小原 聖誉の投資哲学 ー 僕が「凡人起業」を応援するわけ

小原 聖誉の投資哲学 ー 僕が「凡人起業」を応援するわけ

記事更新日: 2019/02/13

執筆: 狐塚真子

株式会社StartPoint / 創業者・代表取締役社長 小原 聖誉氏

2013年AppBroadCastを創業。
創業3年でmediba(KDDIグループ)へバイアウト。medibaにて新規事業役員CBDOののち退職。

今回お話を聞いたのは、株式会社StartPoint / 創業者・代表取締役社長、小原聖誉氏だ。

「『これは自分にしかできない』と思えることが見えたときは、すぐに起業すべき」と語る小原氏だが、彼自身、起業するまでに15年かかっている。そんなご自身の体験をもとに、小原氏が現在行っているスタートアップ支援、起業家に対する思いについて語っていただいた。

起業しようと考える人の最後のひと押しをしたい

ーまずは、小原さんがエンジェル投資家として活動し始めた経緯について聞かせてください。

小原:投資活動は最近始めた訳ではなくて、実はバイアウト先でのサラリーマン時代の頃からやっていたんですよね。僕は2013年に自分の会社を立ち上げますが、それを2016年の4月にKDDIグループに売却しました。そこで今度は起業をしようとしている方に対して支援をしようと思ったのがきっかけです。

ーエンジェル投資家として最初は、どのように縁を見つけた感じなんですか?

小原:一番最初はやはり、人からの紹介がほとんどですね。

僕は、ICCだったりIVSみたいなところに関しては、4年間ぐらい行かなかったんです。「こうあるべきだよね」という周りの意見を受けて流されてしまうより、「自分自身の軸を信じて貫きたい」という気持ちがあったからです。

やはり、「これは自分にしかできない」と思えることが一番の資質だと思うんですよね。ですから、それが見えたときは起業すべきですし。それが見えないんだったら、見えるまでは自分で武者修行をした方がいいのかもしれないとも思いますね。

ただ、起業というもの自体は緊急度が低いものですし、周りに流された結果、僕みたいに15年ぐらい起業をしないという方もいるはずです。そう考えている方のために、自分がうまく後押ししたいですね。

ーどうしても仮説検証と同じで、「最後はプロダクト化しなきゃいけない」というところまでジャンプしなきゃけないタイミングがあると思うのですが、そのジャンプが難しいですよね。 崖があるとしたら、そこにうしろから押してくれる方が良いのかもしれません。

小原:そうですよね。

ファイナンスの知識や、サービスをプロデュースして形にしていくことなど、起業家として持つべきスキルはもちろん磨いた方がいいとは思いますが、スタートアップ村に積極的に入らなくても良いと思います。

「自分のユーザーやお客さんと向き合っていこう」と思っていたので、スタートアップ村にもいかず、会社を経営していましたから、僕は当時(現在もですが)スタートアップ層から全く知られてないわけです。僕が会社を売却したというニュースが出たとしても、出資を求めてくる人はいらっしゃらないので、僕の周りの経営者の人たちが出資するときに協調投資として紹介がくるという案件の方が多かったです。

この時期に特にお世話になったのが、長南(伸明)先生でした。彼の投資家としての目利きもすごいですが、なにより自分が創業した会社がお世話になった方でした。僕はKDDIと業務提携してビジネスを始めたのですが、そのきっかけが長南先生が主催したイベントだったんですよ。ですので先生に恩返しをしたいという思いがありましたね。

ー1件目はどういった基準をもって、どちらの会社に出資されましたか?

小原:僕のエンジェル投資家としての活動には、1年半ぐらいの間に3つのフェーズがあると思っていまして。現在はその第3期目です。

1件目の案件は、standing ovation(スタンディングオベーション)という会社でした。長南先生から紹介されたためです。一番最初はとにかく、投資と自分が知らない領域について学ぶために「投資家として信用できる方からお勧めされたらまず入れてみよう」という気持ちで行っていました。

自分は今まで、基本的にワンパターンなことを2回やってきました。2001年に1回目の起業をした際(副社長)、「ガラケーの携帯アプリ検索メディア」のビジネスを行っていたのですが、2013年に起業した会社ではスマホ版のゲーム紹介メディアを提供していました。ですから「モバイル×メディア×ゲーム」もしくは「モバイル×マーケティング×ゲーム」に関しては、プロだったと言えると思っています。

逆に、それ以外の領域に関しては全くプロでないんです。例えば、standing ovationは、着回しアプリというF1層へのサービスを提供していたので、その層の人たちはどのような感じか、知りたいと思っていました。

この他にも何社か出資していたのですが、結局は自分が知らない領域の会社に投資をしたとしても、自分のノウハウや人脈が使えないですし、本当の意味でその会社の役に立っていないと感じました。

ー「ただお金をあげていた」というだけになってしまいますよね。それでは、学習期を終えた後の、2期目以降はどのように投資活動を行っていましたか?

