会社を設立するときには、必ず費用がかかります。このような実際に会社を運営し始める前にかかる費用を「開業費」といいます。
この開業費は5年で均等償却していくことになりますが、実際どのようなものが開業費として認められるのでしょうか。節税方法も含めて考えていきます。
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一言で簡単に表現するのであれば、開業するためにかかった費用が開業費です。
開業のためのセミナーに参加したり、事務用品や備品などを買い揃えるための費用など、まだ営業はしていないけれどすでに準備のために出資している費用です。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
これらは、一部例外を除き一般的には全て開業費として処理できる費用になります。
一部例外については後述しますが、例えば10万円以上の備品を購入した場合は開業費として処理できないと覚えておくと良いでしょう。
結論から言えば、開業費は「開業費」という項目で処理を行います。
つまり、備品を購入していてもそれは実際に会社を運営していく中で発生した費用ではないため、5年間かけて均等に償却をします。
開業費は、下記の償却方法が可能です。
・5年間かけ均等に償却する
・任意償却で翌年以降に償却する(一括償却も可能)
そのため、会社の業績によっては、開業費を5年間均等に経費として計上するのか、開業の翌年以降に経費として計上するかで変わってきます。
どちらの方法も選ぶことができるので、最も節税に効果的な年度に開業費を経費として計上することで、節税の最適化をはかることができるのです。
一般的に開業費は5年で償却します。税理士などに相談してもこれがベターだと判断するのが一般的です。
ではなぜ「ベスト」ではなく「ベター」なのでしょうか。そこには開業費特有の考え方があるためです。
開業費は5年均等償却もしくは任意償却という方法が選択できます。
5年均等償却は難しいものではなく、単に12ヶ月×5年=60ヶ月で償却するだけですが、任意償却を選択する場合は少し検討しなければなりません。
5年で償却すれば、お金の出入りがない経費を5年間計上できることになり継続的に一定額の利益が見込めるという場合であれば節税につながります。
任意償却とは、開業した年度に償却するのではなく翌事業年度以降に償却するとことが可能で償却額も一括で計上してしまうことが可能です。
任意償却とは
・翌事業年度以降に償却することができる
・償却額も一括で計上してしまうことができる
税法上これについてはどちらを選択しても何の問題もありません。
先程、開業費は任意償却が可能ということを述べました。しかし任意償却は「いずれ償却するものを先へ繰り延べる」ということであり、果たして予定通りに償却できるのかという問題点があります。
予定通りに償却できない場合とは、赤字が先行していて償却で計上できる金額を計上するとその赤字幅が広がってしまう場合です。
金融機関から融資を受けている場合は、長く赤字が継続すると経営能力が低い経営者と判断され追加融資の審査に影響がでてしまいます。こうなってしまうと、いつまでも償却ができず何もできない経費となってしまいます。
個人事業主、及び法人の場合は余程のことがない限り、通常であれば青色申告ができるよう届出をします。個人事業主であれば3年間、法人であれば10年間の赤字の繰越しができます。
例えばよくあるケースに、開業した初年度は赤字が出るということが分かっているので、任意償却できる開業費は1年目の償却を見送り2年目以降にするといった場合です。
所得税や法人税の納税額を最小限に抑えるため、欠損金の繰越しがなくなる年度に任意償却を計上して意図的に赤字にするということも可能であり、違法ではありません。しかし実はここに落とし穴があります。
多くの場合、開業する際に融資を受けていることが予測されます。その場合、金融機関は欠損金の金額を見て「いつまでたってもこの事業は軌道に乗っていない」と判断され、追加融資が受けられないということもあります。
また、この他にも最近よく利用している海外からの研修生の採用です。これは赤字の場合は研修生の受け入れを申請しても通りません。
このように、安易に開業費を任意償却するという選択をすると後から後悔することになることもあるのです。
先にも開業費について触れましたが、実際に会社を運営するまでに支払った費用が開業費です。
個人事業主であれば開業届を提出した日であり、法人であれば会社の登記を行った日です。
いずれの場合も明確に日付が確認できますので、開業以降に支払っているものは開業費とすることはできません。
すでに説明した通り、開業費とみなされるものには下記のものがあります。
開業費として処理し忘れた領収書が見つかった場合はどうなるのでしょうか?
