大企業病とは?原因やよくある症状、改善・対策方法を徹底解説

大企業病とは?原因やよくある症状、改善・対策方法を徹底解説

記事更新日: 2022/05/10

執筆: 大山直美

「大企業病」とは、組織の拡大により、意思決定に時間がかかったり、保守的で風通しが悪くなった企業の状態を指します。

大企業によくみられる症状と思われがちですが、中小企業や個人単位でも発生することもあります。

この記事では、大企業病の特徴や症状に加え、原因や克服するための対策を詳しく解説します。

症状チェックリストや、大企業病に苦しんだ有名企業の実例も紹介するので、「自社は大企業病なのではないか?」「どうすれば改善できるのか?」とお悩みの方はぜひご参考ください。

大企業病とは

大企業病とは、組織の拡大や縦割り組織の弊害によって、意思決定や業務の非効率化が著しくなってしまった状態のことをいいます。

たとえ中小規模の企業であっても、組織や経営の非効率化が顕著な場合は大企業病を疑うべきです。

大企業病は、本当の病のように組織や従業員の成長を阻害したり、モチベーションの低下を招いたりとマイナスの作用も及ぼします。

また、一度かかるとなかなか治しづらいのが特徴です。

大企業病にかかっている/かかっていない状態の主なポイントを比較すると次のとおりです。

  大企業病にかかっていない状態 大企業病にかかっている状態
トップと現場の距離 近い 遠い
意見の通りやすさ 上の人にも意見しやすい
有益な意見であれば受容される
現場の意見が聞き入れられない
わずかな変化や改善もハードルが高い
企業全体への意識 帰属意識が高い
企業一丸となって動く意識がある
帰属意識が希薄になる
部署や個人の仕事にばかり目が行く

 

【チェック】大企業病の具体的な症状は?

前述のとおり、大企業病は企業規模にかかわらず発生します。

では、どのような状態であれば大企業病であると考えられるのでしょうか?

具体的な症状のチェックリストを確認してみましょう。

大企業病の具体的な10の症状

□ 顧客のニーズが後回しになる

□ チャレンジやリスクを取ることを恐れる

□ 意思決定者が多すぎて物事が決まらない

□ 根回しや社内政治が上手い人ばかり出世する

□ 定期報告会のような無駄な会議が多い

□ 上司の顔色ばかりうかがって仕事をする 

□ 承認ハンコや稟議のルートが複雑

□ ルールが多すぎる、ルールの見直しがされない

□ マニュアルに固執する

□ 他部署との協力に否定的


チェックが3つ以上つく場合は、大企業病の入り口に立っていると考え、早めの対策を打ちましょう。

大企業病の原因

大企業の全てが大企業病になるというわけではありません

組織がどのような状態になると、大企業病を発症しやすくなるのか、その原因やきっかけを解説します。

1. 事業や会社が安定している

企業の経営状態や業績が安定すると、大企業病を発症しやすいといわれます。

どんな企業でも、スタート時点では「安定的な収入を得なければ」「業績を安定させて企業としての信頼を積まねば」考えているはずです。そのためにさまざまな試行錯誤を続け、効率を追求して利益を上げようとします。

ところがいったん目標がクリアされてしまうと、次に考えるのは「安定」です。

「失敗して現状維持できなくなったらこわい」という考えから、新しい試みや変革は忌避されます。もっと上を目指そうという企業としての気概は失われ、無難なアイデアしか生まれなくなるのです。

「波風を立てないのが一番」という雰囲気が漂えば、社員は行動することを恐れます。結果、企業全体に無気力感が漂い、組織としての活力は失われてしまうでしょう。

2. 従うべき慣例やルールが多すぎる

大企業ほど、昔ながらのルールや慣例、手順が多く存在しがちです。例え形骸化してしまったルールでも、社員は遵守を求められます。

しかし本来、社内規則やルールは作業を効率化したり組織運営を円滑にしたりするためのものであるはずです。

意味のない規則やルールがはびこっていては作業効率が落ち、社員のモチベーションも削がれてしまうでしょう。

3. 社員が増え、部門数が増える

企業規模が大きくなると、必然的に社員が増え、仕事を請け負うセクションも増えてきます。

トップの目が全てに行き届くことはなくなり、部門やチームのトップが社員を率いて働くようになります。

これはうまく機能すると効率的に事業運営できますが、企業全体の目的や目指すところが見えにくくなるというデメリットがあります。

部署間の垣根が高くなれば物事を決めるのも難しくなりますし、それぞれが縄張りを主張して争うケースもあるでしょう。

結果、効率化のために分業化したはずがかえって業務効率を落とすこととなってしまうのです。

また企業規模が大きいと、社員の帰属意識が「企業」ではなく「部署」になってしまうケースも少なくはありません。企業利益よりも部署の利害が優先されれば、本末転倒というしかないでしょう。