小原:徐々に自分が役に立てるシードフェーズのスタートアップが投資対象になっていきました。領域は特にしぼってはいなくて、そこは1期目とあまり変わらなかったですね。

そのうえで、現在、第3期はエンジェル投資というよりは、これから起業しようと思ってる方々に対して、「スタートアップジム」というものを提供しています。これは起業家たちとの対面1on1をベースにして、ペースメーカーになっています。

実は、僕自身は、起業するまでに15年ぐらいかかっているんですよね。

2001年に起業したときは副社長として経営していたので、創業したと言えるのは2013年が初めてだったんです。「起業しよう」とずっと思っていたのですが、ずるずるとやらなかったんですよ。起業そのものは需要や緊急性は高くないですよね。こういう経験をしている方は多いと思います。

僕は起業せざるを得ない状況になったので起業したのですが、実際に起業してわかったことは、「もっと早くに起業したかった」ということです。

「起業しよう」と思っていらっしゃる方のなかでも、スタートアップ村にいない方々ってすごく多いと思うんですけれども。そういう人たちに対して、スタートアップジムを提供したいと思っています。少しでも「起業をしたい」と思っている人であれば、その方の立場に立って、起業する前の参入事業やプロダクトの検討、資金繰りについてレクチャーをしていきます。

「こういった事業はどうでしょう?」と僕からも事業の提案をしていきますが、実際それで起業家が腹落ちすることは当然ありません。しかしこのやりとりによって、「こういうのをやりたいと思っています」と向こうから提案してくれるようになるので、その案を更にブラッシュアップしていきます。これは月に1回ペースで行っていますが、日常的にはFacebookのダイレクトメッセージでコミュニケーションを取っていってペースメイキングをしています。

ーそれはとても重要なことですね。ちなみに、経営に関しては「スタートアップ的なファイナンスを前提に考えながら経営していくパターン」と「粛々と売上を立てながらやってくパターン」の2つがあると思っていまして。小原さんはどちらの思考でしょうか?

小原:基本的には、スタートアップ的な趣向の方が強いですね。

やはり、会社をつくるのであれば、拡大させていくべきだと思います。拡大するための方法としては、事業はITがベースになってきますし、資金調達もしやすい環境なので、結果としてはスタートアップ的になります。

ただ、最初のうちはPLだけで回すことは難しいと思うんですけれども、「PLでちゃんと回さないといけないけれども、今はそれを前借してる」ということは考えていきながら、赤字を堀りまくらない感じの方法をお伝えはしています。

ー「いかにコストをかけずにちゃんと収益化していくか」というところですね?

 小原:そうです。結果として市場課題解決型の事業支援が多いです。

ーそちらの方が再現性ありますし、確実ですもんね。

小原:今、スタートアップジムには35歳前後で起業する方が多くいらっしゃいます。彼らが起業するときには、ご家族もいたりもするので、博打じゃない起業のかたちを提案しています。「人生、100年時代」と言われている今日、また日本のポジションを考えると、自分の価値から事業をつくることができる人材になった方が良いと思っていますので、そこは目指していこうと話しています。

結婚をしていない若手起業家に関しては、「生活コストも低いんだから、できるだけビジョンを大きく持って、博打でも良いからやってみよう」という考えを伝えています。

ーそうですよね。一度起業に失敗したとしてもまた復活できますからね。

 

何でも相談できる関係性を築きたい

ー今、小原さんはいろんな起業家さんを見てきていると思うんですけど。特にどういった起業家さんを評価されていますか?

小原:「やり切れる人」ですね。あとは「やり切れる」のなかに含まれると思うんですけども、「目標を宣言して達成することができる人」。「宣言したものを、自分からホウレンソウをすることに対して快感を覚える」みたいな人が、僕はすごく良いと思っています。

その逆で「決めたことが流れていってしまう人」はあまり評価できません。直接会ったときには決め事をちゃんとするように自分の方も働きかけてやっていくんですけれども、その場しのぎのようになってしまっています。そういう方々は、やはり事業の進捗も良くないですね。

ー小原さんは、何がエンジェル投資家としての役割だと考えていますか?

