パックマンディフェンスのメリット・デメリット、事例や注意点も解説

パックマンディフェンスのメリット・デメリット、事例や注意点も解説

記事更新日: 2020/05/26

執筆: 高浪健司

ビジネスシーンおいて、合併や買収などは良くある話しです。

なかでも上場企業に限っては、友好的買収のほか敵対的買収を受ける可能性があり、そうした敵対的買収を阻止する方法として、パックマンディフェンスと呼ばれる手法があります。

今回は、敵対的買収からの防衛策として知られる、パックマンディフェンスについて詳しく解説していきます。

パックマンディフェンスとは

ビジネスシーンにおいて、敵対的買収という言葉をたびたび耳にします。

まずこの敵対的買収ですが、これは企業に対して事前の同意を得ないまま株式を買い占め、その企業を買収してしまうということです。

このように、株式の買占めによって会社が買収されてしまうと、当然会社の支配権が奪われてしまいます。

そのため、買収の対象とされている企業はそれを阻止すべく、あらかじめ何らかの買収防衛策を講じる必要があります。

パックマンディフェンスは、そうした敵対的買収に対抗すべく買収防衛策のひとつです。

なお、敵対的買収に対する防衛策の種類は様々ですが、このパックマンディフェンスは敵対的買収を仕掛けられた際、買収を仕掛けてきた企業が発行する株式の4分の1(25%)以上を逆に取得することで敵対的買収から防衛します。そのため、逆買収とも呼ばれています。

ちなみに、パックマンディフェンスという名称の由来ですが、1980年代に日本のゲームメーカーである「ナムコ社(現バンダイナムコエンターテインメント社)」が開発・販売し、世界的に大ヒットとなったテレビゲーム「パックマン」にあります。

このパックマンが敵のモンスターに終始追われるといったゲーム内容で、パックマンが特定のアイテムを取得することで一時的に無敵となり、追ってくるモンスターを逆に襲撃することができるようになる場面があります。

このように、追ってくるモンスターを逆に襲撃するといったゲーム内容が買収防衛策と類似していることから、パックマンディフェンスと呼ばれるようになった。といった経緯があります。

パックマンディフェンスのメリット・デメリット

前項でお伝えしたように、パックマンディフェンスは敵対的買収行為を仕掛けられた際、逆に買収を仕掛けて相手を返り討ちにする買収防衛策です。

こうした買収防衛策のパックマンディフェンスですが、実行にはやはりメリットもあればデメリットもあります。

続いて、パックマンディフェンスのメリットとデメリットについてご紹介します。

メリット

パックマンディフェンスのメリットとしては大きく2つほど挙げられます。ではパックマンディフェンスの2つのメリット、詳しく見ていきましょう。

敵対的買収を未然に防ぐことができる

そもそも会社を買収するには多額の資金や労力が必要とされます。

そのうえパックマンディフェンスするとなると、買収しようとした会社は逆にパックマンディフェンスの対応をしなくてはなりません。

買収のための資金や労力、それに加えてパックマンディフェンスの対処までやらなければならないとなると、相手も敵対的買収を続けることも難しくなるでしょう。

つまり、パックマンディフェンスの実行を暗示させることで敵対的買収を未然に防げる可能性が極めて高くなります。

全株式を取得せずとも敵対的買収を阻止することが可能

日本の場合、企業を買収するとなると通常で過半数から3分の2以上の株式を取得しなければなりません。

しかし、パックマンディフェンスは敵対的買収側の全株式の4分の1を取得することができれば成功します。

つまり通常よりも少ない費用で買収できるということは、パックマンディフェンスならではのメリットと言えるでしょう。

デメリット

では続いてパックマンディフェンスのデメリットです。なお、パックマンディフェンスのデメリットとしては大きく3つほど挙げられます。

莫大な資金が必要とされる

前述のとおり、パックマンディフェンスを実行する場合、敵対的買収を仕掛けてきた側の株式4分の1以上を取得する必要があります。

たとえば、時価総額が5,000億円の企業から敵対的買収を仕掛けられた場合、最低でも1,250億円の資金が無いとパックマンディフェンスを成功させることはできません。

つまり、パックマンディフェンスを実行するには莫大な資金が必要となるのです。

また、仮に莫大な資金を投入してパックマンディフェンスを成功させたとしても、その後の資金繰りが悪化してしまうことも懸念されます。

パックマンディフェンスは資金面において大きなデメリットが生じます。

経営上のメリットがほぼ無い

パックマンディフェンスはあくまで敵対的買収からの防衛策であり、本来の経営上における目的ではありません。

また、パックマンディフェンスを実施して敵対的買収を阻止したとしても利益があがるわけでもなければ、会社にとってほぼ意味の無い株式を保有することになります。それも大量にです。

