会社法で定時株主総会は1年に1回開くと定められていることは、株式会社の経営者なら知らない人はいません。
しかし、中小企業(株式非公開企業)でその通り株主総会を開いている会社はほとんどありません。
それは株式のすべてを社長あるいは身内(経営者一族)で所有している中小企業では、わざわざ株主総会を開く意味がないと経営者(=株主)が思うからです。
たしかに、通常ならその通りなのですが、ときとして株主総会を開かないことが大きな問題になることがあります。
この記事では、定時株主総会と臨時株主総会の基本をおさらいするとともに、株主総会を開かないことのリスクについて解説します。
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株主は「自益権」と「共益権」という2つの権利を持っています。
自益権とは、株式会社が利益を出したときに、株の配当金(剰余金)を受け取る権利です。これを剰余金配当請求権といいます。
共益権とは、会社の経営に物申す権利です。その代表的なものが「議決権」で、株主総会に出席して、会社の重要な意思決定に参加する権利です。
株主には所有する株の1株につき、1議決権が与えられます。「1株1議決権の原則」といいます。
株主の権利は上記の配当請求権や議決権に留まらず、代表訴訟提起権、役員等の解任請求などさまざまのものがあります。
株主総会で決めるのは次のようなことです。
定款の変更や事業譲渡など、会社の根本にかかわる事項は株主総会での決議が必要です。会社の経営を委任する役員の人事も、株主総会での承認が必要です。
株主の利益に直結する剰余金の配当は、株主総会で決定されます。役員報酬も、経営者がお手盛りで引き上げたりしないように、株主総会での承認が必要です。
株主総会は年に1回、決算から3ヶ月以内に開催しなければなりません。
定時株主総会は次のような流れで開催されます。
1. 株主総会の招集決定(日時、場所、目的事項)
2. 招集通知の発送 (公開会社では株主総会開催日の2週間前)
3. 株主総会の開催
4. 議事録の作成
株式を公開している会社(=取締役会を設置している会社)では、かならず上記の手続きで定時株主総会を開催しなければいけません。
株式非公開企業は、上記の手続きで省略できるものがあります。
まず、招集の通知は公開会社では書面でしなければなりませんが、非公開会社は口頭又はメールでもOKです。
公開会社では2週間前に招集通知を発送しなければなりませんが、非公開会社は招集通知を口頭で行って、当日に株主総会を開催することも可能です。
さらに、株主全員の同意があれば、招集通知発送を省略することもできます。(会社法300条)
「招集手続の省略」と似たものに「全員出席総会」があります。株主の数が限られている会社では、株主全員が集まったときに、全員が同意すればその場で株主総会を開くことができます。
書面で株主全員の意思表示を得ることができれば、株主総会における決議自体を省略することができます。
「書面決議」を行うには、招集通知にの代わりに株主総会の決議に関する「提案書」を全株主に送付し、株主から同意書の返送を受けるのが要件です。
書面決議で株主総会決議を省略した場合も、議事録は作成しなければなりません。
2020年の定時株主総会は、多くの会社で開催が延期されそうです。
経済産業省は大臣の談話として、次のような声明を出しています。(4月24日)
・企業においては、6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討頂きたい。
・株主・投資家においては、決算作業の適切な遂行や従業員の安全確保に努める結果として、株主総会の運営につき、例年とは異なるスケジュールや方法とすることに十分にご理解頂きたい。
・経済産業省としても、上記の円滑な実施のために、最大限のサポートをしてまいりたい。
例年なら、法律通りちゃんと開催しましようというお役所が「無理しないで延期しましょう、そのためのサポートもします」というスタンスです。
金融庁も、決算発表や有価証券報告書の発表の期日が遅れることを容認しています。
臨時株主総会は、緊急の重大な案件があるときにいつでも開くことができます。
臨時株主総会は、次のような緊急の議題があるときに開催されます。
臨時株主総会は、上場企業では開催の1週間前までに招集通知をしなければなりません。
臨時株主総会を開催しても、定時株主総会はそれとは別に開催しなければいけません。
非公開会社で株主総会を開催しないと、どんなリスクがあるのでしょうか?