大企業病がもたらす弊害

大企業病にかかった企業には、さまざまなビジネス上の不利益が発生します。

はじめは小さな症状でも、マイナスな影響は従業員全体や取引先にも伝わり、会社の評判や業績を下げることにも繋がりかねません。

症状や原因だけでなく、具体的にどのような弊害をもたらすのかも理解しておきましょう。

1. 生産性が低下する

まずあげられるのが、非効率的な経営による生産性の低下です。

組織や部門の数が増えると、承認者や確認をとらなければならない相手が増え、業務そのもののスピードが落ちます。

また、守るべきルールや記入する書類が増えてしまうことで、いつの間にか機会損失が増大してしまいます。

競合が10産み出す間に、知らず知らずのうちに8しか産み出せていない状況が続けば、売上も鈍化し、次第に市場からも取り残されてしまうでしょう。

2. 優秀な人材が辞めてしまう

大企業病がおきている社内では、「言うだけ無駄」「言われたことだけやればよい」といった空気が蔓延していることが多いです。

改善提案なども出しづらく、出る杭が打たれる雰囲気になってしまっています。

そのため、せっかく能力をもっていながら、思うように働けないことに失望した優秀な人材が離れていってしまいます

秀でた人物のいない企業は魅力度も下がってしまい、新規採用もうまくいかず、人材ロスのループに入ってしまうこともあります。

3. 新事業や新商品が生まれづらくなる

大企業病にかかっている企業は、現状維持に努めようとしがちです。

社員の多くは「余計なことをして悪い評価を受けたくない」と考えるため、あえて冒険を犯しません。

そのため、既存の製品と同じような無難なアイデアしか上がらず、企業価値を上げるような革新的なアイデアは生まれにくくなります

また、大企業病にかかっている状態では、顧客ニーズよりも社内の事情が優先されます。

企業内で認められることが第一とされるため、このような状況では、顧客を引きつける商品やサービスを提供するのは困難となってしまいます。

大企業病を発症した企業の事例

大企業の中でもトップクラスといわれる企業でも、大企業病を発症すれば経営不振に陥ったり事業経営が困難になったりしてしまいます。

大企業病にむしばまれていたといわれる企業を具体的にみてみましょう。

1. 三菱自動車

まず有名な例として、三菱自動車が挙げられます。

三菱自動車は、1970年に「三菱重工業」より独立した自動車メーカーです。

特にモータースポーツ事業で名を馳せており、世界ラリー選手権 (WRC) においては2009年に撤退するまで、幾度も好成績を残しました。

一般的なイメージは非常に良好といえる企業でしたが、総会屋に対する利益供与やリコール隠し、燃費偽装などさまざまな問題が発覚。一時は企業存続さえ危ぶまれました。

こうした問題の根本には、三菱自動車が顧客ではなく「自社第一主義」であったこと、社員が企業のためというよりは個人や部署の目標をクリアするためにのみ働いていたことなどがあったといわれます

現在の三菱自動車は日産自動車が筆頭株主となり、ルノー・日産自動車・三菱自動車アライアンスを構成しています。

2. 東芝

東芝は、1904年に設立された電気器機メーカーです。日本の白物家電におけるパイオニアとよばれ、かつては冷蔵庫や洗濯機などで圧倒的なシェアを誇りました。

ところが2015年に利益を水増しする粉飾決算が発覚し、経営は一気に傾きます。

2017年には上場廃止の可能性さえ浮上し、東京証券取引所と名古屋証券取引所により、自社株は「監理銘柄」に指定される事態となりました。

東芝でも官僚的で非効率的な組織運営が行われていたといわれます。加えてトップを巡る派閥争いも見られ、企業の目は顧客よりも自社内部に向いていたことは疑いの余地がありません。

そんな東芝も2018年にはトップが代わり、構造改革の真っ最中。2019年4~9月期の連結決算は営業利益が前年同期比7.5倍の520億円になるなど、着実に経営状態は改善されています。

3. 日立製作所

日立製作所は、東芝と並ぶ世界有数の総合電機メーカーです。発電機、変圧器などの重電に強くかつては「重電の雄」と呼ばれていました。

しかしその分、コンピュータや半導体の進化により様変わりしていく電機業界のスピードについていけず1999年度末には3,387億円もの赤字に転落してしまいました。

この原因のひとつに、硬直した人事体制があったといわれています。

例えば、社長や幹部は「東大工学部出身、重電担当の経験と日立工場長の経験がある人のみ」が選ばれる状態が続いていました。

そのため、リーダーの素質がありながら条件を満たさない人にはあきらめの感情が生まれてしまい、同質の考えをもつ経営層からは変化や新規分野への対応のアイデアが生まれてきませんでした。