小原:これから出資をしようとしているところに関しての話をさせていただくと、やはり「目標の設定」「ペースメーカーになること」だと思いますね。というのも、やはりその領域に関して一番詳しいのは起業家なんです。

起業家って、社長だから忙しいふりもできるし、手を抜くことができるんです。僕も起業家でしたから分かるんですけれども。けれど、彼らと1対1で会ってる時に、「社内では言わないけれども、本当はこうしないといけないと思っている」という話が出てきます。そこを2人で目標設定していって、ペースメイキングしていくっていうのが、すごく大切なことだと思ってはいます。

ー完全にコーチのような役割ですね。

小原:そうですね。自分が起業したときに欲しかったものをスタートアップジムでは提供していきたいと思っています。

自分も起業をした際に、エグジット経験がある起業家に相談できれば良かったのですが、スタートアップ村に入れなかったこともあって周りにはいませんでした。しかもVCの方とお話をしたとしても、日本の場合、サラリーマン出身の方が多いので「最終的に決めるのはあなたですよ」という返答が多いと思います。起業家はそれを承知のうえで相談をしていると思うのですが、それではあまり意味がないと思います。もちろんVCは資金調達や3R(HR/IR/PR)領域は強いのでエンジェルと使い分けるのが良いと思います。

起業の経験が無いVCの方であれば、起業家の悩みが自分ごととしては分かりづらいです。ですから僕の場合は、起業家の現況をうかがったときに、前回決めていたこととのズレや、できなかったことに対する甘えがあったときには、「本当はこういう風にした方がいいと思っていませんか?僕が社長だったらこう悩んでいると思う」と先回りして言ってあげることが役割だと思っています。無駄な時間のショートカットになりますので。

ただ現在は「起業家に対して出資をした方がいいのか」それとも「出資せずにスタートアップジムのオーナーとしてずっとやった方がいいのか」ということで悩んでいますね。起業家のニーズに対して合わせていくと思いますが。

ー確かに。悩ましい問題ですよね。ただ出資をしないと起業家の支援に踏み込めないことも多いなとは感じています。逆に出資しているがゆえに、指示のように聞こえて言いづらくなっちゃう場合もありますよね。

小原:それもありますよね。出資をしたことによって、強制力がかかる雰囲気になってしまうと、嫌な報告がしづらくなってしまうと思います。「強制力がないからこそ、自由にお互い何でも言える」っていう関係があったりしますので、そこは相手によって対応を変えていますね。

 

凡人であっても起業はできる

小原:僕は最近、「凡人起業」という言葉を使っています。

僕は元々エグジットしようとは思っていなかったのですが、市場のタイミングがバチッとはまって、かつ伸びる市場でやり切ることができたので結果的にエグジットができたと思っています。もちろん、これは生存バイアスであったりとか、たまたまそうなったということもあり得るとは思うんですけれども。

世の中には「起業という選択を捨てている方」や、「起業したとしてもサービスをコツコツやるだけの方」など、自分で自分のハードルを決めている人が多いと思います。“バカの壁”のようなものです。僕は何かスペシャルなものがあって起業をしていたわけでは無くて、ガラケーの時代に実践していたことを、同様にスマホの時代で応用して取り組んで上手くいっただけなんです。凡人であっても起業はできるんですよ。

それもあって、特に35歳くらいの方の起業を応援しています。彼・彼女のなかには、業界の中で10年強戦っているはずなので、必ず自分のなかに見えている景色があると思っています。

ただ、その景色をアウトプットとして可視化しなかったり、宣言したりしない人が圧倒的に多いです。多くの人がやらないそこを意識しながら会社をつくってやり切っていければ、基本的には多くの会社は、エグジットできると思っています。その方々のために「自分ができる範囲で何ができるだろう」と考えたとき、まず最初はお金での支援を考えました。今は、自分の体験や、他の頑張ってる起業家の話などを通じて、目標を設定してもらって頑張ってもらうという事も前述のとおり取り組んでいます。