株式の100%を1人の経営者が所有している場合は、経営者=全株主なので両者の間に問題が起こることはあり得ませんが、たとえ身内でも複数の所有者がいる場合は、株主総会を開いていないことが「弱み」になることがあります。
株主総会を開かずに書面上だけで開いたことにしておくと、株主の一人から「総会不存在確認の訴」「決議無効確認請求」「決議取消の訴」などを起こされたときに、裁判で争っても勝てません。
兄弟など身内の株主同士が仲が良いうちは問題がなくても、もめたときに株主総会を開いていないことを理由に裁判を起こされるとやっかいなのです。
会社の譲渡や取締役の解任などの重要な決定を無効にされることになります。とくに3分の2以上の株を持っていない場合は、その後の対応も困難になります。
また、少数株主の訴えでも、例えば「役員報酬を株主総会を開かずに決めたのは違法だから、報酬を返還しろ」と訴えられたら敗訴する可能性が高いのです。
株主総会を開かないことが当たり前になっていると、議事録を勝手に作られて知らない間に役員を首になっているということもあり得ます。
愛知県弁護士会のホームページに次のような例が紹介されていました。
弁:こんな例もありました。その社長には息子がいなくて、跡継ぎとして娘婿を迎えたんです。娘婿に社長を任せて、自分は取締役会長になったんですが、娘婿を社長に就任させるときも株主総会を開かず取締役に選任したんです。ところが、数年後に、会社が取締役報酬を払わなくなったんです。娘婿に文句を言ったら、「お義父さんは取締役から降りてもらいましたので、報酬は払えません」と言われたんです。
社長: 会長は取締役でなくなったことを知っていたのかい?
弁:いえいえ、株主総会で義父を取締役として選任しない、言い換えれば別の人を取締役に選任する決議をしたという株主総会議事録を勝手に作って、取締役から外してしまったのです。
引用元: 株主総会を開催しないと
首になった会長は訴えを起こすことができるし、株式の7割を所有しているので社長の娘婿を解任することもできるのですが、娘を人質に取られている弱みから結局何もできなかったということです。
こういうことが起きるのも、株主総会を開かないことが常態化していたことが、スキを突かれる誘引になったと言えます。
事業継承のコンサルタント会社である株式会社日本伝承の太田久也社長は、非公開会社の株主総会について次のように述べています。
未上場会社の株主総会においては、
①決議事項について採決すること
②報告事項について報告すること
これを行っておけば必要十分なのである。(中略)
未上場会社で実際に株主総会をやることは難しくなく、実際にやってみたらわかるが10分もあればすべて終わってしまう。
いたずらに負担感を感じる必要はまったくないのである。
引用元: 『上場会社と未上場会社の株主総会の違い』
これまでに見ていただいたように株主総会開催には様々な手順が必要になります。
これまでアナログでの対応が主だった様々な処理をクラウド上でできるようにしたのが、株主総会クラウドというサービスです。
クラウドサービスであるため、従来は大きな手間になっていた書類作成や郵送といった紙周りの処理が大幅に効率化するだけでなく、株主情報の管理や開催履歴の管理までも一括で省力化できるのが特徴です。
料金は、スモールプランは株主1人あたりにつき980円(株主15名まで)、スタンダードプランでは980円/株主に加え別途、基本料金14,800円が必要になります。
月額料金が不要で、株主総会1回ごとの課金方式であるため、通常のサブスクリプションサービスとは違ってリーズナブルに運用することができます。
株式非公開の中小企業では、株主総会を開く意味を実感できないことが多いと思いますが、株主総会を開かないことが常態化していると、思わぬところで経営の足をすくわれることがあります。
例え株主のすべてが身内の場合でも、株主総会は会社法の規定の通りに開催するようにしましょう。
画像出典元:pixbay
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