「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つを意味する「法定三帳簿」。
すべての事業主は、労働者のためにこれらの法定帳簿を整え保存することが義務づけられています。
この記事では、これから起業する方が円滑なスタートを切れるよう、法定三帳簿に関する基本知識やそれぞれの作成方法(記入事項・サンプル・注意するポイント)、そして整備や保管の方法について詳しく解説しています。
このページの目次
国はすべての労働者を守るため、労働条件における最低限の基準を「労働基準法」として定めています。
「法定三帳簿」とは、労働者の労務管理を適切に行うための3つの重要な帳簿「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」をまとめた総称のことです。
1人以上の労働者を雇用するすべての事業主は、労働者一人ひとりについての個人情報、給与・勤怠状況などを記録した「法定三帳簿」を整備・管理・保管することが義務とされています。
労働者名簿 | 労働者の個人情報を記載した帳簿(氏名、生年月日など) |
賃金台帳 | 労働者の給与に関して記録された帳簿(労働時間、給与の支給額など) |
出勤簿 | 労働者の勤怠に関して記録された帳簿(入・退社時間や休憩時間など) |
労働者名簿 | 日雇い以外のすべての雇用形態(正規、非正規、パートタイムなど) |
賃金台帳 | すべての雇用形態 |
出勤簿 | すべての雇用形態 |
法定三帳簿は、記載内容に漏れさえなければ様式は問われません。
アナログとデジタルのいずれの方法も許可されていますが、必要とされた際にすぐに提出できる状態であることが求められています。
保存期間に関しては、いずれの帳簿においても「労働基準法第109条」により、3年間と定められています。
しかし、労働基準法では3年間と定められているものの、実務上はそれ以上保存する必要がありそうです。
例えば、退職金の請求期限は5年間ですが(労働基準法第115条)、要望に応じて照合ができるように、法定三帳簿は5年間保存しておく方が安心と言えるでしょう。
また、会社によっては賃金台帳を源泉徴収簿と兼用している場合があります。源泉徴収簿の保存期間は法定申告期限から7年間ですので、そのような運営下での賃金台帳の保存期間は、それに準じて7年間となるでしょう。
法定三帳簿の保存期間の起算日は、帳簿によって規定が異なります。それぞれについては「労働基準法施行規則第56条」にて以下のように定められています。
労働者名簿 | 労働者の死亡・退職・解雇の日 |
賃金台帳 | 労働者の最後の賃金について記入した日 |
出勤簿 | 労働者の最後の出勤日 |
事業主は、労働基準法にそって法定三帳簿の作成や整備、保存を行うことが義務付けられており、違反した場合は30万円以下の罰金が課せられます(労働基準法第120条)。
罰則は以下のような場合において対象となることが予測されるため、細心の注意が必要です。
・対象者全員分の帳簿を作成していない(正社員のみなど)
・保存期間内での帳簿の紛失・破棄
・情報の更新を怠っている
・虚偽の記載
・書類の提出を拒否 など
労働者名簿については「労働基準法第107条」で以下のように定められています。
使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。(引用元:労働基準法 第108条)
上記の内容を抑えると以下のようになります。
・労働者名簿は事業場単位で作成すること
・対象者は日雇い以外の全雇用形態の労働者(正規社員からパートタイムまですべて)
・対象者1名につき1部を作成する
・記入事項は厚生労働省令が定めているものに従う(次節で詳しく解説)
以上に基づき作成した労働者名簿は、労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間保管します。
「労働基準法 施行規則 第53条」では、労働者名簿に記入すべき内容について、以下のような事項を掲げています。
氏名 | 労働者の氏名 |
生年月日 | 労働者の生年月日 |
履歴 | 社内における異動や昇進などの履歴 |
性別 | 労働者の性別 |
住所 | 労働者の住所 |
従事する業務の種類 | 従業員数が30人以上の事業における業務内容や役割。(従業員数が30人以下の場合は不要) |
雇入れ年月日 | 雇用開始日 |
退職または死亡の年月日 | 退職または死亡した日 |
退職または死亡の事由 | 事業主の都合による解雇の場合はその理由の明記が必要(自己都合退職の場合は記載は義務ではない)。死亡の場合はその原因を記載。 |
労働者名簿のフォーマットは厚生労働省のホームページからダウンロードすることが可能ですが、上記の必要事項さえ記載されていれば、帳簿の様式は自由です。