その後、派閥や条件によらない新社長が就任し、多角化・デジタル化に舵を切ったことで業績も復調。また、旧経営陣が会長に居座る体制を刷新するなど、大企業病の浄化を繰り返してきました。

この、組織を内部から変えていく風土は2022年現在も活きており、日立の社内勉強会「グローバル若手会(Team Sunrise)」が、日立のいいところ探しや、新規事業の提案などに取り組み成果をあげているそうです。

大企業病を克服するための対策

大企業病の進行を放置していては、やがて取り返しのつかない状態にまで悪化してしまいます。自社にその傾向が見られるならば、速やかに対策を取るのがベターです。

大企業病を克服するには、どのような手段を取るべきなのでしょうか。

1. トップや管理職の刷新と意識改革

すでに大企業病に寝食されている場合、末端の社員が頑張ったところで企業体質は変わりません。

最も有益かつ効果が高いのは、トップや管理職を刷新したり組織構造を変革したりして、企業全体の意識を改革することでしょう。

ただしトップをすげ替えたとしても、顧客目線で物事を考えられない人では意味がありません。自社よりも顧客第一で考えられ、社員と同じ方向を向いて働ける人が必須です。

トップが変革の姿勢を見せれば、現場の社員の共感を得やすくなります。「古い体制を変える」という強い意志が伝われば、組織の効率化や社員の意識改革もスムーズに進むでしょう。

2. ルールを減らしてスリム化する

従業員数が増え、部門の数が増えてくると、ミス防止や説明の手間を省くためにルールの数も増えていきます。

ルールそのものが全て悪い訳ではないのですが、急成長にあわせて「ルールを作る」ことに集中するとその整理を忘れがちです。

大企業病を脱しようと決意したら、まず、統合や見直しをしてルールのスリム化を行いましょう

なお、その際は、それぞれの部門に減らすように伝えても「自部門のルールは必要だ」と意地を張ってしまうため、ルールを実際に使う人ではない第三者のワーキンググループを作るのがおすすめです。

3. 社内の風通しを良くする

企業で働く社員同士が分断される状態は好ましくありません。トップと社員のつながりはもちろん、社員同士の横の連携も取りやすくしておくべきです。

部署が細かく別れている場合でも、機会を作って意見交換の場を設けるなどしましょう。

社内ネットワークが広がれば、何かあったときにお互いに助けやすくなります。仲間意識も持ちやすく、企業の一員として同じ方向を向いて働きやすくなるのです。

近年では、社員同士の交流の場やイベントを設けたり社内SNSやチャットツールを活用したりなどする企業も少なくはありません。

企業内の透明性を高め、閉塞した雰囲気を作らないように努めましょう。

4. 社員のチャレンジを推奨する

企業としての安定を求めすぎると、新しい試みや変革が生まれなくなります。社員には積極的なチャレンジを許し、それによる失敗も許容する雰囲気を作りましょう。

チャレンジが許されない企業では、社員は歯車となって働くしかありません。企業の一員であるという当事者意識が芽生えにくく、本当に企業のために働く社員がいなくなってしまうのです。

具体的な施策としては、マイナス評価を止めること。「○○をしたから減点」という評価ではなく、「○○にチャンレンジしたからプラス」と評価するシステムを作りましょう。

チャレンジする姿勢を評価されれば、社員のモチベーションは上がります。企業の一員として働こうと発奮してくれれば、企業全体が活性化していきます。

5. 人事制度を見直す

前述のチャレンジする姿勢の評価も含め、人事制度の全体の見直しも大企業病の対策には有効です。

従業員のモチベーションは「チャレンジして褒められた」ことだけでも上向きにはなりますが、効果を持続させるには、昇格や昇給、報奨など明確な結果に繋がる制度に落とし込むことが大切です。

また、チャレンジそのものでなくても、日々の仕事についての評価基準が明確でない場合も必ず見直しを行いましょう。

評価制度が明確になれば「何をやっても評価されないからやる気がでない」という、大企業病の弊害を阻止できます。

なお、その際、可能であれば、新商品の企画や売上アップのような見えやすい結果・評価だけでなく、「日々の現場での頑張り」を称える軸を追加するようにしましょう。

まとめ

企業が健全な経営状態を維持していく上で、大企業病は大敵です。

企業規模に関わらず非効率的な体制やルールがはびこっていたり、チャレンジを嫌う気風が漂っていたりなどする場合は、早急に組織全体を見直してみる必要があるでしょう。

加えて、企業第一でなく顧客第一という基本を忘れないことも大切。企業トップが正しい姿勢で社員を率いて行ければ、大企業病が発症する確率は確実に低くなるのです。

画像出典元:Unsplash、Pixabay

 

最新の記事

ページトップへ