会社にとって利益にも繋がらないことに対して莫大な事業資金を投入することは、おそらく株主や取引先からの賛同を得るのも難しいでしょう。

パックマンディフェンスは、敵対的買収を防止するものであって経営上のメリットはありません。

パックマンディフェンスが実行できない場合がある

パックマンディフェンスは、場合によって敵対的買収を阻止できない場合があります。これは、敵対的買収者が非上場会社だった場合に言えることです。

パックマンディフェンスは、そもそも敵対的買収者が上場企業であることを前提としているため、非上場会社に対してパックマンディフェンスを用いることができません。

通常の考えだと、非上場会社の場合は敵対的買収を仕掛けるほどの資金力は無いものと捉えがちですが、一概にそうとも言い切れません。

と言うのも、非上場会社でも莫大な資金を保有している場合もありますし、上場企業が「SPC(特別目的会社)」※を設立し、非上場のSPCを利用して間接的に敵対的買収を仕掛けるといった可能性もゼロではありません。

このように、パックマンディフェンスには非上場会社が敵対的買収を仕掛けてきた場合に阻止できないといったデメリットがあります。

※「SPC(特別目的会社)」

特別目的会社とは、資金調達や債券の発行、投資家への利益の配分など、資産の流動化に係る業務を目的として設立される会社のこと

 

パックマンディフェンスの知っておくべき注意点

ここまでお伝えしてきたとおり、パックマンディフェンスを実行するには敵対的買収者の株式を4分の1(25%)取得する必要があります。

そのため、莫大な資金が必要となるということを知っておくことが重要です。

また、仕掛けた買収者に関してもパックマンディフェンスへの対応で疲弊してしまい、他の第三者から買収の対象になってしまう可能性もあります。

つまり、双方にとってパックマンディフェンスはリスクが非常に高くなる防衛手法であるということを注意点として念頭に入れておく必要があります。

次に、これはデメリットの章でも記述しましたが、敵対的買収を仕掛けてきた相手が買収可能な上場会社でなければ、パックマンディフェンスは発動することができない。というところも注意すべき点として知っておきましょう。

いずれにせよ、パックマンディフェンスはメリットよりもどちらかというとデメリットの方が多いというところがもっとも重要な部分で、知っておくべき注意点です。

パックマンディフェンスの事例

パックマンディフェンスは、1980年代にアメリカで盛んにおこなわれていた時期がありましたが、最近ではパックマンディフェンスが実行されたといった事例はありません。

また、日本においては2005年にライブドアがニッポン放送に対して敵対的買収を仕掛けたことが大きな話題となったことは、おそらく記憶にも新しいことでしょう。

当時ニッポン放送とフジテレビは親子関係でしたが、両社の関係は不安定な状態。

そこにフジテレビを支配しようとライブドアが東京証券取引所の時間外取引を活用し700億円でニッポン放送の株を29.5%取得したのです。

ライブドアはこれまで保有していたものと合わせて35%の株を保有するカタチとなり、ニッポン放送の筆頭株主となりました。

この時、世間やマスコミなどの間では、ライブドアに対してフジテレビなどがパックマンディフェンスを実施するのではないか?と、噂が出ていましたが実際には実行されることはありませんでした。

そこにはやはり莫大な資金が必要となるからでしょう。結局この問題は裁判など紆余曲折を経て両者の和解が成立し収まりました。

やはりパックマンディフェンスには莫大な資金が必要とされるため、本格的に実行へ移すということはないようです。

こうしてライブドアとニッポン放送との事例を見て感じられることは、パックマンディフェンスというのは、どちらかというと事前に行動を止めさせるための「ブラフ的要素」が非常に強いものだと感じ取れます。

まとめ

パックマンディフェンスは敵対的買収を仕掛けられた際、それを阻止するための防衛策のひとつです。

ここでも散々お伝えしてきたとおり、パックマンディフェンスを実施するには莫大な資金が必要となるほか、難易度も非常に高い防衛策です。

また、パックマンディフェンスには敵対的買収を阻止することができる。といったこと以外メリットがありません

逆に莫大な資金がかかる割には経営のメリットが無いなど、デメリットの方が多く、現に国内ではパックマンディフェンスをおこなった事例が見つからないほどです。

そのため、仮にパックマンディフェンスを用いるという場合は、本当に実施するのではなく、ブラフとして上手く利用するようにした方が賢明です。

敵対的買収が発生した際の防衛策はパックマンディフェンスだけではありませんので、あくまでこういった防衛策がある。といったニュアンスで捉えておくと良いでしょう。

画像出典元:O-DAN

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