労働者名簿は随時更新されることが義務付けられています(労働基準法施行規則第53条)。
事業主は各労働者に対し、住所や氏名などの変更が起きた際にはすみやかに報告することを促し、申告があった際はその都度更新を行うことを心がけましょう。
また、保管期間を守るためには退職年月日を正確に把握しておく必要があります。記入を忘れないようにしましょう。
賃金台帳については「労働基準法第108条」で以下のように定められています。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。(引用元:労働基準法 第108条)
上記の内容を抑えると以下のようになります。
・賃金台帳は事業場単位で作成すること
・記入事項は厚生労働省令が定めているものに従う(次節で詳しく解説)
・賃金を支払うたびに遅れることなく記入が必要
・対象者はすべての労働者(日雇含む)
・対象者ごとに記録をする
以上に基づき作成した賃金台帳は、最後の記入をした日から3年間保管します。源泉徴収簿として兼用している場合は7年間の保管となります。
「労働基準法 施行規則 第54条」では、賃金台帳に記入すべき内容について、以下のような事項を掲げています。
氏名 | 労働者の氏名 |
性別 | 労働者の性別 |
賃金の計算期間 | 前回の賃金締切日の翌日と締切日の日付を記入(事業所ごと) |
労働日数 | 賃金の計算期間における労働日数(勤続日数が1ヶ月未満の日雇労働者は記入不要) |
労働時間数 | 賃金の計算期間の合計労働時間数 |
早出残業時間数 | 時間外労働の合計時間(割増賃金の計算が異なるため) |
深夜労働の時間数 | 上記に同じ |
休日労働時間数 | 上記に同じ |
基本給、手当その他賃金の種類毎にその額 | 基本給、その他手当の金額 |
控除金 | 賃金から控除されるもの(健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税など) |
実物給与 | 会社から支給した金銭以外のもの(社宅や寮など) |
賃金台帳のフォーマットは厚生労働省のホームページからダウンロードすることが可能です。記入漏れがなければ他の様式でも構いません。
引用元:厚生労働省のホームページ
引用元:厚生労働省のホームページ
労働基準法第108条では、賃金台帳の記入について「賃金支払の都度遅滞なく」と強調しています。
記入漏れは調整義務違反であり、処罰の対象ともなりかねません。必ず記入漏れが無いようにしましょう。
手間がかかる労働時間の集計は、クラウド型勤怠管理システムを利用すれば正確かつ円滑に管理を行うことができます。ミスやトラブルを避けるためにも、ぜひ活用することをお勧めします。
法定三帳簿における「出勤簿等」とは、具体的な労働時間を記録した帳簿のことですが、それは賃金台帳を記入するための重要なデータでもあります。
大切なのは、「労働者の労働状況が正確に記録されていること」、そして「事業主のみならず労働者自身もその確認を行っていること」です。
様式は指定されていないため、タイムカードなり勤怠管理システムなり、自由な方法で管理することが可能です。
保管に関しては、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」や「労働基準法 施行規則 第54条」にて、労働者の最後の出勤日から3年間保管することが義務付けられています。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第 109 条に基づき、3年間保存しなければならないこと。(引用元:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(5)労働時間の記録に関する書類の保存)
出勤簿等は、労働状況を正確に把握するためのものです。以下の事項についてもれなく記載しましょう。
氏名 | 労働者の氏名 |
出勤日 | 労働者が出勤した日付 |
始業・終業時刻 | 出勤日ごとの始業・終業時刻 |
休憩時間等 | 出勤日の休憩時間 |
出勤簿等は、労働基準監督官による監査をはじめ、雇用保険の申請時や、健康保険と厚生年金保険の被保険者報酬月額変更届の手続き時においても提出が必要となる場合があります。
提出が求められた際にいつでも提出できるように管理をしておきましょう。
また、出勤簿は特に扱う情報量が多いため、人手で行うとなると入力も管理も保管も一苦労です。こちらに関してもクラウド勤怠管理システムがとても有効でしょう。
2018年に成立した「働き方改革関連法案」によって、労働者の労働環境の改善はさらに重要視されるようになりました。
法定三帳簿をもとに正しい労務管理を行い、皆にとって働きやすい環境の構築を目指しましょう。
画像出典元: O-DAN
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