例えば、2020年12月に決算予定の会社が2020年6月に開業したという場合、2020年10月に出てきてしまった本来開業費として処理しなければならない領収書はもう処理できないということになるのかどうか、と言う問題が発生したとします。
これは事業年度内で処理できるため、開業費として追加で計上することができます。しかし翌事業年度にこれが発見された場合はどうなるのでしょうか。
開業費を計上する期限は、理論上は「ない」と言えます。しかし会計や税法には「社会通念上」という「常識的に考えてどうか」という判断基準があります。これが最も「曲者」と言える考え方です。
社会通念上という考え方をすると、翌事業年度以降に開業費という形だけでなく、他の費用項目でも計上することはできないと判断せざるを得ません。一言で言うと、これを認めてしまうといつまでたっても開業費が増え続けることになるためです。
そもそも開業費は5年で償却するという決まりがあります。これを無視することはできません。
また、同事業年度内に領収書を発見し開業費として計上したとしても、それが本当に開業費として該当するのか説明ができる状態にしておかなければなりません。
気をつけなければならないのは、開業費として認められる期間とその支払った中身にあります。
支払った中身については後述しますが、金額によっては費用ではなく固定資産として計上しなければいけない場合などがあります。
例えば応接セットが10万円以上したという場合は器具備品という資産科目で計上しなければなりません。
結論から言えば、開業費と認められるものであれば上限はありませんが、その点には注意が必要です。
資産の取得のために使われた費用は、開業費としては計上することができず、資産として計上することとなります。
具体的には、下記のものが開業費としては計上できません。
10万円以上の備品消耗品は資産計上することが原則です。例えば応接セットやパソコンなどは有形固定資産として減価償却することが原則です。
またIT業界の起業の場合であれば、専門的なソフトウェアを使用することが一般的で、その費用は数百万円にのぼることもあります。この場合はソフトウェアとして資産計上しなければなりません。
根本的に、領収書がないものはいつ購入したものかどうかがわかりません。また法人を立ち上げた場合には、現物出資をしていることも考えられます。
このような場合は、開業費として認められませんから、必ず領収書を証拠として残しておくきましょう。
開業した日は法人であれば「登記簿謄本」で、個人であれば「開業届」で確認することができます。つまり基準となる日はその日です。
これよりも前に事業を行うための準備費用として支払ったものは開業費ですがそれ以降は、通常の会社の経費として会計処理を行います。
先にも触れていますが、重要なものは日付です。この日付を証明するのは領収書です。
領収書は第三者が発行しているため信憑性の高い証拠書類となります。ですから必ず領収書は残しておきます。
実際に事業を運営していくと、税制上の優遇を受けるために帳簿保存が要件に含まれているということを経験します。もちろんそのために、帳簿をつけることが必要なのは言うまでもありません。
時系列に領収書をスクラップブック等に添付して保管することで、一連の取引の流れが把握しやすくなります。これも開業費と経費を明確に区分するために十分役立ちます。
開業費は法人や個人で事業を始めるときには必ずと言っていいほど発生する繰延資産です。
どのタイミングで償却するかを決める任意償却と60ヵ月、つまり5年で均等償却する方がいいのか、選択することができます。
しかしどちらを選ぶにせよ、慎重に検討する方が良いでしょう。
開業した初年度だけが赤字というのであれば、2年目以降に任意償却をすれば経費を増やせ、節税になります。
経営がいつ軌道に乗るかわからない、必要経費として把握できる方がいいという場合は均等償却を選択すると良いでしょう。
画像出典元:OーDAN
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