企業における労務管理を行う際には、人事に関する様々な書類を作成して保存しておかなければなりません。
中でも労働者名簿は会社の従業員を管理するために必要不可欠な書類であり、法律によって作成と保管が義務付けられている重要なもの。
しかし労務を担当されている方の中でも、労働者名簿の管理期間や書き方などをしっかり理解されている方は少ないですよね。
そこで今回は、「労働者名簿とは何か」「誰が作成する必要があるのか」など基礎的な知識から、労働者名簿の書き方、注意点、保存期間や実際に作成する際の疑問など全てを解説していきます。
このページの目次
労働者名簿とは、労働者の氏名や採用した日など企業が雇用している従業員の情報を記した書類のことを指しています。
労働基準法の第107条では労働者を雇い入れる際に、従業員の名簿を整理する義務が定められており、労働基準監督署がチェックする対象でもあります。
労働者の名簿を管理することで、会社で適切な労務管理を行うことを目的・意義としています。
正しく労働者名簿を管理しているかどうかは、その会社の労務管理評価にも関わってくるため、しっかり管理しておくべきでしょう。
みなさんは法定三帳簿という単語を聞いたことがあるでしょうか。
法定三帳簿とは、
の3つの帳簿のことを指しており、適切に整理・管理がされていない場合、労働基準監督署から処罰の対象となります。
労働者の適切な労働管理のためにも、法定三帳簿をきちんと整備しておくことを心がけなければなりません。
「労働者名簿」は先述した通り、労働者の会社における情報を管理しておくための帳簿。
「賃金台帳」は労働者の賃金計算における基礎となる事項や、賃金の額などについて記入しておくための帳簿。
「出勤簿」はその名前の通り労働者が勤務した時間や日数を記録しておくための帳簿です。
近年は「働き方改革」という言葉が浸透してきた背景もあり、企業が労働者に対して責任を負わなければならない書類の管理も厳しくなってきています。
労働者名簿は必ず作成しておかねばならない帳簿の1つであるため、会社の担当者は必ず忘れずに記入しておくことを覚えておきましょう。
労働者名簿は基本的に労働者を雇っている企業であれば、全ての企業が作成しておかねばなりません。
労働基準法第107条では、労働者名簿の対象者を『各労働者』として定めており、定義としては「事業または事業所に使用され、賃金を支払われる者」であるとされています。
会社側は労働者全員の名簿を作成して保管しておく必要があり、きちんと整備しておかないと労基法違反になるケースも多いため、注意しましょう。
労働者名簿に関しては、基本的にその雇用形態を問わず作成する義務があるとされています。
自社で雇用している正社員は、当たり前ですが労働者名簿を作成する義務があります。
契約社員やアルバイト・インターンなどの自社で非正規雇用している労働者は、基本的に自社での労働者名簿を作成する必要があります。
また他社から派遣されてくる派遣社員に関しては、雇い主である元請けの派遣会社が労働者名簿を作成します。
労働者名簿には全ての労働者を管理しておく必要がありますが、日雇い労働者に限っては例外となります。
飲食やイベント業などで雇い入れられることの多い、日雇いの労働者に関しては労働者名簿を作成する義務はありません。
労基法第107条においても、「日々雇い入れられる労働者についてはその異動が激しく、名簿の作成意義を失うのみならず、実効を期し難いので、調整義務は課せられていない」と定義されています。
日雇い労働者は労働者名簿に記入する必要のない珍しい職種であるため、覚えておきましょう。
一般的に労働者名簿に記入しなければならない項目は、厚生労働省の様式19号を参考にすると9項目が必要です。
氏名 | 労働者の氏名を記載。 |
生年月日 | 労働者の生年月日を記載。 |
性別 | 労働者の性別を記載。 |
住所 | 従業員の連絡が取れる住所である必要があるため、現在の住所を記載。 |
業務の種類 | 経理事務・営業・技能工などだいたいの業務内容が分かるようにします。 |
履歴 | 社内での履歴を記載します。(昇進・異動など) |
雇用年月日 | 実際に雇用が始まった日を記載。 |
退職年月日と事由 | 会社側で従業員を解雇した場合は、なぜ解雇したのかという理由まで記載。 |
死亡年月日と原因 | 従業員が在職中に死亡した場合、死亡理由を記載。労災に当たるかどうか調べるために必要。 |
