測定するEnvironment/Social/Governanceの3つの中心的な要素)への取り組みなど、サステナビリティーという提供価値にフォーカスすることでご導入がいただけるようになったのです。
つまり、より金銭的価値から非金銭的な価値へ。定量から定性的な価値へとシフトしたことが加速的に台数を増加させることができた要因です。
普通の屋外広告って、リーチできる数は多くても、特定のペルソナを設定して、そこにターゲティングするのは難しいんですよね。
例えば、スクランブル交差点に広告を設置したとします。すると、たくさんの人にリーチすることはできますが、見てくれる人の属性となると、「若者が多いかな」くらいしかわからないですよね。
タクシー広告や電車広告でも程度の差こそあれ、同様のことが言えます。
これでは、効率よくターゲットに刺さらない広告になってしまいます。
これに対して我々は、オフィスビルという場所で広告を配信しているため、テナントが誰だかわかっています。
僕はこの点こそがエレベーターメディアのキモだと考えています。
端末を設置しているビルのテナントがわかるので、特定の業種の会社にどのくらいの単価でリーチできたか、また、どのテナントがどれくらい視聴したか、などのデータを可視化できるようになるのです。
今までグーグルアナリティクスのようなツールで効果の可視化ができる屋外広告メディアは存在しなかったので、これが完成したらとても画期的ですよね。
また、広告在庫も電話しないとわからないのが通例なので、そこもオープンにしていきたいと考えています。
ツール自体はまだ部分的に開発中なのですが、直接狙いたい顧客にアプローチできるという観点から、広告予算を効率的に投下したい企業の皆様には特にご評価をいただけていますね。
我々は自社のサービスを単純に認知をとるための広告媒体だとは捉えておりません。むしろ、クライアントが営業に行った時に社内説明や稟議をしやすくする販促ツールに近しい存在だと位置付け、そこの効果を最大化するようなサービス設計をしています。
今回我々が資金調達で意識したのは、どの会社から出資をいただくかです。
我々の事業のセンターピンは、広告をどう売るかよりも、どの物件に設置できるかにあります。
広告媒体としての価値が高い物件をどれだけ所有しているかという観点から、三菱地所株式会社から資金調達を実施することになりました。
今回調達した資金は、端末の設置台数を増やすことと屋外広告版Google Analyticsの開発に集中して投下します。
短期的に利益を出すためには今のまま広告販売だけをすれば良いのですが、長期で媒体としての価値をあげていくためには、いかに大規模な物件にいかにテナントにあった広告を配信できるか、が全てだと思っています。
信用してもらえるリードの獲得手段として活用しました。
VCのみならず世の法人って、リードの取り方によって第一印象が変わりますよね。例えば、HPの申込フォームから来るよりも信頼できる人から紹介された方が断然信用できるように思えるはずです。
スタートアップリストは、紹介経由の信頼感と申込フォームの手軽さを併せ持ったツールだなと感じています。
うーん、「付き合わない」でしょうか。
私の高校以来の愛読書に、アウシュヴィッツを生き抜いた心理学者が書いた「夜と霧」という本があります。コロナ禍への向き合い方の参考になるとして、さまざまな方々から再注目を集めている本でもあります。
この本の中で、「1944年のクリスマスから新年までの間に、強制収容所で環境に大きな変化があったわけでもないのにもかかわらず、多くの人が亡くなった。」という記述があります。
これは、「クリスマスには解放されるのではないか」という淡い期待が打ち砕かれたことによる、気力の衰弱ゆえだと。
楽観的でも悲観的でも、一喜一憂する人は命を落としかねないということです。
比較するのは乱暴ですが、コロナ禍もアウシュヴィッツやシベリア抑留と同じように、いつ終わるかわからないですし。
コロナ禍が広告業界に大きな打撃を与えた中で、我々は無料の防犯カメラから簡易的なESG施策へとビルオーナーへの提供価値を変容させることで生き抜きました。
この方向転換は、未来を緻密にシミュレーションした結果ではなく、事業にとって一番重要な「大規模オフィスビルのオーナーへのメリット」をいかに出せるかということを考えた結果です。
今後も、未来のことを予測しようとすると死期を早めるだけなので、期待も楽観も悲観もせず、事業価値の向上につながる施策を考え抜き、淡々と実行に移すだけに専念するつもりです。
東京社の目指す先は、「どこでもドア」です。
2000年代を思い起こすと、インターネットの入り口は小学校のパソコンルームに1台あるだけでした。
言い換えると、10人あたりでたった1台だけ入り口があるような状況とも言えます。
2010年代に入ると、スマホを全員が持つようになり、1人1台スマホというインターネットの入り口を持つようになりました。
この流れでいくと、2020年代は1人あたり10台のインターネットへの入り口が存在する時代になるはずです。
その1人あたり10台のスマート端末こそが僕らの端末の進化像です。
スマート端末が空間にユビキタスに存在できるようになった結果、利用者がスマホやPCを持たなくても良い、手ぶらでもクラウドを介して自分のデータとやりとりできるようなインフラを今作っているところです。
コロナ禍は、Youtubeでいう「早送りボタン」みたいなものだと思います。
いずれくる未来を5年早めた期間だといいましょうか。
我々の例でいえば、ビルオーナーへの価値提供が定量的な価値から定性的な価値へ移っていくのは、遅かれ早かれ訪れる変化だったはずで、それが新型コロナウイルスの影響で早まっただけだと考えています。
ということは、別の見方をするとコロナ禍は、5年後にサービスが広がる可能性があるかをテストする、資金石のような存在であるような気がします。
バーチャルの世界はチャンスがあるのではないでしょうか。
最近の高校生には、荒野行動でしか話したことがない、リアルで会ったことのない人と「付き合う」、そしてボイチャ上で「浮気する」という概念があるみたいなんです。
物理的な接触を伴わない、バーチャルに閉じた恋愛ってめちゃくちゃ面白いし、バーチャルの世界ってそういう意味でこれから色んな革命が起こる領域だと感じています。
Z世代のさらに一個下の世代しか持っていないような感覚にフォーカスすると面白そうです。
違和感を大事にして欲しいです。
僕自身そうなんですけど、「いい予感」ってほとんど当たらない一方で、「嫌な予感」の的中率は凄まじいんですよね。
事業を進める上で「しっくりこない」「違和感を感じる」時はきっと、言語化こそできていないものの正しい方向に進んでいないシグナルなので、面倒くさがらずにその感覚を大切にするといいと思います。
中央大学文学部哲学専攻。哲学者の中ではアリストテレスが好き。
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