ー挑戦者を支援するために、いろいろ仕込んでいますね。

小原:あと起業に関しては、「起業IQ」と「起業EQ」という2つの指数があると思っているんですよ。

「起業IQ」とは、ロジックや、免許証代わりとしてのファイナンスの知識、PMF周りのことを指しています。もうひとつの「起業EQ」は「これができるのは自分だけだ」と思い込む力です。「ストーリーを語って周りを巻き込んでいく」ことができる「起業EQ」がとても大切だと感じています。

「起業EQ」を大切にしているという背景にはやはり、自分の実体験が大きく影響しています。ガラケーの時代に取締役として酸いも甘いも経験したことが、僕の一番最初の原体験としてあるのですが、その経験があったからこそ、スマホにシフトしたときに「何がトレンドになるか」「ユーザーをどうやって獲得するか」逆算をしてプロダクトをつくることができたと思っています。

自分のなかで見えているものを言語可視化してプレゼンをしていく際に、「そんなものは必要ない」と言われることもあるかもしれません。でも「あなたより自分の方がこの問題に対して時間を使っている」という思いを持って、やり切っていくことが必要だと感じています。

ー「自己確信してなんぼ」ですよね。

小原:自分を信じることに勝るものはありませんね。

ただ、自分のことを腹の底では信じきるということは大前提ですが、それと同時に「自分はone of them の人間なんだ」と思うことも大切だと思っています。他の起業家と会うことで、いかに自分ができないやつかっていうことも、バランスよく認識することも必要です。それによって、意思決定をするときも「自信がある自分」と「冷静に他の人から見たときの自分」という両方の視点から判断することができるんです。

 

「鶏口牛後」の人たちが輝ける世の中へ

ーでは、これまでに小原さんが投資をしてきた中で、特に印象に残っている会社はありますか?

小原:どの出資先も思入れはありますが、お世話になった方からの紹介案件がすぐに思いつきますね。matsuri technologies(マツリテクノロジーズ)とLanCul(ランカル)ですね。

matsuri technologiesはREALITY ACCELERATORの郡さんから紹介して頂きました。郡さんは、僕が2013年につくった会社の開発部長を一時期していただいており大変お世話になりました。彼の体を張ったスタイルはとても尊敬しています。

matsuri technologiesの吉田社長はめちゃくちゃ優秀で馬力がある起業家なんですよ。「衣食住に携わるビジネスのなかで、住のところが最もIT化が遅れており、そこに自分たちが入ることによって、『住む』という概念を変えていく」と語っていたのが印象的です。そういう考え方であったり、吉田社長は「起業EQ」も「起業IQ」もある起業家なので非常に勉強になります。この会社は着実にスケールし、大きくなっています。また、吉田社長は自らのハードルを自分で設定しませんので、可能性を感じますね。

もう1社のLanCulは「カフェで外国人の先生とコミュニケーションをとることで自然と使える英語が定着する」というサービスを提供しています。サービス提供後のユーザーの満足度は高いのですが、集客はさらに出来る余地があります。僕はそのための法人営業のチーム立ち上げや戦略広報などの支援を行っていますね。

ー最後に、小原さんが現在経営している、StartPoint(スタートポイント)はどういった目標を置きながら、どんな会社にしていこうと考えていますか?

小原:僕は、鶏口牛後(けいこうぎゅうご)という言葉が好きで。これまでも、鶏口牛後の人たちと働くのが楽しいと感じましたし、自分自身もそういう人でありたいと思っていたので、スタートアップ村にも行かずに頑張っていました。だからこそ、そういう人たちが輝いてほしいと思っています。

さらに、昔は株式会社化するために資本金が1千万円ほど必要でしたが、今は1万円から株式会社化ができるようになりました。しかも、僕自身、資本金が200万円のときにKDDIと業務提携ができましたし、昔に比べて信用の面でもすごく柔軟になってきてると思うんですよ。

VCの場合「100社入れて3社ぐらいでかいのをつくろう」という感じになると思うんですけれども、僕はその正反対で。会社の規模は大きくなくても良いのですが、100社とお付き合いしたら、80社ぐらいはうまく経営してもらいたいと思っているんですよね。

鶏口牛後の人たちが、他の人から馬鹿にされたとしても、やりたいと思っているものを形にして、それが社会に評価されるように、幅広く応援していきたいと思っています。

狐塚真子

この記事を書いたライター

狐塚真子

津田塾大学英文学科に在学。趣味は映画鑑賞、ダンス、旅行、ライブに行くこと。

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