労働者名簿のテンプレートは、下記のような書類をネット上でダウンロードすることが可能です。
労働者名簿は厚生労働省のサイトからテンプレートをダウンロードすることができるため、参考にしてみてください。
また、労働者名簿の記入例も以下ご確認下さい。
また労働者名簿の書き方は、厳格な決まりがある訳ではないものの、見やすく記入するために注意しなければならないことも。
ここでは労働者名簿の書き方の注意点を3つほど紹介していきます。
労働者名簿の中でも記入の際に悩みの種となるのが「学歴」の入力欄です。
多くの人がどこからどこまで書けば良いのか分からなくなりがちですが、基本的に学歴は最終学歴のみ記入すれば問題ありません。
まれに高校くらいから記載する方もいますが、長すぎると逆に読みにくくなってしまうため注意しましょう。
労務の方は、従業員に住所/姓などの変更があればすぐに対応しましょう。
常に最新の更新状態に保っておかないと、何かあった時に労働基準監督署に問い詰められたら面倒なことになりかねません。
履歴欄に何年の何月何日に住所をどこからどこへ変更したのかといった記録も一緒に残しておけると、後から見返した時にわかりやすくなります。
業務種類は分かりやすく簡潔に書いておくと非常に良いです。
例えば、事務の仕事をしているのであれば「総務事務」や「経理事務」、営業ならば「営業」、建設業系なら「大工」「配管工」など。
労働者本人が就く業務の内容を分かりやすく記載しておくことで、後からチェックする時に見やすくなるため、意識して記入しましょう。
労務の方が悩みがちなのが「労働者名簿はいつまで保存しておけば良いのか」「いつ更新すればいいのか」などについて。
なるべく余分や書類やデータは早めに消去したいと考える労務の方も多いのではないでしょうか。
しかし実は労働者名簿の保存期間や更新頻度は、あらかじめ労基法によって定められているのです。
まず保存期間については、労働基準法の第109条にて定められており、「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。」とあります。
つまり最低3年間は労働者名簿を保存しておく必要があります。
労働者名簿の起算日は、従業員が退職・解雇または死亡した日から起算して3年です。
3年間というのは、会社に雇われている状態ではなくなった日から3年間であると覚えておけば良いでしょう。
更新頻度についても、労働基準法の第107条で「遅滞なく訂正しなければならない」とされています。
更新が遅れてしまったからといって、労基法で罰せられるということはないですが、なるべく早めに更新しておくように心がけておきましょう。
ここまで労働者名簿について説明してきましたが、まだまだ疑問に思うことも多いはず。
そこで以下では労務担当の方に向けて、労働者名簿に関する質問として多いものをまとめました。
保管期間内(起算日から3年以内)に労働者名簿を削除するのは、基本的に法律違反です。
従業員の労働者名簿の作成義務違反に関しては、30万円以下の罰金が定められているため、必ず捨てないように注意しましょう。
労働者名簿は基本的に会社の労務を担当する部署で作成しなければなりません。
しかし労働者名簿に関する情報を従業員に記入するよう求める会社は非常に多くあります。
結果的に労働者名簿を自分で書いているも同然になってしまうことはありますが、あくまで書類の作成作業は会社の人が行うことになるでしょう。
労働者名簿は従業員の保険や年金なども記載する必要があり、各種社会保険の番号を記入する欄が設けられているケースが多いです。
しかし健康保険番号、厚生年金番号、雇用保険番号と言われてもどこを調べればいいか分からない方が大多数。
基本的にそれぞれの番号は、
と変換して記入すれば問題ありません。
分からない場合は、
で聞けば答えてもらえるため、質問してみましょう。
今回は労働者名簿について書き方や法律で規定されていることなどについて詳しく解説してきました。
労働者名簿は、従業員の労働環境を守るために、労務が管理しなければならない非常に重要な書類の1つです。
しっかり管理を行っていない場合は、労基法違反で罰せられることもあるため、保存期間や更新頻度を守らなければなりません。
企業の労働者名簿の管理を任されている方は、きっちり管理するよう心がけましょう。
画像出典元:Pixabay
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